デスゲームの半死人   作:サハクィエル

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 最近、カスタード・バイとジャスト・クレイドルを混合させてしまっていたことに気付きました。
 カスタード・バイは短剣カテゴリのソードスキルで、ジャスト・クレイドルは片手剣用の重攻撃ソードスキルです。作者ですら間違えてましたが、間違えないように注意してください。


活路さえ見出だせず

「ふざけんなよーー」

 

 このトラップにかかってから、もう2時間が経過しようとしていた。これはあくまで体感時間なので、もしかしたらもう少し経っているかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

 

「こんなーーこんなふざけたトラップで.....」

 

 俺の手に握られているのは、武骨なデザインの曲刀。刀使いにに転向しようと考えていた俺の、発展途上な力。

 

「死んでたまるかよぉッ!」

 

 謳うように、糾弾するように。切羽詰まったような声色で、俺は叫んだ。

 

 否、その表現は正しくない。切羽詰まっているのは揺るぎない事実なのだから。

 

 俺の眼前に存在するのは、中型のNM(ネームドモンスター)。そいつは全長こそ長いものの、体はひょろひょろと細い。そのうえ、身長は自分のアバターと大して変わらないのだ。

 

 だが。

 

 こいつなのだ。俺を2時間近くもこの場所に留めさせているのは。

 

 別に装甲が固いというわけじゃない。見れば、HPバーは6割り近くまで割り込んでいる。さっき、偶然にも射程距離の長いSSが命中し、それで、何とかダメージを与えることができたのだ。

 

 それに、速度があるというわけでもない。さっきから、奴はそこから一歩も動いていないのだ。

 

 力もないのだろう。奴は一度だって、こちらに攻撃してない。

 

 しかし、そいつこそがこのトラップ最大の脅威だった。

 

 俺は周囲のモンスターを横薙ぎに打ち払うと、そのモンスターに向かって駆け出す。そいつさえ倒すことができれば、状況は好転する。

 

 だが。そいつに追いすがる直前。横から小型モンスターに突進され、俺は1メートルほど吹っ飛んだ。その隙に、そのNM、「グラッド・メイデン」は能力を発動させる。

 

 次の瞬間、そいつの尾部から、白く、丸いものが大量に射出された。

 

 それはみるみるうちに内側から割れてゆき、そして、内包されている生物を外気へと解き放つ。

 

 グラッド・メイデンが射出したのは、卵だった。そう。そのNMの能力は、「産卵すること」なのだ。

 

 産卵は相手が存在しなければ行えないが、その点は問題ない。元々部屋に存在した小型のモンスターや、産み落とした実の子どもを使えばいいのだから。

 

 俺は今、問題ない、と言ったが、実のところ、問題は大いにある。グラッド・メイデンの「相手」は尽きない。永遠におめでたな状態を繰り返すことができる。

 

 相手が尽きないとはどういうことか? つまり、敵が永遠に増え続けるということだ。

 

 そう。倒しても倒しても敵が減らないのだ、このトラップは。

 

「あああああああああああああッッ!」

 

 俺は咆哮し、周囲の敵をやたらめったらに斬りつけた。

 

 それは最早、ソードスキルですらなかった。ただの斬りつけ。

 

 もう我慢の限界だったのだ、俺は。膠着した状況に嫌気が差し、冷静さを欠いた状態で無闇と剣を振るっていただけだった。

 

 そんな攻撃で、状況が打開できる筈もなくーー。

 

 4体のモンスターを葬ったところで、産まれたばかりの蜂型モンスターに貫かれて俺は死んだ。

 

 残りライフ、78。気付けばそこまで減ってしまっていた。まだまだ余裕があるように見えて、実はあまり余裕がない状態だ。

 

 蘇生された俺は、直ぐ様、状況を打開すべく剣を振るった。眼前の蟻型モンスターを袈裟斬りで殺し、そこから間髪入れず、単発突進系ソードスキル、「パンターブレリュード」を放ち、低姿勢でグラッドメイデンへ突撃する。

 

 しかし、その攻撃は、まだ蛹の形態をとっている小型モンスターの肉壁に防がれてしまう。

 

 その小型モンスター3体を葬ったところでーーSSの動きは完全に止まった。いかにプレイヤースキルがあろうと、所詮は初歩的なソードスキル。この程度の威力が適当なのだ。

 

 それで隙ができた。俺はそこを突かれ、膝ほどまでのサイズがあるダンゴムシ型モンスターの突進に吹っ飛ばされた。意外に威力がある。このモンスター郡の中では最強クラスか。

 

 いや、そんなことを考えている場合ではなかった。

 

 次の瞬間には、眼前のNMは産卵を終えていた。今度産まれたのは中型のモンスターだった。16回に1回ほどの割合で、産まれるモンスターに中型モンスターが混じるのだ。

 

 そいつはなかなかどうして強い、というのが定石で、たとえどれだけ小型モンスターを増やすことになろうと、中型だけは最優先で葬らなければならない。

 

 俺は再びパンターブレリュードを発動させると、その中型カマキリに斬りかかった。当然かのごとく鎌で防がれるが、このまま押しきらせてもらう。

 

 その刹那、俺はそいつに触れてレベルドレインを発動。レベルを下げ、装甲の防御力を下げ、そして、貫く。瞬間、鎌が碎け、俺の攻撃がそいつの表層に突き刺さった。

 

 HPバーはそれで5割り近くまで切り込む。どんなモンスターなのかは初見故に分からないが、しかし、防御力と体力はあまりないようだ。

 

 俺はそいつに蹴りを叩き込み、そこから、リーバーで上部装甲に斬り込みを入れる。

 

 それで十分だった。そいつはその攻撃を受けてポリゴン片となって消滅した。

 

 それを見た周囲の小型モンスターは、偽りに満ちた義憤をたぎらせ、こちらへと向かってくる。直ぐにでもそれを対処したいが、技後硬直という厄介なシステムに、今の自分は縛られているのだ。直ぐに反応はできない。

 

 その隙に、スズメバチとおぼしき造形のモンスターに、俺は針を叩き込まれた。チクッ、と、少々コミカルなサウンドエフェクトを伴って、俺に少量のダメージと毒、ついでに防御力低下が付加される。

 

 しかし、それで、俺の技後硬直は解けた。刹那、轟速、という形容が相応しいような速度で剣を振るい、そいつを躊躇なく殺す。

 

 だが、それでも状況は好転しない。

 

 どれだけ敵を殺そうが、どれだけ優れたソードスキルを使おうが、敵は増えてくる。

 

 勝てない。一体一体を殺すことはできるが、敵を全員殺して完全勝利することができない。

 

 どうすればいいのかーー? 未だ答えは出ない。

 

 俺は闇雲に剣を振るいながら考える。奴等に打ち勝つ方法を。どうにかしてあの大婬婦に白刃を叩き込み、HPゲージを散らしきる方法を。

 

 そうだ。俺はさっき、パンターブレリュードの攻撃を奴に命中させている。あのように、射程距離の長いソードスキルを叩き込めば、奴を倒せるかもしれない。尤も、それができないから困っているわけだが。

 

 せめて剣を投擲することができればいいのだが。そうすれば、肉壁などある程度無視して攻撃をーー。

 

(待てよ。それ、できないか?)

 

 横薙ぎに剣を振り、蝶型のモンスターを葬ったところで、俺は直感から、攻略の着想を得た。

 

 そうだ。下手をすればライフをごっそり持っていかれるが、できないことはない。何よりも、それ以外に方法はない。ならば、それに懸けてみるしかあるいまい。

 

 ーー俺は覚悟を決めると、剣を左手に持ち換えて、右手を素早く、上段から下段へ振り下ろした。




 あれ? コロシアム編長くね?

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