遠い幼い日、私の両親はとても仲が良かった。名家オルコットの頭首であるお母様は厳しくも公平で、婿養子だったお父様は気が小さいがとても優しかった。3人でいろんなお国を回ったり、豪華なレストランで美味しい料理を食べたりしたことは、それがお母様の経営する仕事のついでであっても、私にとっては貴重な家族旅行だった。
ただ、旅先でお会いする方々はみんな自分より年上で、同年代との触れ合いが少なかったことだけが、ちょっぴり寂しくもあった。
だから、ある国で知り合った学者さん夫妻と、両親がビジネスパートナーとして親しくなるよりも早く、同い年の息子さんとお近づきになれたのは自然な流れだったと思う。
とは言っても、彼にはだいぶわがままを聞いてもらって、手を焼かせていたことだろう。その頃はひとところに大人しくなんてできなかったものから、お洋服はいつも汚すし、怪我をするのもしょっちゅうだった。心配性なお父様はいつも私を視界の中に置いておかないと落ち着かないご様子で、お母様からは事あるごとにきつくたしなめられていた。
それが、彼と一緒に遊ぶようになってから途端に淑女になっていったものだから、両親は奇異の目で彼を見ていた。
お父様は彼と話す機会があると、
「セシリアは君と出会ってから、喧嘩を一つもしなくなってね。とっても嬉しいよ。それにしてもいったい、どんなエスコートをしてくれているんだい?」
などと本気で疑問に思っているようだった。
彼は空色の瞳を丸くして、
「セシリアはお嬢様だから、そんな野蛮なことなんてしないんだって言ってたよ?」
ね、と微笑みかけてきた。
私は顔を紅潮させて、半分口を開けたお父様に向けて精一杯肯定してみせた。
白状するならば、同年代の彼に対して、自分が名家の娘であることを利用してうわてに出ていたのは否めない。今ならまだしも、その頃は普段使っていなかったお嬢様口調を無理に作って、身振り手振りも交えた演出なんてしたりもしていた。
そんなおままごとの、お相手の彼は下僕役。ああしなさいこうしなさいという、私の無理難題に律儀に応じてくれていた。私のお相手を務めるならば、もっとお強い騎士でなければなりません。なんて出まかせにも、まともに相手をしてくれた。
「荒事は僕の役割なんだって。でも、僕はてんで弱虫なんだって……。もっと強くなりたいなあ」
それは心強いわね、と、彼の鉛色のショートヘアーを撫でたのは、なんとあの厳しいお母様だった。後で聞いた話だが、彼の両親はとても聡明であるらしく、彼を利用して抱きこみたいという計らいがあったらしい。
そんなことなど知らなかった私にとって、命令をなんでも聞いてくれて、お母様のお眼鏡にも適った彼は、とても便利な小間使い(おともだち)ができたと喜んでいた。
それから、私たち家族と彼の家族はすぐ仲良しになった。お母様の大変な仕事柄、家族ぐるみの仲と呼べる相手は、親族を含めてもほとんどいなかったものだから、周りの大人たちは彼の父親を“大学者(サヴァント)”などと呼んでいた。頭でっかちな変わり者、という皮肉を込めたものだったが、その呼び名を気に入ったのか、私の両親も親しみを込めてそう呼んだ。実際に、彼の父親はお母様の会社のコンサルタントとして目覚ましい実績を上げていたし、同時にその振る舞いは年がら年中春であるように明るく楽しそうで、確かに変わり者に違いないとみんな思っていたからだ。
そんな楽しい日々も、しかし長くは続かなかった。
IS(インフィニット・ストラトス)の登場。
現行のあらゆる兵器を凌駕し、世界のパワーバランスを崩壊させた無敵の機体。
それが女性にしか扱えない、という明確な理由によって、新しい風は瞬く間に世の中を席巻した。ISの登場前で例えるなら、核兵器や戦闘機や戦艦や戦車、そういった現代軍事関連が女性にしか動かせなくなったようなもの。古い時代の騎士や侍がいかに刃を振りかざそうとも、現代兵器に適うはずもない。
男性はか弱く、女性は強い。
世界は女尊男卑へと変わっていったのだ。
それは次第に常識となって、私の家にも忍び寄ってきた。
真っ先に変わったのはお父様だった。もともと常識人だった性格が災いしたのか、それとも婿養子という立場故か。男卑という言葉をその身で表しているかのように、お母様にも私にもかしずくようになっていった。
お母様も、そんな男が自分の亭主であることに嫌気がさしたのか、厳しい性格も災いして軽蔑するようになっていった。
大好きなお父様と、大好きなお母様が、私の中で次第に大嫌いになっていく。
「大学者――!」
私は助けを求めた。これまでも、困ったことがあったら大学者の知恵をかりていたからだ。お母様の仕事で問題が発生したとき、プライベートで詐欺にあったとき、強欲な親族が無心に来たとき……。
きっと今回も助けてくれる、という期待と共に、親しい彼に会いたい気持ちもあった。心の中にあるわだかまりを、すべて吐き出させてくれるのは彼しかいないと思ったからだ。
果たしてその思いが通じたのか、お母様は彼の家族を家に呼び寄せた。きっと、仕事上の相談のためだろうが、私は大学者が何か手を打ったのだと思った。
再開してすぐ、冷たいお母様と、卑屈なお父様は、以前と何ら変わりなく仲睦まじい大学者夫妻に驚きをもってもてなした。お変わりがないようで何よりです、というお母様の挨拶に、大学者夫人は、うちは変わり者ばかりですから、と口に手を当てて微笑んでいた。
「この通り、元気なのが取り柄ですからな。いやはやご無沙汰してしまいました。思えば、世はすっかり女尊男卑。月日と人の心が移り変わるのは早いものです」
本当に大学者の言う通りだと思った。前に会った時は、私の家族関係もそれほどギクシャクしていなかったのに。彼の家族はまるでその頃と変わっていない。大学者はお母様の経営する会社以外にも沢山の企業の相談役を受け持っている。それなら増して女尊男卑の風潮を目の当たりにしているはずだ。
なのに、大学者は奥様と肩を寄せ合って、一つ記念写真をよろしいですかな、などとオルコット家の紋章を背景に携帯端末で自撮りなんてしている。お母様とお父様は目を丸くして顔を見合わせた。すごい。二人が顔を向き合った場面なんて、ここしばらく見ていなかったのに。
私の嬉しそうな表情に気づいたのか、大学者は下手なウインクをこちらに向けると、わざとらしい咳払いをして見せた。
「ウオッホン。さて、本日は最高のビジネスの種をお持ちしましたぞ。ずばり、女尊男卑活用術というものです! そう、これからはレディーファーストではなく、ボーイファーストを普及してしまえばよろしい。例えば男性の集まるゴルフ場や遊技場にボーイズデーなどを設ようというアイデアです。だいたいですな、オルコットさん。これからは好景気が約束されているのですぞ。なぜなら、世の中の消費は女性が握っているのですから!」
通された応接室のソファーに腰掛けるなり、大学者は仕事の話を切り出した。世の中の変貌に乗ったビジネスだとか、弱い立場になった男性向けのアクションだとか。お母様はソファーに深く腰を下ろして神妙に聞き入っていた。お父様はお飲み物や茶菓子の用意など、相変わらず小間使いに徹しようとしているが、大学者夫人がその手を止めさせて、一緒に座るようにいざなった。
一つのソファーに、両親が二人並んで座っている。
その光景に、私は大学者を呼んでよかったと心から思った。
「さあ、お仕事のお話の邪魔をしないよう、私たちはあちらへ向かいましょう」
私は彼の手を引いて家の中庭へと飛び出した。
家族で座ることのなくなった、噴水のそばの西洋風東屋(ガゼボ)に着くと、屋根の下でダンスを踊るようにクルッと身を翻して見せた。今の私は近頃なかったほどに上機嫌だ。自然とその口も饒舌になる。
だらしなくなったお父様。冷たくなったお母様。そうさせてしまった世間の風潮。
とりあえず座ろうよ、と先に腰掛けた彼のなだめも意に介さず、大仰な振りも交えて愚痴は続いた。時折彼の顔を振り返ると、じっと私の話を聞いてくれている姿に、しかし安堵する以外の感情が込み上げてきた。その姿は以前と変わらず幼いままだったからだ。成長期は男性よりも女性のほうが早く身体が大きくなるから、いつの間にか私のほうが体格で勝ってしまっていた。それが、女尊男卑が自分と彼を巻き込んでしまっているみたいで、不意にイライラが募ってきた。
そこに、
「ダメだよ、セシリア」
ソプラノがアルトに変わりつつある彼の声が、優しく私の耳に届いた。
「セシリアはお嬢様なんだから、ちゃんと言葉を選ばないと」
困ったように微笑む彼。私は揺れ動き始めた感情の糸が、彼に手を添えられて落ち着いていくように感じた。
「それに、セシリアは、ちゃんと頑張っているよ」
何を頑張っているというのか。
「このあいだ、ヴァイオリンの演奏会で入賞したそうじゃないか。おめでとう。君のパパがとても誇らしく思っているって、僕のところに連絡が来たよ」
いつの間に……!
私は離れていく両親の気を引こうと、ヴァイオリンやピアノを習っていた。自分に何か優れたことがあれば、それは両親が優れているからだと周囲にアピールすることで、二人の仲を繋ぎ止められるのではないかと思ったのだ。
入賞したときにお父様からお褒めの言葉は貰ったけれど、どうして彼のもとにまでわざわざそんな話をするのか。
彼は、君のパパからは内緒にしてくれって言われたんだけどね、と前置きをして話した。
「セシリアのパパも、ママも、本当は分かっているんだ。このままじゃダメだって。娘に気を使わせる親なんて、最低だって。でもね、もう、変えられないんだって。世の中は変わってしまったから。今さらセシリアのママとパパが仲良しに戻っても、周りはそれを受け入れないだろう、って」
彼はため息を着くと、視線を床のプレートに落とした。
「セシリアのママは、僕のパパと違ってとっても偉い人でしょう? だから、周りの人たちの理想のモデルにならなきゃいけないんだって。それが、高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ)、っていうの? なんだって」
「それじゃあ……!」
私は叫んだ。高貴(ノーブル)なんていらない。オルコット家なんて、欲の皮の突っ張った親族(やつら)にあげちゃえばいいんだ。そうしたら、お父様とお母様は、元の仲良しに戻れるんだから!
そう言うと、彼は初めて怒ったような顔を見せた。
「そんなこと、冗談でも言っちゃダメだよ、セシリア」
彼の視線が、鋭くて痛い。
「君のパパはね、君のママとお家をとっても大切に思っているんだ。だから、男の人が弱い世の中を受け入れたんだ。それはセシリア、君が大人になったとき、君に活躍してほしいからなんだよ。君のママがお仕事を頑張っているのも、君とお家を、本当に大切に思っているからなんだよ。だから、お家をいらないなんて、絶対に言っちゃだめだ!」
私は寒いお部屋に入れられたみたいに、息をするのが苦しく感じた。目の前の、自分よりも小さな少年に、私が氷の中に落としてしまった大切な宝石を掬い上げて突き返されているようだった。
そう言葉に窮していると、彼はふと、表情を緩めた。
「ゴメン、セシリア。ちょっと言いすぎちゃった。変だよね、男の僕のほうが弱いはずなのに、女のセシリアに怒っちゃうなんて」
しまりが悪そうに頬をかいて、
「僕ね、君に言われてから強くなるために、剣の習い事を始めたんだ。でも、やっぱりてんでダメダメでさ、まだ誰にも適わないんだ……。やっぱり、僕には騎士じゃなくて、執事なんかのほうが合っているんじゃないかなあ」
「そんなことありませんわ!」
私は叫んだ。今日の私は感情が上がったり下がったりだが、これが一番声の通りが良かった。
「私の騎士は、あなた以外にありえませんわ! 剣を習ったんですって? 私もたしなむ程度に身に着けておりますの。強くなりたいのでしたら、今からでもまったく遅くありませんわ。あなたになら、そう――女尊男卑を跳ね返すくらい強くなれますわ!」
「い、いつもながら無茶ぶりが過ぎるよ、セシリア。僕に世の中を変えろっていうの?」
「できます。私が保証します。さあ、そうと決まれば早速稽古を始めましょう。まずは有象無象の下郎どもからなめられないよう礼儀作法についてです。木の枝一つでもあれば剣礼の練習もできますでしょう。さ、お立ちになって」
「相変わらず、押しが強すぎるよ、セシリア……」
彼は苦笑いを浮かべながら、素直に座席から腰を上げた。
彼が不器用なのは知っている。剣を格好良く振るう姿なんて想像もつかなかった。執事のほうが似合っているとも思った。けれど、彼にはお父様のように弱い男を受け入れてほしくはなかった。
自分以外の誰がが、彼を見下すような事が無性に受け入れられなかった。なぜなら、彼は私の大切な、大切な、人なのだから。
私は彼の手を取って、一緒にお辞儀や歩き方の作法を出来るようになるまで繰り返した。相変わらず覚えが悪くて躓いてばかりだが、上手く出来たときは自分のことのように嬉しかった。
指導にも熱がこもってきた。彼は転んで膝を擦りむいても、決して諦めようとはしなかった。その姿に、なんだかとても愛おしく感じた。
レッスンは東屋(ガゼボ)が作る日影が噴水を覆うほど東に長くなるまで続いた。風が少しひんやりしてきて、汗をかいた肌にちょうどいい。
「……できた! できたよセシリア、全部できた!」
歩行、礼法、剣礼、全てノーミスでやり通した彼は、私の手を取ってピョンピョン跳ね上がった。私も釣られて飛び上がる。
「当然ですわ。私が指導したのですから」
「うん、ありがとう! やっぱりセシリアは偉いんだね」
「そうはそうですわ。私はイギリスの名門オルコット家の娘、セシリア・オルコットなのですから!」
自然と、私は笑顔になっていた。教えた内容はその分野の基礎でしかないが、私も彼も一つ大人になったように思えた。私はレディに、そして彼は……。
「やあ、ずいぶん楽しくやっとりますなぁ」
唐突に、声が二人の間に挟まった。振り返ると、お父様とお母様、そして彼の両親がいた。
私は邪魔をされたように感じて不満顔を作ったが、今にして思えば、私たちを見ていた大人たちの顔は、みんな柔らかい表情だったかもしれない。
「すみません、お召し物を汚してしまいまして。ああ、お怪我まで。その……」
お父様の謝罪に、大学者は手をかざして遮った。
「いやいや結構。擦り傷は子供の勲章、土はついてこそ根を広げて大きく育つものですからな。それに、とびっきりのレディと一緒に遊ぶことができたのですから、きっとウチの息子も幸せ者でしょう」
「まあ、お上手ですこと。でも、ウチの娘はまだレディと言えるほどお行儀が良うございませんわ」
お母さまが少し鋭い目つきを向けてくる。そこに、彼が間に入って、何か言おうと口を開きかけた。
と、その前に彼の父親が饒舌をつづけた。
「何をおっしゃいますやら。どんな宝石も磨かなければ輝きはいたしますまい。土や石に擦られて綺麗になっていくものでしょうぞ。それに、彼女は今のままでも十分、美しい」
「原石とおっしゃっていただけるのは光栄ですが、石ころに見間違えられるのは宝石にとって酷でしょう」
「いやいや、物を見る目がない愚者を気にして、宝石を金庫にしまっておいては意味がございません。宝石は大事に保管するものではなく、身に着けて輝きを外に放つためにあるのです。“美”というものは人の心を良くするもの。世のため人のためを思えばこそ、美しいものは人目にさらすべきでしょう」
「世のため人のためとは、ずいぶんな良いようですね。娘は見せ物ではありませんわ」
「いやはや誤解でございます。そんな理由で申したわけではありません。そうですな、ここで一つ価値体系というものをお話ししますので、これをお聞きになれば納得しましょう。よろしいですかな? 人というものは“心”と“体”で出来ております。“体”にとって重要なのは健康と富。これに異論はないでしょう。そしてここからが大事なこと。“心”にとって大切なことを、多くの皆様はお考えにならないのが残念でならない。よろしいですかな、“心”にとって大事なもの、それは――」
「あなた」
大学者の左腕を、ご婦人が叩いた。
「もうそろそろ行きませんと、列車に乗り遅れてしまいます」
「む、もうそんな時間か。む〜、いいところでしたが仕方がありません、講義の続きは列車の中でといきましょう」
まったく大学者の話は長ったらしい。それが止まったことに内心ホッとしたが、
「列車にお乗りに? どちらか、ご予定があるんてすの?」
ああ、と彼が思い出したように答えた。
「実は今夜、ロンドンのある会社に行くことになってたんだ。何でも、僕もお呼ばれされたらしくてね。一緒に行かなきゃならないんだった」
「まあ、それでしたらこんなになるまでお稽古なんてしなくてもよかったのに」
「ううん、大丈夫。着替えは持ってきてるし、僕はセシリアと一緒に遊べて楽しかったよ」
疲れを微塵も見せずに、屈託なく笑う彼。
私はレッスンでたくさん動いたせいか、にわかに顔が熱くなってくるのを感じた。
「セシリア、お母さんも彼らの行く会社にお話があるの。お父さんには荷物を運んで貰わないといけないから、少しだけお留守番して頂けないかしら」
お母様が、私の視線に合わせて話した。お父さん、という言葉をその口から聞いたのはとても久しぶりだった。
「ええ、大丈夫ですわ。行ってらっしゃい、お母様、お父様」
「よろしくお願いね。大学者(サヴァント)たちには明日も来てもらうから、今度は貴方の好きなところに会場を移しましょう。そのほうが、貴方達も楽しいでしょうし」
「本当ですの!」
やった! 私は感情を隠しきれず飛び跳ねた。
彼と一緒にどこへ行こう、何をしよう。
お母様たちは腰を落ち着ける場所があれば良いのだから、イートスペースがあれば遊園地でもテーマパークでもきっと大丈夫かもしれない。
ソワソワといろんなことを考えていると、彼がニコニコ顔を覗いてきた。私は一つ咳をして身なりを整えると、弾む気持ちを抑えて精一杯おしゃまして見せた。
「また明日ね、セシリア!」
「ええ、また明日。楽しみにしていますわ」
大きく手を振る彼に、我慢して小さく手を振り返した。はしたない姿は彼の前では見せたくない。
ああ、本当に明日が楽しみだった。きっと今夜は楽しい夢が見られるだろう。
私は今までにないほど安らかにベッドに横になった。そして、
ーー待ち望んだ明日は、来なかった。
私の大切な人たちを乗せた列車が、事故にあったのだ。
青ざめた顔の侍女からその話を聞いた時、私は世界が暗転して見えた。
再びベッドの中で目を覚まし、全てが夢だったに違いないと願って、身支度を済ませ外へ顔を出すと、神妙な面持ちで家の使用人に話をする警官達の姿が見えた。
私の姿に気がつくと、警官はとてもすまなそうな表情で、真実を告げる職務を全うした。
「君のお父さんとお母さんが、ご友人方と共に、天に召されました」
私は足元に奈落の穴が開いたように感じて、なすすべも無く崩れ落ちた。
「彼」の名前については決めておりませんので、読者様の脳内で補完して頂けたらと思います。