リミテッド・ストラトス   作:フラワーワークス

63 / 79
56話 先輩の視点

 ISを展開し、上空から戦況を俯瞰(ふかん)する名和は腕を組んだままうなっていた。

 

「アカンわ今期の後輩ら、金の卵ぞろいやん」

 

 彼女が頭部に展開するバイザー内では、10人の生徒たちすべての動きが個別の画面に分かれて表示されている。

 

 イ・チーム(一夏、箒、セシリア、シャルロット、神楽、クスノキ)ではセシリアが自軍の旗を持ち、強襲用高機動パッケージを展開して圧倒的な速度で逃げ回っていた。

 エスコート機にはシャルロットが追加ブースターを展開して随伴している。

 セシリアの機動センスとシャルロットの連携技術は、同年代どころか大人顔負けの腕前をみせていた。

 

 チームのオフェンスは一夏と箒。

 希少な二次移行(セカンド・シフト)を起こした【白式】と、世界で二例しかない第四世代機【紅椿】は、破格のポテンシャルをもって怒涛の攻勢をかけている。

 機体の性能もさることながら、

 

「なかなか乗りこなしてるやない」

 

 オーバースペックに振り回されないでいるだけでも二人の成長がうかがえた。なにせ一夏は今年ISに乗り始めたばかりの素人同然なのだ。それに箒も名和のレッスンを受けるまでは馬力に任せた操縦しかできなかったのに。

 

「さっすがウチの指導力、箒ちゃんメキメキ上手くなっとるやん。一夏くんもええやない。織斑姉貴(ネキ)喜ぶやろなあ」

 

 そして一夏と箒のフォワードと、セシリアとシャルロットのディフェンダーの間で、神楽は両者のつなぎ役として遊撃していた。

 神楽が駆るのは量産型IS【打鉄】のカスタムタイプ【打鉄・北辰(ほくしん)

 船乗りが天測航法で頼りにした北極星の別名を異名とするように、【打鉄・北辰】は皆を導く早期警戒管制機、すなわちAWACSとしての機能に特化していた。ISは基本的に同様の仕様を持っているが、それを先鋭化させ運用を可能とすることで量産機の発展的なバリエーションを達成したのだ。

 

 その機体の真価は、ほかならぬ名和自身が現在運用していることで有益性を表明している。

 

「で、さっきから隣でなに一緒に観戦しとんねん、クスノキ」

 

 名和はバイザーを外すとジト目を向けた。クスノキは飄々とした糸目の表情で受け流す。

 

「いやあ、なに。今年の新入生はみんな優秀だなあってさ」

「んなこた織斑姉貴(ネキ)から送られたデータ見たらわかるやろ」

「資料以上の腕前さね。そりゃあ清香ちゃんが発奮してアタシのところへ勉強に来るのも頷けるもんさ」

「清香、ああ相川ちゃんな」

「キミの目から見てどうだい? 名和(ホウキ)

「クスノキが目をかけただけはあるわな」

 

 名和(ホウキ)はバイザーを再装着すると、クスノキが視線を向けるロ・チーム(トミー、鈴、ラウラ、アイリス、名和、相川)に視点を移した。

 

 ロ・チームはイ・チームのようにポジション分けをするのではなく、全員が一丸となってフォーメーションを組んでいる。

 理由は、ロ・チームのメンツは状況が整えば戦いを決められる技能を持つ者がそろっているからだ。

 

 個で相手の動きを封じるラウラのAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)

 面で制圧するアイリスの重力制御(グラビティ・コントロール)

 そして地上戦で無類の強さを誇るトミーのLS(リミテッド・ストラトス)

 

 これらの脇を、【甲龍(パワータイプ)】を運用する鈴と【打鉄・菊水(ガードタイプ)】を活用する相川がカバーし、旗を持つトミーを中心にガッチリと陣形を敷いていた。

 

 一夏と箒が攻めあぐねているのも、一瞬のスキが必敗につながる技への警戒と、接近戦に強い鈴の牽制、そして鉄壁ともいえる相川の防御のためだった。

 

「菊水与えたんは太っ腹すぎやと思うでホンマ」

 

 名和は呆れたような口調で言った。クスノキは鼻で笑う。

 

名和(ホウキ)だって北辰あげているじゃないかい」

「それはええのよ。配備されたばっかで実践の数積ませたいしな」

「アタシも同じさ。最近倉持技研に依頼した試験機が続々と届いててねえ、テストが間に合わない状況なんだよ」

「【打鉄】のリニューアル展開多いからなあ。こないだIS委員会で告知された技術統合計画、影響受けてるらしいで」

「各企業の既存技術が共有され、篠ノ之束の先鋭的な技術が配られたっていうあれだろう? 世界的にIS研究が底上げされているみたいだねえ」

「お(かみ)で何ぞあったらしいやん。あの菊水の新兵装とか、他所(よそ)様で見たことある気がするわ」

 

 名和がバイザー内で相川の姿をクローズアップさせた。

 

 相川が駆る【打鉄・菊水】の特徴は三機の盾形非固定浮遊兵装(アンロック・ウェポン)、『指呼(しこ)三楯(みたて)』と呼ばれる固有装備にあった。

 三つの盾にはそれぞれ他国の技術が流れている。

 LSの非固定浮遊兵装(アンロック・ウェポン)に備えられたバリアシールドを流用した『大盾(おおだて)

 フランス製ISが運用するパイルバンカーを内装させた『突盾(つきだて)

 ドイツ製のプラズマブレードを発生させる『角盾(かくのだて)

 

 他スラスターや装甲にも様々な既存の技術が使われ、いわば【打鉄・菊水】は同世代の粋を集めた第二世代最終形態というべきシロモノに出来上がっていた。

 

「ま、既製品をハイブリッドによって延命させたようなものだよ」

「所詮は第二世代機やからなあ。いうて舶来モンを取り入れたんは英断やと思うで」

「それなんだけどねえ? アタシは商売に疎いからよくわからないけど、企業にとっては自社の技術が持ってかれるのってまずいんじゃないかなあ」

「普通はそうやな。けどIS研究ってぶっちゃけ篠ノ之束のぶっちぎり状態やん? どうせ周回遅れの技術なんやから、使用料かけて技術供与するんはかまへんらしいで」

「なるほど。それならチグサもこだわらずに受け入れた方が良いと思うんだけどねえ」

「アイツの【打鉄(あらため)】なあ。日本の技術のみで仕上げたいっちゅう縛りゲーしとるアレやろ? あの石頭の国粋主義はなんとかならへんもんかいな」

 

 むずかしいだろうなあ、とクスノキは苦笑を漏らした。

 (わろ)てる場合かいな、とツッコミを入れる名和の顔は、かわらず試合に向けたまま。

 

 状況は変わらず、イ・チームは攻めあぐねつつも旗を堅持し、ロ・チームは防ぎつつも攻略の糸口を見いだせないでいる。

 膠着状態の戦況は、観戦者側に選手たちの実力を推し量る絶好の機会となった。

 

「なあクスノキ、あんさんの目で後輩らの強さ、順序つけるとしたらどう見る?」

「まあ順当にいって、最下位はトミヤくんだね」

「ありゃしゃあないわ。飛べへんのやさかい」

「続いて下から順に、神楽ちゃん」

「どう見ても指揮官か官僚向きやからな。前線出張るよか参謀やるか、政略と謀略がお似合いなイイ性格しとるわ」

「次は、悪いけど清香ちゃんだなあ」

「あの子は神楽ちゃんと逆で兵隊さんタイプやね。代表候補生に選ばれるには実力と出自が惜しいんやけど、それがかえってお呼びがかかりやすいちょうどいいポジションやんな。代表関連は他国(よそ)の目もあって使いどころに困るわ」

「あとの子たちは……、正直ダマになっているかなあ」

「ほ? 代表候補生に、最新鋭機に、二次移行(セカンド・シフト)機。どれか抜きんでているでなく?」

「総合的に見てあまり変わりはないさ。ISは上になるほど機体と操縦者が一心同体。なればどちらかだけが良くてもダメだし、今後の成長次第でいくらでも変わるからねえ」

「なるほどなあ。ま、クスノキくらいからしたら多少の違いも誤差のうちかね。……ん?」

 

 名和の見る先、アイリスがトミーに接触しているのが見えた。

 ラウラが二人に叱責をあげている。フォーメーションが崩れるのだから当然だろう。しかしアイリスは構わずトミーの隣に降り立ち、何やら【セブンス・プリンセス】の能力を使っている。

 ユニコーンの頭をかたどった杖を掲げ、彼女の周囲が重力変化の影響かボヤけていく。

 

「なに拝んどるんやろ?」

「どうやら何かおっぱじめるみたいだねえ」

 

 どの道、ゲームはこのままではらちが明かない。現状を打破するような仕掛けだろうか。

 二人の期待が籠った視線の先、

 

「ああ、重力制御(グラビティ・コントロール)かいな、見えんようになってしもた」

 

 光を曲げるほどの力場が発生しているのか、二人の姿が隠れていく。

 

 そして、

 

 ピピーーーーッ!!

 

 と汽笛が鳴った。

 あらかじめ旗が取られたとき用に仕込んでいたゲームセットのアラームだ。

 

「は?」

「ん?」

 

 二人の視界では、一夏も箒もトミーに接敵できていない。

 となれば、セシリアの旗が奪われたことになる。

 

「まさか……!?」

 

 クスノキは名和を振り返った。彼女の【打鉄・北辰】ならば全生徒を観察できているはずだ。

 何が起きたのか?

 名和はバイザーを外すと、呆けたように言った。

 

「トミヤ坊、瞬間移動かましよった」

 

 あ~、とクスノキは苦笑を漏らす。

 

「なに(わろ)とんねん! つか、はあ!? アイリス姫様ワームホールこしらえよったで!? だいたいトミヤ坊もなに瞬間移動してフツー行動できてんねん。機械かワレは!」

 

 ゲームエリアの端ではセシリアの持つ旗がトミーに奪い取られていた。

 後ろから襲われたようで、覆いかぶさられた格好は強引に抱きしめられているように見えないでもない。

 セシリアの表情はなぜか負けたのに満面の笑顔。 

 

「なるほど、越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)、か」

 

 クスノキは呟くように言った。

 彼の越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)は突然変異もので、世界を電子データの集合体のように捉えられるという。それならば、瞬間移動後も自機を見失うような「酔い」を受けずに済むのだろう。

【セブンス・プリンセス】も重力を操るとは聞いていたが、まさかワームホールを発生させるほど芸達者だったとは。

 

「チグサ、キミの予想、まんまと大当たりみたいだよ」

 

 眼下の会場では、鈴がとりあえず勝利に沸き立ち、勝ったのにもかかわらず、なぜかラウラとアイリスと相川が不平を騒ぎ立てていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。