リミテッド・ストラトス   作:フラワーワークス

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48話 部活動で先輩が後輩に舐めてかかるのを見ると先生はプッツンしそうになるんです

 それは『イージス』といった。

 

 あらゆる物理攻撃を防ぐ鉄壁の守りが、見たものに神話の女神が備う防具を連想させるほど、優秀すぎるからだった。

 織りなすのは、アメリカ代表候補生ダリル・ケイシーの操る【ヘル・ハウンド・ver2.5】の炎と、ギリシャ代表候補生フォルテ・サファイアが駆る【コールド・ブラッド】の氷。

 相反する力が共食いをすることなく寄り添い、二人組が一つの生き物のように機能する類まれな連携術だ。

 機体の開発当初から構想されていたわけではない。ダリルとフォルテだから、密接な関係の二人だから生み出すことができた秘術のような技なのだ。

 

 その名はIS学園のみならず各関係団体にまで轟かせ、ISの生んだ可能性の一つとして論文にもまとめられている。

 ダリルとフォルテの名前は随所に挙がることとなり、二人は大いに自信を膨らませて、互いの存在をより愛しく、誇らしく想い続けるようになっていった。

 

 

 

(その、うちらが、なんてザマっすか!)

 

 地面に押しつぶされながら、フォルテは歯を食いしばる。ダリルに編んでもらった三つ編みが乱れるのを何よりも気にしながら地上にへばりつくように首をもたげた。

 上目遣いに睨む先には、七枚の翼をはためかせ、ユニコーンの頭をかたどたような杖をかざすアイリスの【セブンス・プリンセス】。

 名うての『イージス』を地に縛り付けたのは彼女の『重力爆撃(グラビトロン・クラスター)』のなせる力だった。

 

「もう勝敗は決しました。降参してください」

 

 その前に姫君を守護する怪物のように立ちふさがる、巨大な四脚に双銃・剛腕を駆使するトミーの【グレイ・アイディール】。

【セブンス・プリンセス】によって大地に引きずり落とされてからはLSの本領である地上戦に持ち込まれ、せっかくの連携も『イージス』もズタズタに掻き乱されてしまった。空を飛べないISなど足枷をはめられたようなもので、飛べずともISに立ち向かうため限界まで研ぎ澄まされたLSの敵ではなかった。

 後は各個撃破するまでもなく、ひとまとめにしたところを再び重力の網に絡み取られて地面にへばり付けられてしまったのだ。

 

「ちっくしょおおおおおお!!」

 

 ダリルが獣のような咆哮を上げて倒れ伏した体を持ち上げる。両肩の犬頭を模したアーマーからは炎がうなり声をあげるように噴き出しダークグレーの装甲を色めかせた。

 軋みを上げる全身のPICが悲鳴じみた絶叫を上げる。無理矢理に立ち上がったその腕には、双刃剣を両手でしかと握り締めていた。『黒への導き(エスコート・ブラック)』と名付けられた剣は、その名の通り【ヘル・ハウンド】の炎によって敵を真っ黒に焼き尽くすことを宣誓しているかのような禍々しさを醸し出している。

 

 ダリルは気合と吐くと共に全身に炎をまとい、猟犬のように突貫する。

 

「無茶っス!」

「知ってらあっ!」

 

 フォルテの制止を振り切ってダリルは駆ける。

 無茶で結構。

 それで愛する者が少しでも永らえられれば十二分に意味はある。

 それに、要はあのお姫様をビビらせればいいのだ。『重力爆撃(グラビトロン・クラスター)』の戒めを解き、再び空へ舞い戻れば勝機はまだ十分にある。二度も同じ目を喰らいはしない。

 真面目すまして降伏勧告なんぞを行う一年坊主のデカブツなんぞに、

 

「止めて見せろやああああ!」

 

 気炎万丈、渾身を力を『黒への導き(エスコート・ブラック)』に託してぶちかました。

 

「――言ったはずです」

 

 トミーは冷淡に言い放ち、上体を横に反らした。その後ろから飛び掛かるのは、巨大な鋏。

 

「ぐがあっ!?」

 

尻尾鋏(ペンチヒッター)』が待ち構えていたようにダリルの胴体へ喰らいついた。

 

「僕は地上戦では誰にも負けないと」

 

 挟み上げるダリルの首元に『剣銃(グローリー・シーカー)』を突きつける。さらに右の『非固定浮遊武装(グレイ・グローブ)』からは『五連装電磁投射砲(フィンガー・スナップ)』が照準を倒れ伏すフォルテへと定めた。

 

 今やトミーの【グレイ・アイディール】は『大型四脚(グレイ・グリーブ)』と『非固定浮遊武装(グレイ・グローブ)』、そして『剣銃(グローリー・シーカー)』と『重銃(グラウンド・ブレイカー)』すべての武装を運用していた。『非固定浮遊武装(グレイ・グローブ)』へのデータ収集もひと段落し、ようやく完全機動にこぎつけることができたのだ。

 

 ダリルは懸命に身をよじって抵抗を見せるが、左の『非固定浮遊武装(グレイ・グローブ)』が鷲掴みにするともはやどうにもできなくなった。

 完全なチェックメイト。

 にもかかわらず、ガンと口をつぐんで負けを認めようとしない上級生二人に、

 

「そこまで、としておこうじゃないのサ」

 

 監督役のアリーシャ・ジョセスターフの声が、スピーカー越しにIS学園第三闘技場(アリーナ)に響き渡った。

 

「みんなマジになるのはいいけど、これは補講の一環だっていうことを忘れないでほしいのサ」

 

 弾んだ声には、若いなあ、という言葉が言外に含まれていた。

 

「これより二十分の休憩とする。その後ピットに集まりな」

 

 有無を言わせぬ声音に、トミー達はそれぞれのISを解除した。

 ダリルとフォルテ、上級生コンビが向ける視線は刺々しい。が、口はきつく噛みしめられて悔しさをにじませている。

 

「勝った……のか?」

 

 アイリスが肩で息をしながら確認するようにトミーに問いかける。

 

「そうだよ。よく、頑張ったね」

 

 トミーの言葉に、アイリスはこてん、と尻もちをついた。緊張が一気に解けてとても大きなため息を上げた。

 彼女にとってはほとんど初戦に近いような状況だった。祖国で訓練を積んでいても、容赦のない相手との戦いは今までなかったことだろう。

 

「そうか、やっと、終わったのか……」

 

 勝った余韻に浸るでも喜ぶでもなく、アイリスは試合をやりきった疲労感と、わずかばかりの満足感に包まれていた。

 

 

 そんな生徒たちの姿をモニターで見ながら、アリーシャはほくそ笑む。

 

(お姫様もなかなかどうして、根性があるじゃないのサ)

 

 トミーとアイリスの補講その三、現在の実力を測ること、はおおむね可という評価で見ていた。

 今後どのように能力を伸ばしていけばいいのか、そのポイントもだいぶ掴めた。後はプログラムを組むだけだ。頭に浮かぶことをキーボードに叩き、ものすごい勢いでレポートを起こしていく。

 

「フーフーフ♪、フーフー、……ん?」

 

 その中で、アリーシャは自分が楽しいと感じていることに気が付いた。

 トミーの成長を想像し、アイリスの発達に期待するとき、その傍らに自分がいて指導している姿を思い浮かべると、なんだか心がわくわくしてくる。

 まさか、人を育てることがこれほど面白いものだったとは。

 

(……千冬め。ISの選手といい、教員といい、私が好きになるジャンルにはどうしてその先にお前がいてくれちゃってるのサ)

 

 アリーシャは胸躍る新しい道の先に、また見慣れた宿敵が背中を向けているように感じた。

 キーボードを叩き考察をまとめる手を動かしながら、先日行った千冬との試合を思い出す。

 

 ――その結果に後悔はない。

 

 だが、やられっぱなしというのも気に喰わなかった。

 確かにISでの戦いは最後と言ったが、競うことをやめたわけではない。リターンマッチは別でいい。

 

(次こそは、負けないっていうのサ!)

 

 新たな分野の競争心を掻き立てられたアリーシャは、高揚する気持ちを心地よく胸に抱き、流れるような手つきで一年生の教育方針を作成するのであった。

 

 

 ◇

 

 

「これは……」

 

 第三闘技場(アリーナ)のピットに集められた生徒たちの前に大型のスクリーンが起動している。

 

「まさか、この短時間でこれほどのテキストをまとめられたのですか?」

 

 闘技場で直に観戦していたジブリルは、頭にまとめていたデータが悉く画面上に記載されていることに驚愕した。中には重要と覚える場面が画像付きで注釈されている。

 

「なに、ちょっと筆が乗ったってやつなのサ」

 

 アリーシャは右目の眼帯を眼鏡をかけ直すように上げて見せた。同時に豊満で大きく開いた胸元が強調される。艶めかしいスタイルがぴっちりと際立つ紅いスカートスーツの上に黒いジャケット羽織った姿は、彼女らしいセクシーさを前面に出した女教師モードだった。

 

 一方のジブリルは学生服姿。OGということもあって調達に苦労はしていないが、卒業後の発育が着古した制服の皺をピチピチに伸ばしている。ついでにスカートもミニが着くほど短く見えた。

 

「ジブリルちゃん、言っちゃあなんだが、それイメクラっぽく見えるのサ」

「しばしご容赦ください。悪友に誑かされたもので」

「あの胸がバイーンなおっとり眼鏡かイ?」

「同級生です。信用した自分が愚かでした」

 

 ジブリルはスカートのすそを必死に隠しながら強がって見せた。

 

「……見るなよ、トミヤ」

 

 頬を赤らめて睨む。対するトミーはドン引きしていた。

 

「見ませんよ。そのスタイルで男性をとっかえひっかえしてきたと思うと……」

「半目で萎えるな! あとその話をほじくり返すな! 地味に傷つくんだぞ!」

「だってご本人がおっしゃったんじゃあ」

「アリーシャ殿! 講義を進めてください!」

 

 周囲のジト目視線から逃げ下がりながら、机に隠れて先を促した。

 

「あいあい、それじゃあ講義を再開するのサ。まずは、せっかく協力してくれた先輩方二人についてといこうじゃないのサ」

 

 げ、とダリルとフォルテの顔色が歪んだ。

 

「フーフーン。自覚はあるようだネェ。お二人のコンビネーションは見事と言っていいのサ。名をはせた『イージス』も見事なものだ。が、注意点はただ一つ」

 

 アリーシャの独眼がギラついた。

 

「舐めプすんな」

 

 叱責を受けた二人は気まずげにこうべを垂れた。

 スクリーン上では撮影された模擬戦が上映されている。

 

 当初、状況は圧倒的に上級生コンビが優勢だった。

 アイリスがいかな第四世代機を扱っていようとも、彼女の腕はまだおぼつかなく、トミーのLSも完全機動を果たしたとはいえ熟練のIS操縦者相手では分が悪い。

 しかもタッグマッチとなっては、付け焼刃にも満たないトミーとアイリスの連携では、心身ともに密接なセンパイカップルに適うべくもなかった。

 

 だが、そこに慢心が生まれてしまった。

 先輩方は圧倒的優勢と見るや、次第にトミー達をもてあそぶような攻めに変わり、本腰を入れた戦いからは外れていってしまったのだ。実力差がハッキリすればそれを覆すことは容易ではない。ましてやISという最先端技術同士の試合なのだから、よっぽどのことでなければ結果は見えているはずだった。

 

 そのよっぽどのことが起きてしまったのは、未知の第四世代IS【セブンス・プリンセス】の実力の発端が覗けてしまったからだ。

 搭載された重力制御装置(グラビティ・コントロール・デバイス)が放たれるや、上級生の繊細なチームワークが一挙に瓦解するほどの威力を発揮した。なにせ空を飛べなくなるほどなのだから与えた混乱は計り知れない。

 地上戦となったあとはトミーの独壇場となり、形成は逆転。

 先輩タッグの敗北はうぬぼれが綻びを生んだ結果と相成ったのである。

 

「言葉を並びたてるつもりはないのサ。――今回のこと、恥だと思え。以上なのサ」

「申し訳ないっス……」

「面目ねえ……」

 

 現役最強(ブリュンヒルデ)からの苦言とあって、思い上がる二人も素直に反省の色を見せた。

 プライドが高い分、自分らへの自戒もハッキリしている。

 

「さて、お次にアイリスちゃんといこうじゃないのサ」

「うむ」

 

 アイリスはまじめな顔つきで背筋を正した。机の後ろに隠れるジブリルはちゃん付けの呼称に、む、と反応したが、学生という身分をわきまえて口をつぐんだ。

 

「戦い方を見て、やはり実力と経験不足が顕著なのサ。けどそれは伸びしろがいっぱいあるということでもある。試合に望む姿勢も悪くない。普段のお前さんの姿とは違ってネェ」

 

 アイリスは表情を緩めない。強気でわがまま放題な性格のお姫様だが、いざ訓練に取り組む際は真面目に熱心に向き合っていた。

 

「特にここなのサ。劣勢でトミー君に庇ってもらっている中でも、なんとか挽回しようと相手の動きを見ようとしているネェ。さっさと諦めちゃうのかと思ったけど、杞憂だったのサ」

「そのような無様な真似はせぬ」

 

 アイリスは毅然と言い放った。アリーシャは嬉しそうに頷いた。

 

 ジブリルには意外だった。ルクーゼンブルクで自分が習い事を教えるときはすぐに飽きて投げ出していたのに、IS学園に来てからは人が変わったようにひたむきだからだ。

 今もアリーシャからの様々な指摘を真剣に受け止めている。

 

(学生という身分にお立ちになられて、身を引き締めたということだろうか)

 

 それとも、とジブリルはちらりとアイリスの隣のトミーを見た。真面目に講義を受けているアイリスを兄のような目で見守っている。

 

 先ほどの試合では、トミーは終始アイリスを庇い続けて攻撃を一身に受けていた。もともと防御に秀でたLSであるが、二機からの攻撃を同時に捌き切れるものではない。シールドエネルギーがじわじわと削られ、それでもアイリスには一歩も手を出させなかった。

 その中で、きっとアイリスは自分の弱さに歯噛みしたに違いない。負けず嫌いなお姫様だ。護られてばかりな状況を受け入れられるハズがない。

 

 認めたくはないが、彼の存在がアイリスに良い刺激を与えているのは事実だろう。本当に、認めたくはないが。

 

「んん~、ジブリルちゃん?」

「は……、ハッ! なんでしょうかアリーシャ殿!」

「さっきからおっかない顔をしちゃってどうしたのサ」

「あ、いえ、別に、なんでも、ありません」

「ふ~ン。じゃあ、トミー君の話に移る前にちょいと質問なんだけどサ。試合中の彼の動き、どう見るかナァ?」

「は」

 

 ジブリルは探るような視線のトミーと目が合った。彼なりに意見を期待しているようだ。

 ふむ、とジブリルは思考にふける。観戦で感じた意見はアリーシャが挙げた注釈に載っているので、改めてこれといったものはほとんどない。

 が、

 

「……攻撃面に置いて、今一つ出し切っていないように見受けます」

 

 ほう、とアリーシャは目を細めて口角を上げた。

 

「防御においては絶対に守り切るという断固たる意志を感じました。私も護衛任務を多く任されておりますので共感できる節があります。しかし、いざ攻めるとなると非情になり切れない。そう思います」

「具体的には?」

「状況が覆った際の降伏勧告と、姫様の『重力爆撃(グラビトロン・クラスター)』が決まった瞬間トドメを刺さなかったところです」

部門優勝者(ヴァルキリー)の名に違わぬ見聞をお持ちなようだネェ」

 

 アリーシャはジブリルの指摘箇所をディスプレイに挙げてトミーに向いた。

 視線が再びきつくなる。

 

「トミー君、どうして手を抜いたのかナァ、戦いに勝ちたくはないのかナァ?」

「そ、そんなことはありませんし、手を抜いたつもりもありません」

 

 トミーは真剣に否定する。

 

「僕は、こと戦いには全力で臨んでいるつもりです。手を抜くなど、相手への非礼に当たります」

「どうかナァ。たぶん、私やジブリルでもなければ見えなかっただろうけどサ。こう経験を踏んだ眼でみてしまうと、瞬間、一拍のズレが分かってしまうものなのサ」

「……、僕は、そんな気を遣う余裕を持って戦っていなかったと、自覚しています」

 

 アリーシャの鋭い眼光が、左目一つからとは思えないほどの威圧を放った。戸惑いがちなトミーはまともに受けきれず一歩引き下がる。

 

 その様子に、アリーシャは一つ息を着いて集中を解いた。

 嘘を着くことも虚勢を張ることもしない少年に、我ながら大人げないと思ったからだ。

 だが、と彼について教わった話を思い出す。ブリュンヒルデの立場上、周囲から『ISの敵』と目され調べられたLSパイロットについて情報だ。

 

(どうやら、リミッターが付けられているのは本当なようだネェ)

 

 トミーの戦い方を見て確信した。

 彼は、自覚のない部分において容赦している。

 

 以前、彼が無人機と戦った時のデータを、あらかじめ見ていたアリーシャには今回の対人戦が若干劣っていると見ていた。

 シミュレーションでのプレーが実戦でもこなせるわけではないのだが、彼の場合IS学園やルクーゼンブルクで無人機相手に実戦を経ているのだからてきめんに実力が変わるのはおかしい。

 となると、

 

反女尊男卑主義組織(オールド・ファッション)。何か細工をしているナ)

 

 彼を作り上げた反女尊男卑主義組織(オールド・ファッション)はその主義主張故にISを受け入れない。

『相応』の力は求めても『同様』の力は求めない。女性の力の象徴にすがって男性の力を復権するなど彼らの矜持が許さないからだ。

 

 しかし時が過ぎること十年、女尊男卑は覆ることもなく世を席巻してく世情を見て、もはやいかんともしがたいとなりふり構わなくなったのだ。

 そして生み出されたLSと(にのまえ)十三八(とみや)だが、本質的に信用しきっていないのだろう。故に限界(リミテッド)を付けられている。

 

 彼はよく調教されている。従順で、まじめで、礼儀正しい。そして戦いでも非情になり切れない。

 それはきっと、彼に与えたISの力を恐れ、何か間違いが起きないようにあえてそういう性格に造り上げたのだ。

 

 もしそのタガが外れるような場合があるとすれば……、

 

(トミー君の殻を脱皮した何者かに生まれ変わったりするかもネェ)

 

 アリーシャは昂るものがあった。

 

 もし自分の教育によってトミーが真の力を取り戻し、はめられた首輪を引きちぎることができたとしたら。

 そしてその力が飼い主によってではなく、彼自身の意思によってふるわれるとしたら。

 一人の生徒を心身ともに独り立ちさせて大人という個人に成長させる。

 それは、教育者の本望と呼べるものではないだろうか。

 

 アリーシャはドキドキとワクワクが滾ってくるのを抑えきれなかった。

 

「――よし、それじゃあトミーくん、君はこれから特別メニューを……」

 

 そうレシピを渡そうとしたとき、ピットのドアが勢いよく開かれた。

 息を切らせて現れるのは数学を担当する女性教員。エドさん、だっけ? とアリーシャが名前を思い出せないでいると、

 

「た、大変ですっ! アメリカの、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が……!」

 

 口に上がった名前を聞いたダリルは目を見開いた。他でもない祖国が技術の粋を集めて作り上げた最新鋭試験機の名前ではないか。

 

「エドワース先生、ウチの銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)がどうしたんだ!?」

 

 心配そうに見上げる隣のフォルテの目には、いつも自信にあふれた恋人らしからぬ戸惑いの色がハッキリと見て取れた。

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