noside
「なによ・・・!何よこれ・・・!?」
試合の最中、チャレンジャーである集団の内の一人は、今の状況を受け入れられないか、愕然と呻く事しか出来なかった。
何故こうなった?こんなはずでは無かった。
そんな戸惑いが、その言葉と表情からは如実に表れていた。
無理も無い。
現状を見れば、それは事実、彼女達にとっての悪夢としか思えなかった。
その状況は、イギリス代表候補生、リザ・オルコットの駆るブルー・ティアーズ・サードが乱入した事から始まったのだ。
ブルー・ティアーズ・サード。
イギリス製第7世代ISにして、かつてイギリス代表候補生としてIS大戦に参加したセシリア・オルコットの愛機、ブルー・ティアーズの正統後継機である。
最早基本兵装として普及した展開装甲の改修発展型を実験的に装備しており、その戦闘能力を測る目的で開発されている。
つまり、リザは母親の名を継ぐ事を求められたと同時に、テストパイロットとしての役割を与えられていたも同然だった。
だが、それがどうしたことだと、リザ本人は感じていた。
母の名が何であれ、データ取りが何であれ、自分が今やるべき事は只一つ。
大切な幼馴染みの父親を、自分にとってももう一人の父と呼ぶべき者を侮辱した者達に目にもの見せる。
ただそれだけだった。
「行きなさい、ティアーズッ!!」
青の機体から飛び立つ10を超える独立稼働砲台、ブルー・ティアーズ・サードが乱舞するかの如く飛び回り、彼女の敵である少女たちに襲い掛かる。
機体の名を冠するその砲台は、一基ごとに意志を持つかのごとく、回避行動を取る少女たちの行く手を阻む様に立ちはだかり、BTレーザーによる射撃を開始する。
「きゃぁぁぁっ・・・!!」
「こ、このっ・・・!」
少女たちは何とか回避しようと機体を動かすが、リザの操る雫は、その上を行っていた。
無数に乱舞する砲塔が少女たちの周囲を取り囲み、レーザーを雨霰と撃ち掛けた。
「ティアーズ・・・!で、でも対処法なら・・・!!」
だが、所詮ティアーズ、ビット系の兵装はそれこそ20年前からある装備、対処法など確立されて久しいモノだった。
腐ってもIS学園で学んで来た彼女達だ、その教本通り、360度すべてに気を配り、機体を捻り、或いは手持ちの盾で防御しながらもレーザーを回避していく。
だがそれは所詮、ビットを装備した機体と1対1で戦う時を想定した物であり、それ以外の者がいないという想定で組み立てられている物だった。
「俺を忘れて貰っちゃ困りますぜ、センパイ?」
少女たちのISを貫く事無く突き進んでいたBTレーザーの先に、エネルギーを纏ったガンブレードを保持する白式参型の姿があった。
「踊るぜ、ついて来いよッ!!」
徐に、彼はガンブレードを一閃、BTレーザーを弾き返し、その軌道を偏向、敵である少女たちに向かわせた。
一発弾き返せば機体を次にレーザーが飛んできそうな場所に動かし、レーザーを弾いて少女たちに反撃の隙を与えない。
「ちょ・・・!?ちょっと・・・!?」
想定外の事態に、少女たちは慌てふためきながらも回避に徹する。
まさか、レーザーを弾き返して攻撃すると言う戦法に出るなど考えもしていなかったに違いない。
教本には、零落白夜の能力によってレーザーがかき消されたという事例が載っている事は載っていた。
だが、どういう原理なのか、一輝はレーザーを打ち返すやり方を見せた。
それが、彼女達の動揺を誘い、回避さえままならなくさせていた。
自然と、だが狙って密集するように、少女たちは追い込まれていた。
「こ、このっ・・・!調子に乗ってぇ・・・!!」
「あら?もうお疲れですか?フィナーレには、まだまだ時間がありましてよ!!」
反撃を試みる敵ISに、リザは容赦なく手に持つスターライトMk-ⅴで同時に狙撃を行う。
それは的確に、少女が持つガトリングを射抜く。
「くぅぅ・・・!?」
「きゃぁぁっ・・・!?」
密集していたが故に、ガトリングの爆風に巻き込まれたか、一人の少女が体勢を崩す。
そこに幾重ものBTレーザーが襲い掛かり、一気に機体のエネルギーを奪い取る。
そこで、その少女の機体、ウェア・ウルフのエネルギーが切れて地に墜ちていく。
「アカネ・・・!?」
「余所見は禁物だぞっと!!」
味方がやられた事に気を取られ過ぎたか、少女たちは一輝の接近を許してしまう。
フレンドファイアを恐れず、幼馴染の射撃能力を信じ、彼は瞬間加速≪イグニッション・ブースト』を用いて彼女達の死角に入り込んでいたのだ。
「し、しまっ・・・!?」
「遅いッ!!」
エネルギーを籠めた刃が、反応しきれなかった二人の少女の機体を切り裂き、絶対防御を発動させてエネルギーを一気に奪い去った。
暮桜、白式、そして白式弐型にあった零落白夜の様な単一仕様≪ワンオフアビリティ≫ではないが、それでも技術革新によって、それに近い高火力を実現できるようになった。
その威力をまともに受ければ、第四世代ISでは到底防ぎきれるものでは無かった。
エネルギーは一気にそこを尽き、二機は地に墜ちていった。
「こ、このぉぉぉ・・・!!」
味方がやられた事、そして追い込まれた事を悟りながらも、少女は牽制の様にガトリング砲やミサイルをばら撒き、一輝の接近を妨げようとしていた。
「追い込んだぞ!」
「チェックメイト、ですわね。」
もう勝敗は決しかけている、今の内に降参しておくつもりはないか、そう勧告している様にも見えた。
身内を侮辱されたからには、只敗北するよりも惨めな負けを、自身から戦いを放棄させると言うやり方で終わらせる、そう考えたのだろうか。
「ば、バカにしてぇッ・・・!こうなったらっ・・・!!」
それに気付いたか、それともただの自棄か、少女は激昂し、残った最後の一人と共に突っ込んで行く。
「ちっ!」
「いい加減にッ・・・!」
往生際の悪さに舌打ちしつつ、リザは己の火器を構える。
突っ込んでくるだけならば、最早ただ早く動く的でしかない。
そんな事など、候補生としての訓練を積む中で、散々アグレッサーを相手にやったモノだ。
勝利は目前、彼女はその指を引き金に掛け、引き絞る。
だが・・・。
「ッ!!」
「え・・・?」
「なっ・・・!?」
リーダー格の少女が、仲間であるはずの機体を掴み、リザの射線上に投げた。
自分が何をされたのか分からぬまま、放たれたレーザーと弾丸が直撃、一気に機体のエネルギーを奪い去って行った。
それはまさに、味方を盾に使うやり方そのものだった。
勝つためなら、自分が正しいと証明する為なら誰でも犠牲にする。
それが、その少女の持つ意地であり、性根でもあった。
だが、どれだけ汚くとも陽動作戦にはなる。
その証拠に、リザは虚を突かれたかの如く硬直し、次の行動に移せずにいた。
「これで・・・!!」
「っ・・・!?」
突然の事に硬直していたリザの前に、ボウガンの様なものを構えた少女の機体がその姿を見せる。
それは、ウェア・ウルフが装備している展開装甲を、遠距離砲撃用のボウガンへと変形させたのだ。
無論、第四世代の時代の武器とは言え、その威力は燃費を度外視した物である。
故に、至近距離でまともに喰らえば、如何に開いた世代差を物ともせず、撃沈せしめる威力があったのだ。
勝てはしないまでも、せめて一人でも落としておかねば面目が立たない。
一矢報いて吠え面かかせてやると。
「これでっ・・・!!」
狙いを定める必要など無い。
後は引き金を引くだけだ。
討つ。
その意思を籠め、少女は引き金を引いた。
だが・・・。
「お生憎、姫には騎士が付き物ってね。」
これは一対多のバトルでは無いのだ。
「なっ・・・!?」
少女が知覚するより早く、白い影が視界に映り込む。
それは、回避行動を取っていた一輝が、一瞬でリザの下まで駆けつけ、間に割り込んだ証左でもあった。
それを一瞬で為せたのは、一重に白式参型に隠された機能の一つだが、今はそれを解説する暇はなかった。
「今度こそ、チェックメイトだ!!」
「なにをぉぉ・・・!!」
煌めく刃が、ボウガンの砲口から光が放たれるより早く、ボウガンごとウェア・ウルフを切り裂いた。
そこから更に、正しく電光石火が如く連撃を叩き込み、一気にエネルギーを奪い去った。
「なんでよ・・・!なんでぇぇぇ・・・!!」
断末魔の様な悲鳴を上げ、少女と機体は地に墜ちた。
これで、最初からアリーナに居た2人の内の一人は敗北し、残った一人の勝利を決めたのだった。
『試合終了!勝者、織斑・D・一輝!!』
アリーナ全体に、勝利を告げるアナウンスが響き渡る。
それと同時に、観客席からは盛大な歓声と拍手が巻き起こった。
一輝達を祝福しているのか、それとも女尊男卑思想を持つ少女たちを下した事に溜飲を下げたか。
それとも、一輝達に狙いを定めたが故の何かか・・・。
様々な思惑を抱えたままに、野良試合は終わりを告げたのだった・・・。
sideout
side一輝
「ありがとなリザ、お陰で助かったよ。」
試合が終わった後、俺は一緒に戦った幼馴染、リザに礼をいう。
お互いピットに戻り、機体を待機形態に戻して集まっていた。
彼女の乱入と助太刀が無かったら、今頃俺は敗北して地に墜ちていただろう。
いっつも、この可憐で強い少女に助けられっぱなしで、何とも情けない様な誇らしい様な心地になる。
「いえいえ、最後は結局は私が助けて頂きましたもの、貸し借りは無しと言う事で如何です?」
少しだけ、しょげた様な表情を見せて終わらせようとしていた。
全く、変な所で頑固なんだよなぁ。
俺も人の事は言えんか・・・?
とは言え、女の子にこんな顔させてちゃ男が廃るってなもんだ。
そういうコトは親父に結構仕込まれて来たからなぁ。
古風とは思わなくも無かったけど、見て見ぬフリってのも気に喰わないってな。
「あー・・・、リザを護るのは俺の役目だって昔言ったろ?なら上等だっただろ?」
もう十年近く前、まだお互いが男女の区別なく、ただの幼馴染として言ったあのセリフ。
カッコ付けだと兄貴からもからかわれたけど、俺は如何してかそれを曲げる事は無かった。
だから、リザは俺が護るし、泣かせたり困らせたりしたくないっていう気持ちだけは、紛れもない本心だ。
「ふふっ・・・♪相変わらず、優しいのですね、一輝さんは・・・♪そう言う事でしたら、ありがたく頂戴いたしますわ。」
俺のちょっとした意地を汲んでくれたか、彼女は何処かおかしそうに笑ってそれを受け入れてくれた。
そうそう、やっぱりリザには笑顔が似合う。
だから、これで良いんだ。
「あーはいはい、惚気は2人っきりでやってくれない?胸やけしそうだわさ。」
「うぉ・・・、居たのかよルキア・・・。」
すっかり忘れてたけど、そういやセコンド的な立場で来てたなぁ・・・。
その表情には何処か呆れが見て取れて、一体何を思っているのか分からなかった。
まぁしかし、もう良い時間だ。
そろそろ引き上げて晩御飯としようじゃないか。
「ほら、キリキリ動く!置いて行くわよ!」
そう言って、ルキアはさっさとピットから出ていってしまう。
全くせっかちな姉さんだこって。
だがまぁ、兄貴やエド達も待ってくれてる事だろうし、そろそろ行くとしよう。
「リザ。」
と言うわけで、俺はリザに手を差し出す。
なんの事はない。
ガキの頃からやってる、幼馴染みへのエスコートってヤツだ。
「はいっ♪」
何時もと変わらない、俺の大好きな笑顔を浮かべて、彼女は俺の手を取り、そのまま自然に腕を絡めてくる。
あぁこれだよこれ。
やっぱ落ち着くなぁ。
これが俺達の距離。
誰にも邪魔されない距離が、何より心地よいものだ。
ま、とりあえず、今は他の幼馴染み達との時間を優先しようじゃないか。
誰にも邪魔されない、俺達の時間を。
そう思いつつ、俺達は連れ立って歩き出した。
sideout
次回予告
人には夢がある。
見える夢かまだ見えぬ夢か。
彼等の目には、何が映るのか
次回インフィニット・ストラトス 光を継ぐ者
見上げる星
お楽しみに