IS VS Build   作:シュイム

31 / 33
第26話 メモリーを語り始める

「・・・」

 

「・・・」

 

あの第3アリーナの事件から1時間、建兎にセシリア、鈴は保健室へと連れられた。

ベッドの上には包帯を身体中に巻かれた鈴とセシリアの姿があった。

2人ともあれから目を覚ましたものの、少なくないダメージを受け軽くトラウマを負っていた。

 

「えっと...大丈夫か...? 2人とも」

 

「...大丈夫とは言えませんわね。 今でも震えが止まりません」

 

「私もよ。 あんな装備があるなんて完全に予想外だったわ」

 

セシリアは俯き、鈴は悔しそうに唇を噛み締める。

一夏もシャルルもあまり良い表情はしていない。

 

助けに行ったのに何も出来なかったこと、自分を庇って傷ついた人がいること、自分の中の憧れ(ビルド)がやられたこと...

様々な感情が入り乱れてる中、ふとシャルルは別の方を見る。

 

そこは建兎が眠っている、普通のベッドと隔離された個室である。

ほんの少しだけ煙を浴びたセシリア達と比べ、浴びた時間も量も倍以上の彼にはあらゆる装置を備えているこの部屋での治療が決められた。

 

今のところ落ち着いてはいるものの、未だ目覚めず後遺症などの心配もある。

しかし、医学の知識などもちろんない一夏達は少しでも回復を祈るばかりであった。

 

「とりあえず2人が目を覚まして良かった。 目が覚めなかったらどうしようかと思ったぜ」

 

「ご心配をおかけしましたわね」

 

「なっ、えっ、とその... あり、がと...」

.

一夏の意外な発言で鈴は俯いてしまった

もちろん一夏にとっては友達としての心配であり、特に他に意味はないものである

 

ギィ...

 

「...?」

 

「? どうした? シャルル」

 

「いや、今...」

 

ドドドドドドッ......!

 

シャルルが何かに気づいたがとある地響きに遮られる

その音はだんだんと近づいてきておりその直後

 

ドカーンッ!

 

と、保健室のドアが思い切り吹き飛ばされた

 

目の前のありえない光景に目が点になる4人

その目前にはドアを蹴飛ばした張本人達、女子生徒数十人が息を切らしながら男子組を取り囲むように立っている

 

「織斑君!」

 

「デュノア君!」

 

「な、なんなんだ...?」 「ど、どうしたの? みんな」

 

取り囲まれてる壁の中から伸びてくる手に若干、いやかなり恐怖を覚えながら答える一夏とシャルル

完全に蚊帳の外のセシリアと鈴も軽く引いている

 

「「「「これ!!」」」」

 

女子生徒が2人に出したのは学校の緊急連絡が入った申込書であった

その中身を見ると『今月の学年別トーナメントは2人組の参加を必須とする』という旨が書かれている

 

そう、彼女たちの目的は一夏かシャルルとの参加である

一気にお近づきになれるチャンス!と我先にお願いしに来たようだ

 

「え、えっと...」

 

しかしそれは一夏達にとってはかなり不味い話である

シャルルは外見は完全に男だが実際は女であり、その事を知るのは一夏と建兎のみである

バレる恐れは低いとは思うがまだ具体的な解決策も何もないままここまで来ているので少しでもそうなってしまうのを避けたい

 

建兎は今意識が戻っておらず、シャルルもどうしようと言う顔をしている

しかし困ってることを悟られぬようにすぐに俯いてしまう

一夏はそんな姿に苦笑しながら、一呼吸置き生徒達に宣言する

 

「悪いな。 俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 

しーん...。

その言葉を皮切りに辺りは静まり返る

先程までの大騒ぎが嘘のように消えたので一夏も少し判断をミスしたかと焦る

 

「まあ、そういうことなら...」

 

「他の女子と組まれるよりはいいし...」

 

「男同士ってのも絵になるし...」

 

一応納得はしたようで、各々思うことを言いながら1人また1人と保健室から出ていく

それからは新たにペア探しを始めたようで廊下から再び女子達の(かしま)しい声が響いてくる

 

「...ふう「一夏っ!」」

 

ようやく去ったカオスにため息をつく暇もなく今度は後ろから声がかかる

その主は鈴で、十中八九内容は先程のペアについてだろう

さっきの女子達とは違い、鈴はなかなかに意見を曲げないだろう

一夏はそんなこと考えてるが勢いよくベッドから飛び出してきた

 

「あ、あたしと組みなさいよ! 幼なじみでしょうが!」

 

「鈴さん! ペアでしたら何度も練習したわたくしとにして下さい! せっかくのチャンスですわよ!?」

 

先程までケガやトラウマで震えてたとは思えないほど元気になった2人に一夏はさらにため息をつく

珍しくズレたことを言ってるセシリアもいるので、さらに説得が面倒臭くなりそうな気配がする

 

「ダメですよ」

 

「「「「!?」」」」

 

いきなり声をかけられ4人ともビックリする

一夏の背後からひょこっと現れたのは山田先生

真面目な顔でメガネを上げる先生は言葉を続ける

 

「おふたりのISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。 その上、不明の物質が機体に混入しています。 修復やその物質の解析が完了しない限り、トーナメント参加は許可できません」

 

不明の物質

それは言うまでもなくラウラの機体から出ていたガスのことだ

 

一撃でダメージレベルがCまで達するほどの装備など聞いたこともない

シュヴァルツェア・レーゲンに停止結界以上の切り札とも言える武器が備わっていたこと

何よりそれを発動した時のラウラの顔が頭から離れない

 

その事を思い出したのか再び2人は俯いてしまう

 

「うっ、わ、分かりました...!」

 

「それならば...仕方ありませんわね」

 

いたたまれない雰囲気になった5人だが、山田先生は笑顔で答える

 

「分かってくれて先生嬉しいです。 おふたりは今回とても怖い体験をしました。 そんな状態で無理をすれば自身もISも壊れてしまいますからね。 肝心なところでチャンスを失ってしまうのはとても残念な事です。 あなたたちにはそうなってほしくありません」

 

「先生...」

 

「....」

 

顔を上げ、山田先生を見る2人

先生は2人の前へしゃがみ、手をとり優しく握る

 

「あなたたちが代表候補生として心身ともに成長していること。 私も織斑先生も認めています。 お気持ちは分かりますが今はご自身の体を治すこと、そしてISを(いた)ってあげることを優先してください」

 

真面目な口調だが暖かく、子供を諭すように言う先生に鈴やセシリアのみならず、一夏もシャルルも顔が緩む

こういうことをやらせたら山田先生の他に適役はいないだろう

 

「ふんっ!」 「んっ!」

 

手を離し、顔をはたく鈴とセシリア

少し顔が赤く見えるのはそれだけが理由ではないだろう

 

「先生!「ありがとうございます!」」

 

「はい! では織斑君達はトーナメント頑張ってくださいね!」

 

そう言って保健室を去る山田先生

帰り際にドアの修理費についてブツブツ言ってた姿に少し笑ってしまった4人だった

 

☆☆☆☆☆

一夏サイド

 

「ねぇ、一夏」

 

「おう?」

 

夕食後、部屋に連れたって戻るなり、シャルルが口を開いた

あまり語調に勢いが感じられないがなんだろうか?

 

「えっと... ごめんね。 前に酷いこと言っちゃって」

 

「っ、シャルル.....」

 

“前”とはシャルルが男ではないこと、親に言われてやらされてることを知った日のことだ

あの日、俺は熱くなって何も考えずに自分の気持ちを押し付けてしまった

その結果シャルルを怒らせ、建兎にたしなめられることになった

 

思えばあの事について未だにシャルルに謝れてなかった

それなのに今俺はシャルルに謝らせ、申し訳なさそうな顔をさせてしまっている

 

「いや、あの時は俺が悪かった。 何も考えてなくて... シャルルのこと気遣ってやれなかった。 ごめん」

 

そう言って頭を下げる

男として、ちゃんと悪いことしたら謝らなければならない

言うのが遅くなってしまったのなら尚更だ

 

「い、いいよいいよ。 一夏も建兎も僕のために言ってくれたんだよね? それに他の人に言わないでいてくれてるし、それはすごく助かってるよ」

 

控えめな笑顔をして感謝を言うシャルル

でも、とても心から笑ってるとは思えない

...やっぱり納得いかねえ

建兎に言われたことも理解してる

「俺だけじゃどうしようもない」って

 

けど...けど...!!

 

「...シャルル、俺達は諦めてない」

 

「え...?」

 

何の足しにもならないけど、せめて学校とか身の回りのこととかだけでも本音で話し合えるようにしたい

国家だったり企業の問題だったり難しいことは分からないけど、少しぐらいその事を忘れて笑ってもいいんじゃないかって俺のわがままだ

...建兎にまた怒られるかもな

 

「俺達だけじゃ頼りないだろうけど、でも俺はもちろん建兎だって必ずシャルルの味方になる! 辛かったら口に出さなくても良い、手を握ってくれ。 俺達が隣にいる...からさ」

 

「.....」

 

気の利いた事なんて言えなかった

シャルルは少し驚いたような、けどあまり感情が読み取れない無表情といったような顔をしている

また怒らせちまったか...?

 

「っぷ、 あはははっ!」

 

「!?」

 

かと思えばいきなり笑い出した

ど、どうしたんだ? そんなおかしい事言ったか!?

 

「シャ、シャルル?」

 

「あははは! あー、思わず笑っちゃったよ」

 

軽く目に涙を浮かべながら軽く歯を見せてほくそ笑んでいる

少しドキッとした

笑うとこんなに...可愛いんだな

いや、というか!

 

「な、何がそんなに笑えたんだよ! 俺別に面白いことなんて言ってないぞ!」

 

「いやー、一夏って不器用なんだって思ってね」

 

「うぐっ!?」

 

「悩みを言えないからっていきなり手を握ると思う? そっちの方がハードル高いと思うよ 」

 

「うぐぐっ!?」

 

「それに何か上手いこと言おうとして言えなかったから語尾もだんだん低くなったって感じだったしね」

 

「ぐぅぅ...!!」

 

シャルルの3連続パンチは俺にダウンを取るのに十分過ぎるほどの威力を持っていた

しかもことごとく考えたことを見抜かれて凄く恥ずかしいっ!

 

「でも、ありがと」

 

「え...?」

 

倒れ込んだ俺の目線に合うようにしゃがみ、腕を膝にかけて腰を下ろさずに立っている

てか結構顔の距離が近い...!

 

「僕ね、どうしても達成させたい目標があるんだ」

 

「!」

 

「でも、そのためにはフランスの代表にならなきゃいけない。 だから少しでも自分が有利にならなきゃって思ってたんだ」

 

淡々と話すが言葉に力を感じる

シャルルの思いが込められてるというか、熱意が伝わってくるようだ

 

「それで、色んな人のデータを手に入れたり一夏達を騙して仲良くなろうとしたりした。 正直最初は人の良さそうな2人だったからラッキーって思ってた。 本当にサイテーだよね、僕」

 

「.....」

 

「でも、でもね? 羨ましくなっちゃったんだ。 ただの任務なのに、偽りの友情なのに... 楽しそうに毎日を過ごしてる皆が」

 

「シャルル....」

 

どんどん声が弱くなっていく

きっとこれがシャルルの本音なんだろう

なら俺はこれをちゃんと聞いてやらなきゃいけない

 

「こないだ怒鳴っちゃったのはそれもあるかも。 普通に通ってる一夏達には分からないって八つ当たりしたってことだね」

 

「で、でもそれは!!」

 

「いいの、実際そうだし。 でね、それでもう完璧に嫌われたって思ってこれで何も気にせず自分の任務に集中出来るって思えた。 でも..でも.....」

 

「!」

 

気づけばシャルルは泣いていた

まさに(せき)が切れたという感じで

今まで積もっていたものが抑えきれなくなったのだろう

 

「一夏はっ、全然気にせず接してくれてっ、ぐすっ、それに、今だって味方になってくるって、言って、くれて... ほんと、一夏はお人好しすぎるよ! 少しも僕のこと警戒しないなんてっ!」

 

溢れ出る涙を抑えることなく思いを口にするシャルル

初めてだった

ここまで彼女が強く感情を示したのは

 

俺は思わずシャルルを抱きしめた

彼女の肩に手を伸ばし、力を込めずに背中をゆっくり叩く

しゃくりながらなおもシャルルは止まらない

 

「どうして!? どうして怒らないの!? 騙そうとしたんだよ!? 一夏の気持ちを裏切ったんだよ!? なのに...!「そんなの」」

 

シャルルの気持ちは分かった

辛かったんだ、苦しかったんだ

いくら平然を装ってもやっぱり嫌だったんだな

 

...なんだろう不謹慎だけど、すごく嬉しいと思ってる俺がいる

体は男で、シャルルという名前も本物かは分からない

しかし、初めてシャルル・デュノアに会うことが出来た

そして、ようやく....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルルが大事な友達だからに決まってるだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからシャルルは耐えられなかった

俺の胸に埋もれ、ありったけの涙を流しきった

子供のようにむせび泣く彼女を俺はただただ受け止め続けた.....

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

「ご、ごめんね。 見苦しい所見せちゃって」

 

泣き止んだシャルルは恥ずかしそうに顔を赤らめ、謝罪してくる

俺の制服はシャルルの涙でベチャベチャになってしまっているが、そんなの全く気にならない

 

「気にするなよ。 俺は嬉しかったぞ、シャルルが思いの丈をぶつけてくれて」

 

「そ、そう...? えへへ...」

 

「それに、俺はシャルルが笑ってる方が好きだぞ。 何より可愛いと思う」

 

「え、えっ!? ほ、本当に!? 嘘ついてない!?」

 

途端にシャルルの顔が赤くなる

どうかしたんだろうか?

 

「ついてねえよ、信じろって」

 

「そ、そうなんだ... うん、じゃあ、別にいいかな」

 

最終的に別にいいということになったみたいだ

 

「あ、あとさ 保健室の時もありがとね。 トーナメントのペア言い出してくれて」

 

「ああ、アレか。 まあ気にするなよ。 事情を知ってるのは俺と建兎だけだし、俺しか言い出せなかったしな」

 

あの場ではあれぐらいしか方法がなかった

味方になると言った以上、そのくらいはしなきゃな

 

「ふふっ、一夏ってやっぱり優しいんだね。」

 

「いや、そんなことないって」

 

「そんなことあるよ。 誰かのために自分から名乗り出せるのって素敵なことだと思うし、僕は嬉しかったな」

 

...な、なんだろう凄く照れてしまう

顔が熱くなるのを感じ、パタパタと手のひらで仰ぎ冷まさせる

 

「...でもやっぱり俺が優しいってわけじゃないな。 味方になるとか言って結局大して案も出てないし... ははは」

 

苦笑するしかない

建兎は束さんに話をしてみるとか言ってたけど、俺は最近ちょっとゴタゴタしてたのもあって授業中とかに考えて千冬姉に叩かれることが多かった

シャルルのためにって言ってたけど、やっぱり俺1人じゃどうしようもなかったんだな...

改めて思い知らされる

 

「一夏、とりあえず今日は休も? 僕泣き疲れて眠くなってきちゃった」

 

「お、おう。 そうだな。 じゃあさっさと着替えるか」

 

俺の様子を見かねてかシャルルが自然に話題転換をする

この気配りもシャルルが人気になる理由なんだろうな...

 

シャルルがズボンに手をかけゆっくり下ろす

男物の下着が(あらわ)になり、室内着に履き替えた

 

「い、一夏...?」

 

「...ん?」

 

「あの、その、そんなに見られるとさすがに恥ずかしいんだけど...」

 

「!!」

 

そういえば俺は一連の動作をマジマジと見ていた

女だと知らなかった頃から何度も共にした行為だったのに...

これじゃまるで変態じゃないか!

建兎が前に言ってたけど俺はそっちじゃないぞ!

 

「わ、悪い! ちょっと洗面所の方に行ってくる!」

 

彼女に背中を向け、赤くなった顔を悟られないように足早に去ろうとしたがシャルルは呼び止める

 

「ちょっと、どうしたの? 前からやってたことじゃ... ってうわああ!」

 

「? どうし、 どわああ!?」

 

するとなにかにつまずいたのか俺へ倒れるシャルル

急なことに対応しきれずそのまま2人ともドシーン!と倒れてしまった

幸いどこも打つことはなかったが、シャルルはケガしてないだろうか?

 

「あたた... ごめんね、一夏...」

 

「い、いや、俺は大丈夫... !!」

 

シャルルも特にケガした様子はなく、良かった

しかし、俺の手が問題だった

受け止めようと手を伸ばした先に、シャルルの...胸が...

 

「うおおお! ご、ごめん! そんなつもりじゃっ...!!」

 

「い、一夏!?」

 

慌てて飛び退いたら思い切りベッドに頭をぶつけてしまい、意識が遠のいて来た

薄れていく意識の中見たのは少し顔を赤らめながら、俺の顔をのぞき込むシャルルだった....

 

☆☆☆☆☆

今、千冬の部屋には主ともう1人、ラウラが居た

向かい合うように座り、まるで刑事ドラマの取り調べのような雰囲気である

 

ラウラは主こと織斑千冬を心酔しており、この状況普段ならば彼女にとって歓喜ものだった

しかし、当然彼女達はおしゃべりをしているわけではない

ラウラの機体に搭載された謎の装備についての聴取であった

 

「...では、お前自身はあの装備について何も知らないと」

 

「...はい、性能や用途ほどしか伝えられていません」

 

ただ、話している内容についてはほぼすぐに答えは出た

ラウラ自身は何も知らず、あのガスについても大した情報は得られなかった

ラウラに嘘をついてる様子はなく、このまま続けても意味は無い

ドイツ軍に連絡を取っているものの、その装備について答えるものはほとんどいなかった

 

「...はぁ、ではこの話は終わりだ そしてボーデヴィッヒ、お前はトーナメント戦は不参加とし、シュヴァルツェア・レーゲンは一時こちらで預かる」

 

「っ! 何故ですか!?」

 

千冬の突然の言葉に思わず身を乗り出して答えるラウラ

再びため息をつきながら千冬は続ける

 

「当然だ。 あんな危険なものを使われたら生徒に多大な被害が及ぶ。 オルコットや凰の機体に混入したガスの詳細を調べるという意味でもお前に渡しておく訳にはいかん」

 

「し、しかし!」

 

「くどいぞ。 さっさと自分の部屋に戻れ」

 

それでも納得がいかないラウラに千冬は冷たく切り捨てる

今日一番悲しそうな顔をするラウラ

一礼をし、静かに立ち去ろうとした

 

しかし、その時

 

「...ボーデヴィッヒ、この謹慎はお前に自分の意見を持たせるためにクールダウンさせる期間でもある」

 

「...え?」

 

千冬から予想外の言葉を投げかけられ、素で返事をするラウラ

 

「お前は私の命令ならば何でも聞こうとする。 だが、それだけでは一夏や桐生には勝てんぞ」

 

「っ!!」

 

「ドイツの代表候補生、シュヴァルツェア・レーゲン、織斑千冬...。 何もかも捨てた今のお前に消えずに残っているもの、それがどんなものか考えてみろ お前という存在を」

 

「...承知しました」

 

ラウラには分からなかった

自分は闇から生まれた存在

ラウラ・ボーデヴィッヒという記号が与えられたモノ

それ以外彼女に何も無かった

 

「...失礼しました」

 

ギィ...と扉を閉める

ドアの向こうにはなおもこちらを見ている千冬の姿が見えた

彼女が何を言いたかったのか、分からない

私はどうすればいい?

 

それとは別に違う罪悪感が彼女の中でこみ上げる

 

(...すみません、教官。 私は嘘をつきました)

 

先程の話の内容で実は一つだけ彼女は千冬に隠したことがあった

あの装備の開発者であり、ガスを生成したと思われる科学者がいたのだ

しかし、その名を知られぬようにとその人に念入りに忠告されたのだ

ラウラはその人物に直接会った訳では無いが、とても高い科学者だと伝えられている

その名も

 

(カツラギ ユキアキ...)

 

しかしそれは語られることなく、ラウラの心の中に沈んでいった

 

☆☆☆☆☆

シャルルサイド

 

ふう、これでひとまず大丈夫かな

 

先程思い切り頭をぶつけて気絶した一夏を制服の上だけ着替えさせ、ベッドにゆっくり下ろした

一夏が思ったより重くて筋肉質だったのがちょっと驚きだった

僕の体とは大違い

その時に体ペタペタ触っちゃったのは不可抗力だよね?

だって、何もやましいことしてないもん!

 

否定するように頭を振り回してるとさっき脱がした制服が目についた

それはものすごく濡れてて下のシャツにまでシミがついてて、自分のものながらちょっと汚いと思ってしまった

どれだけ涙を流したんだよ僕は...

 

でも、ここまで思いっきり泣いたのも久しぶりかも

ずっと...泣かないようにしてたしね

お母さんが死んじゃって、お義母さんに叩かれて、美空と離れ離れになって、男の子になっちゃって...

泣いたことはたくさんあったけどその時とは違う涙で...

すごくスッキリした気がする

 

ふと、一夏の枕元に座る

すぅー、すぅーっと静かに寝息をたてて眠る一夏に思わず微笑んでしまう

それにしてもさっきの一夏は大胆だったなあ

いきなりあんなこと言ってくるなんて反則だよ!

 

...あれ?でもあの時僕の体まじまじ見てて、照れてたように見えたのはひょっとして...

 

「って! 無い無い!」

 

僕は即座に否定し、顔と手を横に振る

あんな鈍感を具現化したような人が...ありえないよ

 

で、でも...

でももしそうなら...

 

「ちょっと、嬉しい、かな...。 って、さっきから1人で何言ってるの僕は!」

 

男の枕元で百面相をしながらブツブツ呟く男

傍から見たらとてもヤバい人に見えることに気づき、誤魔化すように咳払いをする

 

再び向き合い、一夏の頭に手を乗せる

あったかい...

 

「ありがとね、一夏。 後で建兎にもお礼言わなきゃ...」

 

そしてポケットから写真を取り出し、窓へ向かい、カーテンを開けて、星を見上げる

お母さんは見てくれてるだろうか

 

「...お母さん、僕、1人じゃないよ。 友達が一緒に居てくれてる。 美空のことも、僕はあきらめない。 だから、見守ってて」

 

当然返答なんてない

でも、伝わったと思う

 

僕は電気を消して自分のベッドに戻る

今日あったことが夢でまた出てきますように...




活動報告にてヒロインの変更に関する話があります
あとサブタイトルについても聞くつもりです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。