デスゲームの半死人   作:サハクィエル

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 本腰入れて投稿すると言っておきながら更新が遅れてしまい申し訳ないです。
 どうすればいいんですかね。まるでモチベーションが上がらない。


小さな俺の話

「ちょっと、いいかな」

 

 現実時間の6月15日。装備新調やクエストの消化などで休暇日を一日使い果たした俺は、10層の草むらで寝転んでいた。

 

 そんな俺に声をかけたのは、ギルドメンバーのサチだった。

 

「サチか。どうして、ここが?」

 

 確かここが気に入ってることは話していなかった筈だ。

 

「シデンに聞いたの。クロは大体いつも10層に居る、って」

 

 シデン、とはうちのランサーのことで、オリジナルの黒猫団メンバーの中では一二を争うほどの実力者だ。俺は毎回のようにレベリングで助けられている。

 

「ああ、成る程。そう言えばあいつに話してたっけ。ずいぶんとまぁ...俺もこのギルドに溶け込んだなぁ...」

 

 そう感慨深く呟くと、俺は寝転がった姿勢から体勢を起こし、仮想の空を仰ぎ見た。尤も、頭上に広がる夜空も、あくまで上層のタイルに描かれたものであるが。

 

「キミがこのギルドに来て、どれくらい経ったっけ?」

 

「二ヶ月くらいだろ。まー、なんか昔からの知り合いのような気もするけどさ」

 

 で、そう言えば何でサチはここに? と俺は付け加えた。

 

「えーと、その、ね。ちょっと...修行、付けてほしいなぁ、って」

 

「修行ーー?」

 

 突然の言葉に、俺は戸惑う。

 

「最近、別のギルドの友達が、死にかけたらしくて」

 

 締めが甘く、水漏れを起こしている蛇口のように、サチはぽつりぽつりと話し始めた。

 

「その子は通りかかったプレイヤーに助けてもらったらしいんだけど、その時、ちょうど探索していたダンジョンはレベル的に絶対安全圏って言われてたところらしくてーー」

 

 その友達の心当たりが俺にはあるような気がしたが、直ぐに、傾きかけた思考は彼女の言葉に打ち消される。

 

「それで思ったの。数値的に安全でも、剣士としての力がなかったら、死んじゃうんだ、ってーー」

 

 その声に影が射すのを、俺は耳ざとく聞き取った。そう言えば、ギルドに入ってから、危ない場面は何度かあった。俺が黒猫団に入団するきっかけとなった事件、キリトが助太刀に来なかったら死んでいたかもしれないあの件、そして、最近では昨日、運悪く仕留めきれなかった敵モンスターの所為で、キリトを除くメンバー全員のHPバーが黄色のゾーンに落ちたことがあった。

 

 もしかしたら、サチはそれらの全てに、一抹の責任感を感じているのかもしれない。

 

 それはサチの所為じゃない、と言いたかった。しかし、これはあくまでも推測だ。

 

「だから、修行。べ、別に、迷惑だったら断ってもーー」

 

「いや、いいよ。やろうか」

 

 その代わりに快く返事をしてから、「修行」は始まった。

 

 尤も、修行といっても少年漫画のように奇抜で大層なことをするわけでもなく、暗記しているモンスターの行動パターンでサチに襲いかかる俺を、槍系ソードスキルで迎撃するというものであったのだが。

 

 当初こそ動きに難があったが、ほぼ毎日レベリングをしている甲斐あって、終わる頃にはそれなりに俺の動きについていけるようになっていた。しかし、それでも、俺のスキルに届くことはなかったのだ。

 

 しかし、これは俺の才能でも、努力の賜物でもない。(カーディナル)に与えられた不遜な福音の副次作用なのだ。それを思うと、少し複雑な気分になる。

 

「あー、疲れた」

 

「そうだなぁ...」

 

 こめかみに指を当てつつ、俺は草むらに座り込んで、サチに応えた。

 

「ーーやっぱりクロは強いなぁ。全然追い付けないや」

 

「そうでもないよ。危ない場面だって何度もあったし、実際に一本取ったことだってあったじゃないか」

 

 そう返すと、「そうじゃないよ」とサチは答えてきた。

 

「心が、ね。キミには迷いがない。だから、ずっと迷ってる私より遥かに強い」

 

「それはーー」

 

 違う、という言葉を遮るように、サチは加えて言葉を紡いだ。

 

「ねぇ、クロ」

 

「ーー何?」

 

「クロはさ、このゲームが怖くないの?」

 

 その質問は、ゲームの数値的な話ではなく、根本の状況について問うていうように聞こえた。

 

「怖いよ」

 

 即答だった。少しの迷いもなかった。

 

「ーーーーー」

 

 サチは黙っている。その心情を推察することはできなかったが、それでも、俺は言葉を紡ぎ続ける。

 

「だから、怖くない」

 

「どういう事?」

 

「怖いってことはつまり、自分のHPバーには命が宿っていて、それが無くなったら死んでしまう、って覚悟できているってことだ。ーーそれを認識できなくなったらおしまいだ。だから、まだ人間なんだ、って。まだ自分は生きてるんだって実感できるんだ。ゲームの異常性が霞むほどこのゲームに慣れてしまえばそこまでだ。人間じゃなくなってしまう」

 

 恐怖だって、悪いものじゃないーー

 

「ーーわたし、は」

 

 サチの声はどこか濡れているように聞こえた。軋んだ声だった。

 

「私は、そんな風にはなれない。怖いのに、命があるから戦い続けられるなんて」

 

「そんなものだよ、皆」

 

 ふと。俺は正面から、サチの瞳を見据えた。その瞳はソードアート・オンラインというシステムが作り出したポリゴンの羅列だ。しかし、そこには魂が宿っていて、命がある。

 

「でも、サチは戦い続けている」

 

「それはーー皆に置いていかれたくないからーー大層な目的があるわけじゃない。ホントは、いつも、どこかでーー」

 

 逃げたいと思っている。言葉の裏に隠されたそんな思いを、俺は刹那に読み取った。

 

「命を懸けているんだ。それだけで大層なことだ」

 

 その言葉で、会話は終了した。この後、少し雑談したような気もするが、どうも、この夜の記憶は後々になってもはっきりしない。ここから何を話したのかは全く覚えていないのだ。

 

 しかし、俺の記憶の中には、痛いくらいの哀愁を滲ませる、この日のサチの顔が、いつまでも焼き付いている。

 

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