艦娘になって、空母になって、配属された鎮守府。そして私の先輩の加賀さん。加賀さんは小言が多い厳しい先輩、そう思っていた。
※喫煙描写があります、ご注意下さい
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迷子の言葉

 正直に表現すると第一印象は最低の先輩だった。

 

 艦娘となって、この基地に配属されて、それで先輩方や基地の兵士達に挨拶をした。皆「がんばってね」とか「空母か、頼りがいがあるな」と言ってくれた。空母……海上では戦艦と並んで艦娘の花形だ。戦闘機は群がる敵機を叩き墜とし、急降下爆撃は敵艦に損傷を与える。必殺の航空魚雷は戦艦ですら撃沈することが可能だ。守るのも、攻めるのも、偵察だってできる。

 

 『空母になれた』『基地の皆が歓迎してくれる』、だから私は少し有頂天になってたのかもしれない。そんな私のテンションを下げてくれたのがあの先輩だった。空母、いや基地の艦娘の中でも古参、華やかな武勲、凛とした顔立ち。私が艦娘になる前からも知っていて、記録写真集なんかも持っている。かっこいい理想の空母艦娘だった。

 

 一通り挨拶して回ったが、あの人だけ見あたらず、基地のあちこちを探して歩いた。寮、射場、ブリーフィングルーム、食堂。諦めて後日出直そうと歩いていた時、司令部庁舎の階段で偶然すれ違った。

 

 「あ、加賀先輩。今日から配属されました瑞鶴です。よろしくお願いします!」

 

 写真の通り綺麗な人だった。ああいったプロパガンダは美人に、カッコよく、強そうに撮る物だが、この人はそんな小細工いらないんだなって感じた。なんか絵画のモデルさんとか似合いそう。そして赤城先輩も、二航戦の先輩方も、喫煙所に入り浸っててちょっと怖かった龍驤先輩も、笑って迎えてくれた。この人もきっと……そう思ってた。

 

 「……そう」

 

 一瞥した加賀先輩はただそれだけしか言わなかった。

 

 

 

 

 海上自衛軍での先輩と後輩の関係というのは、一般の学校のそれとは大分異なる。学校では1年経てば一番上の先輩はいなくなり、同時に後輩ができて晴れて自分も『先輩』だ。だが軍隊では除隊するか、考えたくはないが死にでもしない限りずっと先輩は先輩のままだ。配属されてから大分経過して、私も一端の空母になった。だが中々この基地に空母の後輩は配属されず、いつまでも私はひよっ子の扱いだった。

 

 せめて姉妹艦である翔鶴姉でもいれば、気の許せる人になったかもしれない。でもいつまで経ってもこの基地に姉は配属されず、万年後輩であり、友人と呼べる人も少なかった。

 

 出撃と訓練の日々が続く。私もそれなりに腕を上げたと感じていたが、先輩方はそれ以上に強くなっていく。走っても走っても追いつけないもどかしい想い。募る焦燥感は判断を、手元を狂わせ、任務や訓練での小さなミスを誘発させる。その度に先輩方を失望させているんじゃないかと怯えてミスを恐れてミスをする。学生の頃の部活でもあったな、まさしくスランプだ。

 

 初心を思い出そうと艦載機を飛ばすのではなく、本物の弓と矢で自らを集中させようと弓道場へと来た。弓は小手先の技術で当てるのではないと良く指導されている。弓道は武道の1つであり心身を共に高めるための鍛錬と競技が合わさった物だ。

 

 もちろん艦娘は深海棲艦を水面の底に叩き落としてやるためならなんでもいい。わざわざ形式や形に拘る必要など無いのだ。ボウガン、式神の発艦方式も試したが、結局弓と矢が自分には合っていた。功を焦る自分には研ぎすませた心が必要な弓式が一番だ。なのでこうして射場に立っている。

 

 的を見据え射位に入る。背筋を伸ばし矢を番え弓を構える。矢を番えた弓を高く掲げる。「瑞鶴は打起こしで力が入りすぎちゃってるね」という蒼龍先輩の助言を意識しながら、打起こした位置から弓を押すと同時に弦を引く。この矢を放つ前の状態は一瞬だが、弓と矢と視線の先の的だけを意識して雑念を払い、研ぎすませた精神で長くて短い時間を感じる取る。

 

 放った矢は的を少し逸れて、安土に突き刺さった。また失敗だ。そしていつの間にか的を射ることばかり考えていて、肝心の弓道の心得をすっかし失念してしまっていた。矢を放った後の残心の姿勢も滅茶苦茶だ。

 

 「矢取り入ります」

 

 誰もいない道場に自分の声だけが響く。回収した矢を綺麗にして矢筒にしまっていると視界の端、射場の入り口に誰かがいるのに気がつく。視線を向けると赤城先輩だった。私が存在に気がつくと、にっこりと笑って手招きする。そのまま片付けを済ませて付いていくと、連れて行かれたのは間宮さんの小店だった。

 

 「最近、調子悪いみたいね」

 

 先輩はあんみつを、私は抹茶のパフェを目の前にして、先輩は注文した品に手をつけずに言った。

 

 「やっぱり、わかります?」

 

 流石に最強の一航戦だった。なるべくスランプである事は露呈しないようにしているつもりだったが、見抜かれているようだった。

 

 「確かに、ミス多いですからね。さすが先輩にはバレちゃいますか」

 

 「そうね。ちょっと焦っているみたいね」

 

 図星だ。ただひたすらに戦果のみを追い求め。敵艦を沈める事しか頭に無い。戦場ではカッとなって頭に血が上り、周りを見失う。それは何故なのか帰投して冷静になって考えても「焦っているから」自分でもそう結論付けられた。早く追いつきたい、皆の力になりたい。

 

 「私もね、そういう風に陥った事ありました。もちろん私だけじゃない、龍驤さんも、蒼龍ちゃんも飛龍ちゃんも。加賀さんだって」

 

 「意外……です。あんな完璧な人でも、私みたいになったなんて」

 

 「それとね、瑞鶴ちゃんの事を一番に気がついたのは加賀さんなのよ」

 

 「えっ……」

 

 意外な人物の名前が先輩の口から飛び出した。てっきり指導してもらう機会も多く、人のことを良く見ている、そしてこうして息抜きに誘ってくれた赤城先輩が気にかけてくれたんだと思っていた。

 

 「あの人は瑞鶴ちゃんの事よく見ているわ。ちょっと指導は厳しいかもしれないけど、それもあの人なりに考えがあってのこと」

 

 そしてちょっと恥ずかしがり屋さんなのよ、と先輩は続ける。

 

 「瑞鶴ちゃんは加賀さんの事嫌い?」

 

 「えっと、その、嫌いでは無いですが、苦手……ではあります。体罰こそしないですが、昔の人みたいに厳しいし、小言は多いし、『艦娘は身体が資本』って言いながら本人はタバコ吸いますし」

 

 加賀先輩が指導に入る日は緊張する。細かい失敗に目ざといし、あの感情があるのかもわからない目と、真冬の艤装のように冷たい声でこちらのミスを指摘する。厳しい人だし、私の事を名前ではなく『五航戦』って呼ぶ。初めて会った時の印象も含めて、昔とは違う想いを抱いている。

 

 「あの人は皆に失敗してほしくないだけ。誰よりも優しい人。私はそう思ってる。でもちょっと怖いところあるかもね」

 

 そこまで言って初めて赤城先輩は注文したあんみつを口に運んだ。本当に幸せそうに物を食べる人で、こんなに喜んでくれるなら食事を作る側もさぞやりがいがありそうだ。

 

 「それとね、スランプっていうのは時間が解決してくれることもあるの。だから気を急いてはダメよ」

 

 結局、先輩だから奢らせてと聞かず、自分で払うと言ってもあの優しい声色でそう言われてしまうと引き下がれなかった。

 

 その後は寮の部屋に戻り、間食をしたのもあって夕食は寮食堂が開いてるぎりぎり遅くの時間にとった。お風呂に入って、明日の予定を見直して、ベッドに横になる。照明を消した部屋で今日の赤城先輩の言葉を反芻する。

 

 完璧な人たち、そう思ってた。でも私と同じく未熟な時代もあり、失敗も経験したのだと思うと、急に先輩方が雲の上の存在から、がんばれば手が届くん人なんじゃないかなと自信が湧いてくる。いつかきっと追いついて、さらに欲を言うと追い抜いてやろう、加賀先輩を見返してやろう。1日に少しずつでいい、前へ進む。だが後ろに下がってしまわないよう、実直に。私に必要なのは鍛錬と、焦りを捨てることだ。

 

 

 

 

 赤城先輩に間宮さんで奢ってもらった日からから大分月日が経った。スランプというのは風邪と違って目に見えて治るのを確認できない。気がついたらミスが減っていって、気がついたら何ともなくなってしまう。あの時の先輩の助言が効いたのだろうか。

 

 崩していた調子を戻した時から自分でも実感するくらいに空母艦娘としての練度が日々上がっていると確信できる。実戦に出る事も以前より増え、撃沈した敵艦も小さいものから大きいものまで様々だ。艦載機にも撃墜マークのペイントが増えてきた。だがここで調子に乗ることは断じてダメだ。慢心は油断と判断のミスにつながる、と先輩たちからも口うるさく言われている。

 

 そして私は哨戒や船団護衛といった小さな作戦から、徐々に大規模な作戦にも抜擢される機会が増えてきた。もちろん、空母艦娘の中で正面切って戦うのは一航戦や二航戦の先輩たちだ。それでも実戦は貴重な経験。死と隣り合わせだし、怪我で文字通り痛い想いをすることもあるが、やっとスタートラインに立てた、そんな気がして毎日が充実していた。

 

 そしてある日ついに大規模反攻作戦が発令された。停滞しつつある戦況を少しでも優位にしようと偉い人達が作戦を練りに練って、あとは私達がしっかり働けばめでたく勝利だ。もちろん理想の話であり、失敗することもあれば予想外の事態が発生することもある。沈んじゃう娘だって出るかもしれない。ただ私達ができることは、司令官を信じて、出せる力を最大限発揮して勝利に貢献すること。

 

 「瑞鶴ちゃん、加賀さんどこか知らない?」

 

 大規模作戦が開始されてからしばらく後、基地内の皆が出撃やら整備やらでバタバタしている時に蒼龍さんから声をかけられる。

 

 「いや……見てないですね」

 

 少し思い返してみたが、今日は加賀さんとはすれ違いすらしてない。

 

 「困ったなあ。あと20分でブリーフィングだっていうのに加賀さん見当たらなくて、いつも一番に部屋にいるのに。もし見かけたら来るように言ってくれないかな」

 

 そのまま蒼龍さんは慌ただしく去っていった。

 

 とりあえず時間はあったので、もしやと思い艦娘寮の裏手まで小走りで足を伸ばしてみたら、そこにある簡易なスタンド型灰皿の側で紫煙を燻らせている加賀さんがいた。こんな状況でこの人は一体何をやっているのだろうか、時間をすっぽかす加賀さんを見るのは初めてだった。

 

 「加賀さん!蒼龍さんがもうブリーフィングの時間だって」

 

 「えっ……」

 

 加賀さんは少し驚いたかのような表情を見せると懐から懐中時計を取り出し確認する。裏返してみたり本体をコツコツと叩いたりした後に言い放った。

 

 「壊れているみたい。あとどれくらい?」

 

 「15分ですって」

 

 「そう、ならこれを吸い終わったら行くわ」

 

 「ええっ、時間大丈夫なんですか」

 

 「蒼龍があなたに探させたのは、いつも通りの時間に来ないから。どうせ普段より遅れるなら多少前後したって変わらない、違うかしら」

 

 「まあ、違いません……けど」

 

 なるべく早く行った方がいいんじゃないか、と言いたい。ただ相手が加賀さんだし、言っても素直に聞き入れてくれなそうだ。

 

 話すことが無くなり、元々加賀さんは口数が少ないので雑談するでもなく、沈黙が二人を包む。なんかこの場に居づらいし、退散するために一言何か言ってから司令部庁舎に戻ろうとしたが。

 

 「じゃあ私」

 

 だが加賀さんが私の発言を遮る。

 

 「瑞鶴」

 

 「はえ……あっ、はい!」

 

 『五航戦』ではなく、名前で呼んでくれた。初めてのことでうわずった変な声が出てしまった。一体何が起こるのか。少々混乱して「もしかして怒られるのかも」とも想像してしまうが、特に最近ヘマはしてないし……とにかく身構えて次の言葉を待つ。

 

 「最近よくやってるようね」

 

 「……はい?」

 

 予想外の言葉が加賀さんの口から出てきた。褒められた、初めてだった。そのまま固まって何も言えずにいると加賀さんが続ける。

 

 「2、3話したい事があるけど……時間も時間だし、続きは出撃から帰投してからにしましょう」

 

 そう言った加賀さんの表情は普段と違い、少しの変化であったが、柔らかく微笑んでくれているようだった。いつも起伏の乏しい表情を見ていたがこんな顔もするんだ、とまるで未知の発見をしたかのように衝撃だった。そうしているうちに加賀さんはそのまま短くなったタバコを灰皿で揉み消すとそのまますたすたと歩いて行ってしまった。

 

 初めて名前で呼ばれて、褒められて、見たこともない加賀さんを見せてくれた。これってとてもレアなんじゃないか。もしかしてやっと空母としての腕を認めてくれたのか?遠征頑張って作戦の助けになったから?何にせよ嬉しくてたまらなかった。「いつか見返してやる」って前は思ってたけど、これはそれの第一歩なのかもしれない。

 

 そのまま小躍りしながら居住区画から港の方へと歩きだす。この後遠征ではない出撃が控えているが、帰投した後が楽しみだ。加賀さんの話したいことって何だろうか、思わず表情がニヤけてしまうが、調子に乗るのはダメだ。私も艦娘、ひとしきりニヤけた後、気持ちを切り替えて出撃の準備に入る。

 

 だが加賀さんとの会話はあれが最後だった。彼女が生きて再び基地へと帰投することはなかった。

 

 

 

 

 横須賀中央駅から品川駅まではよく利用する機会があるからまだわかる。そこから上野駅までも山手線を使えば1本だ、そこまでもわかる。だがそこから千葉方面はさっぱりで土地勘も無ければ、地名も読めない。

 

 渡されたメモには「我」「孫」「子」の3文字。駅名らしいが「がそんし」としか読みようが無い。とにかくその駅で次の乗り換えらしく、『上野発常磐線快速取手行』へと乗った。常磐線は茨城へ行く電車だと記憶していたが、どうやら千葉も経由するらしい。スマホで地図を見てみたが、茨城と東京は隣接してないようだ。案外近いから少しくらい隣になっているものと思い込んでいた。

 

 上野から約30分電車に揺られる。電車の振動が心地よく、うとうとしてしまっていたが、たかが30分の行程で寝てしまうとそのまま茨城県まで乗って行くことになるので、なんとか気合で寝ないようスマホを眺めたり、車内広告を眺める。

 

 「がそんし駅」もとい「我孫子(あびこ)駅」に到着すれば最後の乗り換えだ。そこからさらに30分程度、大きな建物が目立つ東京と比べると控えめに言っても田舎だと感じる風景が続く。水田とあぜ道、横須賀には無い新鮮な風景だが、都会の人間でもなければ珍しいとは感じないのだろう。私にはまだ雑居ビルの並ぶ風景のほうがそれぞれに個性を感じる。水田と畑の連続は、全部同じに見えて仕方がなかった。

 

 安食駅へと降り立つが駅と言っても自分の知っている商業施設や立派な駅舎を持つ駅ではなく、最低限の機能を持たせた小さな駅だ。駅前にはコンビニ程度しかない。

 

 

 その安食駅から歩いて少々。『木下』の表札がある1軒の民家の前に私は立っていた。家の前にはすぐ公道、それのさらに向こうは田畑しかなかった。

 

 インターホンを鳴らすとすぐに玄関が開く。開いたドアからは少し加賀さんの面影のある10代半ばくらいの女の子がいた。

 

 「あの、どちら様ですか」

 

 そこでハッとなった。私は加賀さんの本名を知らない。この人達にとっては正規空母の加賀ではなくちゃんと生まれた時に家族から貰った名前がるののだ。

 

 「えっと、あの、あー……加賀さんの、部下でして」

 

 結局上手い説明の仕方が思いつかず、艦娘としての名前を呼ぶしか無かった。

 

 「ああ、お姉ちゃんの」

 

 妹さんに案内され、居間に通される。人様の家だし正座して座布団に座っていると、妹さんがご家族の方をつれてやってきた。

 

 「この度は……その、お悔やみ申し上げます」

 

 「いや、いいんです。孫が艦娘になった以上覚悟はしていました」

 

 そう言って加賀さんの祖父は緑茶とお茶菓子を出してくれた。

 

 「私の息子夫婦、ひよりの両親は早くに他界しまして。私も何とか孫らに楽させてやりたかったのですが、ひよりが妹のひかりを大学に行かせてやるって言いましてね」

 

 加賀さんの名前は「ひより」と言うのだった。ちょっと可愛い名前で加賀さんに似合わないなと考えてしまった。私にとっては彼女は加賀さんだが、加賀さんにとってはひよりの方がずっと大事で長い付き合いの名前だったに違いない。

 

 「そう……だったんですか。加賀さ、えっとひよりさんは私の先輩でして、葬儀にも出席できなくて、やっと休みが取れたのでこうしてお線香をあげに」

 

 最低な物言いだ。あなた達の家族の死よりも大事な事がありました、と言っているようなものではないか。自己嫌悪に襲われるが、表情にも出さないようにした。誰よりも悲しんでいるのは私じゃなく目の前のご家族だ。

 

 「あの、それでお姉ちゃんってどんな艦娘さんだったんですか?お姉ちゃんたまに帰ってきても基地の事話してくれなくて」

 

 ご家族にとっては大事な家族の話だ。聞きたいはずだ、もう彼女のこれからは無いのだ、ならせめて私の知っている加賀さんの事を、普段の加賀さんの事を話した。いっぱい話した。

 

 自分の知っている加賀さんを全て話す。指導が厳しかったこと、誰よりも強い空母だったこと、秘書艦の任務もしっかりこなすし、赤城さんとも仲が良かった。料理も上手で、あの楽しんでいるのかわからない表情で基地のイベントにはちゃんと参加して。そこでは、ご家族にとって長年一緒だった木下ひよりではなく、私の先輩の空母加賀のこれまでがあった。

 

 「加賀さんは……厳しい人だったんですけど。それは理由も無くなんてことじゃなくて、私達を想って、失敗、しない……ように」

 

 なんだ、自分でも知っていたんじゃないか。厳しい指導も、うるさい小言も、全部、全部、相手の為だったんだ。なのに私は自分が嫌だからって聞くのを避けてた。赤城さんが言ってくれたように加賀さんは感情表現が下手なだけで誰よりも優しい先輩だったんだ。

 

 「それで、加賀さんは」

 

 もう何を言おうとしていたのかもわからない。亡くなったと知らされた時も、実際に遺体を目にした時にも出なかった涙が、気がつくと目から溢れ頬を伝って、ぼろぼろと畳へとこぼれシミになっていく。

 

 

 「加賀さんは……!加賀さん……加賀さん!!」

 

 見返してやりたかったんじゃない。艦娘になる前からあなたに憧れていた、私を見て欲しかった。肩を並べて共に戦いたかった。

 

 あの後加賀さんは何を言おうとしたの?会いたいです、会ってお話がしたいです。

 

 伝えたかった事、伝えて欲しかった事、行き着く先を失って迷子になった言葉は、永遠に私の心に残り続ける。

 

 加賀さんが伝えたかったこと、それを知るすべはない。それを知る人はもうこの世界のどこにもいなくて、もう会えないのだから。

 

~Fin~

 


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