リミテッド・ストラトス   作:フラワーワークス

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Extra 世界の中心の組織にて

「閣下、報告書をお持ちしました」

 

「閣下はよせ、と言ったハズだが」

 

「お立場が変わられても功績は変わりません。IS条約の締結に至る種々の取りまとめ、各国軍部との折衝、閣下なくして出来たものではありません」

 

「もう十年も昔のことだ。今は閑職の名ばかり機関長にすぎんよ」

 

「しかし、この組織で閣下のように長を務める男性は、もはや数えるほどに減ってしまいました。閣下はかねてより男女平等を謳い各国へ働きかけて来ましたのに、このような役不足なお立場を……」

 

「フェミニストと叩かれた時代が懐かしいものだな。しかし言っても詮無きことよ。で、どのような報告かね」

 

「某国から通達です。『エクスカリバーを備うるは我が国の悲願なり』。口利きの国もPKO活動の主張で横槍を出そうという姿勢」 

 

「生体融合型IS兵器を聖剣に例えるとは無粋の極みだ。コアとされた少女を不憫と思う人の情はないものか」

 

「完全にIS条約違反です。議論の余地もありません」

 

「外交で外面を綺麗に見せるのはかの国の伝統だな。ところで助け出した少女は息災かね?」

 

「はい、つつがなく。No.11038号付きのオペレーターにしてあります。彼との仲も順調だとか」

 

「年寄りが最も望むことは若者の幸せである。良きに計らってくれ」

 

「承知いたしました。ところで、某国への返答はいかがしますか」

 

「『諸君が聖剣と呼ぶものはクラレントなり』。口利きの国へは亡国機業の跳梁に備え軽虚妄道を慎むよう担当機関長を通して伝えてくれ」

 

「承知しました。しかしながら……」

 

「生ぬるい、と喚くだろうな。我が同心たちは」

 

「それぞれの持つ組織を使って力尽くの抗議をしようという有様です」

 

「心強いが、力不足だ。やめるように伝えよ」

 

「承りました」

 

「私の在任中は抑えるさ。後任は恐らく女性だろうが」

 

「そして男性のいない世界組織ですか。実にシュールです」

 

「君は若いからそう思うのだろう。私の祖父の代までは男性しかいなかったのだよ。そして父の代までは、肌の黒い者もいなかった」

 

「歴史は繰り返すのでしょうか」

 

「力を持つ者によって権威の在り処も変わってしまうものだ。強いということはそれだけで価値があり、弱いということは罪である」

 

「しかしながら、それでも解せないことがあります」

 

「言ってみたまえ」

 

「強さを求めるためとは言え、男性IS操縦者を作る計画は、本当に必要だったのでしょうか。結果を掴むまでに多くの犠牲を払ってしまいました」

 

「もし男性の誰もISを使えないとなれば、男性は弱者になってしまうだろう。強者である女性は奢り、男性は蔑みの対象となる」

 

「No.11038号は、弱者の抵抗の証だと?」

 

「かつて有色人種が白人と同じ席に座るためには相応の軍事力が必要だったのだ。私が各国のIS組織や会合に回ることができたのは、彼という懐刀を得ることが出来たおかげだ。それに同心のおかげでドイツで訓練を受けさせられた」

 

「しかし、今は織斑一夏が現れました。フランスのシャルル・デュノアも男性IS操縦者だとか」

 

「そうだな。運良く男性も相応の力を持つ者が現れてくれた。これでパワーバランスも少しはマシになるだろう」

 

「力こそが正義、ですか……。私は、人類がそこまで落ちぶれたものではないと信じます」

 

「そうであって欲しいものだ。でなければ我が祖先たちが受けた屈辱の歴史もすべて無駄になってしまう」

 

「…………」

 

「……黒人の私が白人の君にこぼす愚痴では無かった。無礼を許してくれ」

 

「いえ。私の祖先も、安住の地無く迫害を受けた民族です。僭越ながら、お察しいたします」

 

「そうだったな……。では、わかるだろう。いかなる差別も、迫害も、人類の罪に他ならないことを」

 

「女性たちはその事を知っているのでしょうか」

 

「男性はそれに気づくまでに長い時間をかけてしまった。今はそうではないと願いたい」

 

「ですが今なお、女尊男卑を厭うあまり男尊女卑を再興させようという同心もおられます」

 

「彼の息子の結婚式には私も同席していた。あれを見ればそうもなろう」

 

「それほどまでに……」

 

「君にも妻子がいたな」

 

「はい。良き妻と、自慢の息子です」

 

「君の息子のために、No.11038号の力を使うといい」

 

「! ……承知しました」

 

「君は優しい。だが優しさは時として人を傷つける理由となる。愛ゆえに人は誰かを利用し、誰かを陥れてしまうのだ」

 

 

 ――世界中心の組織にて、ある一室より。

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