PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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7月18日──【駅前広場】小日向とゲームと

 

 

 

 

「あれ、小日向?」

 

 

 どこか見覚えのある後ろ姿を視界に捉え、声を掛けて見ることにした。

 

「……! 岸波君」

「やっぱり小日向だったか」

 

 肩部分に青の刺繍が入った白いシャツ、薄紫色の長ズボンといった私服姿の小日向 純が呼び掛けに振り返り、自分の姿を認識する。

 見た所、手ぶらだ。どこかへ向かうところだろうか。

 

「ん? ああ、僕はちょっとフィールドワーク……ってかっこつけて言ってみたけど、ただの散歩中かな。岸波君は?」

「自分は目的もなくふらふらしていただけ、だな」

「あはは、じゃあ僕と同じだね。……そうだ、せっかくだし、どこかへ行かない? 一日特に予定がなかったんだ」

「ああ、喜んで」

 

 小日向から誘われるとは思わなかったから嬉しい限りだ。

 しかし、どこへ行こう。

 

 

「あ、じゃあゲームセンターなんてどう?」

「ああ。……ここから一番近いのは蓬莱町か。行こう」

「うん」

 

 

 並んで歩き出す。

 小日向と2人で遊ぶのは初めてだな。

 楽しい1日になると良いが。

 

 

────>ゲームセンター【オアシス】。

 

 

 入った瞬間、世界が変わったように騒がしい音に包まれる。

 昼間だというのに独特な、たばこのにおいが充満した空間。バイトで数回訪れているとはいえ、未だに慣れるものではない。

 

「え、岸波君ここでバイトしてたの!?」

「ああ、とはいえ派遣のようなものだけどな。臨時でいつでもバイトに入る感じだ」

「あ、じゃあコウみたいな感じなんだね」

「斡旋元も同じだしな」

 

 ……やっぱり、洸のバイトのことは知っているんだな。

 

 

──Select──

 >洸たちとは長いのか?

  小日向はバイトしないのか?

  …………。

──────

 

 

「コウたちと? うーん、一般的に見たら、短いんじゃないかな。体感的には長く感じるけどね。だいたい1年くらいだし」

「というと、去年が初対面?」

「うん。リョウタや倉敷さんと違って、僕は高校から初めて会ったんだ」

 

 

 そういえば、確かに。

 洸と倉敷さんが幼馴染なのは聞いているし、洸と伊吹が昔からの友人であることは本人から聞き及んでいるが、小日向のことは特になにも言っていなかった。

 でもそうか、幼馴染3人グループと仲が良いから、てっきり小日向も幼馴染の一員だと思ったが。

 

「まあ、3人ともあの性格だからね。壁を感じることはないよ」

「……なんだ、小日向も自分から誰かの輪に飛び込めているじゃないか」

「? ああ、僕がこの前言ったことか。……ううん、僕は輪に招き入れてもらっただけ。きっかけを作ったのはリョウタだし、コウと倉敷さんが引き込んで、受け入れてくれただけなんだ」

 

 また、だ。

 曇った笑顔で、遠いところを見ている。

 まるで洸たちと自分は違う世界に居るんだとでも言いたげな、何か手の届かないものを諦めるような、その目。

 何が映っているのだろうか。

 

 

──Select──

  気にするほどのことか?

  始まりが受動的でも良いじゃないか。

 >…………。

──────

 

 

 下手な慰めの言葉は要らない。

 恐らく、彼にだって分かっているだろうから。

 

「ごめん、情けない話をしたかな」

「いいや、小日向のことを知れて良かったよ」

 

 そう返すと、彼は少しだけ目を丸くした。

 

「……じゃあ次は君のことを聞こうかな」

「そうだな。けれど」

 

 せっかくここまで来たのだ。

 ただ話しているだけではもったいない。

 

「ゲームをして勝った方が負けた方に何か1つ話させることができるっていうので、どうだろう」

「驚いた。岸波君、意外と好戦的なんだね」

「最近、少しだけ影響を受けてな」

 

 ことゲームに関しては熱中指導を受けたばかりである。

 コツさえつかめればどんなゲームでもそれなりのプレイはできるはずだ。

 

「はは、勝負事はあまり好まないんだけど、良いよ。それじゃあゲームは……“アレ”にしようか」

 

 言葉とは裏腹に、好戦的な据わった目を向けてくる小日向。

 彼が指さした先を見ると、1枚のポスターがあった。赤髪の男性と黒髪の男性が互いに剣に手を掛けている絵。『───さあ、頂点を決めよう』というキャッチコピー。

 タイトルは“Xs VS. 閃の軌跡 Another Chronicle”。ジャンルは……3D格闘ゲームらしい。

 

「フ、フフ……」

 

 小日向は本気の様だ。

 さっきまでとはオーラが違う……!

 ひょっとして小日向は、負けず嫌いなのだろうか。

 

 自分は黒髪の太刀使いの青年──リィン・シュバルツァーを選び、初心者まるだしの牛歩がごとき進歩をしながら戦っていたが、それも小日向操る銃使い──ヒュンメルに負ける。完膚なきまでに敗北する。なんなんだろうあの圧倒的な範囲攻撃は。凄い避けるし。

 攻撃するときに溜めが入る技も存在はするし、それを見切ることは出来るようになったが、それだけのこと。地力の差は埋まらない。

 

 

 圧倒するスタイル。容赦のない蹂躙。

 少しだけ、小日向のことを誤解していたことに気が付いた。

 

 

 

 その後、さっぱりしたような笑顔の小日向に、彼が満足するまでたくさんの話をさせられた。

 

 

 

 

──夜──

 

 

 試験も終わったし、夏休み、色々なことができそうだ。

 ……そういえばあれから手芸に手を出していないな。

 また何か作ってみたいが、今はビーズでしかものを作れない。

 

 

 

 “ビーズブレスレット”を作った!

 

 この調子で行けば、他にも道具があれば何か出来そうな気がする。

 本も色々読んでおきたい。作れるものも増えるだろう。

 ……うん、楽しみになってきたな。

 

 




 

 コミュ・正義“小日向 純”のレベルが2に上がった。
 
 
────


 魅力 +2。
 根気 +3。


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