Ace Combat 4.1 The Unrecorded ZERO 作:丸いの
[ニューフィールド島泊地 2007年11月20日 18時45分]
「ウスティオ空軍第6航空師団第66飛行隊、ガルム隊二番機。あなたの戦闘機乗りとしての最終戦歴です。間違いないですか?」
「……いいや。国境無き世界、第11戦闘飛行隊。たった一人のピクシー隊。それが本当の最後だ」
目の前に座る黒い軍服に身を包んだ男がこの基地におけるトップ、つまりは提督であると聞かされた。その風貌は若い。否、どう考えても若すぎた。年の頃でいえば、まだ三十に至っていないだろう。それどころか二十の中盤に達しているかも怪しい。こんな若い青年が階級だけ見れば少将であり、小規模ながら空母も保有する艦隊を統括しているという異常さに、初めて事を聞かされた時には冗談か何かかと思った。だが、そのすぐ後にそんなものは序の口であったと思い知ることになる。
「これは失礼しました。あなたのようなベテランのパイロットを引き入れることが出来て、我々としてもとても嬉しく思います」
「あくまで超法規的措置の特例だ。まさか自由エルジアのゴタゴタが片付いたこの国でそんな措置が取られるとは、当事者ながら信じられん」
もはやこの身には軍属に下るしか道は残されてはいなかった。空港到着と同時に小さな待合室へ半強制的に閉じ込められたのが僅か数時間前の話だ。待つこと十数分、部屋に備え付けられていた電話での会話。恐らくその時点で、自身の身分はノースポイント航空学校の教官ではなく、ISAF空軍の特務大尉へと変化をしていたのだろう。
ユージア大陸全土を巻き込んだ戦争が完全に終結したのは、今から一年前の話だ。エルジア本国が完全に沈黙してから立ち上がった自由エルジアを名乗る強硬派。これを完全に破壊したのは、大陸戦争の英雄メビウス1とされている。無論軍部が公表した話ではないが、数々の目撃証言や噂話でもはや事実として市井では語られている。
戦争終結からの一年間。傭兵の食い扶持が無くなる程度には、ユージア大陸からはきな臭さが無くなったはずだった。少なくとも、国際的なテロリストに所属していた野良犬を抱え込むような事態なんて、どこの国も起こしようがない。だからこそ飛行場の南部にいつの間にか軍港が建設されており、その上大型の巡洋艦や空母のような巨大軍艦が停泊していることが、当初は信じられるはずもなかった。
「ただでさえ、ここにはあのリボン付きの死神がいるんだろう。それでもまだ戦力が足りないっていうのか」
「ええ。我々にとって、今回の敵はひどく厄介な物でしてね。何せ今までの戦いの常識が通用しない。あなたの目の前にいるこんな若造が、少将階級の提督として祭り上げられるほどですよ」
自嘲気味に自身を指さして笑う青年。その脇に控えて立つ一人の女が、こちらを鋭い視線で見つめていた。へそ出しルックのミニスカートという控えめに言っても軍属とは到底思えない凄まじい服装だ。それに加えて、カタツムリの角のように伸びたカチューシャが全身像の怪しさを助長させる。こんな可笑しな恰好の人間が、青年の言う敵に対して非常に効果的な戦力になるというのだから、確かに常識もなにもあったもんじゃない。
「そんなにヤバい連中相手なら、とっとと本島に戻りたいものだ」
「生憎、もう書類に判を押してしまいましてね。ラリー・フォルク特務大尉。我々は貴官の着任を歓迎します」
この場に招かれた時点で、もうこちらに決定権は存在しないのだろう。どこからか職場の方には連絡が入り、空路か海路か知らないが小さな練習機も鹿島空港へと運搬されてしまうに違いない。まさか管制塔と交わしたいつもの挨拶が、彼らとの別れとなってしまうとは。別にあそこに骨を埋める気は最初から無かったが、こんなにもすぐに場所を移す羽目になるとも全く思ってもいなかった。
「……Yes Sir!! その命、謹んで拝命致します」
「私も、貴官の戦果を期待しています。長門、彼を基地航空隊の本部まで案内してやって下さい」
「承知しました、提督」
この瞬間から、俺は民間人から軍人へとなったのだ。言葉遣い、姿勢、態度。全てを航空学校の学生たちのような若造に向けるものから、目上の少将に向けたものへと変化させる。伊達に人生の多くを戦闘機乗りに費やしてはいない。傭兵にだってお行儀のよさは必要だ。戦果が良くても悪行塗れならばいつか使われなくなるし、報酬も出し渋りをされる。ある程度の行儀のよさは、例え傭兵であっても普通なのである。むしろ態度の急変を怪しむどころか、心地よく笑いながら見送るこの若者こそ、その年齢には収まらない何かを感じさせる。
敬礼を収めて、長門と呼ばれた例の怪しげな恰好の女について歩き出す。海軍基地の提督執務室なんぞ、そう何度も拝めるものじゃない。最後に目立たない程度に部屋全体を見渡し、おそらく調達物の少なさや壁の色合いから部屋そのものが用意されて新しいということだけを頭に入れて後にした。
無言で静かな廊下を歩く。ここは言わば有事における前線基地なのだから、もっと全体的に騒がしいものだろうと確信していたが肩透かしを食らった。港に停められた軍艦の数、そしてサイズ。例えば空母を運用するのに一体どれほどの人員が必要なのかは俺にだってわかる。大型の物であれば、大戦時の物であっても千人以上。近代の巨大な原子力空母になれば常駐する人員の数は最大で五千人を上回るのだ。そんなものが停泊している基地だというのに、この静けさは普通に考えたら不自然極まりない。そう、普通に考えたら。
「……自己紹介がまだだったな。長門型戦艦のネームシップ、長門だ。対深海棲艦の特務機関、ISAF海軍ノースポイント方面艦隊の旗艦を務めている」
目の前を歩くこの不思議な恰好の人間こそ、この基地を普通じゃなく足らしめている元凶の一人である。ただの扇情的な服装に身を包む女なんかじゃない。彼女たち大戦時の軍艦が生まれ変わった存在――ここに来る途中で黒服たちが言っていた艦娘と呼ばれる存在たちを運用するための最前線基地。それが、このニューフィールド島泊地の役割だそうだ。そして彼女の言った深海棲艦が、そもそもこの基地が軍艦の泊地として運用されなくてはならない原因を生み出した敵性勢力なのである。
「次はそちらだ。私には海軍における形式的な階級は存在しない。好きなように話せ」
「……お気遣いどうも。ISAF空軍第118戦術航空隊、ニューフィールド島分遣隊、隊長。ラリー・フォルク。恐らくこれからあんたら水上部隊の頭上を飛び回ることになる。よろしく頼む」
既に暗くなり始めた外の景色を眺めながら、現時点における自身の階級を答えた。肩書が軍属になっただけには留まらず、入隊した瞬間から一個飛行隊を率いて飛ぶように命令されるなど、考えてみれば酷く優遇されたものだ。ここまで用意周到に外堀を固められたら、もはや飛びたくないだのなんだのわめく気も起きない。己の理念に反するなどと、もうそんなことを言ってもしょうがない状況にまで追い込まれてしまったのだから。
互いに自己紹介を終わらせた後は、結局雑談の一つもなく淡々と目的地を目指した。相変わらずすれ違う人員の数は基地の規模からすれば異常なほど少なく、それは基地の本棟を出るまで続いた。扉を開けて、頬を刺す冷たい風。そうだ、ここはもうノースポイント本島の鹿島空港ではなく、周囲を海に取り囲まれた孤島なのだ。これからの季節、航空学校にいた時よりも厳しい環境に置かれることになるだろう。
滑走路は案外近いところに位置していた。東西に伸びた滑走路に灯る、赤い誘導灯。周囲の音からして離陸や着陸をする航空機が近場には見られないため、おそらく航空管制官による稼働試験が行われているのかもしれない。目的地である分遣隊のハンガーや兵舎はその脇に隣接しているはずだ。恐らくそこに、今回の仕掛け人が待機をしていることだろう。
今でもあの若造が、このノースポイントの地でトップエースを張っていたという事実を信じ切ることは出来ていない。だが今回の状況と、アヴァロンの地で奴が開花させた技能は、それが事実であることを示唆している。だが少なくとも間違いないのは、彼が俺をこの地に呼ぶ切っ掛けになったということだ。これもまた、昔の人脈というものなのだろう。
まだ詳しい任務については聞かされていない。ただ、恐らく今までの傭兵稼業でやっていた仕事とは異なる要素が多いだろう。ミサイル巡洋艦やイージス艦といった近代の艦船ではなく、敢えて艦娘といった大戦時のロートルが運用されているということは、コストだけではない何らかの意味があるはずだ。それに艦隊を潰したければ、イーグルドライバーよりも対艦ミサイルを積んだ攻撃機を配備すれば良い。水上艦だけじゃない、おそらく航空部隊にも何らかの特殊性があると踏んだ方が良い。
「……大昔の船に過ぎない私には、貴官のような近代のジェット戦闘機乗りがどのようにこの戦争に貢献できるかは分からない。それどころか、奴らに通用するかも怪しいと踏んでいる」
「そん時は、迷わず俺は役立たずだと上に進言してくれ。生き残っていたら、用無しのレッテルと共に本島へ帰れる」
チクリと刺すような皮肉も、恐らく真実を突いているのだろう。自分自身で活躍できるかも分からないような奴が、どうして赤の他人からの信用を得ることが出来ようか。だからまごうことなき本心を返してみたら、きついひと睨みが返ってきた。
* * *
「……12年ぶりになりますか。ガルム2。否、ラリー"ピクシー"フォルク」
「そちらこそ、まさかここで会うとはな。ガルム2。否、パトリック・ジェームズ・ベケット」
今目の前にいるのは、青臭い若造なんかでは無い。挨拶も何もせずに、部屋に入ると同時に向かい合う。少なくとも、その眼付きは最後にヴァレーで見た時よりも遥かに大人びていた。
「それともメビウスと言った方が良かったか。大陸の英雄が、このロートルに何の用だ」
「用も何も、入用です。熟練の傭兵に仕事を依頼して何が悪い」
制服の胸部に着けられたリボン印のワッペン。それを誇らしげに晒すでもなく、彼は表情一つ変えずにそう返した。目つきだけじゃない。こいつはもう理想で空を飛んでいる人間じゃない。
「提督からは何所までを伺っていますか」
「一つだけ。仕事の概要は全てジェームズ少佐から伺えとな」
だだっ広いブリーフィングルームに二人だけの声が響く。俺たちの他には誰も居ない。ここまで俺を連れてきた長門は、PJが待つこの部屋まで案内した後はもう用がないと言わんばかりに踵を返した。俺だけじゃない。PJに対しても、奴の態度はあまり褒められたものじゃなかった。戦闘機乗りが信用できないといったあの言葉は、おそらく俺に対してだけ向けられたものではないのだろう。本棟と基地航空隊兵舎を隔てるのは、歩いて数分の物理的な距離だけではない。
「……まだ俺も連れてこられたばかりなんですよ。アンタとほとんど変わらない。なんたって、俺が家族を置いてこの島に連れてこられてからまだたった一週間も経ってないんだ」
そこに来て初めてPJは笑顔を浮かべた。静かな空間に響く一人の笑い声。だがそれは満面の笑みからはほど遠く、内心の渋みを満々と表していた。気が付けば、自分の口からも笑い声があふれ出ていた。なんという馬鹿みたいな話だろう。この小さな基地の一室で、基地の常識から取り残された二人で笑いあう。英雄と呼ばれるに至ったコイツも、空にしがみ付いたロートルの俺も、この基地の同僚に戦果も期待されないルーキーになり下がったのだ。これを笑わずして何を笑う。一しきり笑いあった俺たちは、目元の涙をぬぐいながら互いを見合った。
「昨日、俺が良く分からない敵機に襲われた時の話だ。お前の僚機は、あれは一体なんだ?」
「へぇ。流石は元祖ガルムの二番機、あの中でも把握していたんですか。俺の僚機が、メビウス隊の面々じゃないと」
がむしゃらに操縦桿を握って逃亡をしていたあの瞬間、ジェットエンジンの出力でもって戦場に乱仕掛けてきたのは、コイツの一機のみだった。俺の感覚が鈍っていなければ、あの場にいたジェット機は、俺とPJのみだったのだ。こいつの僚機が大型のF-22Aでやってくれば、目視で周囲を見回したこちらの目にも映るはずだ。ならば、あの時のPJの僚機とはいったい何なのか。
「ここまでアンタを連れてきた女性の正体は聞いていますか?」
「……ああ、艦娘って奴だろう。大戦時の軍艦をよみがえらせ、その中枢となる人格。まるでビデオゲームのような存在だ」
「そう、この基地では船はただの船じゃない。そして、飛行機もただの飛行機じゃないんだ」
ちょうど良いタイミングだ。そう言いながら、彼は窓の外へ目を向けた。滑走路の誘導灯は未だ点滅を繰り返しており、飛行場の稼働試験にしては随分と冗長に行われている。しかし段々と外から聞こえてきた騒音が、これが単なる試験ではなかったことを如実に示していた。
目を凝らして外を見つめる。薄暗い空中を何かがこちらに向けて近づいてきている。しかし同時に外から聞こえてくる音は、到底ジェット機による高周波の騒音なんかではない。もっと重く低い音、まるで大型の輸送機のような、プロペラエンジンの稼働音だ。それを理解した瞬間目を見開いた。これは、P3-Cのような大型機によるものではない。ならば一体何が来るというのか。いつの間にか窓の外を凝視するに至ったその背後から、PJの声が掛けられた。
「俺も最初は信じることは出来ませんでした。ですが、実際に見させられると頷くしかない」
誘導灯に照らされたその機体の姿が露わになる。大型機なんてむしろ真逆で、小型戦闘機よりも下回る小さな機影が、幾つか滑走路の向こう側へと消えていった。まるでレシプロ発動の小型遊覧機。しかしそんなものが仮にも軍が統括する空港に着陸するわけはない。
「いま降りてきたのが零式艦上戦闘機52型、通称ゼロファイターですよ」
「……港に浮いているのが骨董品ならば、空を飛ぶ連中もしかり、か」
小型のレシプロ戦闘機。そんなものは今や博物館の中にしかいない存在のはずだ。彼らの全盛期は半世紀も前に過ぎ去ったのだから、現役で空を飛んでいるなんて冗談にすらなりやしない。だが、ジェームズは全く冗談を口にした様子ではない。相変わらず窓の外から聞こえる、小気味の良いレシプロエンジンの音。こいつの言っていることは、おそらく嘘ではない。
「敵方も恐らく同じです。アンタがここに来る途中で遭遇したあの編隊は、深海棲艦側のレシプロ機だ」
「……レシプロ機なんぞ、最新ジェット戦闘機の敵にすらならない。お前の愛機と奴等とのキルレシオは数百倍だぜ。この戦争のカラクリは、一体何なんだ?」
「単純な話です。最新鋭の対艦ミサイルに誘導爆弾は奴等にほとんど効果がない。そもそも電波誘導もままならず、装甲も異常。高々小型駆逐艦級の数隻が、限界まで爆装したF-2編隊の総攻撃を耐えきり半数を対空射撃で撃墜したんだ」
その言葉に、思わず息がつまる。現行の戦闘機の中でも対艦攻撃に特化した機体ですら有効ではない。そのまま彼の話は続いた。ミサイル巡洋艦からの対艦ミサイル一斉射出や誘導魚雷、ノースポイント海軍一艦隊の総力戦で無力化出来たのが、その駆逐艦級隊五隻のうち僅かに二隻のみ。逆にこちらは航空隊と艦隊の半数近くが致命打を被ったという。大打撃、そうとしか言いようがない。
「そんな折、どこで秘密裏に開発されてたかは知りませんが、彼女たちが戦線に投入されました。これまでの苦戦が嘘のような快進撃。一週間にも及んだ海上封鎖があっさりと解かれ、その直後に特務艦隊の結成へ各国首脳が判を押した」
「……言い方は悪いが、毒を以て毒を制す。その時代逆行した戦況が空にも及んだのか」
その問いかけに、ジェームズは即座に頷いた。深海の艦船は大戦時のロートル艦でなければ何故かは知らないが通用しない。それと同じく、深海の戦闘機は骨董品のレシプロ戦闘機でしか対応できない。
「ここに来る前に一度、国籍不明機の迎撃のため上がったことがあります。その時も大概だった。レシプロ機の癖して速い、そして硬い。高性能誘導ミサイルの近接信管爆発に耐えきり、時に振りきられる。チャフも無しにですよ。たった四機の相手を半数落として追い払うまで、うちの隊の一人が撃墜されました。幸いそいつは脱出して何事も無かったかのように生きていますがね」
最新鋭のステルス戦闘機でさえその有様なのだ。F-22Aが保有するAIM-120で振り切られるということは、もはや現行の戦闘機では碌に相手を出来ないとすらも感じてしまう。そしてその打開策こそが、たった今空から帰還を果たしたゼロファイター、大戦時のレシプロ戦闘機なのだろう。
「あのレシプロ機も、艦娘と同じく普通の存在じゃありません。異常な硬さを誇る敵機を平然と砕く機関砲に、奴らの無茶苦茶な動きに追従する機動性。しかもそれを操るのは"妖精"と来た」
「よ、妖精だと……」
冗談を言うなと視線を強くするが、ジェームズはゆっくりと首を振った。冗談などでは無い。少なくともコイツが上から聞かされている限りでは、妖精という存在は正しいものとされているのだろう。しかし同じく妖精というものをTACネームにするこちらにしてみても、背中に羽が生えた悪魔の使いが実在しているとは到底信じられなかった。
「俺も実物は見たことが有りません。僚機が着陸した後にその中を見たことはありますが、座席部分はもぬけの殻。人前に姿を現さないのか、それともそんなものが存在しないのか。提督からは一部の人間しか視認出来ないとは言っていましたが、何所まで本当なのやら」
もしかしたら、無人戦闘機のAIを示すコードネームのようなものの可能性すら考えられる。だが少なくとも一つ言えることは、例のゼロファイター達も、艦娘と同じく普通ではないということだ。普通じゃない艦船に、普通じゃない航空機たち。そんな普通じゃない尽くしのこの基地において、果たして普通から足を洗った覚えのない俺たちが出来る仕事とはいったい何なのだろうか。
「常識では語れない敵を、非常識の連中が対処をする。この基地はそういう場所なんだろ。ならば、俺たちの仕事とはいったい何だ?」
「……提督から言われたのはただ二つのみです。一つめは、この基地航空隊を指揮先導し、ジェット戦闘機と特殊レシプロ機混合部隊による戦法を確立すること」
いきなり随分と重そうな仕事を押し付けられたものだ。運用されていた時代、戦法、運用理念。そのすべてがまるで異なるジェット戦闘機とレシプロ戦闘機を同じ作戦の中で合同運用する戦法を確立せよとは、そうそう簡単に出来る仕事じゃない。そしてそれは、我々現場の人間だけではなく、戦術論に長けた専門家を必要とする仕事であって然るべきだ。しかもそれは、二つある仕事の内の半分に過ぎないという。
「そして二つ目が、作戦行動における、艦隊の直掩。特にまだ実戦経験の薄い航空母艦をサポートするように、と言われましたよ。まだこちらの仕事の方が、現場の人間の俺たちには向いているんじゃないっスかね」
「……そうだな。あんなよく分からん飛行機のような物体が襲い掛かってくる空を護れとは、傭兵じゃなければとてもじゃないが空に上げさせられない」
「アンタは傭兵でも、今の俺は正規兵です。あの提督は、こちらのバックボーンは全て取り払い、使える人間を投入しているだけだ」
ただの若者なんかじゃない、底の知れない戦略家だと彼は皮肉気に笑った。大陸戦争の英雄部隊、その一人だけを常識外の戦場へとピックアップしてみたり。はたまた元テロリストという最悪の経歴を聞かされても表情一つも変えなかったり。顔をあわせて少し話しただけでも、あの男はただ者じゃない。死神と地獄の番犬にここまで言われているんだ。奴も、この基地の異常を彩るピースの一枚に違いない。
窓の外を眺めるのを止めて、硬い椅子に腰かけた。クッション材の一つも使っていない。着陸時を除けばコックピットの座席の方が余程座り心地が良い。尻の痛さに顔をしかめていたら、ジェームズは遠くの方を見つめながら口を開いた。
「サイファーなら……あの凄まじい戦術眼の持ち主なら、この状況でまず何から手を付けるんでしょうね」
「……死んだ人間は何もヒントをくれない。道標なんて無いんだから俺たちの手でサイコロを振らなければならない」
そんなことは分かりきったことだ。一瞬だけこちらの方を強く睨み付けたジェームズは、すぐにため息を吐いて視線を反らした。最短、最善。たった一つを除いた全ての戦闘行動が勝利へと結び付いていた男。もしあいつがこの場にいれば、俺たちに何らかの道標を示してくれていたのかもしれない。だがそんなことは叶わないことだと、俺もジェームズも知っているのだ。
「……なんで常に最善の選択をしてきたあの人が、最期に俺を庇ったのか。そしてアンタが、あのインタビューで嘘を言ったのか。俺は今でもその理由が分からない」
「さあな。言った本人も、そして恐らくやった本人も理由なんて分からん。そんなものを、お前が分かるわけも無いだろう」
ガルム隊一番機、サイファー。俺の相棒であり敵であった男。あの空を駆け巡った彼は、その終結までを駆け抜けることなく12年前のアヴァロンにて力尽きた。世界の再生に向けて飛ばされた多核弾頭ミサイルの下で行われた最終決戦の中ではなく、その直前。事もあろうか、ジェームズの乗るファルコンに向けて放ったレーザーを、その身を呈して防いだことによって。幾多ものエースを食らった鬼神は、呆気なくその翼をもがれて墜ちていった。
そいつの隣で飛び続けて、俺はいつの間にかヴァレーのどの人間よりもアイツに憧れていたのだろう。ベルカ戦争を巡る一連のドキュメンタリー。数々の戦闘機乗り、そして視聴者によって形作られた一人のエース。インタビューの中で、俺はもしもの世界でベルカ戦争を最後まで駆け抜けたかもしれない奴の姿を夢想していた。世間が知る、歴史の間に消えていった不死身の絶対的なエースという奴の虚像は、たった数分間のインタビューの中で芽生えた唯の気紛れで産み落とされたのだ。
多分前作含めて最大級の原作改変の恐れ