リミテッド・ストラトス   作:フラワーワークス

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XIV 金髪と銀髪の転校生

 IS学園、ランチルーム。

 朝は部分開放されて朝食コーナーとして活用できるこの場所で、ある窓際の席に座る者たちに周囲の視線が集まっていた。

 多くの者の手には新聞部が先日発行した記事があり、それと見比べながら熱い吐息が漏れている。記事の見出しは、『IS学園の二人の勇者、謎の襲撃者を撃退!』とデカデカと印刷され、活躍を捉えた写真が一面を飾っていた。

 その注目の的の一人であるである織斑一夏は、朝から憂鬱そうにため息をついていた。

 

「まったく、どうしてこんな目にあうんだか……」

 

 うんざりしながら食べる朝食はななかなか箸が進まない。

 入学当初からたくさんの視線を浴びてきたが、今日ほど肩がこりそうなものはなかった。おかげでつまんで口に運んだご飯がポロリとまたこぼれてしまった。

 

「なによ〜。せっかく学園の英雄様になれたんだから、もっと堂々としたらいいじゃない」

 

 向かい席に座る鈴がイジワルそうに箸でチョイチョイと一夏を指し、

 

「鈴さん、はしたないですわよ」

 

 それを隣のセシリアが紅茶の香りを優雅に楽しみながらたしなめた。

 

「でも、こう注目されたら普段通りの生活なんてできないよ。今朝もジョギングに出かけようとしたら、いつもより起きている生徒が多くて、しかもずっとコッチを見てくるんだもん」

 

 先に食事を済ませていたトミーは、食後のコーヒーをすすりながら苦笑した。

 それに、セシリアは紅茶のカップを皿に置いた。いつになく乱暴な仕草で、食器がガチャリと音を立てた。

 

「そのジョギングには、今日も相川さんがご一緒されていたんですの?」

 

 なんとなく、セシリアの視線が冷たい。

 

「そ、そりゃあいつも一緒に走っているからね。今朝はお清さん気まずそうだったから、途中から違うルートに変えてみたんだ。海岸線の道で、前から気になっていたところ。気分を直してくれたらいいんだけど」

 

 言うと、トミーは相川清香が食事している席を見た。布仏本音や谷本癒子(たにもとゆこ)ら、いつものクラスメイトと同席していながら、チラチラとこちらを見ているようだった。目があったので手を振ると、ぎこちなく手を振り返された。

 

「ふ〜ん……。明日からはわたくしも混ぜていただきますわね」

「え、いきなりだね?」

「いけませんかしら?」

「そうじゃないけど。でもお清さんに声をかけとかないと」

「わたくしの方からしておきますから、大丈夫ですわ」

 

 ニッコリ、とセシリアが笑う。なぜか、トミーは変な胸騒ぎがしてコーヒーがいつもより苦く感じた。

 

「けどさあ、トミーの言うとおり、こう変な注目を浴びると普段どおりの生活なんかできないって。なんか緊張してご飯の味もしないし」

「情けないわね〜。英雄らしくどーんと構えて慣れちゃいなさいよ」

「気軽に言ってくれるぜ。なあ、トミーはどうやって対処しているんだ?」

「んん、こういうときだと目が悪いのって長所だよね」

「あ、そういう」

「今はコンタクトしているけどさ」

 

 語るトミーの目は赤色を宿していた。普段の空色ではない。

 

「カラーコンタクトですの。もとのほうが素敵でしたのに……」

「なんでいつもつけないのよ? 不便じゃない」

「……コンタクトつけるの怖いから」

「子供かっ」

 

 鈴が飲茶を片手で豪快に呑み込んだ。一夏も朝食を食べ終わり、お茶の入った湯呑みを両手で丁寧に口にした。

 鈴さん、一夏さんを見習いなさいな。と、セシリアがまたたしなめた。

 

「そういえば、アリーナでの練習のときもコンタクト付けてたよな。新聞部の記事の写真みたけど、やっぱりトミー眼鏡していないと印象変わるよな」

「雨の中だとコンタクトの方が便利だしね。前までは僕の目を怖がられたのにねえ」

「ヤブ睨みだったからだろ。今の方が見栄えいいぞ」

「そ、そうかな?」

「そうですわ。お陰でつまらない方たちからの視線も増えたご様子ですけど」

「つまらないって……。言うじゃないセシリア」

「事実を申したまでですわ」

 

 ふん、と鼻を鳴らして、セシリアはすまし顔で紅茶を口にした。

 な〜んか最近トミーへの配慮が鋭角なのよねえ、と鈴は思った。

 

「にしてもさあ、一夏。アンタ自分たちの記事なのに自分で買ったの? それちょっとダサくない?」

「なんだよ、鈴。新聞部の黛先輩に渡されたんだよ。ご協力に感謝しますって。俺、協力した覚えなんだけどさ」

「あ、それ僕も貰ったよ。一夏が『零落白夜』を決めた写真が掲載されてたよね。あれカッコよかったなぁ、鈴」

「な、なんでアタシに振るのよ。まあ、一夏にしちゃあよく映っていたんじゃない?」

「そう言いながらも、鈴さん号外も特集号もみんなお買いになったじゃありませんこと」

「べ、別にっ、ルームメイトのティナに言われて買っただけよ! セシリアだって、刊行物全部買ってたじゃない!」

「わたくしは自分が欲しいからお買い求めになっただけですわ。お二人のご活躍が載っているんですもの、当然でしょう?」

 

 ぐぬぬ、と鈴は飲茶をすすった。今度は両手で小動物のように身を縮こませて。

 普段は一夏さんへの好意を口にしますのに、いざ面と向かうと尻込みしますのね、とセシリアは思った。

 

「でも、あの新聞よく検問通ったね? 不明自立ISの襲撃とか、普通引っかかると思ったんだけど。主に織斑先生の」

「ああ、俺も千冬姉に確かめたんだけど、騒ぎが大きすぎる手前、下手に隠蔽するより拡散したほうが良いだろう、ってことになったんだってさ」

「わたくしも同意見ですわ。こう騒げば襲撃する側も、次は躊躇せざるを得ませんもの」

「このIS学園に喧嘩売るなんて、いったいどこのバカなのかしら」

「さあてねえ。ISやなんかに不満を持っている輩ってどこにでもいるからね」

「何か知ってるふうじゃない、トミー?」

「詳しいことまではわかんないよ。ただ……」

 

 トミーは冷めたコーヒーを飲み干して。

 

「たぶん、次もまた何か起きると思う。今回みたいに大胆なことをする輩って、失敗を見越してやっていることが多いから。鈴、セシリア、そのときは」

「今度はアンタたちがお呼びでないほど、アタシがソッコーで活躍して見せるわよ」

「今回は十分ほどで撃退したのですわね。わたくしのときは五分で始末して差し上げますわ」

 

 二人の国家代表候補生はそう不敵に微笑んだ。怖い怖い、とトミーは苦笑する。

 

「ははっ、二人に負けないよう、俺達も頑張って上達しないとな、トミー」

「だね」

 

 時間も頃合いとみて、ごちそうさまでした、と四人は両手を合わせ、食器盆を持って席を立った。相変わらず周囲の視線は集まるが、普段の仲間たちと一緒なら大丈夫そうだ、と一夏は思った。

 

「そういえば、箒はどうしたのよ? 今朝一夏と一緒じゃなかったの?」

「ああ、昨夜から荷造りしていてな。なんでも今日部屋替えするらしい」

「部屋替えって、……あ、アンタ箒に何やったのよ!?」

「何もやってねえよ!」

「鈴さん、ナニをお考えになったのかしら?」

「そりゃあ、相部屋なのをいい事に、一夏がナニか変なことして箒に愛想尽かされて……」

「一夏に限ってそれは無いと思う」

「だろ!? ……って、何かそこはかとなく貶めてないか、トミー?」

「一夏を信頼しているってことだよ。ね、セシリア」

「そうですわね。……ところで、もしトミーさんの場合だったら、何かある事も考えられますの?」

「一夏以外の男性に聞くんじゃありません」

「へ〜え?」

「あらあら」

「……どういうことなんだ、トミー?」

 

 からかい×2+朴念仁一夏に、トミーはなんだか無性に叫びたい衝動に駆られた。

 堪えるのも面倒なので、適当な棒読みで声を張り上げることにした。

 

「もっと分かってくれる男がほしいよー!」

「ソッチかよ(なの(ですの)!?」

 

 ◆

 

 果たしてトミーの願いが天に通じたのか、新たなる男性がIS学園に現れた。

 一年一組のSHR(ショートホームルーム)にて、山田先生に紹介される二人の転校生。その片割れが、金髪の美少年だったのだ。

 

(トミーのやつ、いつも運が良いとかいってるけど、マジで神通力でもあるんじゃないか?)

 

 一夏は、転校生の登場に歓喜で湧き上がるクラスメイトたちの中で、半ば感心したようにトミーを見た。きっと喜んでいるだろうと思ったのだが、

 

(……あれ?)

 

 視線の先のトミーはぽかんと口を開けていた。「シャルル・デュノアです」と自己紹介された側にではなく、冷たそうな銀髪の少女に向けてだった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 礼儀正しくにこやかで貴公子然としたシャルルの挨拶と反比例して、ラウラは仏頂面で厳格そうな軍人さんを思わせた。

 

(しかも眼帯って、どこの戦争映画の大佐だよ)

 

 左目を隠す眼帯と冷えた赤い右目が、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。えらいやつが来たなあ、と一夏は思った。トミーも同じように感じたのだろうか。

 そんな彼女が、ふと、歩みだした。

 足取りは生徒たちの最前列下段に座るトミーを向いていた。周囲の怪訝な感じも意に介さず、ラウラはトミーの隣に立って、目をまんまるに開けている彼に、

 

「――あいたかったぞ、義弟よ」

 

 一転瞳を潤ませてトミーをその胸に抱きしめた。

 

「わっ、ちょっ、ラウラ!?」

 

 トミーが慌てふためいて離れようとするも、少女は彼を逃さない。

 小ぶりの身長ながら訓練で体得した体術が自然とトミーの身体に絡みつき、体格に見合いつつも女性らしい胸元が相手の顔に押し付けられた。

 

「心配していたんだぞ。寂しくはなかったか。お義姉ちゃんが来たからにはもう安心だからな」

「いきなり僕は心配だよラウラ!? ちょっと、離れて!」

「恥ずかしいのか? 可愛いやつめ。さあ義姉ちゃんに顔をよく見せてみろ。……なんだ、瞳の色が赤くなっているじゃないか! 私とおそろいにしてくれたとは、可愛い義弟だ」

「いや、これはコンタクトで……、っていうかそんなことはいいからとにかく」

 

「不健全ですわっ!! お離れになって下さいっ!!」

 

 生徒たちの最後列上段から、セシリアのソプラノボイスがスナイパーキャノンのように放たれた。

 弾着したラウラはビクともせずに視線を上げる。

 

「何だ貴様は。義姉弟の再会に水を差すとは無粋な奴だ」

「公衆の面前で破廉恥な行いをする方に言われたくありませんわっ!! トミーさんをお離しになって下さいっ!!」

「トミー? 誰だ、そいつは」

「あー、ラウラ、僕はここではそう呼ばれてて」

「せっかくの名前を呼ばれないのか!? ……くだらん」

 

 ラウラはトミーを腕の中に抱きかかえたまま、クラスメイトたちに宣言した。

 

「トミヤは私の義弟だ! すなわち、トミヤは私のものである! もし義弟に何かすれば、私が黙っていないから覚悟しろっ!」

 

 堂々と軍人調に布告されたセリフに、セシリアは

 

「んな、ななな、なあああ!!?」

 

 と顔を真っ赤にして抗議の言葉を感情に乗せた。

 ラウラは再度確かめるように言い放つ。

 

「これは、私とトミヤがドイツにいた頃からの、決定事項であるっ!」

 

 ラウラの腕の中のトミーは、ドイツから疾風怒濤(シュツルム・ウント・ドランク)が飛んできたなと、がっくりと項垂れた

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