リミテッド・ストラトス   作:フラワーワークス

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55話 夏のBeachに悪ノリGirls

「海へ、ですか?」

「ああ」

 

 職員室に呼び出されたトミーとアイリスに向けて、千冬はコーヒーカップをソーサーに置きながら言った。

 

「補講も無事に終えたようだしな。お前たちだけ臨海学校を体験できないのも寂しいだろう」

 

 千冬のデスクにはトミーたちの答案用紙が広がっている。採点結果は上々で、備考欄には補講を取り仕切っていたアリーシャの太鼓判も押されていた。

 ついでに、

 

「真面目に頑張った生徒たちにご褒美を上げてもバチは当たらないんじゃないのサ」

 

 と絵文字付きで(ねぎら)いの要望が添えられていた。

 読み上げた千冬は、あのアリーシャがなかなかどうして生徒思いなものだ、と苦笑を禁じ得なかった。  

 

「そ、そ、それはわらわとトミーだけで行けるというのか!?」

 

 アイリスが身を乗り出して問いかける。

 二人だけ、というのは、お付きのジブリルは先だって祖国に戻っていて不在だからだ。アイリスから離れてしまうことに大層不満を持っていたが、公家(こうけ)の命とあればしょうがない。

 おかげでアイリスは悠々と羽を伸ばせる状態だった。

 

「そんなわけがないだろう馬鹿者」

 

 千冬は身分の隔てなく切り捨てる。

 

「クラスメイトの専用機持ちたちも一緒だ。当然引率(いんそつ)も付ける。若い身空の男女を勝手にさせる訳があるか」

「ぐぬぅ」

「引率はともかく、一夏たちも一緒なんですか」

 

 トミーは嬉しそうに言った。まあな、と千冬は応じる。

 

「あいつらは臨海学校の際、イレギュラー対応もあって負担をかけたからな。これくらいのサービスはくれてやってもいいだろう。とはいえ、私たちの目がないからと言って、あまり羽目を外しすぎるなよ」

「む? 織斑先生たちが引率者ではないのか?」

「ああ。私もアリーシャもこれで忙しい身なのでな。今回は特別講師に来てもらうことにした。せいぜい可愛がってもらうといい」

 

 千冬は意味深な笑みを浮かべる。

 トミーとアイリスは戸惑いがちに視線を合わせた。

 とはいえ、諦めていた臨海学校へ行けるのは嬉しい。

 交わされた表情は自然と笑顔に変わっていった。

 

「ありがとうございます、織斑先生」

 

 教え子たちからの感謝の言葉に、千冬はコーヒーをすすりながら手を振って応えた。

 

 

 ◆

 

 

 青い空。

 碧い海。

 光る砂浜に、駆け回る水着の乙女たち。

 

「これぞっ、夏ってやつじゃない!」

 

 鈴は拳を掲げて歓声を上げながら海に飛び込んでいった。

 

「待ってよ、鈴~。ほら、一夏もいこっ」

 

 鈴の後に続いて、シャルロットが一夏の手を引いて波打ち際に走っていく。

 

「ちょ、待ってくれよ二人とも!」

 

 一夏は足をもたつかせがらも着いてき、海に入ると同時に鈴から海水をかけられた。

 

「わっぷ!? やったな~鈴!」

「きゃははっ! かかってきなさいよ一夏~!」

 

 バシャバシャと水を飛ばしあう二人に、シャルロットは一夏に加勢する。心なし鈴に詰め寄って。

 

「鈴、今わざとやったね?」

「な~んのことかしら~」

「とぼけちゃって。せっかく自然な流れで手をつなげたっていうのに」

「抜け駆けなんてさせないってのよ。そらっ、今度は追いかけっこよ!」

 

 元気よく泳いでいく鈴に、一夏は童心に帰ったようにはしゃぎながら追いかけていった。

 

「へへっ、泳ぎなら俺の方が早かったんだぜ」

「そんなの中学時代の話じゃない。……ってシャルロットはや!?」

「はいタッチ! 今度の鬼は僕だよ。一夏、捕まえにおいで」

「ちょっと、そういうルールなの~!?」

 

 鈴は不平を笑いながら飛ばして泳いでく。

 一夏もシャルロットもはじけるような笑顔で海と戯れていた。

 

 そんな青春の1ページを、浜辺から睨み付ける妙齢の人物がいた。

 こめかみに青筋をあげながら腕を組み、周囲の者たちにプレッシャーをビシビシ飛ばしている。

 

「ふ、フフフ……、織斑姉貴(ネキ)、躾がなっとらんちゅうねん」

 

 IS学園組とは別に、箒と、彼女の剣道仲間である四十院(しじゅういん)神楽(かぐら)と一緒に現れた女性だった

 何者かをトミーは知らない。一緒にビーチパラソルとレジャーシートをセッティングしている箒に、さりげなく囁くように聞いてみる。

 

「ねえ箒、あの人、引率さんだと思うけど、どちらさん?」

「ああ、紹介がそびれてしまったな。あの人は……」

「――ホウキだ」

 

 トミーのひそひそ話に箒が応じるよりも早く、ラウラが応えた。

 

「や、ラウラ、そりゃあここにいるのは箒だけど」

「そうじゃない。あいつはホウキだ」

「ええっと……?」

「まさか、直に訓練を受けたというのか? 箒、四十院」

 

 名を呼ばれた二人は、何やら誇らしげな笑みを浮かべて視線を合わせてから、同時に頷いてみせた。

 そのやりとりがトミーには不思議であり、またラウラの話についていけなくて目をパチくりさせている。

 

「こぉらああーー! みんな戻ってこんかーーい!! まだ自由時間とちゃうんやでーー!!」

 

 爆発した新顔の姉さんが、ウガー! と両腕を突き上げて海に駆けていく。

 が、一夏たちのもとにたどり着く前に、

 

「うっひょーー! 海、気持ちええーー!」

 

 彼女も海の魅力にほだされて白波の中に飛び込んでしまった。

 

「ホントに、誰なのさ……?」

 

 トミーはあっけにとられた様子で、ただ成り行きを見つめていた。

 

 

 ◇

 

 

「ウォッホン! えー、本日はお日柄もよく、って開会のあいさつちゃうわっ。……あー、みんな、夏休みで海に来たからって羽目を外しすぎちゃアカンで」

 

 ひとしきり一夏たちと海を堪能した新参者は、取り繕うように咳払いをすると堂々と岩の高場から見下ろして言った。

 対する一同の視線は冷たい。さんざん遊んでからなに仕切ってんだこの人? という疑問と不信が混じっている。

 

「はい、質問よろしいでしょうか」

 

 トミーが挙手をして尋ねる。

 

「いきなり飛ばすな兄ちゃん。まあええよ、どしたー?」

「あなたはいったいどちら様なのでしょうか?」

 

 生徒たちの大半が思っていたことを代弁する。 

 

「あれ、ウチの自己紹介まだやったっけ、箒ちゃん?」

「わ、私に話を振られても困ります」

「名和さん、いつものように『ごーいんぐ☆まいうぇい』を爆走してらっしゃいますよ」

「あっはっはー、なんや神楽ちゃん分かっとったんなら止めてーな。んじゃ、改めて」

 

 そばかすが特徴的な頬にえくぼを浮かべ、二カッと八重歯をのぞかせながら、狐目の女性は控えめな胸を張った。

 

「本日からキミらのまとめ役を任せられた名和おねーさんや。よろしゅうな。あ、キミらの名前とお立場はちゃんと聞いとるから名乗りは省略してええで」

「はい。これでは名前しか話していませんので、私から補足いたしますね」

 

 神楽が一つ手を叩いて丁寧に説明してくれた。流れるようなノリの良い調子が名和との付き合いの長さをうかがわせる。

 

 内容は端的で、

 IS学園のOG、つまり先輩であるという立場。織斑先生と面識があり、生徒たちの面倒を直接頼まれたという役割。先日まで神楽と箒の指導を受け持っていたという状況。

 というように、自分たちに近しい存在であることを強調しているような紹介だった。

 

 さあっすが神楽ちゃん! とグッジョブする名和に、ラウラが、

 

「それだけではないだろう」

 

 と詰め寄った。その隻眼はわずかに鋭い。

 

「日本が誇る最精鋭IS部隊『三木一草』が一画、ホウキ。名和という名前も由来となった者からの借り物か」

「なんやそんな堅っ苦しい言いかたせんといてや。ドイツ国防軍最強のIS配備特殊部隊『黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)』隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少・佐!」

「…………」

「返事せんのかい、怖いなー。大昔は同盟組んでたお国柄やで。お互い仲良くしようや。あ、名和って名前は芸名みたいなもんやで。今の代の生徒会長ちゃんみたいにな」

 

 楯無さんみたいに? と首をかしげるトミーを置いて、

 

「あの、名和ってひょっとして、名和商事様の身内の方ではありませんこと?」

 

 とセシリアの問いかけた。名和は「大当ったりー!」と大げさに答える。

 

「やー、オルコット・グループ様にはいつもご贔屓にさせて頂いてますわ。しかーし、今はお目付け役という立場。ここであったことは商売抜きで、どうかひとつ穏便に」

「ええ、それは、構いませんが」

「デュノア社のご令嬢様もな。お父ちゃんは達者かい?」

「……それなりだと思います」

 

 困惑気味なセシリアと、ややトーンダウンしたシャルロットが適当に応じる。

 

「おいおい、二人とも知り合いなのか? というか名和商事って名前は聞いたことあるんだけど、いったいどんな会社なんだ?」

 

 一夏の問いかけに、シャルロットは無言。しょうがなくセシリアが答えた。

 

「名和商事さんといえばIS関連業界でも有名な企業です。倉持技研の陰に隠れがちですが、研究・開発ではなく流通という面では世界規模のネットワークを展開していらっしゃいますの。むしろ名和商事さんの流通網があればこそ、倉持技研がISのトップシェアを誇っていると言っても過言ではありませんわ」

「へー。あんま庶民には馴染みないけど、でっかい会社なんだなぁ」

「直接お会いするのはわたくしも初めてですが、まさかIS学園のOGさんだなんて思ってみませんでしたわ」

 

 むふふーん、と名和は鼻で荒く息まいた。

 

「やーん、おべっかはその辺にしといてえな。くすぐったいわ。これからおっぱじめる試合に影響及ぼしかねんて」

「試合?」

「せや。みなさんにはこれからIS使(つこ)うたサバゲーをしてもらいます。まあ、ペイント弾での模擬戦やな」

 

「目的が見えないな」

 

 ラウラは不満気に一歩前に踏み出した。

 

「今日はトミヤたちへの慰労を兼ねた休暇と聞いている。仕切り役を任されているとはいえ、せっかくの休日を壊すような真似はやめてもらおう」

「ら、ラウラ。ちょっと口が過ぎるよ」

「懸念無用だトミヤ。ホウキの傍若無人さは筋金入りだからな。直接言わなければ常識も通じん」

 

「おーおー、織斑姉貴(ネキ)直伝のブラコンは揺るぎないねえ。それともさっきからの突っかかりを見るに、個人的なやっかみかな? ――国際親善試合でメタメタにされたことへの」

「キサマ……!」

 

 ラウラはいきなりISを展開させた。さらに眼帯を外す様子を見るにガチで頭に血が上っている。

 

「待った待った! ちょっと落ち着いて二人ともっ。何があったか知らないけどこんな場所で喧嘩はやめてよ!」

「はい、名和さんも挑発しないでください」

 

 トミーと神楽が間に入って双方をとりなした。

 特に神楽の抑え方は、

 

「ちょっと大人げなさすぎではありませんか?」

 

 はんなり笑顔に真黒な影を作って凄味を利かせたたしなめで、勇名を馳せる名和をしてたじろがせる気迫が籠っている。

 

「か、堪忍してや神楽ちゃん。そんなけったいなマネせえへんて……」

「だいたい模擬戦の内容もお粗末です。ペイント弾の使用、つまり銃撃戦を想定した試合ということですね? その場合ですと一夏さんのように刀剣を駆使する様式の方には不都合ではありませんか。加えてお聞きしますが、勝負は個人戦ですか? 団体戦ですか? 団体戦の場合、特殊な仕様のトミーさんや一夏さんの扱いはどうなさるのか考えおられますか?」

「ちょ、ちょ、ちょ! 待って、神楽ちゃん、待って!」

「待ちません。私、今日は海へ遊びに行けるのを楽しみにしていたのです。それが、模擬戦、ですって? 私のこれまでの期待を、ねえ名和さん? どうしてくれるんですか、ええ?」

 

 神楽の表情は微笑。ただ微笑。

 着飾る水着は巫女さんを模したような和風スタイルで、一見おしとやかな大和撫子を思わせる四十院神楽。

 だが、般若の面をかぶった大将軍が守護霊にいるのではないかと感じるほどの威圧感が、

 

「う、ウチにどないしろ言うんですか!?」

 

 と名和から主導権をもぎ取ってしまう。

 

「はい。それでは、これからは私が名和さんの代役を務めましょう。不本意ですが、ちゃんと試合も行います。ええ、ほんっとうに不本意ですが、やるからには皆さんが楽しめるようなものにいたしましょう」

 

 いいですね、みなさん?

 と笑顔で振り返る神楽に逆らうものはいなかった。

 

 

 

 神楽が提案した模擬戦は、二チームに分かれての旗取りゲームだった。

 各チームがそれぞれ一つの旗を持ち、それを先に奪った方の勝ち。

 旗はメンバー内で回してもよい。

 ISの使用は銃・剣等の武装以外すべて可。

 相手メンバーへの妨害も可。

 

「どうせ絶対防御とシールドがあるのですから目いっぱいやりましょう」

 

 と暗にトラブル上等発言をぶっこむ神楽の顔は、やっぱり笑顔。

 範囲も定め、内容は各ISに送信されている。範囲外に出たチームは負け。

 

 ルールを一通り聞き終えたセシリアは、

 

「キングがフリーなチェスのようですわね」

 

 と感想を口にし、?マークを頭の上に幾つも作っていたアイリスが「おお!」と納得した。

 神楽はさらに「トミーさんと一夏さんは別々のチームでお願いしますね」と取り決める。

 

「何でだ?」

 

 と確認する一夏に、当然じゃないですか、と神楽は応じた。

 

「トミーさんが旗を拠点防衛兵装(フォートレス・ガジェット)内に置いてしまったら、一夏さん以外に対処できないですもの」

 

 ああー、と皆が納得した。

 確かに一夏の『雪羅』ならば、強力なエネルギーバリアを展開する拠点防衛兵装(フォートレス・ガジェット)でも突破できる。

 というか、そうでもしなければ破れないため、二人が同じチームになるとゲームが決まってしまうのだ。

 

「……なんで名和さんも感心しているのでしょうね?」

「えっ、や、か、神楽ちゃん頭ええなーと思うて」

「まさか、選手分けで考えていなかったなどとは」

「思うてませんっ! ちゃんと試合の流れを想定します、はい!」

「結構です」

 

 なんとなく二人の力関係が透けて見え、特に箒の神楽評が大揺れに揺れていた。

 やだ、私の剣友、強すぎ!? 

 ニュアンス的にそんな感じ。

 

 神楽はさらにチームメンバーを割り当てる。

 

 イ・チーム【一夏、箒、セシリア、シャルロット、神楽】

 ロ・チーム【トミー、鈴、ラウラ、アイリス、名和】

 

 チームごとに並んで立つ面々を見て、鈴は、

 

「ん? んー……、んん? んん~!? あれあれ~?」

 

 と神楽に詰め寄った。

 

「どーゆーことかな神楽ちゃーん? これ、意図的でしょ? 意図的だよね? あえてこのチーム分けしたよねアンタ!?」

「さて、何のことなのか私にはさっぱり」

 

 あぁ、とトミーは察したように声を上げる。

 

「鈴、一夏と一緒じゃないからってスネてるんでしょ。IS学園でのトーナメント戦といい、毎回一夏と戦う羽目になっちゃってるからね」

「なんだ鈴、そうなのか? 意外と可愛いとこあるな。俺とトミーで交換しようか?」

「違うってえの!! あ、いや、でも一夏が言うのも違わなくも……。 ……いや! やっぱり納得できんわこれー!」

 

 再び鈴がヒートアップした。

 シャルロットは、

 

「一瞬すごいクールダウンしたね。あの発言はちょっとヤバかったと思ったよ。でもオンナの意地が勝っちゃったか」

「シャルロットさん、抜け目ありませんわね……」

「セシリアもあわよくばと思ったね。鈴が恋愛脳じゃないことにガッカリしすぎだよ」

 

 観戦している外野でも一喜一憂が巻き起こる。

 そんな中で、

 

「アンタだってそんなにある方じゃないじゃない!」

 

 と鈴が言ってはいけないようなことを口走ってしまった。

 

「……はい?」

 

 現場の空気が一瞬にして凍り付く。震源は笑顔の般若武者。

 

「ちょちょちょ!? 鈴ちゃん気は確かかい死ぬ気かいな!?」

「よせ鈴っ! 私も深淵は知らないが、今の発言は本気でマズイ! 奈落におちるぞ!?」

 

「セシリア、僕はこの場を離れるべきだと思うのだけど」

「シャルロットさん、わたくし達が離れたらさらに炎上してしまいますわ」

 

「なあトミー、神楽さんにあって鈴に無いものって何だ?」

「一夏、見ざる聞かざるで触らぬ神に祟りなしだよ。たぶん何か発言したら火にガソリンをくべることになりかねない」

 

「わらわとて、あと数年すれば、あるいは……」

「アイリス、トミヤは持つ者と持たざる者に公平でわけ隔てない。気にする必要はないぞ」

 

 

 巻き起こる喧騒に、もはや収集が付かなくなっていた。

 

 

 ◇

 

 

 そんなカオスのただなかを、遠目に見る二つの陰がある。

 一人は持たざる少女で、一人は持つ者の大人の女性。

 

「私が入るとしたら、トミーくんと一緒のチームですね」

 

 少女は苦笑しながら言った。

 

「おや、怒らなのかい? 清香ちゃん」

「複雑ですが、今だけはラッキーって思っちゃいますよ」

「乙女だねえ。まったくホウキは何やってるんだか」

 

 大人の女性は、やれやれ、と糸目を長くする。

 

「クスノキさんは、一夏くんのチームですね」

「そうなるのかねえ。まあ、ホウキの面倒はアタシがみるから、思う存分稽古で身に着けた力を発揮してみせるがいいさね」

「本当にありがとうございます。このISの初お披露目ですね。そういえば、名前は何でしたっけ?」

 

 クスノキは自分の豊満な胸元にあるエンブレムを指さした。描かれているのは、

 

「【菊水】、【打鉄・菊水】。アタシが選んだ子にだけ与える特注の【打鉄】さね。誇ってほしいな」

 

 相川清香はくすぐったそうに微笑むと、感謝と共に(こうべ)を垂れた。

『三木一草』筆頭のクスノキの師事を受けて、今の自分はこれまでとは違うのだという自信と自覚がみなぎっている。

 あとはあの場所に駆けつけるだけだ。

 

 だが、場がもう少し落ち着いてからにするとしよう。

 自分の高ぶりを抑えるのにも、ちょうどいいインターバルだった。

 

 

 

 

 

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