これから、本腰入れて「デスゲームの半死人」書いていきますので、どうかご期待下さい。
あのデュエルの日から約4か月後のこと。現実時間の6月1日。ギルド、「月夜の黒猫団」は、最前線から離れた、攻略済みの層にレベリングに来ていた。
別段特別な事ではない。いつものことだ。いつもと同じ層の、いつもと同じ場所の狩り。
しかし、昼頃。団員の一人が、不意にこう言った。「迷宮区に行かないか」 と。
最初は反対意見もあった。これまで狩りをしていたのは迷宮区から離れたダンジョンのみであり、迷宮区周辺にだって、たまにしか近づかないからだ。それを、いきなり迷宮区攻略など。死の危険が高まる、と全員が口を揃えて言った。
しかし、しばらくすると、昨日レベルが上がって浮かれた皆はーー勿論俺もーー迷宮区に行くと肚を決めてしまった。
久々に入る迷宮区独特の威圧感を振り払うように抜剣すると、俺たちは迷宮区に入った。
そして、案の定というべきか。3階の比較的安全なエリアから動けなくなってしまったのだ。
ここのモンスターは単騎ではそこまで強くない。しかし、数が多いうえに素早いのだ。このパーティーには攻撃の要であるアタッカーが、俺とケイタしか居ない。ジリ貧になるのは必須だった。
俺たちは階段に向かっている筈だったが、どんどん最新部に追いやられていく。
俺は槍使いがスタンさせたモンスターに向かってホリゾンダル・スクエアを放ち、貧弱なHPバーを貪る。しかし、そのソードスキルの技後硬直時間を突き、真横から短剣の刺突攻撃が飛んできた。
それをまともに食らい、俺はHPを2割りほどまで減らす。
この層まで来ても、俺の残りライフは89ほど。次攻撃を食らったら、確実に仕留められる。
勝てないーー。俺は生き残るかもしれない。残りライフは膨大だ。俺一人だけなら生き残れる。
しかし、黒猫団はどうなる? これはゲームだ。執念や思いの力でこの状況が覆せるわけがない。壊滅ーー最悪、俺を残して全滅だ。
そう思ってしまい、一瞬剣を止めた瞬間、頭上に影が射した。見ると、頭上に牛頭モンスターの装備である大剣が迫っている。
死ぬーー! そう確信した瞬間、俺は自分が死ぬ姿を幻視した。
しかし、一拍おいて聞こえてきたのは無機質な「ゲームオーバー」音声ではなく、ガラスをかち割ったような大音響だった。
見ると、目の前のモンスターは跡形もなく消し飛ばされており、そこには大量のポリゴン片が舞っていた。
ーーモンスターが、倒されたのだ。たった1ドットとして、HPが減っていなかったモンスターが。
「危ないところでしたね。ちょっと助太刀させてもらいーーますっ!」
不意にそんな声がーーどこかで聞き覚えのある声が聞こえ、俺は右へと視線をやった。
右には、黒いコートを着込み、紫がかった片手剣を構える剣士が立っていた。俺に声をかけつつ、ホリゾンダル・スクエアをさっき俺に攻撃したゴブリンに打ち込む。
ーー黒の剣士。全線で活躍するソロプレイヤーであり、ベータテスターという経歴を持つ、盾無しの片手剣使い。
そこに立っていたのは、
俺はしばし唖然として黒の剣士の剣舞を見ていたが、直ぐに正気を取り戻した。俺一人、コンテニューできる俺が一人、状況打破をサボるわけにはいかない。
俺はゴブリンに向けて片手剣重攻撃技「ジャスト・クレイドル」を放った。この技は片手剣スキル熟練度500でウィンドウに出現したもので、ヒット時75%でスタンがとれるうえに、他の重攻撃ソードスキルと比べて切り返しが早いので、愛用させてもらっている。
案の定、ゴブリンはスタンした。そこで俺はスイッチを宣言。後ろに陣取っていたサチに止めを依頼した。
サチの刺突ソードスキルがゴブリンに突き刺さった瞬間、ゴブリンはポリゴン片となって消滅した。それを視界の端に納めつつポーションを喉の奥に押し込むと、完全な回復を待たず全線に復帰。そのままの勢いで、最後の一匹ーー出現率の極めて低い黒いゴブリンを強引なラッシュで斬り倒す。
その一撃で、モンスター郡は一先ず完全に止めることができた。しかし、このままここに留まっていてはいけない。直ぐにモンスターが押し寄せてくる。
「や、やっぱり迷宮区攻略なんて無謀だったんだ...」
そうかすれた声で呟いたのは、「テツオ」という名前を設定している黒猫団のメンバーだった。
「そうだな。死ぬところだった」
どうにかそれだけ返してから、俺は溜めていた息をゆっくりと吐き出した。思ったより精神的に疲弊しているらしい。剣を持つ手が心なしか震えている。
「こ、これからどうするの...?」
それを言ったのはサチ。声には一抹の不安が滲んでいる。
「あの、良かったら、出口まで前、支えてましょうか?」
ふと。ギルドの思い空気を傍観していたキリトが発言した。皮肉にも、原作沿いのセリフで。
「じゃあ、お願いします」
それから数十分して、黒猫団はどうにか、迷宮区から脱出することができた。
この脱出の立役者は誰がどこからどう見てもキリトだ。彼は原作と同じように、使うソードスキルを制限して戦っていたが、何より、素のプレイスキルが高く、対処が困難なゴブリンをいとも容易く処理するなど、このパーティの戦力に大きく貢献した。
「さっきはどうも、ありがとうございました」
黒猫団メンバー全員とキリトの自己紹介が終わり、場が落ち着いた後。その階層の薄暗いBARで、ケイタはキリトに改めて感謝の意を示した。
「あなたが来なかったら助からなかった。俺からもお礼を言わせてください」
それに続き、俺もそう言う。因みに、内心興奮しているため、声が少し上ずっているのは俺しか気づいていないようだった。
「敬語はできればやめよう。多分年も近いだろうから。それと、あの場面であの行動に出るのは当然のことだ。そんなに感謝されることじゃない...と思う」
そう言って頭をかく主人公の姿に、俺は妙な感慨を覚えていた。
この数分後、キリトは黒猫団に入った。ーーその行動が、このギルドの運命を揺り動かすことなど、知りもせず。
尤も、そのことはこの場の誰も祈念できなかったのだ。そう、「転生者」である俺でさえ。