リミテッド・ストラトス   作:フラワーワークス

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29.バグ技は本体を痛める恐れがありますので-Guilty Power-

 心の中でカチッと点火音がした。

 同時に、瞳が空色に輝き、赤色のコンタクトレンズが光を屈折させて紫色にきらめかせる。

 ラウラの眼帯同様、機能制御装置(リミッター)を持つコンタクトのセーフティが、眼光によって開放された。

 

 視界が一変する。

 眼下の闘技場で繰り広げられるISバトルの光跡、周囲の観客席を埋める生徒たちの姿、自分が立っている展望台の床飾、それら僕を取り巻くありとあらゆるものが、電子データの集合体へと変貌した。

 世界はコンピュータ・シミュレーションだったという話の映画そのものに、あらゆるものが情報で満たされる。

 

 世界の理を越えて根源を見透す。

『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』というだいそれた名前に違わない能力だ。

 実はエラー・バグを使った裏ワザでしたと言わなければ、本来の機能と間違われるだろう。

 

(初期施術不良が、こんな形で使えるなんてね)

 

 超常のチカラは臨床試験被験体の約得だ。

 研究内容はナノマシン投与によって疑似ハイパーセンサーを人体に施し、反射神経とIS適合性を向上させること。

 その目的は見事にハズレたが、得難い副産物をプレゼントしてくれた。

 頭痛持ちの薬漬け生活と引き換えに、世界をサイバー空間に捉え直してデバッグモードのように見れるチカラを与えてくれたのだ。

 僕がIS戦闘で相手の動きを読み、攻撃を切り払える技も、種を明かせば失敗治験の予期せぬ恩恵に他ならない。

 

 もっとも、試験自体は当然ながら安全性に配慮して修正された。

 僕以降の被験者たちへは、僕に発生した問題を元に改良されたナノマシンを処方されたらしい。結果、ラウラのようにon/offを切り替えられない不具合は一部あっても、人体能力向上とISスキルアップという主眼は達成できたそうだ。

 

 踏み台にされた僕の『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』は、僕だけに与えられた他に例のない、言わば『唯一仕様の特殊能力(ワンオフ・アビリティー)』と呼べるシロモノだと前向きに受け取めている。

 

「――見えた!」

 

 電子情報化されたサイバー空間には床や壁といった遮るものがないため、お尋ね者はすぐに見つけられた。

 織斑先生の言ったとおり、IS装備を検索に入れたら簡単にヒットできたのだ。

 

「どちらにですの、トミーさんっ!」

 

 僕の左手を力んで掴むセシリアが、視線を会場に向けたまま問いかける。いつでも『ブルー・ティアーズ』を動かせると左の指呼を突き出していた。

 

「11時方向、客席のシェルター・シャッターが合わせ目になる柱の影だ! 二人いる、……片方が大砲、じゃない、ミサイルランチャーか? それ構えていて、もう一人が望遠レンズを覗いている」

「恰好から砲撃手と観測主だと推測しますわ。させません、お行きなさい『ブルー・ティアーズ』!」

 

 セシリアの手振りに合わせて、アリーナの屋根に散開していた『ブルー・ティアーズ』がターゲットに向けて機動した。客席を横切らず屋根の稜線に沿った配慮が、彼女の気遣いをうかがわせる。

 

 僕はLSのプライベート・チャンネルで、アリーナの何処かで息を潜めて待機しているであろう、ラウラに通信を入れた。

 

「受託、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「ラウラ、聞こえる? テロリストを見つけた!」

「トミヤか。敵は何処だ」

 

 ラウラの無機質な声音が落ち着きを表していて頼もしい。

 

「会場南側の柱だ。セシリアの『ブルー・ティアーズ』が向かっている、それについていって!」

「承知した。これより捕縛する。行くぞ、クラリッサ」

「了解!」

 

 サイバー視界に二つのデータの動きが生まれた。

『ブルー・ティアーズ』と同じくアリーナの屋根の上。

 ISを纏ったシグナルが、東西から南にいる敵へと向かっている。

 相手も狙われている事に気付いたのか逃げようとするが、『ブルー・ティアーズ』が機先を制して取り囲み足をもたつかせた。

 そのスキを逃さず、ラウラとクラリッサさんが急行するなり武器を構えて制圧する。

 これで決まりだろう。

 よかった、一夏たちの試合に影響は起きていないみたいだ。

 

「……っつ」

 

 安堵と同時に頭痛がほとばしった。『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』の使用限界だ。

 足がぐらつき、吐き気をもよおし、視界が回る。

 

(あと少し、持ってくれ!)

 

 過半まで順調に進んでも土壇場で何が起きるか気が抜けないのが作戦だ。

 ラウラ達なら大丈夫だろうが、テロリストがどんな悪あがきをするか分からない。

 それに隣には『ブルー・ティアーズ』の遠隔操縦に集中しているセシリアがいる。

 指を絡ませて握り合う彼女の手に、不調を伝え心配させたくはない。

 僕は足腰を踏ん張り、奥歯を食いしばって堪えた。

 

(落ち着け……、呼吸法だ。短く深く吸って、長く細くはいて……)

 

 息を整え気を取り直す。

 

(……よし)

 

 大きく息をついて顔を上げると、ラウラ達がテロリストたちを取り押さえているのが見えた。テロリストたちはISも装備も量子化している。

 これならもう大丈夫だろう。

『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』を解こうと、切り替えようとして目を細めた。

 その時、

 

(――! 新たなIS反応?) 

 

 不意にあらぬ方向からISの発現を感知する。

 データ配列は見たことのないタイプだ。

 

(場所は、アリーナのピット? 織斑先生や技術科の生徒のもの、じゃない!?)

 

 僕は頭痛で視界が歪むのに耐えながら状況を確認する。

 

(IS反応が織斑先生に接触した、……あっ!? 織斑先生が後ずさる? 動きがよろめいている、攻撃を受けたのか!?)

 

 彼方で起きているただならぬ事件に、僕は自分たちが取り押さえたターゲットがどんな役割を担っていたのかを直感した。

 

「しまった! あのテロリストたちは囮だ!」

 

 反射的に飛び出した叫びに、隣のセシリアと、プライベート・チャンネルが開きっぱなしのラウラが息を呑むのが聞こえた。

 問いただす声が重なって響く。

 僕は答えることなく、セシリアの手を引いてピットへ飛び出した。

 説明する寸暇が惜しい。

 

 僕たちは、まんまと罠にハメられたのだ。

 

 

 ◇

 

 

(まさか、私を直接狙ってくるとはな)

 

 

 左腕の裂傷を右手で抑えながら、織斑千冬はピット内の生徒たちを後ろに庇いつつ、内心毒づいた。

『オールド・ファッション』からの手紙の警告を思い出す。

 届いたのが学年別トーナメントの時期であることと、送付者が反女尊男卑主義者であることから、トーナメントで男性IS操縦者に危機が迫っていることを忠告したいのだろうと推理していたのだが。

 

(もう少し、自分の立場を勘定にいれるべきだったか)

 

 予想は半分当たっていた。

 トミーたちがテロリストを退治しているのはピット内からも伺えている。

 もう半分が、受取先の織斑千冬本人に宛てた手紙であったことは想定外だった。

 

「織斑先生、血が!」

 

 千冬の後ろで、両手を広げて仲間たちをかばっている技術科のエース、黛薫子が悲痛な声を上げる。

 力なく垂れ下がった千冬の左腕から、足元に赤い雫が滴り落ちていた。

 

「案ずるな。流れている程度だ。噴出はしていない」

「いやいやいや、安心できませんよそれ!?」

「深手ではないということだ。後で治療すれば問題ない」

「今が絶望的な状況に変わりはないでしょう!」

 

 千冬は口をつぐんだ。

 

(確かにな) 

 

 と喉まで出かかった自認を飲みこんだ。

 生徒を守るべき教師が諦めるなど許されない。

 たとえ相手が、世界最強の兵器インフィニット・ストラトスを装備していようともだ。

 

 千冬は目の前に立ちはだかる偉容を睨み付けた。

 人型ではない。八つの脚を持った蜘蛛型のレイアウトだ。色は橙と紫を基調とし、けばけばしくも妖艶さがある。

 狭くはないピット内だが圧迫感を与えるほど大きい。

 操縦者の顔はフルフェイスで隠されているため分からないが、首の傾きからして千冬を見下しているのは伺えた。

 

「無様なものだなあ、ブリュンヒルデ」

 

 ISパイロットとして当然ながら女性の声だ。

 ねっとりとした粘着質のある、お手本のような下卑た嘲笑が耳につく。

 

「ドアをノックした程度でピットの中に入れてもらえるなんてなあ。不用心にも程があるぜ? ちゃんと危機管理教育してんのかよ?」

「何が目的だ、『亡国機業』」

「解んだろ? お前だよ、織斑千冬」

「誰の恨みだ。手掛かりが絞れん」

「誰でもいいだろ、そんなこと。冥土の土産なんぞ持って来てねえからなあ!」

 

 蜘蛛が脚を開き飛び掛かる。

 蹴りだ。

 それも鋭利な刃物を仕込んだ八脚の連撃。

 

「クッ!」

 

 千冬は傷付いた左腕の袖を口に噛んで吊り下げ、右手に匕首を服の中から取り出して逆手にかまえた。

 無謀だ。

 ISに生身の人間が相手になるはずがない。

 普通ならば。

 

「おお?」

 

 蜘蛛が面白そうに感嘆した。

 千冬はしなやかな動きで身体を回転させ、紙一重で躱し匕首で受け流し、一連の足蹴を捌いてみせたのだ。

 

「はっ! えらい、えらいなあ織斑センセー! 生徒の前だ、頑張んなきゃなあ!」

 

 蜘蛛は左右にステップを振りながらフェイントを混じえて攻め立てる。

 蹴りだけだ。

 装甲脚には実弾発射口も備えているのに。

 

(おのれ、弄ぶか!)

 

 千冬は身をかがめて避けると、地を舐めるように飛び込んだ。

 蜘蛛は図体のぶん足元がお留守で反応が遅れる。

 一瞬の隙を逃さず、怒りと勢いを込めた匕首が、装甲の無い敵の太ももに振り上げられた。

 

「んなあ!?」

 

 匕首の直撃は、遮られた。

 ISシールドだ。

 肌があらわになる部位だったが、しっかりシールドで護られている。ISを防御においても最強たらしめる理由の一つが防いだのだ。

 しかしISシールドは衝撃までは減衰できない。

 千冬の斬撃は匕首が折れるのと引き換えに、強烈な衝撃を敵の右太腿に叩き込んだ。

 敵はたまらずたたらを踏んで引き下がるが、

 

「いってえなあ!!」

 

 怒りにまかせて四肢を振り回し、手当たり次第に薙ぎ払った。

 周囲の機器がズタズタに切り裂かれ、破片があたりに飛散する。壁に当たって跳ね飛び交い、生徒たちにまで襲い掛かる。

 

(いかん!)

 

 千冬が身を投げて生徒達の盾になった。

 そこに暴れる蜘蛛が吹き飛ばした椅子が腹部に直撃し、身体をくの字にへし曲げる。

 

「ぐふっ……!」

 

 膝を付き、右手も床につき、噛んで吊っていた左腕がだらんと下がった。

 咳き込む吐息が苦し気に風切る。

 

「織斑先生!」

 

 黛が膝をついて手を貸し、千冬の背中をさする。

 生徒たちの、キャー! という甲高い悲鳴が響き渡った。

 

「うるせぇ! わめくなガキ共!!」

 

 蜘蛛が一喝する。

 

「ピーピー鳴いてばっかか? 情けねえなあ! この世界最強に護られてんだぞ! それでもエリートかお前ら!?」

 

 最初の下卑た笑いとは打って変わった迫力のある叱責だった。

 生徒たちは身を震わせるも、声を失ったように静まり返る。

 

 蜘蛛のフルフェイスは学生たちの様子を見渡すと、床に這いつくばる千冬に向いた。

 

「……教師稼業で鈍っているかと思えば、そうでもないみたいじゃねえか」

「生徒たちには、手を出すな」

「そのつもりだったがな。お前に足切られて反射的にねえ。不可抗力って奴だ」

 

 蜘蛛の脚が一本、千冬の目の前に伸びた。

 銛のような先端がゆっくりと下がり、先程切りつけた右太腿の同じ箇所で止まる。

 

「さっきの礼だ。覚悟しな」

 

 冷酷に告げられた言葉に、千冬は睨み返して不屈を示した。

 脚が引き絞られる。その瞬間、

 

 ガアンッ!

 

 という打撃音がピットの壁に響き渡った。

 二度、三度、四度。

 何度も何度も撃ちつけられる。

 

「……早かったな、ご苦労なこった」

 

 蜘蛛は肩をすくめた。

 

「でもな織斑千冬、お前を襲撃するタイミングはいくつもあった。なのにわざわざこのピットの中まで来てやったのは、どういう理由か解んだろ?」

 

 千冬は盛大に舌打ちしたくなったのを、生徒達の前ということでかろうじて押しとどめた。

 蜘蛛が言わんとすることが重々承知できたからだ。

 

 IS学園アリーナのピットはシェルターとしての機能を持っている。それも並大抵のIS兵器ではびくともしないほど分厚い装甲で護られていた。

 もし学園が襲撃されても対応できるよう、指令を出せる本部という役割を担うためだ。

 中に敵が踏み込んで来ては絶対にいけない箇所だというのに。

 

(はじめにコイツが言ったとおりだ。なぜ容易く中に入れてしまったのか!)

 

 一夏たち男性IS操縦者がターゲットだとばかり踏んでいたせいだ。ピット担当の生徒達へ警戒を怠り、自分たちへの配慮がおろそかになってしまった。

 後悔先に立たずとはこの事だ、と千冬は苦汁を噛み締めた。

 

「ま、助けも来たみてえだし、さっさとケリをつけて帰らせてもらうぜ」

 

 外からの壁ドンをBGMに、蜘蛛が再び脚を引き絞る。

 救助隊も諦めたのか、一瞬、壁への衝撃が止んだ。

 一瞬だけだった。

 二拍目に、強烈な轟音と共にシェルターの壁がぶち破られた。

 

「まっ…、じかよっ!?」

 

 灰色の柱のような極太の杭が、蜘蛛めがけて突っ込んでくる。

 仰天して後ろに下がるが間に合わず、足が二本えぐり飛ばされた。

 杭は反対側の壁に突き刺さると、ライフリングされていたのか回転が残っている。

 

「あの色、杭、まさか、『グレー・スケール』? にしては、大きすぎるけど……」

 

 黛が整備科の頭脳を回転させるが、他の生徒たちの判断は冷静だった。

 

「黛先輩! とにかく織斑先生の救助を!」

「私、ハンカチ持ってます! これで傷をおさえましょう!」

「そ、そうね。お願いするわ!」

「外部への緊急ダイアルは!?」

「やっていますが、さっき計器を壊されたせいか繋がりません!」

「ケータイ! 誰でもいい、外へ連絡しろ!」

「了解です!」

 

 技術科の生徒たちが、果たすべき役割を模索して奮闘している。

 緊急時の対策マニュアルはおざなりだが、それでも対処しようとするのがIS学園の生徒というエリートたちだ。

 千冬は教え子たちの活躍に口元が緩みかけた。

 

「外から、何か来ます!」

 

 生徒の一人が言うように、杭がこじ開けた穴の外から青いユニットが飛び込んできた。銃口を備え、ISの装備のようだ。

 

「『ブルー・ティアーズ』、オルコットか」

 

 千冬は見慣れた教え子の武器の名前を呟いた。

 きっとどうにかしてこちらの状況を掴み駆けつけてきたのだろう。

 

(私が思うよりも優秀だな、ウチの生徒たちは)

 

 ピットの整備科たちといい、オルコットたちといい、緊急事態へ柔軟に対応できる姿に頼もしさを感じた。

 

 千冬の眼前では、外から次々と『ブルー・ティアーズ』が入ってくる。続けて6つ。

 生徒たちの前で横一列に整列すると、主もいないのに蜘蛛に向けて整然と銃口を構えた。

 

「オイオイ、こっち見えてんのかよ?」

 

 蜘蛛の呆れた問いに答えるように、一斉射撃が開始された。

 

 

 ◇

 

 

 トミーがセシリアの右手を取り、穿たれたピットの壁に向け掲げている。

『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』の紫の光は壁の向こう側の状況をつぶさに見通し、セシリアに伝えていた。

 

「……撃ち方、もう止めていいよ。敵は退散したみたいだ」

「わかりましたわ」

 

 重ねた手を下ろして、展開した装備を量子化させる。

 

 トミーも、先刻渡された【グレイ・アイディール】の新装備、『グレイ・グローブ』の展開を解いていた。

 手甲部位の『グレート・グレー・スケール』が放っていた硝煙だけが、残り香となって漂っている。

 

「織斑先生や、生徒たちはご無事でしょうか……?」

 

 セシリアは心配そうにトミーを向いた。右手で目元を覆っていて表情が掴めない。

 

「良くないね……。織斑先生は手傷を負っているみたいだ」

「そんな!」

「いま後ろの廊下から保健委員の生徒たちが担架を担いでくるから、すぐに保健室へ運んでもらおう」

 

 見れば、トミーの言う通り、団体が急いでバタバタと走って来ている。

 セシリアは少しだけ胸を撫で下ろした。

 

「本当に、なんでもお見通しなのですね……。それでは、わたくしたちは不届き者を追いましょう!」

「いや……」

「心配ご無用ですわ。あなたと一緒ならわたくし、何処まででも行ける気がしますもの!」

 

 胸を張るセシリアは今日、これまでにない充実感があった。

『ブルー・ティアーズ』は思い通りに動かせられるし、長時間運用しているのに集中力はまったく衰えない。

 トミーとタッグを組んだお陰で力が凜々とみなぎっていた。きっと学年別トーナメントに出場できたなら優勝できたに違いない。

 そう確信していた。

 

「うん……」

「……トミーさん?」

 

 反応の薄いトミーの肩をゆすると、のそりセシリアの胸元にしなだれかかってきた。

 いま身に着けているISスーツは生地が薄いため、もろに互いの感触が伝わってしまう。

 

「えっ!? あの! い、いけませんわトミーさん! そんな、人前でだなんて……!」

 

 嬉しそうにトミーを受け止めるが、もたれてくる重みが不自然にあった。

 

「トミー、さん……?」

 

 顔を覗き込むと、額からダラダラと汗を流し、苦しそうに息をしているのに気が付いた。

 しまった! とセシリアはラウラからの忠告を思い出した。

 危険な力を使うから、無理をする場合叩いてでも止めろと言われていた筈だったのに……!

 

「トミーさん! しっかりなさってくださいまし!」

 

 調子良く『ブルー・ティアーズ』の運用にかまけていたばっかりに、互いの手を握り合っていたにもかかわらず、隣人の容態に気づけなかったとは。

 なんのためのパートナーか。

 自分のことしか考えられないで。

 作戦前に、トミーを支えてみせると、断言していたのに。

 

「ああ……、ゴメンなさい、ゴメンなさい! こんなはずは……、もっと早く気付けましたのに!」

 

 セシリアはトミーを胸に抱き締めながら、何度も何度も謝罪を繰り返し、自分のふがいなさを罵った。

 

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