デスゲームの半死人   作:サハクィエル

2 / 16
 不定期更新とは書きましたが、あまりにも更新が遅すぎたと反省しております。申し訳ない。
 これからは更新頻度を上げていきたいです。


一層のけだもの

「オイオイ、何だこれは」

 

 一層に存在する宿屋の一角で、ステータスウィンドウを眺めていた俺はそう呟いた。

 

 ステータスウィンドウは基本、レベルアップによって得られる努力値を振ることで上昇する、アバターのステータスを写し出すものだ。レベルの上がらないこのアカウントには関係ない。ーーいや、正確には、関係ない筈だった。

 

 だが、残りライフが99となった俺のステータスウィンドウには、何故か、努力値が出現しているのだ。

 

 これは一体、どういうことなのかーーー?

 

 しばし考え込んでいた俺は、2分ほどで、この努力値が何なのか閃いた。この努力値は死んだ瞬間に出現するものではないか? これは死のデータを採取したゲンムとデンジャラスゾンビの再現なのではないか?

 

 もし、この仮説が正しいとするならば、このアカウントは死ぬ度に強くなるということになる。エグゼイド本編では死ぬ度に強くなるなどというドラゴンボールじみた能力はなかったと思うが、このゲーム中ではそうなのかもしれない。

 

 俺はその努力値を敏捷力と攻撃力に全振りすると、ベットに横たわった。目を瞑ると、脳裏に色々な考えが浮かんでくる。

 

 今の努力値から察するに、このアバターのレベルは恐らく通常アカウントに2ほどだろう。この層をキリトが突破した時、彼のレベルは5ほどであった。つまり、俺のステータスではボス戦を切り抜けることなどできない、ということだろう。しかし、かといってライフを削り、レベルを上げるのは正しい判断とは言えないだろう。

 

 このSAOは原作通りいけば75層でクリアされる。しかし、その層に到達したキリトのレベルは90台であり、しかも、そのレベルでも死にかけていたのだ。

 

 そして、俺がその域に到達するには、ライフを10まで減らす必要がある。しかし、ライフを10まで減らしたら、俺はどうやって戦う? キリトはゲームの達人。それは原作を理解している俺が一番よく分かっていることだが、対する俺には、そのセンスが無い。そんな俺が、彼と同等のレベル、条件に立ったとして、果たしてまともにゲーム攻略などできるのか? 答えはノーだろう。

 

 ではどうするか。このまま、一層に留まり続けるのか。

 

 それが、一番良いのかも知れない。恐怖は剣を鈍らせる。だから、無理に戦う必要はない。

 

 いや。それは違う、か。俺は恵まれている。そんな戯言は、ライフが50を切ってから言うべきだ。そうしなければ、死んだ人間も浮かばれないだろう。

 

 そう決意すると、俺は思考を止め、睡魔が俺を夢の世界へ誘うのを待った。

 

ーーーー

 

 あの夜から時は経ち、遂に、一層フロアボス戦が執り行われることになった。

 

 一層。原作ではこの戦いは描かれなかったが、アニメではオリジナル回として放送され、外伝となる、プログレッシブ一巻にはこの攻略の様子が、多少のアレンジを加えられて描かれている。

 

 そのプログレッシブ一巻は一応読んだが、アニメと内容が違い、「あの名言」がないなど、違和感はあったが、それでも、変わらない展開はあった。

 

 そう、騎士ディアベルの無惨な死である。

 

 ディアベルの死は運命によって決められている事実であり、俺が何もしなければ、ディアベルは一層ボスのLAを取るために逸って飛び出し、カタナ系ソードスキルに葬られるだろう。

 

 しかし、それを俺が助ければ、どうだ? それができれば、俺の行動は原作を変えることができるという、何よりの証明になる。

 

 そう思考しつつ、俺は目の前に現れた迷宮区の厳めしいドアを見据えた。

 

 これが開けば、ボス戦闘が始まる。

 

 俺は息を吐き、唾ーーこの世界では自らの意思で生成できるーーを飲み込むと、その瞬間が訪れるのを待った。

 

ーーーー

 

 俺が3匹目となる雑魚コボルドを葬ったのと、フロアボスのHPバーが1段目に到達したのは、ほぼ同時だった。

 

 この戦いで、ディアベルというプレイヤーは死ぬ。その事を分かっている俺は気が気でなく、思うように剣を振れなかったので、他のプレイヤーよりも貢献度が低くなってしまうのだ。

 

 そして、その思慮は、視界端のHPバーが一段目に到達した瞬間、絶頂まで高まった。

 

 この瞬間、このボス、「イルファング・ザ・コボルトロード」の行動パターンはほぼリセットされ、斧系統ソードスキルの類いは一切使わなくなる。そして、悪夢のような、カタナ系ソードスキルの連撃祭りが始まるのだ。

 

 その連続攻撃が始まった時、ディアベルはーー

 

 思いをはせ、アニメ本編で彼がHPを全損して死ぬシーンを思い浮かべた瞬間、狂気にも似た感情ーー何としてもディアベルを助けなければという思いーーが沸き上がり、俺は目の前のコボルドにバーチカルを打ち込みつつ、ボスに向かって突撃した。

 

 ボスはもうこの瞬間にも、ソードスキルを発動しようとしている。ソードアート・オンラインのゲームでカタナを愛用していたので、奴が放つソードスキルは予備動作だけで理解できた。あれは「旋車」だ。確か広範囲にわたって竜巻のような斬撃を拡散するソードスキルで、ゲーム終盤まで利用できた使い勝手のいいものだった筈だ。

 

 ーーと次の瞬間、俺の2センチほど前方を直径の最終到達点として、「旋車」が放たれた。それにより、ゴボルドに向かっていたプレイヤーの殆どはHPを減らしたようで、耳障りな現象音と同時に数人のプレイヤーが呻く。

 

 この状況。今、最もヘイトが溜まっているのはディアベルだ。この後、ディアベルは原作通り、浮舟と緋扇のコンボでHPを全損してしまう。

 

「避けろッ!」

 

 俺は瞼の裏に幻視してしまったその光景を振り払うようにそう叫ぶと、ディアベルを左手に装備していた盾で弾いた。盾はライトエフェクトを伴っている。これは盾系スキル、「ザ・バッシュ」を使ったからだ。「ザ・バッシュ」は威力こそ弱いものの、食らった相手を吹っ飛ばすノックバック性能が高い。ディアベルはこのスキルにようる補正で真横に4メートルほど吹き飛んだ。勿論、ダメージは少な目で。

 

 そして、俺は盾スキルを使った所為で、技後硬直時間を強いられていた。まずい。早く動いて、攻撃を回避しなければ。

 

 しかし、体が動いてくれない。システムが俺のあらゆる挙動を許さないのだ。

 

 次の瞬間、俺は真上に高く打ち上げられた。コンボ始動用のソードスキル、「浮舟」だ。

 

 空中に打ち上げられた俺には最早、反撃の手段はなかった。盾でいなすことも、ソードスキルで反撃することもできない。

 

 上段、下段と攻撃を叩き込まれ、HPが黄色の危険域まで到達する。

 

 ここで使われているソードスキル、緋扇は、3連撃だ。つまり、最後にあと一撃攻撃がーーー

 

 思考は、最後まで続かなかった。

 

 緋扇のフィニッシュとなる突き攻撃が、恐ろしいほど正確に、冷酷に、俺のアバターを貫いた。俺はHPを削りながら後方へ吹き飛ばされ、地面に打ち付けられる。

 

 HPは黄色を突破し、赤の表示と変わった。それなのに、尚もHPは減り続けている。このまま、俺は死ぬのか。

 

 勿論、死んだところでコンテニューして終わりだろうが、ここはダンジョンの中ではなく、迷宮区の最新部だ。このスキルの存在が周知されてしまえば、俺は吊るし上げられる。せめて、この世界のヒースクリフが現れてから、このスキルは公開したかった。

 

 そんなことを考えつつ、俺は死んだ。

 

 そこからの戦いは凄まじい、という一言に尽きる。俺の独断行動と死亡は動揺の波紋を生んだものの、原作とは違い、ディアベルが生きていることが効いたらしい。いち速く陣形を建て直し、多彩なカタナ系ソードスキルを上手く攻略すると、最後には手の空いたキリトが「バーチカル・アーク」で止めを刺し、長かったボス戦は終幕した。

 

 結局、死に物狂いでLAを取ろうとしていたディアベルはLAを取れず、原作通りーー何故か使ったソードスキルも一緒だったーーキリトがLAを取るという結果になってしまった。見ると、当の本人は涼しい顔でウィンドウをいじっている。

 

 後ろから見ていたので分かるが、彼は奴がカタナを使い始めてから今までずっと、回避の示唆をしていた。恐らく、このパーティーの中では、ディアベルと並んで消耗しているだろう。

 

 さて、ここで、俺がするべきこと、というのは何だろうか。

 

 このまま、俺が動かなければ、原作のような展開を迎えるのだと思う。キリトはベータテスターなのではないかと糾弾され、その疑念は積もり積もってアルゴにまで向けられる。

 

 だが、俺が動けば話は別だ。

 

 俺はいぶかしそうな顔でそこに突っ立っていた湾刀使いが口を開くよりも早くパーティーの前に躍り出、誰かの目に留まるように大ぶりな動作で振る舞った。

 

「な...! お、おい、こいつーー!」

 

 俺の存在は、ものの数秒で認知された。見ると、パーティーメンバーの視線は俺に集まっている。見ると、涼しい顔でレアドロップとなるコートを装備していたキリトでさえ、こちらを向いて驚愕を露にしている。

 

「どうして生きてる! お前、さっき確かに死んだよな!?」

 

 ざわめきの中、ふと、プレイヤーの一人がそう問いかけてきた。

 

 それに、俺は心中でガッツポーズした。その問いかけを待っていたんだ。これで、事は有利に動く。

 

「エクストラスキルだよ。死ぬ瞬間にたった一度だけ、ポーチ内の回復アイテムを消費して復活できるっていう」

 

 俺のその告白に、一同は更に驚愕を深めたような表情を作った。勿論、この告白は嘘だ。デメリット無しで、常時発動のコンテニュースキルだと知れれば、吊し上げを通り越して初のプレイヤーキルを引き起こしてしまう。

 

 エクストラスキル......? どういうことだ。 そもそもエクストラスキルとは...? ざわめきの中、一人のプレイヤーが、爆弾発言とも取れる発言をした。

 

「し...出現条件は?」

 

「分かってりゃもう公開してる」

 

 そう、何処かで聞いたようなやり取りを聞いた一同の反応は、次第に嫌悪を内包したものへと変わっていった。

 

 出現条件不明? 知ってて隠してるだけじゃないのか? 大体、どんなものだろうと復活できるってのはズルくないか? 俺の予想通りの反応だ。

 

「兎に角、ちゃんと広めておいてくれよな。ここに、SAO史上初のエクストラスキル内蔵プレイヤーが居るってことをな」

 

 そう。ここでエクストラスキル内蔵プレイヤーが存在する、ということを告白すれば、自ずとプレイヤーの興味はそちらへ集まる。それに、このボス戦闘で誰も死ななかったということは、これによってベータテスターが咎められることがないということだ。

 

 さて、やるか。

 

「コンテニューしてでもクリアする」

 

 小声でそう呟いてから、俺は2層へ続く階段を昇るのだった。

 




 途中に出てきた「ザ・バッシュ」は完全オリジナルです。
 盾で攻撃できたっていいじゃない。ーー盾に攻撃判定なしとか書かれてたような気もするけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。