リミテッド・ストラトス   作:フラワーワークス

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四十四話 ワンダーランドに迷い込んだお姫様

 華やかな会場を、すれ違う者たちがみな振り返る美女が進んでいく。

 スラリとした長身で、腰まで伸びた赤いツインテールが背中の開いた漆黒のドレスと相まって、見事なセクシーさを振りまいている。

 右肩には黄色い花が装飾され、まさに美貌を見せつけるような艶姿、の反面、表情には経験を重ねた人物特有の落ち着きが備わり、成熟した雰囲気を醸し出していた。

 

 しかし人見を引くのはその華麗さだけではなかった。

 右腕が、無いのだ。それに右目も、眼帯で塞がれている。首元に巻かれたチーフの下には火傷の跡が垣間見える。

 もっとも、そんな異彩の麗人を訝しむ者はこの場にいなかった。みな、彼女が何者であるかを知っているからだ。

 

 迷いなく進められた歩みは和風着物姿の少女の前で止まり、ニカッと軽快に微笑みかけた。

 

Добрый вечер(こんばんわ)、ロシア代表さん。お元気そうで何よサ」

 

 ロシア語で挨拶をかけられた相手にとって意外な人物だったのか、あ然と目と口を開いて返答に戸惑っている。

 

「……Buona sera(こんばんわ)。わざわざ日本人の私にそんな挨拶だなんて、何かのあてつけでしょうか? イタリア国家代表。――いえ」

 

 皮肉っぽい笑みを浮かべて告げる。

 

「二代目世界最強(ブリュンヒルデ)、アリーシャ・ジョゼスターフ」

「あいかわらずのようだネぇ、更識の十七代目楯無。織斑千冬と戦わなかった世界最強(ブリュンヒルデ)なんておこがましいと言ってくれるのかナ?」

「今日の出席者のみなさんと同じく、貴女の実力に敬意を払っているだけですよ」

 

 楯無は着物の折り目正しくお辞儀をして見せた。

 普段、IS学園の生徒会長としての飄々とした姿とは違い、(おおやけ)の場に相応しい洗練された立ち振る舞いになっている。

 

 楯無もアリーシャも、IS国家代表という立場からアイリス王女の誕生日会に招かれていた。似たような境遇の者は、二人の他にもルクーゼンブルク公国の隣国、及び馴染みのある国々から参列している。

 もっとも、それは王女へ贈られる第四世代IS絡みであるのだが。

 

「敬意ネぇ……。世界最強(ブリュンヒルデ)なんて(せわ)しないご身分サ。今日だってそんな立場のせいで、(いそが)しい中呼び出されてしまったんだからサ」

「お役目お疲れ様です。強者は相応の振る舞いを求められてしまいますものね」

「ま、その通りなんだけどサ、ロシア代表の君に言われると調子が狂ってしまうのサ」

「あら、それはどういう意味でしょう?」

「東欧は未だに自分たちの前庭だ、って考えている尊大な国が、つわものの矜持を語るなってことサ」

 

 楯無は苦笑を浮かべた。 

 

「よりによってロシア代表になるなんて、物好きなジャパニーズガールなのサ」

「島国育ちの私には、あまり大陸国家の因縁というのにピンと来ません。けれど、ロシアが影響力を持ちたいと画策しているのは事実でしょうね。それゆえに、IS学園から私をこの場に呼び出した」

「キミとは今後もこういう会場で会うことになりそうなのサ」

「穿った物の見方をなさいますね。アリーシャさんの目には、ロシアはどう映っているんですか?」

「強いものが正義のパワハラ帝国」

「……ずいぶんと物騒ですね」

「ステレオ視感ではあるけどね、ロシア人にとって力は何よりも大事なのサ。なにせ脆弱な指導者のもとでは、極寒の冬を生き抜くことができない厳しいお国柄だからネぇ。キミがこうしてロシア代表でいられるのも、強いからに他ならないのサ」

「お褒めに預かり光栄です」

 

 楯無は扇で口元を隠してクスクスと調子を合わせた。二代目世界最強(ブリュンヒルデ)に実力を褒められて悪い気はしない。

 一方で、自他ともに認める実力者の自分とアリーシャがこの場にいる意味を懸念した。

 

「ところで、アイリス王女のISですが、私たちが招集されるほどに危惧されるものなのでしょうか?」

「世代が違うらしいからネ。飛行機でいえば、レシプロ機とジェット機の違いはあるだろうサ。向こうが初期型ならまだやりようがあるけど、あの篠ノ之束お手製というんだから推して知るべしなのサ。……しかシ」

「いかがしました?」

「アイリス王女、しばらく姿が見えないナと思ってサ」

「そういえば……。まあ、お化粧直しか、お花を摘みに行かれたのではないでしょうか。もしくは今日みなさんにもみくちゃにされてお疲れなのかも」

「ふゥん……、だといいが」

「……」

 

 二人の目つきが鋭利に変わる。

 アリーシャも楯無も、それぞれのカンが違和感を告げていた。具体的な理由は無いが、幾つもの修羅場をくぐり抜けてきた経験が警鐘を鳴らしているのだ。

 二人は自然と背中合わせになって会場全体に注意を払った。表情は場に合わせて笑顔をつくり、瞳の奥で俯瞰する。

 

(こういうとき、トミー君がいてくれたら助かるんだけどね)

 

 楯無はふと、IS学園のトーナメント決勝の陰で働いてくれた彼を思い出す。そういえば、旅行でルクーゼンブルクに来ていたのだったか。

 しかしまさか、反女尊男卑主義組織(オールドファッション)に属するLS乗りの彼がこの場にいるはずはないだろう、とすぐに頭の隅に追いやった。

 

 

 ◇

 

 

 そんな二人の姿を、壁に背中を預けながら眺める瞳があった。

 

(二代目世界最強(ブリュンヒルデ)と仲良く背中合わせとは、相変わらず我が生徒会長サマはご立派だねぇ)

 

 自己主張の強い豊満な胸を組んだ腕に乗せ、我の強そうに顎をしゃくりあげている表情は不敵。後ろに金髪のホーステールを流す長身の彼女は、楯無と同じくIS学園の生徒であった。

 

「おう、壁の花にしちゃあ棘が強すぎる目つきじゃねえか、ダリル・ケイシー」

「……アンタには適いませんよ、イーリス・コ―リングセンパイ」

 

 イーリス、と呼ばれた軍の礼服に身を包む女性は、金色のショートヘアーをポリポリとかきながらため息を着いた。

 

「ハア……、本当はナタルと来るはずだったのが、なんでこんな生意気なガキのお守りなんぞを任されたんだか」

「センパイ、軍人なんですから前情報入れといてくださいよ」

「ああ?」

米国(ウチ)のお偉方に聞いたんですが、ナターシャセンパイは自分のIS、【シルバリオ・ゴスペル】でしたっけ? それの調整で手がふさがっているそうですよ。で、オレにお声がかかったわけです。代表候補生ってのもありますが、ロシア代表である更識楯無の様子を伺えってのが本心でしょうね」

「何だそりゃ。現代はISが軍のパワーバランスを決める世の中だぜ? 米軍(ウチら)はいつまでロシアと冷戦気分でいるんだっての」

「軍人さんらしいじゃないですか。頭が固いっていうセオリー通りの」

「けっ、言ってくれるぜ。ダリル、お前卒業後の進路米軍(ウチ)なんだから、今のうちに世間視ておけよ。一人くらい軟弱な頭の奴が欲しいからな」

 

 そういうと、イーリスは一気にシャンパンを飲み干し、空になったグラスを替えにドリンクコーナーへ向かっていった。

 その背中を見つめるダリルの顔色は物憂げだった。

 

(でもねえ、センパイ。世間視てると、嫌なものまで目についてしまうんですよ)

 

 肩を落とすダリルのポケットで携帯端末が震える。学校の後輩で恋人のフォルテ・サファイアからだった。

 表情をあからさまに和らげて端末の通信アプリを起動する。画面一番上には着信のあったフォルテからのメッセージが未既読を表していた。

 そしてそのすぐ下、最近連絡を交わしたであろう欄には、先日IS学園から失踪した二人の生徒の名前が記載されていた。未既読には、なっていない。

 

 

 ◆

 

 

「アリス、ちゃん?」

「ちゃん付けは無用じゃぞ、トミー」

 

 絢爛な賑わいの陰で、少年と少女は薄闇の中に肩を並べていた。

 会場である迎賓館の外、裏手に置かれたユニコーンを象ったモニュメントの土台に腰を下ろし、身長差から少女は自然とトミーを見上げる。背丈はもとより顔立ちも幼く、しかし釣り合いのとれた豪華なドレスから、トミーはどこかの貴族のご令嬢様かと推察した。

 

「わかったよ、アリス。それにしても、どうしたってこんな人気のない場所に来ちゃったのさ。時計を持ったウサギでも追ってきたのかい?」

 

 少女はプラチナブロンドの髪を揺らした。

 

「ルクーゼンブルクは不思議の国ではないぞトミー。なに、お主が吸っているタバコの明りに釣られたのじゃ」

「え、こんなものなんかに?」

「わらわはとんと目にしたことがなかったのじゃ。姉上はもとより、兄上も家の使用人も皆吸わぬ」

「ああ、そうか。今のご時世はそうだもんね。昔の男性はみんな吸っていたっていうのにねえ」

 

 トミーは、火をもみ消したタバコに視線を落とした。

 女尊男卑の世の中になってから、世間は禁煙運動が加速していた。タバコの匂いが服や髪に着くのが嫌悪されるためだった。それ以前も禁煙の流れはあったが、今ほど顕著なものではない。

 現代で吸っているのは、女伯爵(カウンテス)のようによほど物好きな人に限られている。

 

「吸ってみてはどうじゃ?」

「え?」

「タバコは気分を落ち着ける効果があるのじゃろう? ならば吸っておるがよいぞ。泣くほどのことがあったようじゃからな」

 

 言われてトミーは目の下の涙後を急いで拭った。気恥ずかしさに苦笑がこぼれる。

 

「見られちゃったか」

「うむ。ゆえにわらわに気をつかうことはない」

「そうもいかないよ。タバコの匂いが君の服に着いたら、お母さんに何て言われるかわからないじゃないか。女性は匂いに敏感らしいからね」

「……母上は、もう早くに亡くなられた」

「あ……、ゴメン、不躾だった」

「無用じゃ。気遣い痛み入る」

 

 二人とも視線を落とし、しばしの沈黙が流れた。遠くで沸いた笑い声が、えらく耳障りに感じたのか、アリスと自称する少女は表情を曇らせる。

 

「つまらぬ宴会じゃ」

「そんな。せっかくアイリス王女のお誕生日に招待されたのに」

「みな、嘘しか言わぬ」

「嘘?」

「表情は笑っていても、誰も本心から祝おうとはせぬ。みな、新しいISが目当てなのじゃ」

「ああ……」

 

 貴族の令嬢であればこそ、そういった人の裏表に敏感なのだろう、とトミーは思った。

 

「アリス、アイリス王女の助けになってあげなよ。きっと心の中で悲鳴を上げているかもしれないから」

「そなたは優しいの。しからば、わらわと一緒に会いに行ってみるのはどうじゃ?」

「光栄だけど、遠慮するよ」

「どうしてじゃ?」

「僕は、嫌われ者だから」

「嫌われ者?」

「さっきもそうだったけど、あまり(おおやけ)の場に相応しくない立場でね」

 

 悲しそうに微笑むトミーに、アリスは、

 

「なれば、後日であればよかろう」

「後日?」

「トミー、そなたは嘘が着けぬ性分じゃろう」

「まあ、口はともかく、顔に出やすいって友達に言われたけど」

「王女は嘘が嫌いじゃ。真偽を疑うことなく交わせる相手を欲しておるのじゃ」

「それって、お友達を欲しがっているってこと?」

「お友達……! そうじゃ、王女は友を欲しておる!」

 

 アリスは我が意を得たりと勢いよく立ち上がった。

 くるりと、ターンを踏むようにドレスをひらめいてトミーに向き直り、ビシっ、と指を差し向ける。

 

「さすれば問おう、トミーよ。お主、王女の心を救うために気を引き信用を築かねばならん、如何(いか)にしてこれを得んや?」

「え、っと、現実的でない質問だね?」

「応えよ、トミー!」

「わかったよ、そうだなあ……。せっかくの誕生日を外すんだから、アリスと、アイリス王女と一緒に『お誕生日でない日を祝う』っていうのはどうかな?」

「お誕生日でない日?」

「ほら、いかれ帽子屋(マッドハッター)と三月ウサギと眠りネズミがさ、歌ってたじゃない。君と僕とが生まれなかった日♪ 祝え♬ 何でもない日♫ 万歳! ってさ」

「じゃから、ルクーゼンブルクはワンダーランドでは……」

 

 と、不平を言いかけた口が止まると、アリスの表情から花が咲いたように綻んだ。

 

「トミー、それは、わらわと一緒にいられるならば、いつも祝ってくれるというのか?」

「もちろん、アリスと一緒にアイリス王女に謁見できたなら、僕にとっては祝い事以外でないからね」

「おお!」

 

 アリスはトミーの手を取り、ぶんぶんと振り回した。

 

「しからば事は善は急げじゃ! 明日の夕方に、この場所でどうじゃ?」

「ここで? 僕はたぶん良いけど、アイリス王女はどうだろう?」

「まったくもって問題ないぞ!」

「ずいぶんと見知った感じだね……」

 

 まあ、アリスはアイリス王女と同じくらいの年代だし、馴染みであるのかもしれないな、とトミーはアリスの意見に同意した。

 アリスは年相応にはしゃぐと、

 

「では、約束じゃからな。遅刻などしたら承知せんからな! 死刑にするぞ!」

「大げさだなあ。アリスもね。アイリス王女にもよろしくね」

 

 うむ! と上機嫌で裏戸へ向かうアリスに向けて手を振るトミーは、彼方で何かが(またた)いたように感じた。

 風を切って向かう先は、すぐ目の前の――

 

「あぶないっ!!」

 

 ん? と振り返る着弾点のアリスを覆いかぶさるように抱きかばった。

 飛来物は弾着前に網を広げ、二人を絡み取る。

 

「な、なんじゃ!?」

「これは、ネットランチャーか!」

 

 弾道予測から発射地点に目を向けると、闇の中に異形の者が浮かんでいるのが見えた。

 頭が無く、両腕が長く、機械的な黒い外装。

 それは、IS学園に襲撃してきた正体不明のロボットに酷似していた。

 

「あいつ、こんなところにまで!?」

 

 トミーはLSの武装剣銃(グローリーシーカー)を展開し、一刀のもとに縛めを切り捨てた。

 体制を整えるとアリスを守るように立ちふさがり、越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を起動して闇の中の敵を探り出す。

 

(前見た時よりもスマートか? 武装も違う。右腕は肘から先がブレードに、左肩にはネットランチャーをマウントしている)

 

 装備を検証するトミーに向けて、黒い襲撃者は左腕を突き出し閃かせた。

 

「左腕の砲口はそのままか!」

 

剣銃(グローリーシーカー)が砲弾を切り払うと、弾かれた先でものすごい爆発が巻き起こった。

 

(威力も段違いに違う! 一夏無しに一人で撃退できるか?)

 

 その衝撃を受けたせいか、迎賓館の照明が一斉にダウンした。一拍置いて建物内から悲鳴が沸き起こる。

 

「と、トミー……!」

 

 後ろにかばうアリスの声は明らかに震えていた。

 無理もない、とトミーは想う。彼女のような幼い少女が、こんな状況を目の当たりにして怯えないわけがない。

 

「大丈夫」

 

 トミーは背中越しにアリスをなだめる。

 

「君は、僕が守るから」

 

 やさしく投げかけると同時に、トミーは覚悟を決めた。相手が何であっても、この小さくか弱い存在は絶対に死守してみせると、全身に勇気をみなぎらせた。

 それが、男としてあるべき姿だと、呪われた賛助の暗影に向けて気魄をはいた。

 

「行くぞ! グレイ・アイディール!!」

 

 満身の力を込めて、トミーは異形の力を解き放った。

 

 

 ◇

 

 

 暗闇に包まれた会場を淑女方の悲鳴がこだまする。

 突然の爆発音と消灯に、テロでも起きたのかとパニックが起きているのだ。

 

「アイリス王女! アイリス王女はいずこか!?」

 

 喧騒を鎮めるべき近衛騎士たちも、主の失踪を前に狼狽し、恐慌に拍車をかけるだけになっている。

 

(これは、まいったネぇ)

 

 冷静に状況を見つめるアリーシャでも、あわてふためく会場を鎮めるまでの力はない。大声で鎮静を促そうにも、それ以上の叫び声が響き渡って焼け石に水となっていた。

 しばし容態の変化を待っていると、非常電源が作動したのか薄明りがようやく照らし出された。

 ホールの叫喚もしだいに収まり、不安そうな声のざわめきに変わる。

 

「アリーシャさん、どう見ます?」

 

 楯無が背中越しに尋ねた。

 

「ずっと見張っていたんだが、おかしな素振りのヤツは見えなかったのサ」

「私もです。となると、外で何かが……?」

「だろうネぇ……。楯無、ひとまずこの場は任せるのサ」

「構いませんが、お一人で向かわれて大丈夫ですか?」

「オヤ、私を誰だと思っているのサ」

 

 アリーシャはハイヒールをカッと踏み鳴らすと、勇壮に言い放った。

 

「我こそは初代IS世界大会(モンド・グロッソ)部門優勝者(ヴァルキリー)にして、現世界最強(ブリュンヒルデ)、アリーシャ・ジョゼスターフ様なるぞ! ……てネ☆」

 

 拡張高く名乗りを上げて楯無にウインクを送ると、グッと上げられたサムズアップを尻目に、アリーシャは人混みの中を縫うように外へ出て行った。

 向かうは爆発音が起きた建物裏手。

 何人かの警備員や騎士とすれ違ったが、みなパニックから立ち直れていないのか必死に無線へ状況確認を乞うている。

 現場慣れしていなければこんなものか、とアリーシャは落胆を着きながら、裏門の扉を開けた。

 そこでは、

 

「――ナニ!!?」

 

 アリーシャをして驚愕にさらされた。

 それは、周囲に散在するクレーター跡や爆発の惨状に対してではなく、

 

暮桜(ブリュンヒルデ)!?」

 

 かつて第一回IS世界大会(モンド・グロッソ)の決勝で対戦し、敗れた相手、織斑千冬の愛機【暮桜】。

 そのシルエットにそっくりなものが目の前で愛刀『雪平』を振るい、異形の敵を真っ二つに切り伏せていた。

 

(……いや、違うカ? 色が真っ黒だし、女性的な見た目でもないのサ)

 

 よく見れば性差的な部分が男性的で、全身装甲(フルスキン)の頭部ではラインアイ・センサーが赤い光を放っている。

 織斑千冬では、【暮桜】ではない。

 

 暮桜もどきは仕留めた敵が動かないことを確認すると、黒い装甲から灰が散るように外装が剥がれ、中身をあらわにした。

 アリーシャはその姿に見覚えはないが、聞き覚えはある機体だった。

 

(リミテッド・ストラトス……!)

 

 立場がら、頼んでもいないのにLSの情報はアリーシャの元へもたらされていた。ISの敵としてである。

 頭部装甲が剥がれ、少年の顔があらわれて確信した。この機体は【グレイ・アイディール】という飛べないISもどきだ。

 しかし、話に聞く異形の四脚は装備していなかった。最近調達したという非固定浮遊武装(アンロック・ウェポン)も浮いていない。

 どういうわけダ? といぶかしむと、自身の左側で光を放つ何かがあることに気が付いた。そこには、

 

「……なるほどネ」

 

 アイリス王女がいた。

四脚(グレイ・グリーブ)拠点防衛兵装(フォートレス・ガジェット)を発動し、非固定浮遊武装(グレイ・グローブ)防御兵装(ゴールキーパー)を展開させて、幾重にも王女を護っている。

 リミテッド・ストラトスは、使えるリソースの過半を割いて、アイリス王女を守り抜いたのだ。

 

(だから、暮桜もどきの恰好をしていたのか。自分の危険を承知の上で、VT(ヴァルキリー・トレース)システムを使ってまで、とはネぇ)

 

 光の守護の中にいるアイリスへはキズ一つ付いていなかった。

 その目は見惚れるようにトミーの背中へ注がれ、小さく開いた口元と、ぼうっと夢心地のような表情は、

 

(ま、そうなるだろうネぇ)

 

 アリーシャはにやける口を止められなかった。幼い少女が、こうまでして助けられては、心を動かされないわけがない。

 卑しまれる男性であったとしても、世間の悪者LSの操縦者であったとしても、夢の中に落ちた少女にとっては、まぎれもなく勇者(ヒーロー)に他ならなかった。

 

「これは、面白くなってきたものサ」

 

 アリーシャは、間違いなくこれから楽しい事態に巻き込まれそうだ、とこみ上げる笑いを堪えなかった。




 お誕生日でない日、何でもない日の歌は、
 ご存知、不思議の国のアリスの一節です。

 ロウソクを消したら願いが叶うと歌の最後にありましたが、アリスのお願い事は何だったのでしょうか。
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