やっとのおかえりまで   作:中島何某

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舞茸と鶏肉のパスタ

 

「ただいまー、俺」

 

 7限目の大学の講義が終わり、学校のすぐ近くに借りているアパートに草臥れた足取りで直帰した俺は部屋の扉を開け、ふざけた口調で無人の空間に声をかけた。

 

「あっ、お帰りなさーい拓真さん」

 

「……あ?」

 

 ――無人の空間、のはずだった。

 ワンルームユニットバス玄関廊下にキッチンが繋がっているような学生御用達の部屋に同居人が居る筈もなく、俺は俺の名前を呼んだ声に眉を顰めた。おかえりと返す陽気な泥棒も居る筈が無し。しかも声には聞き覚えがある。

 居間と玄関廊下は扉によって仕切られているが、扉の向こうに確実に一人、家主不在の家に勝手に上がり込んだ不届き者が居るのだ。

 

「沖田! なんでお前勝手に部屋入ってるんだ!」

 

 後ろ手に玄関の鍵を閉め、居間と廊下を仕切る扉を無造作に開け放つと、そこにはジュース片手にテレビを眺めてくつろいでいる少女が居た。

 

「もー、昔みたいに総司って呼んでくれていいんですよー」

 

「……お前が男みたいな名前で嫌だって駄々こねたんだろうが」

 

「あれ? そうでしたっけ?」

 

 そうだよ、と口の中で言葉をもごつかせて溜息をつく。目の前の沖田総司という娘はお隣さんの幼馴染で、小学校に入る直前に何が導火線か知らぬがこんな名前は嫌だとぎゃん泣きしたのだ。しかもこの娘、根っから病弱でいやだいやだせめて名字で呼べと駄々をこねている間に吐血しそのまま病院送りになったのである。

 中々インパクトのある出来事とお思いか? 実のところ能天気そうにバラエティ番組を見るこの娘、吐血なんぞ年中行事でハッピーバースデーと祝われた回数より救急車のサイレンを車中で聞いた回数の方が多いハイパーデリケートガールである。一度や二度の吐血、幼馴染との記憶の一部だ。何度Tシャツをスプラッターな柄にされたことか。女心と秋の空。総司の体調つるべ落とし。

 

 まあそんな彼女だが今ではそれなりに元気になっており、大学入学に際する一人暮らしも定期通院のもと医者の許可が下りている。だがやはり彼女の両親はいたく心配して、幼馴染で同い年の俺も大学入学と共に一人暮らしすると聞いて、同じマンションで隣の部屋に住める物件を探し、倒れていないかの確認だけは頼むと19年目のお隣生活が引き継がれ、今では二十年目である。大学と実家が隣の県で微妙な距離なこともあるのだろう。

 とは言ってもだ。さすがに思春期の男女、今までプライベートは大事に保たれていた。お互い部屋に一度くらいは上げているが、家主不在の部屋にどちらかが侵入したことは一度もなかったのだ。

 

「って、沖田お前勝手にファンタ開けたろ!」

 

「はい。ごちそうさまです」

 

 オレンジ色の液体が注がれたコップに、ふと冷蔵庫の中身を思い出してハッとする。なんちゅーやっちゃ。

 

「はー、ほんとお前は」

 

「あれ、わたし拓真さんの怒りのツボ刺激しました?」

 

 きょとんと首を傾げると、さらりと肩でブロンドとも白髪とも言えぬ色彩の髪が揺れる。くすんだ色合いの双眸はくりりと大きく、傍目には病弱で色素の薄い可憐な美少女に見えるのだろう。

 だが俺達は一人一日一本のヤクルトで争い、一切れのカステラや羊羹を皿を挟んで睨みあった仲。俺には友人たちに美少女とか例えられる娘がリスとかコアラの類に見えるし、20年目の付き合いともなればさすがに量産品の一部を承諾無しに飲み食いされたところで怒りも湧かない。んなことはお互いに分かっているから彼女は首を傾げているのだろう。

 

「隣に開封済みの飲み物あるのになんで未開封のを開けるかなお前はっ!」

 

「だって沖田さん午後ティーのストレート苦手なんですもん」

 

 ほらっ、それにあと一人分ですし!拓真さんが今日飲むことを考えたらノーカン!むしろ最後の一口を飲まなかった沖田さんは気遣い上手では!? と必死に弁明する姿に実家で飼っていた柴犬が物を壊した時に必死に鳴いてご機嫌取りする姿を思い出し、こだわりに対する熱意が急激に冷めて、ていっと軽く後頭部にチョップでお咎めなしとした。

 

「あいたっ。……もー、拓真さん細かいんだから」

 

「おき太なんか言った?」

 

「沖田です!」

 

 抗議を無視して未だに背負っていたリュックを部屋の片隅に置き、沖田に嫌われた可哀想な午後ティーをラッパ飲みする。いつもは不衛生だからコップ使うけど最後の数口だし。はー、もう帰って早々漫才して疲れた。

 

「で、なんでお前俺の部屋に居んの?」

 

「今日休講になったのでおうちに帰ったんですけど、その時ウチでお母さんとお茶してた拓真さんのお母さんに先日免許証を忘れていったから届けてくれないかって、すれ違って困らないようにって合鍵を預かりまして」

 

「ああ、うん、そう……」

 

 沖田は自分のバッグを漁り、数日前にうっかり実家に置いて行ってしまった免許証をどうぞと渡してくる。今日はバタバタして家を出てから殆どスマホを弄れなかったが、もしかしたら連絡が入っていたのかもしれない。

 

「あっ、それとお母さんが拓真さんにもって貰い物のゼリーくれたので冷蔵庫に入れておきました!」

 

 言われて冷蔵庫を開けると、さっきは見逃していたが確かにお中元で貰うような有名店のゼリーが何個か入っていた。

 

「……ありがとう」

 

「はい!」

 

 俺のプライベートは親公認で打ち破られたのか。うんまあ思春期の息子なんてそんな扱いだよね、知ってる。明るく素直な沖田さんの勢いに負けて遠い目をした後、空になったペットボトルを水ですすいで潰そうと玄関廊下に繋がるキッチンへと体を捻った、その時。

 

くううぅぅ

 

 誰かの腹の虫が鳴いた。振り向くと虫の主がえへ、と笑った。

 

「実はですね、拓真さんが今日7限まであることを忘れていまして、晩御飯まだなんです」

 

「はい」

 

「沖田さんお腹すいたなーって」

 

「ほうほう」

 

「冷蔵庫空っぽなのにスーパーにも行きそびれちゃって」

 

「それで?」

 

「突撃! 隣の――」

 

「チョップ!」

 

「こふっ」

 

 無い仏壇を拝んで夕飯同席の交渉に入ろうとするアホにもう一発チョップを入れて溜息をつく。うえーんと泣いたフリをする女を無視してペットボトルを水ですすぎ、分別の袋に入れて、振り向くと芋虫のようにうじうじしている姿にもう一度溜息。

 

「ほんとに簡単なものしか作れないんだけど、俺」

 

「ヤッター! ありがとうございます! デレ即後出しのツンデレはいい文明ですね!」

 

「帰るか?」

 

「やですねー、冗談ですよもう」

 

 急に元気になった沖田に呆れつつ、冷蔵庫の中身をもう一度確認して本当に簡単なものしか作れないな、と判断する。

 大学二年時は未だに授業数が多い上に選択必修が6~7限に入ってしまい、平日にバイトを入れる暇があまりない。仕送りもそんなに貰っていないので然程贅沢も出来ないからそこそこ自炊をしているが、こだわりもないので総じて工程の少ない料理を好む。男で出汁とかとれる奴は料理人だと思う。え、偏見? 水に昆布入れとくだけでとれる? そのひと手間で美味しいから出汁くらいとれ? すいません個人的に面倒くさいだけです。許して。そんな僕の正義の味方、だしの素。大好き。今回は使わないけどさ。

 

「病弱娘、パスタでいいか?」

 

「沖田さんパスタだいすきでーす」

 

 肯定を聞く前から引っ掴んでいた材料を抱えて冷蔵庫を閉め、手を洗って鍋に水を注いで湯を沸かす。その間に、とフライパンを出していると「何か手伝えることありますか?」と背後から聞かれた。

 キッチンと廊下が一緒くたの狭いシンクとコンロに二人並ぶと窮屈だしなあ、と思いつつ、リスのような目が見詰めてくるので手伝わすか、と「レタス出して」と伝えてサラダを追加することにした。ほんとはいつかの俺のチャーハンにしようと思っていたのだが、気分は小さい子供を持ったお父さんだ。うんうん、手伝わせてやろう。言わなくても先に手を洗えるなんて偉いぞ。

 もう俺の中で沖田の立ち位置がリスなのか犬なのか子供なのか不明である。

 いやぶっちゃけた話、沖田自身が天真爛漫で小動物や子供らしいというのもあるが、幼少期の沖田の片足どころか下半身死人に突っ込んだような病弱ぶりが印象強すぎて、ちょっとしたことで死にそうという恐怖が今でもあり息子が一切反応しないのだ。だってお前家から五分の公園に行く途中で吐血して病院に担ぎ込まれた経験が二回ある輩だぞアイツ。沖田の水着とか何回か見たことあるが細くて折れそうで死にそうというストレスと緊張感で興奮という日本語を忘れたくらいだ。庇護対象というより、頼むから倒れないでくれというか。俺的には女の子は健康的で胸とケツがでかいくらいの方がいいわけよ。……あれいつの間に俺の趣味の話になってんだ。はいこの話やめやめ。

 

「レタスどのくらい剥きます?」

 

「サラダに使うからお前がこのくらいかな? と思った半分くらいが適量」

 

「むっ、料理初心者だと思ってますね」

 

「違うの?」

 

「違いませんけどー!」

 

 沖田は元々病弱で箱入り娘だった上に、今もそこそこの頻度で実家に帰るのであまり料理をする頻度が高くないらしい。どちらかというと食べる専っぽい。クックパッドを見ながらなら普通においしく作れるけど時々強火で挑んで失敗する程度のリアルな感じの実力。

 俺も中学くらいから休みの昼に適当に飯作ってたくらいで然程の実力者ではないけどな。うん、ローコストで味はそれなりが俺のモットーだから。就職したら気力と時間のローコスト優先させて夕飯はココイチなか卯大戸屋とか日替わりにするかもしれん。

 

「レタスむきました!」

 

「むきすぎ」

 

 沖田の手にはもりっとレタスが握られており、2人で食うにしても皿から溢れるだろうことが予想できた。

 

「お、沖田さんはレタスもだいすきです!」

 

 初めてのお手伝いで失敗する子供みたいでかわいいのでまあよし。

 

「いいけどさ。ザルそこの戸棚に入ってるから洗って水切って」

 

「はーい」

 

 俺は茹ったお湯に塩とパスタを入れタイマーに時間をセットし、隣のコンロにフライパンを置いた。舞茸の石づきを切り、手で適当にさいて、今度は鶏肉を小さめの一口サイズに切っていく。元々冷凍して小分けにしておいたニンニクの更に薄皮をはいで根元の固い部分を切り落とし、みじん切りにしたら、フライパンに安売りしてたし自炊する上で折角ならと買ったオリーブオイルを注ぎ、みじん切りしたニンニクを入れ弱火で熱する。

 どうでもいいが、カンカンに熱くなった油にチューブニンニクを入れてバチバチはねさせた経験が無い方が珍しいと思います。(三敗)

 一度手を洗おうと蛇口の方に配置した沖田に向き合うと、ぱちりと目があった。

 

「いい香りしてきましたね」

 

「そーね」

 

 にんにくの香りが出てきたことを言っているのだろう。同意するのだが、未だにむしったレタスが右手に握られたままでアホだ。こいつ病弱で練習殆ど出れないのに昔から剣道めっちゃ強くて鬼才とか言われてたのに、どっか抜けてるんだよなあ。同じ道場の人が世話焼いてくれてる姿が目に浮かぶ。

 手を洗ってから沖田にレタスを洗わせ、にんにくが跳ねない内に軽く塩胡椒して小麦粉をまぶした鶏肉をフライパンに入れて炒める。隣で沖田はせっせとレタスの水を切っている。

 

「水切ったら一口サイズにちぎってから皿によそって、冷蔵庫に入ってるジャコぶっかけて」

 

「シェフ、ジャコはカリカリ感を失わないためにドレッシングの後にかけたいです!」

 

「うん、いいよ、もう好きにしたら」

 

 調理実習の時みたいなわくわくした顔には逆らえません。材料三つのサラダで失敗するとは思えんし。ふにゃふにゃのジャコムカつく派とか時々聞くけどね。沖田もちりめんじゃことしらすの差別化を図りたい一派なのかもしれない。

 

「ドレッシングが二種類ありますけどどっちがいいですか?」

 

「沖田の好きな方でいいよ」

 

「じゃあこの和風玉ねぎにしまーす」

 

 冷蔵庫を開けてジャコのパックを抱えてドレッシングを熱心に眺めてる沖田を尻目にさいた舞茸をフライパンに入れ、鶏肉と一緒に炒める。

 

「あ、沖田ポン酢冷蔵庫からとって」

 

「はーい」

 

 喧しく鳴りだしたタイマーを止め、パスタの湯を切りながら、レタスをちょびちょび千切っている沖田に声を掛ける。ポン酢をパスしてもらい、かわりに台拭きを渡してテーブルを拭く指示を出してから、フライパンにパスタを入れてざっくり混ぜ合わせ、ポン酢を適当に回しかける。最後に粗挽き胡椒を適当にふって、味見して――うん、完成。

 

「ねー、拓真さん。お茶ないんですかこの家」

 

「ない」

 

「じゃあ沖田さんおうちからお茶持ってきます。コップはありますよね?」

 

「おー」

 

 そう言って手を洗って廊下ですれ違って出て行った。俺は沖田が千切ったレタスを、引っ越しの時に母さんが持たせたボウル皿によそいドレッシングをかけてテーブルの真ん中に置く。なんとなくトングも一緒に。同じく友達が来た時使ったらいいじゃないと持たされた箸を二膳、取り皿と一緒に置いておく。

 コップ出してー、パスタの皿出してーとやっていて気付くが一人暮らしにしてはこの家食器がやけに多いな。ニトリで家具を買った時に食器も纏めて買ってもらったが、もしかして時々謎に掃除だのに来る母親自身が使うためなのかもしれない。俺の家も沖田の家も子供一人だから家から出ると暇らしいんだよなあ。

 なんとなしに考えながらパスタを皿に盛り、スーパーの人が既に切ってくれている青ネギをよそってテーブルに置くと沖田が帰って来た。

 

「ただいま帰りましたー!」

 

「お帰り、鍵閉めてもっかい手を洗え」

 

「洗いますけどぉ。拓真さんほんと細かいですよねえ。手を洗わせて沖田さんをどうする気です!」

 

「キレイにする」

 

 そうですけどぉ~とかなんとか言いながらバシャバシャ手を洗う奴が持ち寄ったお茶をコップに注ぎ、テレビの番組表ボタンを押して繁々と今日の放送内容を確認する。目ぼしいものがなかったので沖田が見ていたクイズ番組をそのままつけておいた。

 

「あったかい内にいただきましょう。あっ、サラダにジャコかけないでおいてくれたんですね」

 

 ふんふん、と鼻歌を歌いながらジャコをサラダに振りかけて取り皿に盛る姿は、父兄参加の調理実習で危なくない工程を任される子供を思い出す。沖田の両親が子離れ出来ないのもわりと納得できるような気がする。

 

「では、いただきます」

 

「ます」

 

 サラダに手を伸ばして口を付ける。うん、ドレッシングが普通にうまい。文句はサラダボウルに大量にレタスが入っているくらいだ。

 皿のサラダを片付けてからパスタに移行しようとしている俺と違い、沖田は交互に食べるらしい。既にパスタに箸を伸ばしていた。

 

「んっ、おいしいです! 鶏肉がパサパサしてなくてしっとりしてるし、熱が通ってるからポン酢の酸っぱさが緩和されてて、舞茸がしゃくしゃくして、にんにくが鼻からすっと抜けて――拓真さん、お料理上手ですね!」

 

「鶏は小麦粉ふったし……うん、まあ、うまいならよかった」

 

 こんな適当な料理にもおいしいおいしいと幸せそうな沖田を見ながら済ませる夕食に不思議な感覚を覚えながら、俺もパスタに手をつける。味見はしたが、舞茸にちょうどよくポン酢が染みてて、粗挽き胡椒で締まりがよく、サッパリして悪くない。

 濃い味付けではないがビールにも合うので割かし好きで作るメニューだ。あと材料が安いからな。舞茸とか1パック80~100円で安売りしてることもよくあるし。

 テレビをなんとなく見ながら、沖田から今日の母さんたちの話を聞き、飯を食う。半年間だけではあるが選択必修で帰宅が遅くなってしまうこの曜日にはうんざりしていたが、まあこういうのも悪くないかもしれない。

 

「――さて、沖田」

 

「はい、どうしました?」

 

 きょとんと無垢に――いや、無知に――首を傾げる幼馴染にうっすら笑う。

 

「お前がレタスをこんもり剥いたせいでサラダがまだまだ残ってるんだが」

 

「沖田さんもう二回もサラダお代わりしましたよ!?」

 

「そうか、ちなみに俺は四回した」

 

「そんなー、もうお腹いっぱいです」

 

「お持たせしてやろうか」

 

「サラダをですか!?」

 

「うん」

 

 軽口を叩きながら中央のトングを素早く奪い沖田の皿にサラダを盛る。それでもボウルの中にはサラダが余っていたので俺の皿にもサラダを盛る。しかしボウルにはまだサラダが残っていた。……だから野菜は熱を通して嵩を減らすべきだと何度も。

 

「うう、レタス地獄です……」

 

「次は剥く量を半分にすることだな」

 

「はぁい」

 

 項垂れる沖田を尻目に無心でサラダを食っていると、彼女ははっと思い出したように顔を上げた。

 

「そういえば合鍵沖田さんが持っててもいいですか?」

 

「ダメ」

 

「えー!」

 

 ぶーぶー言う女の顔にはまた飯をたかりに来たいと書いてある。ただ飯食いは許さんとかそういうことではなくてだな。

 

「お前んとこと違って俺学校すぐそこで結構友達入り浸ってるから」

 

「テスト後とか賑やかですもんね」

 

「うるさくて迷惑?」

 

「いえ。道場の人たちの方が声が大きくてうるさいくらいです」

 

「ああ、土方さんだっけ?」

 

「とかもそうですし。まあ沖田さんは賑やかなのに慣れてるのであんまり気になりません。ですからっ」

 

 沖田の通う大学はここから電車だけなら30分、徒歩も入れると一時間弱の距離にあり、遠くはないが近くもない物件だが、俺は大学から目と鼻の先に住んでいるため宅飲み会場になることも少なくない。

 ちなみに沖田は実家の近くの道場に週一くらいで通ってる。だから実家に居る時間が未だに長いわけだ。

 

「お前も俺の友達にバッタリ会ったら嫌だろ」

 

「特には」

 

「お前が気にしなくても相手が気にすんの」

 

「じゃあお邪魔する時は連絡しますから!」

 

「……そんなに他人に飯を作ってもらうのが好きか?」

 

「はい」

 

 自分の分のサラダを食べ終え、ボウルの中の最後の一人前のサラダを俺に押し付けた沖田は冷蔵庫のゼリーを食べていいかと尋ねてくる。

 俺はお前のカーチャンか、と思いながらも病気からか厭世的、は違うか。無頓着……ううん、浮世離れ、かな。うん、身内以外、他人に対して無関心で超然とした気立てで、周りの世界に馴染みがないようなこの娘に身内扱いされて父や兄のように無遠慮に甘えられると、家族のようなものだしとつい許してしまうのだ。

 しかしなんだろうね、この娘の『違う世界の住人』っぽさ。陰キャともまた違うし、無理してるわけでもなさそうだが。

 

「ゼリー、シトラスミックス頂きますね」

 

「はいはい好きにしろ」

 

 サラダを胃に詰め込み、食器棚のカトラリーケースからスプーンを取り出す沖田のケツを足でどかし「あっちょっと」「はい邪魔」皿を洗うため再びキッチンに戻る。

 

「沖田お前明日も授業あんだろ。早く帰れよ」

 

「はい、今からやるドラマ見たら帰ります」

 

「寝坊するに100ペリカ」

 

「明日は二限なので余裕です」

 

 食器洗ったら母親に免許証を受け取った連絡をして、沖田の母親にもゼリーのお礼を、と考えながら狭いキッチンで洗い物をする。飯を食わせて皿も洗う。もしかして俺が沖田の自主性を阻害してるのでは――と考えたが、沖田が就職に失敗しても行き遅れても責任は取るつもりがないから知ったことではない。まあ天性の才能で生きてるような奴なので就職というか飯を食うのには困りはしないだろう。

 

「拓真さーん、お茶中途半端に残ってるのでコップに入れちゃいますよー」

 

「おー」

 

 こうしてしょうもない恋愛ドラマをバックミュージックに、しょうもない俺の一日もふけていくらしい。うーん、サラダは食べたが腹にたまらないしパスタもうちょい茹でてもよかったな。俺もゼリー食おうかな。

 

「沖田、ゼリーってあと何残ってる?」

 

「マンゴーとーピーチとーアップルオレンジとー……んー、あとトマトです」

 

「トマト!?」

 

「はい、トマトです。最近よく見かけますよね、トマトゼリー」

 

「そーなのかー」

 

「そーですよー」

 

「わ、わはー?」

 





沖田さんは対土方さんくらいの身内に対する遠慮の無さって感じで。加減が難しい。
一人暮らし飯程度のを作ったり飯を食ったり日常を書いたりする予定です。
スランプ打開のため細々書くつもりなので不定期更新予定。設定もあるけどあんまり難しいことは考えてないです。
一人暮らしでももっと頑張れるとか、一人暮らしだったらもっと適当だという意見はまあ個人差だと思って頂ければ。
登場メンツはFGOの性格想定。藤丸君の登場パターンとか3つくらい浮かんでて未だに悩んでたり。
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