「あれ、小日向?」
どこか見覚えのある後ろ姿を視界に捉え、声を掛けて見ることにした。
「……! 岸波君」
「やっぱり小日向だったか」
肩部分に青の刺繍が入った白いシャツ、薄紫色の長ズボンといった私服姿の小日向 純が呼び掛けに振り返り、自分の姿を認識する。
見た所、手ぶらだ。どこかへ向かうところだろうか。
「ん? ああ、僕はちょっとフィールドワーク……ってかっこつけて言ってみたけど、ただの散歩中かな。岸波君は?」
「自分は目的もなくふらふらしていただけ、だな」
「あはは、じゃあ僕と同じだね。……そうだ、せっかくだし、どこかへ行かない? 一日特に予定がなかったんだ」
「ああ、喜んで」
小日向から誘われるとは思わなかったから嬉しい限りだ。
しかし、どこへ行こう。
「あ、じゃあゲームセンターなんてどう?」
「ああ。……ここから一番近いのは蓬莱町か。行こう」
「うん」
並んで歩き出す。
小日向と2人で遊ぶのは初めてだな。
楽しい1日になると良いが。
────>ゲームセンター【オアシス】。
入った瞬間、世界が変わったように騒がしい音に包まれる。
昼間だというのに独特な、たばこのにおいが充満した空間。バイトで数回訪れているとはいえ、未だに慣れるものではない。
「え、岸波君ここでバイトしてたの!?」
「ああ、とはいえ派遣のようなものだけどな。臨時でいつでもバイトに入る感じだ」
「あ、じゃあコウみたいな感じなんだね」
「斡旋元も同じだしな」
……やっぱり、洸のバイトのことは知っているんだな。
──Select──
>洸たちとは長いのか?
小日向はバイトしないのか?
…………。
──────
「コウたちと? うーん、一般的に見たら、短いんじゃないかな。体感的には長く感じるけどね。だいたい1年くらいだし」
「というと、去年が初対面?」
「うん。リョウタや倉敷さんと違って、僕は高校から初めて会ったんだ」
そういえば、確かに。
洸と倉敷さんが幼馴染なのは聞いているし、洸と伊吹が昔からの友人であることは本人から聞き及んでいるが、小日向のことは特になにも言っていなかった。
でもそうか、幼馴染3人グループと仲が良いから、てっきり小日向も幼馴染の一員だと思ったが。
「まあ、3人ともあの性格だからね。壁を感じることはないよ」
「……なんだ、小日向も自分から誰かの輪に飛び込めているじゃないか」
「? ああ、僕がこの前言ったことか。……ううん、僕は輪に招き入れてもらっただけ。きっかけを作ったのはリョウタだし、コウと倉敷さんが引き込んで、受け入れてくれただけなんだ」
また、だ。
曇った笑顔で、遠いところを見ている。
まるで洸たちと自分は違う世界に居るんだとでも言いたげな、何か手の届かないものを諦めるような、その目。
何が映っているのだろうか。
──Select──
気にするほどのことか?
始まりが受動的でも良いじゃないか。
>…………。
──────
下手な慰めの言葉は要らない。
恐らく、彼にだって分かっているだろうから。
「ごめん、情けない話をしたかな」
「いいや、小日向のことを知れて良かったよ」
そう返すと、彼は少しだけ目を丸くした。
「……じゃあ次は君のことを聞こうかな」
「そうだな。けれど」
せっかくここまで来たのだ。
ただ話しているだけではもったいない。
「ゲームをして勝った方が負けた方に何か1つ話させることができるっていうので、どうだろう」
「驚いた。岸波君、意外と好戦的なんだね」
「最近、少しだけ影響を受けてな」
ことゲームに関しては熱中指導を受けたばかりである。
コツさえつかめればどんなゲームでもそれなりのプレイはできるはずだ。
「はは、勝負事はあまり好まないんだけど、良いよ。それじゃあゲームは……“アレ”にしようか」
言葉とは裏腹に、好戦的な据わった目を向けてくる小日向。
彼が指さした先を見ると、1枚のポスターがあった。赤髪の男性と黒髪の男性が互いに剣に手を掛けている絵。『───さあ、頂点を決めよう』というキャッチコピー。
タイトルは“Xs VS. 閃の軌跡 Another Chronicle”。ジャンルは……3D格闘ゲームらしい。
「フ、フフ……」
小日向は本気の様だ。
さっきまでとはオーラが違う……!
ひょっとして小日向は、負けず嫌いなのだろうか。
自分は黒髪の太刀使いの青年──リィン・シュバルツァーを選び、初心者まるだしの牛歩がごとき進歩をしながら戦っていたが、それも小日向操る銃使い──ヒュンメルに負ける。完膚なきまでに敗北する。なんなんだろうあの圧倒的な範囲攻撃は。凄い避けるし。
攻撃するときに溜めが入る技も存在はするし、それを見切ることは出来るようになったが、それだけのこと。地力の差は埋まらない。
圧倒するスタイル。容赦のない蹂躙。
少しだけ、小日向のことを誤解していたことに気が付いた。
その後、さっぱりしたような笑顔の小日向に、彼が満足するまでたくさんの話をさせられた。
──夜──
試験も終わったし、夏休み、色々なことができそうだ。
……そういえばあれから手芸に手を出していないな。
また何か作ってみたいが、今はビーズでしかものを作れない。
“ビーズブレスレット”を作った!
この調子で行けば、他にも道具があれば何か出来そうな気がする。
本も色々読んでおきたい。作れるものも増えるだろう。
……うん、楽しみになってきたな。
コミュ・正義“小日向 純”のレベルが2に上がった。
────
魅力 +2。
根気 +3。