ハヤテのごとく!〜ヒナギクがナギでナギがヒナギクで〜 作:桂ヒナギク
白皇学院の
ナギはその生徒会室で会長の席に座って書類の整理をしていた。側ではハヤテが彼女を見詰めている。
「あのさ、凄く気になるからやめてくれる?」
「すみません、ヒナギクさん。何かお嬢様がやってるみたいで、つい心配してしまって」
「はぁ」
ナギは肩を竦め溜め息を吐いた。そこへ頭にリボンを着けた眼鏡の少女がやって来る。彼女は書記の
「あれ、会長は?」
「此処に居るわよ、ハル子」
とナギが顔を上げた。
しかし千桜は眼鏡を触りながら言った。
「何言ってるんですか。貴方はヒナじゃありません。どこからどう見てもナギさんです」
ピシッと格好良く指を突き付けて言う千桜。
「ダサいわよ?」
ナギのその言葉が、千桜の脳内で繰り返された。
「と、兎に角、関係者以外は退室して下さい」
「まあまあ。落ち着いて下さい、春風さん」
とハヤテが両方の手の平を千桜に向けた。
「副会長からも何か言って下さい!」
副会長。それは、ハヤテの事である。以前は霞 愛歌(かすみ あいか)と言う一つ上の病弱な少女がやっていたが、ハヤテとヒナギクが交際を始めた頃、急に病に倒れ入院した為、ヒナギクの推薦でハヤテが副会長を務める事になったのだ。
そんなハヤテは、千桜の言葉に苦笑いをした。
一方その頃、剣道部部長は、旧校舎の前に居た。
手には女の子が使うような可愛らしい封筒がある。その中に入っている便箋にはこう書かている。
『桂さんへ 僕は貴方に初めてお会いした時からずっと好きでした。その気持は今でも変わりません。もし僕に気があったら、放課後、旧校舎の前に来て下さい。東宮』
どうやらラブレターの様だ。送り主は
「桂さーん」
と一人の少年が走って来る。彼が差出人の東宮である。
「すみません、お待たせしてしまって。それはそうと、此処に居るって事は、オッケーって事ですよね?」
「否、断るつもりで来たんだけど、駄目かしら?」
「え、どうしてですか?」
「好きな人が居るのよ。同じクラスのハヤテ……」
そこまで言ってヒナギクは考えた。
(待てよ。此処でオーケーしとけば、ハヤテはヒナギクを捨てて私に振り向いてくれるかも)
そう思ったヒナギクは咄嗟にこう言った。
「なんて、今のは冗談。実を言うと、私も貴方の事が好きなの。私と付き合ってくれるかしら?」
「勿論です! 桂さんの事は絶対に幸せにしてみせます!」
(ふっ、これでハヤテは私に振り向く筈!)
ヒナギクがそう思った時、ハヤテとナギが現れてダブルラ○ダーキックを浴びせて来た。
ゴスッ!
二人の足が顔面にめり込み、呻き声を上げる間も無く気絶するヒナギク。
ハヤテは気絶したヒナギクをお姫様抱っこして「借りて行きますね」と東宮に言い、ナギと共に去って行った。
ヒナギクは保健室のベッドの上で目を覚まして起き上がった。傍らにはハヤテとナギが居る。
「お嬢様、起きた所申し訳ないですが、告白を受けるのは止めて下さい」とハヤテ。
「そうよ。戻った時に困るのは私なんだからね」とナギ。
「ふんっ、お前が困った所で私には関係無い」とヒナギク。
ブチッ!──ヒナギクの言葉にナギの堪忍袋の緒が切れた。
「ハヤテくん、殺っちゃって頂戴」
「え、良いんですか? 殺ったら戻れないかも知れないのに」
ハヤテはナギを見て訊ねた。
「じゃあ死なない程度に殺って頂戴」
「半殺しですか?」
「否、死ぬ一歩手前で」
「受理します」
その言葉にヒナギクは恐怖を覚えた。
ハヤテはヒナギクに向くと微笑みながら言った。
「覚悟は出来てますね? お嬢様」
「ちょっ、ハヤテ!? お前、私を殺るってのか!?」
ヒナギクはベッドを降りて後退った。
「逃がしませんよ?」
ベッドを跳び越え、着地して足払いを掛けるハヤテ。
「うわっ!」
ヒナギクは床から足が離れて仰向けに倒れた。
ハヤテはヒナギクの胸倉を掴んで立たせるとそのまま持ち上げ、投げ飛ばそうとしたが、ナギが止めに入った。
「やっぱ止めて。私の体に傷付けないで」
「解りました」
ハヤテは嫌々そう言うとヒナギクを解放した。
「おい、ハヤテ。貴様、主に向かって何て事をしてくれたんだ。クビにするぞ?」
「今のお嬢様にそんな権限ありませんよ」
「そうだったな。おい、ヒナギク。お前、代わりにクビを宣告しろ」
「何で私が?」
と疑問の表情を浮かべるナギ。
「ヒナギク、今のお前は三千院 凪だ。お前の一言でハヤテの運命が変わるんだ。だからクビを宣告しろ」
「拒否するわ。どうしてもクビにしたいなら早く元に戻すのね」
「くっ・・・」
ヒナギクは言葉に詰まった。
「さて、帰りましょうか」
ヒナギクさん?──とナギを見るハヤテ。
「うん」
ナギは笑みを浮かべて頷き、ハヤテと共に保健室を出て行った。
ヒナギクは壁を拳で叩いた。
(クソッ、どうしたらハヤテは私に振り向くのだ?)
そこでヒナギクは頭に電球を浮かべた。
「閃いた!」
ヒナギクは保健室を飛び出して職員室に向かった。
「牧村先生は居ますか!?」
扉を思いっ切り開けてそう言いながら中に入る。
「あら、桂さん。何か用?」
と志織が現れて訊ねる。
「あの、惚れ薬って作れますか?男の子が女の子に使い魔として召喚されるアニメでモンモ○ンシーが好きな人に飲ませようと作った惚れ薬をル○ズが飲んでしまって使い魔の男の子にデレデレになってしまう様な奴」
「ああ、それならあるわよ。科学の実験中に偶発的に出来たのが。私には必要ないからあげるわね」
志織はそう言うと自分の机の引き出しから透明な液体が入った小さな瓶を取り出してヒナギクに渡した。
「それを一滴、ジュースか何かに混ぜて飲ませると飲んだ相手は最初に見た人に惚れ込むわよ。それはもうベタベタに」
「有り難う御座います」
ヒナギクはお礼を言うと、自販機が置いてある所に行き、適当にジュースを買って教室に向かった。
「ハヤテー、喉が乾いてないか?」
と帰り支度をしていたハヤテにジュースを突き付けるヒナギク。
「あ、お嬢様。気が利きますね。丁度ジュースを買おうと思ってた所なんですよ」
そう言ってハヤテがヒナギクからジュースを取ろうとするとヒョイと退かされた。
「私が開けてやる」
言ってヒナギクはジュースの蓋を開け、例の薬を目にも留まらぬ速さで一滴中に垂らしてハヤテに渡した。
ハヤテは受け取ったジュースを持って帰り支度をしているナギの下に移動した。
「ヒナギクさん、お嬢様が気を利かせてジュースを買って来てくれましたよ」
ナギはハヤテからジュースを受け取るとヒナギクの方を向いた。
「有り難うナギ」
礼を言い、ジュースを口に運ぶナギ。
「待て!飲むな!」
ヒナギクは慌てて言ったが、しかし、時既に遅し。ナギはジュースを飲み干していた。
「おいしか・・・」
そこまで言って空の容器を落とすナギ。
「ヒナギクさん、落ちましたよ」
言ってハヤテは容器を拾った。それをナギが見る。
途端、薬の効果が現れ、ナギはハヤテに飛び付いた。
「ハヤテくーん」
「ちょっ、ヒナギクさん!?」
突然の事に驚き戸惑うハヤテ。
「ハヤテくん、大好き。私もう離れたくない」
「えっ!? ちょっ、ヒナギクさんどうしたんですか!?」
「スマン、ハヤテ!」
その光景にヒナギクは咄嗟に謝った。
「ヒナギクがそうなったのは私の所為なんだ」
「どう言う事ですか?」
「実はお前に私に惚れて貰おうと思って牧村先生に貰った惚れ薬を入れたんだ。てっきりお前が飲むと思ったから。本当にスマン!」
「どうしてそんな事を」
「それは……」
「それは?」
「その……私も、お前が……好き……だから」
ヒナギクは顔を真っ赤に染めてそう言った。
「お嬢様……って、今はそんな事よりヒナギクさんを元に戻す方法を!」
「知らない」
「え、今何て?」
「知らないと言ったんだ。二度も言わせるな」
「では牧村先生に言って解剤を!」
「無理だ。解剤は無い。科学の実験中に偶発的に出来た物だからな」
それを聞いたハヤテは思った。
牧村先生が偶発的に作った惚れ薬→それをヒナギクさんが飲む→効果が現れ僕にベタ惚れする→解剤が無い→一生このまま。
「はっ!絶望した! ちびっ子じゃない天才教師に絶望した!」
「おいおい、せめて失望先生に……」
「五月蝿い!」
「なっ!?」
ハヤテの怒声を浴びたヒナギクはたじろいだ。
「ハヤテくん、突っ立ってないで帰ろう?」とナギ。
しかしハヤテは彼女を無視してヒナギクに言う。
「お嬢様、伊澄さんを捜して来てくれませんか」
「伊澄を?」
「伊澄さんならきっと戻す方法を知ってると思うのでお願いします」
「ああ、解った。捜して来る」
ヒナギクはそう言って教室を出て行った。
To be continued...