IS VS Build   作:シュイム

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難産でした...


第27話 開幕のゴングが鳴る

6月も最終週、月曜からIS学園は学年別トーナメント一色に変わる

今現在俺たちは第一回戦が始まる直前だが、未だに全生徒が雑務や会場の整理などを行っているほどの慌ただしさだ。

ようやくそれが終わり、生徒達は急ぎ各アリーナの更衣室へと走る。

参加する男子組は俺とシャルルだけなのでこのだだっ広い更衣室を二人占めである

 

「しかし、すごいなこりゃ...」

 

更衣室のモニターから観客席を覗くと各国の政府関係者や研究所員など、テレビでも見たことあるような人まで見受けられる

 

「三年にはスカウト、二年には一年間の成長の確認にそれぞれ人が来てるからね。 今のところは関係ないけど一年にもトーナメント上位入賞者にはチェックが入ると思うよ」

 

「ふーん、ご苦労なことだな」

 

しかし、俺自身あまり興味も無くほとんど右から左へと突き抜けるように話を聞いていたが、なんとなく考えが読めたのかシャルルはそんな俺を見て笑う

 

「あんまり気にしてないみたいだね。 各国にアピールするチャンスだけど」

 

「ああ、まあな...」

 

正直俺としては今回のトーナメントはあまりやる気がしない

山田先生に「頑張れ」と言われ、専用機持ちであり国家代表候補生のセシリア達に「絶対勝て」とは言われたが気分が乗らないものは乗らない

 

何も緊張してるとか不安だとかじゃない

コンディションは良い方だし、今日のために勉強だってたくさんしてきた

ペアを組むと決まってから、シャルルと今まで以上にコンビネーションもこなしてきたのだ

...まあ正直、前に比べたらよそよそしくなってしまった気もしたが

 

それはさておき

そんな俺のやる気がしない理由。 それは...

 

「一夏、ボーデヴィッヒさんと戦いたがってたもんね...。 まあ先生が決めたことだったら仕方ないと思うけど」

 

「ああ.... そうだな...」

 

シャルルの苦笑混じりの言葉に俺はガクッと項垂(うなだ)れる

浅いため息も同時に出てしまった

 

そう、ラウラ・ボーデヴィッヒのまさかのトーナメント不参加...

 

詳しい理由は聞かされなかったが、恐らくはあの模擬戦だろう

一年の間では同学年で最強と思われるラウラの不参加に安堵する者が多かった

嫌うとまでは行かないものの、彼女に対してあまり良い感情を持ってない者も少なからず居たようである

ラウラとは戦いたくないしペアにもなってほしくない

その気持ちは凄く分かる

 

しかし、俺はラウラとトーナメントで決着(ケリ)をつけたかった

滅多にないアピールチャンスのトーナメント戦で出場出来なくなった鈴やセシリア、俺の代わりにやられた建兎

みんなの分も背負って全力で戦い、勝ちたかったのだが...

 

なんてこと考えてもう早数十分

そんな姿を見かねてシャルルは明るくフォローを入れてくる

 

「ま、まあまあ一夏! ポジティブに考えよ? ボーデヴィッヒさんが不参加ってことはかなり優勝出来る可能性が上がったってことだし、まずは一回戦確実に取ろ? ね?」

 

俺の前に移動して必死に励ましてくるシャルル

あの部屋での一件があってからより一層面倒見が良くなった気がする

俺が行き詰まった時も彼女は励ましてくれ、支えてカバーしてくれた

なら俺は...その受けた恩の分シャルルに返さなければならないだろう

 

よーし!

俺は立ち上がり、シャルルに笑みを向ける

俺より少し身長の低いシャルルもつられて笑顔になる

ちゃんと笑えるようになったみたいで安心した

 

「...おう、悪いな。 迷惑かけて」

 

「お互い様だよ。 その代わり、対戦中はちゃーんとコンビネーション守ってね?」

 

「うぐっ。 わ、分かった」

 

顔は笑ってるがとても怖い

俺は熱くなってコンビネーションを乱してしまい、シャルルに度々それを指摘されていたので、本番でやらかさないよう釘を刺しておいたのだろう

こんな笑みも出来るようになったのかと嬉しいようなそうでもないような

いや、やっぱりいらないかな....

 

時間を見るともうそろそろ対戦表が発表される頃だ

今回は突然ペア戦に変更されたため、今までのシステムが正しく機能せずくじ引きで決められることになった

ちなみに作ったのは生徒達で、しかも作り始めたのは今朝からだそうだ

お疲れ様です、皆さん

 

「一年の部、Aブロック一回戦一組目だからね... そこはちょっと不運だったかな」

 

「え、なんでだ?」

 

「1番最初の最初に手の内を晒すことになっちゃうでしょ? 僕はともかく一夏の射撃の腕はまだまだだし、後の人達に色々と対策を練られる恐れもあるからね...」

 

シャルルらしい、冷静な分析だ

もしかしたらこれが普通なのかもしれない

だが、今更決まったものは変えられない

出たとこ勝負、思い切りのよさで行くのも大切だと俺は思う

それに、俺たちみたくペア戦なんて初めての人だって少なくないと思う

皆スタートラインは同じ....なはずだ

 

「あ、対戦相手が決まったみたい」

 

モニターがトーナメント表へと変わる

俺もシャルルも食い入るように画面を見つめた

 

「....箒か」 「更識さん...ね...」

 

一回戦の対戦相手は水色の髪をした眼鏡の子、そして箒のペアだった

 

☆☆☆☆☆

 

「「......」」

 

一夏達が使ってるところと反対側の更衣室

そこはたくさんの女子生徒で溢れかえっており、また全員がモニターを一斉に見ている

とてつもない人口密度に苦しんでた先程までとは打って変わってありえないほど集中する彼女達

その中に簪、箒はいた

 

(初戦の相手が一夏!? なんという組み合わせだ...)

 

(織斑、一夏....)

 

2人に緊張が走り、自然の互いの顔が引き締まる

ふと箒は簪の方を見ると手をギュッと握るのが見え、すぐに目をそらす

一夏に対して自分とは全く違う感情を向ける彼女になんと言えば良いのか分からなくなり、思わず立ち上がりロッカーの裏へと隠れてしまった

 

箒は元々一夏とペアを組むつもりでいた

しかし、上手い誘い方を考えている内に夜になってしまい、その後に部屋を訪れたら既にシャルルと組んだと返された

 

それからどうしようか考えていると簪から誘いを受けたのだが箒はその誘いをすぐには承諾しなかった

簪は専用機が無いとは言え日本の代表候補生、その上普段から仲の良い彼女からのお誘いである

くじ引きで決められるよりか気心知れた者とペアを組める方が断然良い

 

しかし、箒は簪が一夏をよく思っていない理由を聞いており

その話を聞いた時、箒も思わず声を上げ怒ってしまったのだがその一方で「一夏は悪くない」と言いたい自分がいた

 

自分も打鉄弍式の組み立てをする簪を見ており、その度に専用機というものの重大さや、簪ほどの実力者でも後回しにされてしまう不条理さを知った

そして同時にこれを1人で作り続けていた姉のことを何度も考えるようになった

 

許してあげてほしいと自分が言えた義理ではないのは分かっているが、何より親しく話せるようになった簪に一夏の敵として回って欲しくなかったのである

 

そして箒は簪に自分の一夏に対する想いを話していた

それが発端で嫌われてしまう恐れもあった

だが、自分に全てを話してくれた簪に対して礼も含めて話したのだ

簪からは「...そう」とだけ言われ、その話はその場で終わったのだが...

 

結局簪とペアを組むことになり、2人で特訓も重ねたが前と比べて会話がぎこちなくなってしまった気がした

 

現に今もこうして逃げ出してしまっているわけで....

 

「...箒」

 

「うわぁい!?」

 

これからどうしようものかと、うんうん唸ってたら後ろから声を掛けられ、思わず変な声で叫んでしまった

周りからはくすくすと笑う声が聞こえ、顔が赤くなるのを感じる

 

「....気持ちはなんとなく分かる。 けど、今は話し合う時間」

 

「あ、ああ。 そうだな、すまない」

 

目の前の簪はそんな声に反応することなく淡々と話す

その態度にありがたいようなかえって恥ずかしいような気持ちになってしまう箒

しかしそんな箒をよそに簪は続ける

 

「対戦はマンツーマンでやろう。 私はシャルル・デュノアとやるから...箒は織斑一夏をお願い」

 

「な、何? 私が一夏と...?」

 

その提案は別におかしいものではない

代表候補生は代表候補生同士、戦った方が良いだろうし専用機持ちとは言え一夏はまだ初心者である

さらにその専用機(白式)には遠距離武器が無いので、同様に刀以外をあまり扱えない箒にも分はある

しかし、てっきり簪は自分の手で一夏と決着をつけたいのではと思っていたので、箒にとっては少し意外だった

 

「今でも織斑一夏は殴りたいとは思ってる...。 でも、それ以上に..箒と勝ちたいから。 専用機が無くたって勝てるんだって証明したいと思ってる、から。 箒に任せたいの...。 ....ダメ?」

 

「!!」

 

箒は誤解していた

てっきり簪は自分のこともあまり良くは思わなくなったのだと思い込んでいた

自分と同じ気持ちだったなんて、思ってなかった...

 

「ふっ、はははっ! ああ、なんだが自分がバカバカしく思えてきたな」

 

「....?」

 

簪は負けてなかった

姉というコンプレックスや専用機の与えられない悔しさをバネにここまで強く生きている

それは彼女1人で掴み取ったものでは無いが、箒にはそんなこと関係なかった

少し前までまるで自分が世界一不幸な人間だと思っていたのが恥ずかしい

また、自分の弱さを知ることが出来た

もう二度と、彼女は力を誤って使ったりなどしないだろう

 

「大丈夫だ、私達ならば勝てる! 一夏は私に任せろ!」

 

「...うん、負けるつもりなんて..ない」

 

笑顔で拳を突き出す箒に、簪も笑顔で応える

クールで熱い、2人の表情は凛々しいものだった

 

まもなく、第一回戦が始まるーーー

 

 

☆☆☆☆☆

「一戦目で一夏ととはな。 だが、負けるつもりは無いぞ」

 

「そりゃこっちも同じ気持ちだ。 全力で行くぞ! 箒!」

 

「.....」

 

「え、えーと... よろしく、ね?」

 

試合開始まであと五秒。 四、三、二、一、・・・ 開始。

 

試合開始と同時に一夏は瞬時移動(イグニッション・ブースト)を行う。

先手必勝、なるべく戦況を有利にするべく一手目を頂くつもりだ

 

「おおおっ!」

 

「ふっ!」

 

だが箒はギリギリで上空に飛び、これを躱す

傍から見れば凄いことではあるが、ちゃんと理由があって箒は避けられた

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)は作動中は方向転換は出来ずに、そのまま直進する。

その上、一夏の動きは大振りなのが多く、読みやすい

剣道で鍛えられた目や一夏の腕の動きにより、予測して動けたのである

 

「くっ...! 躱された!」

 

「どうした一夏、それで終わりではないだろう!」

 

飛び上がった後、箒は刀を突くような形で構え一夏に突進する

一夏も体を捻り、雪片弍型で応戦する

 

何度か刀がぶつかり合い、金属が響き合うような音を出しながら火花が散る

一夏の斬撃はスラスター推力を上げ、加速度が増し箒は後方に押されていく

だが箒もそれに焦ることなく受け流すように刀を振るう

少々箒が押されてはいるものの2人の戦いは互角に見えた

しかし、これは一対一の戦いではない

 

「こっちもいるよ!」

 

シャルルが一夏の頭を飛び越えて現れ、それと同時にアサルトカノンによる射撃を箒に浴びせる

 

集中していて一瞬シャルルを捉えられず、動きが瞬間止まる

シャルルは刀の腹や実体シールドで受けながら、後退する箒になおも撃ち続ける

 

「逃がさないよ!」

 

すると即座にシャルルの左手から銃が形成された

これはシャルルが得意とする技能『高速切替(ラピッド・スイッチ)』である

戦闘と平行して武装を呼び出せるので、彼女の持つ器用さと素早い判断力も相まってまるで銃が突然現れたかのように見えるのだ

 

「私もいる....」

 

銃弾をインターセプトしながら箒のカバーに入る簪

彼女も負けじとラファールの拳銃でシャルルと撃ち合いに入る

空中を高速で移動しながらの銃撃は一夏にとってとんでもない技術であるように思えた

 

箒と再び刀でぶつかり合う中、一夏は簪の弾切れを狙っていた

豊富な後付武装(イコライザ)のラファールと、高い技術力や知識を併せ持つ彼女と言えど弾は無限ではない

彼女の武装を見る限りシャルルと同じく射撃型だと気づき、つまり接近戦には弱いと考えた

 

すると、一瞬簪の手から銃が離された

 

『一夏、今!!』

 

『おう!!』

 

プライベート・チャネルでシャルルがタイミングを伝える

と、同時に一夏が箒を蹴り飛ばし、瞬時加速(イグニッション・ブースト)でシャルルの向こうの簪を目標に突撃した

零落白夜を起動し、雪片弍型を横に構えて一閃する

 

が、

 

「させるかっ!」

 

「ぐあっ!!」

 

「一夏!?」

 

なんと箒がきりもみしながらひっくり返り、頭を下にした姿勢のまま刀を一夏の移動する直線上に縦向きで構えたのだ

進む向きを変えられず一夏は刀にぶつかり、勢いはそのままに体勢を崩して地面に落ちて行ってしまった

 

「...スキあり」

 

「っ、しまっ!!」

 

動きを読まれたことに驚き、一夏とお互いの位置を入れ替えるために宙返りをしていたシャルルはリロードを済ませた簪の射撃をまともに喰らってしまった

 

スピードを上げ、シャルルはなんとか体勢を立て直す

一夏もふらふらする頭を叩き、空中に戻る

 

『無事か? シャルル』

 

『一夏こそ。 頭から落ちてなかった?』

 

『なんでそこだけちゃんと見てるんだよ』

 

プライベート・チャネルで軽口を言い合うが状況は不利だ

一夏達は元々『箒を先に倒そう』作戦を練っていたのだが、それはあまり効果が無さそうだ

その上零落白夜で早く倒してしまおうとも考えていたものの、2人に一切当てられる気がしない

 

量産機というハンデがありながらも想像以上に向こうのコンビネーションが上手く、個人技のレベルも高い

代表候補生の簪もそうだが、箒の先程の一撃は敵ながら天晴と言いたくなるものであった

専用機を持っていたことで優位だと思っていたが、一夏はそれはただの驕りだったと気づく

 

「箒、さっきのは...良かった...」

 

「ああ...。 正直私もびっくりだ。 だが、行けるぞ! 簪!」

 

向かい合って話し合う箒と簪

この光景を簪を知る者が見たら間違いなく驚くだろう

それでなくとも、専用機持ち(一夏とシャルル)を押している量産機使い(箒と簪)に観客達は魅せられていた

今、確実に流れは2人にある

 

『一夏、僕が篠ノ之さんの相手しようか? 今のままじゃ絶対に勝てないよ』

 

『...悪い。 俺もやられないよう気をつける』

 

『うん、僕も出来る限りサポートはするから。 更識さんは頼んだよ』

 

プライベート・チャネルを閉じ、一夏達は先程と違う相手へ突撃する

突然の入れ替わりだが箒達も構えながらぶつかり合う

 

トーナメントもこの試合も、まだ始まったばかりである

 

☆☆☆☆☆

「2チームともすごいですねぇ。 二週間ちょっとであそこまで連携がとれるなんて」

 

場所は変わり、ここは観察室

麻耶はモニターに映る4人を見て感心のため息を吐き出す

 

「織斑君も凄いですけど、篠ノ之さんの先程の動きはどうやったんでしょう。 やっぱり、篠ノ之博士の妹さんだから...?」

 

「篠ノ之にも少なからず才能はある。 だが、それ以上に『誰よりも一夏を見てきている』というのも利点の1つだろう。 個々の技だけでなく更識との連携も上手い。 ...あいつもアレの半分は出来ねばならんのだがな」

 

箒にはべた褒めだが一夏にはとんでもなく辛口である

確かに今の彼のチームの連携はシャルルのの活躍によるものが大きい

かと言って一夏が一切活躍できてないわけでもなく、落ち着きを取り戻し着実にダメージを与えられている

単に弟を素直に褒められないだけかもしれない

苦笑混じりの麻耶だが、それ以上にあまり良くない顔色である

 

「...桐生君はまだ目覚めてませんがトーナメントは普通に行われるんですね」

 

「...ああ、自国他国のISの技術を見るためだけでなく、より実戦的な戦闘経験を積ませる目的もある。 先月の事件もあったからな。」

 

先月の少女と謎のISの襲撃事件は反政府組織の仕業ということになっている

各国の第三世代型兵器も効かず、更には合体するISなど聞いたこともない

あれほど大規模な事件が起きたにも関わらず分かった事が少なすぎるため、どの国も緊張状態に入っているのだ

 

「それに、これは桐生のためでもある」

 

「え?」

 

「特に今年の新入生には第三世代型兵器のテストモデルが多い。 操縦者は万が一の時、自身はもちろんそれらを積んだISも守らなくてはならない。 今までのように桐生がなんとかしてくれるとも限らないからな」

 

結局あの襲撃事件もビルドが撃退させたようなものだった

これから先どのような脅威が待ってるか分からない以上、自分の技量や戦闘中に自らが取れる選択肢を少しでも理解しておく必要がある

それと同時に、少しでも建兎の負担を減らせるようにしたかったというのもあった

 

ヒーローとして誰かを守り、救ってきた彼だって人間である

何もかも1人でやっていけるわけがない

ならば教師として自分達が支えねばならないだろう

 

「そう、ですね...。 私達、いつも桐生君に頼りすぎていた気がします」

 

「自分が各国が欲している力を持っていることをもう少し自覚させる必要も『織斑先生、山田先生、大変です!』 ...? なんだ?」

 

同僚の先生からモニターを介しての通知が来た

場所は学園内、このタイミングということはかなりの急用だと思われる

 

『それが...ボーデヴィッヒさんのシュヴァルツェア・レーゲンが暴走!! ボーデヴィッヒさんは搭乗していませんが黒く濁ったボディをしていて、恐らくVTシステムかと思われます! 』

 

「「!!!」」

 

2人とも目を見開く

千冬の中には様々な疑問が飛び交うが、今1番重要なのはトーナメントを観戦している者達に被害を出さないことである

 

『そして、今現在ビルドが交戦中! 至急、応援を頼みます!』

 

「き、桐生君が!?」

 

「了解!! 私もすぐにそちらに向かう!!」

 

話を終え、麻耶に指示を出すと千冬はすぐに観測室を後にしてその場所へと全力で駆ける

終わらないアクシデントに頭を悩ませている暇などなかった

 

☆☆☆☆☆

「はああ!!」

 

「ぐっ! うぅっ!」

 

シャルルの連撃に箒は苦い顔をする

砂漠の逃げ水(ミラージユ・デ・デザート)』と呼ばれるその攻撃は剣から銃へ、銃から剣へと流れるように武装を切り替えて行われる

箒のISのエネルギーはかなり減っており、箒自身もどんどん焦ってきている

やはり、彼女は射撃相手は苦手なようだ

 

「箒っ!」

 

「おっと、まだ俺もいるんだぜ!!」

 

「ぐっ、避けてるだけのくせに...!」

 

相方のサポートに入ろうとする簪に一夏が妨害する

とは言っても攻撃をせずに急停止、転身、急加速を繰り返し回避に徹してるだけだが

それでも専用機と量産機の違いなのか、白式のスピードに上手く撹乱されてしまっている

 

「ちっ、だが、これなら!」

 

少しでも間合いを離そうと宙返りしながら下方へダイブする

とりあえずこの状況を打破するための苦肉の策だったが

 

「甘いよっ!」

 

「なっーー!」

 

シャルルはなんと瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用

これはパートナーの一夏も知っておらず、シャルルの技量に驚いていた

 

すぐに追いつき、箒を切り伏せる

打鉄はエネルギーが0になり、箒は撃墜してしまった

 

箒を倒したことを確認したシャルルは一夏と合流する

 

「一夏、大丈夫?」

 

「ああ、なんとか...。エネルギーはもう零落白夜も使えないほどギリギリだけどな」

 

さっきから集中しながら躱し続けていたので一夏は息が荒い

白式もあちこち弾痕などダメージが見られ、もう高速での稼働は無理だろう

 

「分かった、更識さんは僕に任せて」

 

「悪い、頼んだ...。 」

 

そう言って一夏と再び離れ、簪とシャルル。代表候補生同士の一対一となった

 

「行くよ、更識さん」

 

「負けない...。 負けられないっ!」

 

直接的な攻撃こそ無かったものの無駄に時間を取られたおかげで簪のラファールのエネルギーもそこそこ減っていた

それでも簪の目にはまだ闘志が宿っている

 

このままただやられたくない

足掻(あが)けるところまで足掻(あが)いてやるという思いが簪の銃を握る手を強める

 

弾幕の飛び交う激しい空中戦のさなか、簪がリロードをしようと止まった瞬間、左側から衝撃が生じた

横目で一夏がアサルトライフルを構えていたのを簪は確認する

もう何もしてこないだろうと完全に眼中になかった所からの攻撃に動揺し、大きく隙が出来る

 

「っ!?」

 

「! はああっ!!」

 

その隙をシャルルは見逃さない

一気に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰め、簪とぶつかり合う

その際勢いに負け、簪のラファールは大きく後退する

 

「うっ、でもまだエネルギーは...」

 

「いや、この距離なら外さないよ」

 

そう言って盾の装甲が弾け飛ぶ

そこからリボルバーと杭が合体したパイルバンカーが現れる

単純な攻撃力だけで言えば第二世代型最強と謳われた《灰色の鱗殻(グレー・スケール)》 通称ーー

 

「『盾殺し(シールド・ピアーズ)』...!」

 

簪の顔が青くなる

当然ながらこの装備については彼女もよく理解している

そこで彼女は手元にあった箒の使っていた刀を拾い上げる

 

「おおおおっ!」

 

シャルルは左手をきつく握りしめ、叩き込むように突き出す

斬る、薙ぐとは違う、点での攻撃である

さらに瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用しながらの接近なので全身停止は間に合わない

 

そこで簪は

 

「ふっ!!」

 

拾った刀でシャルルにまっすぐぶつかっていった

 

「ううっ! ぐ、はああっ!」

 

「うああっ!!」

 

刀に一撃が叩き込まれ、狙っていた部分から少しズレてしまった

だが、簪のISのシールドエネルギーは絶対防御に集中し、相殺しきれなかった衝撃が体を貫く

苦悶の表情を浮かべたまま簪は壁へ叩きつけられた

 

「はぁ、はぁ...。 ここまで耐えるなんて...。 でも、これで...!」

 

再び『盾殺し(シールド・ピアーズ)』を簪めがけて構える

そして、飛び出そうとした瞬間....!!

 

『非常事態発令! アリーナへ謎のISが接近中! 鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒はすぐに避難すること! 繰り返す!』

 

突然のアナウンスに全員の動きが止まる

観客席はシャッターで閉じられ、けたたましいサイレンが鳴り響く

『謎のIS』と聞いて一夏と箒、簪はこの間の事件を思い出すが

 

ドゴォォォン!!

 

「ぐあああっ!!」

 

奥のピットから2つの影が声をあげながらとんでもない勢いで突っ込んできた

その衝撃で煙が立ち、視界が遮られる

 

突然現れた侵入者に、一夏達はひとかたまりになって武器を構える

視界が見えてくると、そこには膝をつき肩を大きく揺らしながら立ち上がろうとする白と水色のビルドと

 

ズズゥン...とゆっくり重そうな音を立てながらアリーナの中心で佇む濁った黒

 

先月の襲撃者とは全く異なる、どこか闇を感じる『何か』

その全身装甲(フルスキン)のISが手に持つ武器に一夏は見覚えがあったし、彼が見間違うはずもなかった

 

「雪片...!」

 




作者は小説だけでアニメをちゃんと見てないのでここおかしいぞってのあったら教えてください

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