リミテッド・ストラトス   作:フラワーワークス

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23.少女の決意-Je voudrais être à côté de toi-

 歓声に包まれるアリーナの中で、シャルルは上階の展覧席に視線を向けていた。

 

 現在開催されている学年別トーナメント。

 その試合を見に、多くの国やIS関連企業から視察団がやって来ている。

 自分たちの代表の活躍や、将来有望な学生を囲い込むためである。

 いま行っているのは一年生の試合だが、先天的な才能を見るうえでとても重要なものであり、金の卵を見つけようと目を皿にしている事だろう。

 

(その中で活躍し、優勝することができたなら……!)

 

 シャルルはゴクリとツバを飲んだ。

 このトーナメントに自分の将来が掛かっているといっても過言ではないからだ。

 

 フランス代表候補生であり、大企業・デュノア社社長の子息。

 それが今のシャルル・デュノアだ。

 

 しかしそれは、会社の宣伝や、世界で唯一の男性IS操縦者である織斑一夏のデータを採取するという役割を演じるための仮の姿。

 本当は、シャルロット・デュノアというデュノア社社長の愛人の娘だった。

 

 その少女は、織斑一夏に恋をした。

 

 偽りの自分を気にかけ、居場所を与え、救ってくれようと懸命になってくれた彼の姿に、思わず心を奪われてしまったのだ。

 

 少女は恋に身を捧げ、嘘を脱ぎ捨てようと決心する。

 

(僕はシャルルじゃなく、シャルロットに、本当の自分になるんだ!)

 

 シャルル少年が、実はシャルロット嬢であると公表すれば、スポンサーであるデュノア社やフランスに迷惑をかけることになるだろう。

 

 だが、世界的に有名なIS学園で開かれた大会優勝者という肩書きがあれば、例えデュノア社やフランスに批難されようとも、他から引く手あまたに違いない。

 また贔屓目でなくとも、そんな有望な選手をフランスが代表候補生から外すとも考えにくい。

 デュノア社には制裁が及ぶだろうが、そんなものは自業自得だ。

 

 これから手に入れようとする栄光は、後ろめたいデュノア社へ決別の証になるものだった。

 

(僕は絶対に、この学園に残ってみせる、そして、一夏にこの思いを告げるんだ……!)

 

 

 力が込み上げてくるシャルルの肩を、ポンと叩く手があった。

 

「珍しくリキんでるんじゃない? らしくないよ」

 

 パートナーに選んだクラスメイトの赤毛の少女、

 

「相川さん」

 

 にひひ、とおちゃらけた笑みを作る相川清香は、シャルルの両肩をバシバシと強めに叩いた。

 

「ちょっと、痛いよ相川さん」

「リラ〜ックス、リラックス! 次の試合はとうとう専用機持ち相手なんだから、変にリキんだって上手く動けないよ」

「わかった、わかったから。もう、そんなに肩を叩かないでよ」

「ん? それにしても、シャルルくんって撫で肩だね。トミーくんと違って肩幅が狭いような」

「へえ、トミーにはこんなふうにスキンシップとってるんだ?」

「ま、毎朝一緒に走ってるからね」

「トミーと一緒に出場できなくて残念だったね」

「それは言いっこなしだよっ! ほら、相手チームも出てきたよ!」

 

 顔を持たれて無理やり正面を向かされる。

 

 見れば、対戦相手の凰鈴音が、愛機【甲龍】を纏ってグラウンドにやってきていた。

 

「アンタと戦うのは、コレがはじめてになるかしら。お手柔らかに頼むわね、シャルル」

 

 不敵な笑みを浮かべる鈴の隣では、パートナーがガッチガチに固くなっている。

 鈴の相部屋仲間のティナ・ハミルトンだ。

 

「うわー、男の代表候補生が相手とか、緊張してきたー……」

 

 金髪をいじくりまわし、碧眼が何度もまばたきを繰り返している。

 間食でもよくするのか、多少ふくよかな身体に装備しているのは英国製量産機【ティアーズ】。セシリアの【ブルー・ティアーズ】の元だけあって、射撃主体の機体だ。

 

 前衛が鈴、後衛がティナ、という布陣だろう。

 

「そんな気にするほどでもないわよティナ。アタシの実力知ってんでしょ? 最近できたその図太いボディらしく、ドーンと構えてりゃいいのよ」

「いきなり人の悩みをえぐらないでよ。つーか日本のお菓子が美味しすぎるのが悪いんだって。だいたいね、鈴みたいにノーテンキになれりゃあ苦労しないから」

「アッハハ。雨が降ろうが風が吹こうが、アタシは負ける気しないからね」

 

 鈴は両手に持つ青龍刀を合体させて、バトンのように振り回す。

 

「いくわよシャルル。代表候補生の実力、見せてみなさい」

 

 隣のティナも覚悟を決めたのか、視線鋭くライフルを構える。

 

「相手はカボチャ……、相手はカカシ……、ハロウィンパーティーはパンプキンパイ……」

「アンタ実は余裕なんじゃない?」

 

 

 対するシャルルと相川も、それぞれの得物を構えて向かい合った。

 シャルルの【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】は右手にアサルトライフル『ヴェント』と左手にパイルバンカー『グレー・スケール』を。

 相川の【打鉄】は近接ブレード『葵』を両手で持ち、両肩のアンロック・ユニットである物理シールドを前に出して受けの姿勢でいる。

 

「相川さん、作戦どおりにね」

「わかった。でも今さらだけど、私に凰さんを抑えられるかな?」

「できるさ。練習で気付いたんだけど、相川さんはタフだから」

「……女の子が言われて嬉しいセリフじゃないなあ」

「ゴメンね。ちゃんとトミーにフォローするよう伝えるから」

「な、なんでまたトミーくんの名前が出てくるのさ!?」

「トミーの相川さん評からもじったから」

「……今度会ったらデートでチャラにしてあげるって言っといて」

 

 クス、とシャルルの口から笑みが溢れた。

 

(セシリアとラウラに内緒にできるかな? できないだろうなあ。トミーは正直者だから)

 

 

 ならば、今こうして共に戦う相川にすら、身の上を騙している自分は相当な嘘つきだな、とシャルルは思った。

 

 

(それも、このトーナメントで終わりにするんだ……!)

 

 

 シャルルは臨界まで高めた気迫を、試合開始のブザーが鳴ると同時に解き放った。

 




サブタイトルの意味はフランス語で
「あなたのそばにいたい」
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