ハヤテのごとく!〜ヒナギクがナギでナギがヒナギクで〜 作:桂ヒナギク
「ハヤテ、連れて来たぞ!」
とヒナギクが伊澄を連れて教室に入って来た。
伊澄は背を向けているハヤテに近付き訊ねた。
「あの、ハヤテ様。どうして背を向けておられるんですか?」
「驚きませんか?」
「はい」
「では振り向きます」
言って振り向くハヤテ。伊澄は驚き跳び上がった。
「ちょっ、伊澄さん! 驚かないって約束ですよね!?」
「その状況を見て驚くなって言う方が無理です」
「はあ、そうですか。それより、これは治りませんか?」
「一寸待って下さい」
伊澄はヒナギクの方を向いた。
「生徒会長さん、少しの間外に出ていて下さいますか?」
「あ……うん」
ヒナギクは教室から出て行った。
伊澄はハヤテに向き直り訊ねる。
「この方、生徒会長さんですよね?」
「どうしてそう思うんです?」
「ハヤテ様には視えないんですね」
「え、何がです?」
「ナギの体からはみ出てる生徒会長さんの魂魄です。そんな事より、先ずお二人が入れ替わってる理由からお訊きしましょう」
「ああ、これはお嬢様が──」
ハヤテは伊澄にナギとヒナギクが入れ替わってる原因を教えた。
「まあ。科学でそんな事が出来るんですか。流石天才教師です。で、この状況を治す方法をお探しなんですよね?」
「ええ。伊澄さんの能力で治りませんか?」
伊澄はナギに御札を貼って呪文を唱えるが、効果は現れなかった。
「すみません。私の力では治せない様です」
「えっ……今何て?」
「ですから、私では治せない、と仰いました」
「嘘って言って下さい」
「本当です」
「ではどうすれば良いんですか?」
その問いに神父リイン・レジオスターの幽霊が現れて答えた。
「アレキサンマルコ教会の地下迷宮の最下層にどんな病でも治す事が出来る<バテキアの根っこ>と言う物がある。それをその娘に飲ませれば治る」
「神父さん、それ本当ですか?」
「私は嘘は吐かない」
「解りました。では貴方を信じてこれからアレキサンマルコ教会の地下迷宮に行ってきます」
ハヤテはそう言って抱き付いているナギを無理矢理引っ剥がして降ろした。
「何処か行くの?」とハヤテを見上げるナギ。
「ええ。ちょっと、アレキサンマルコ教会まで」
「じゃあ私も行く」
ナギはそう言うとハヤテの腕にしがみついた。
「いえ、ヒナギクさんは屋敷で待ってて下さい」
「嫌だ。一緒に行く」
ハヤテは肩を竦めながら溜め息を吐いた。
「仕方ありません。一緒に行きましょう」
ハヤテは渋々そう言って、ナギと共にアレキサンマルコ教会に向かった。
アレキサンマルコ教会に着いた二人は、地下へ潜る為の階段を探していた。
「ハヤテくん、あれじゃない?」
とナギが紫色の禍々しいオーラを放つ階段を指差した。
「何か凄く嫌な気配がしますよ?」
「大丈夫よ。ハヤテくんに何か遭ったら私が守るから。それより早く行こう?」
ナギはそう言ってオーラを放つ階段にハヤテを引っ張って行き、階段を降りてダンジョンに入って行く。
そんな二人を、迷宮の最下層で水晶玉を通して見ている謎の黒い影。
「ふっ、久しぶりの客人だ。どれ、楽しませて貰おうか」
影はそう口にすると、「メデューサ!」と叫んだ。
すると、何百匹もの蛇を頭に生やした女、メデューサが現れた。
「お呼びでしょうか?」
「この地下迷宮に人間が二人入って来た。出迎えてやれ」
「はっ!」
メデューサは片膝を床に着き頭を下げた。
「それでは行って参ります」
メデューサはそう言うと、侵入者の下に向かった。
地下1Fに着いた。辺りは暗く、殆ど何も見えない。
ハヤテは懐中電灯を取り出し、ライトを付けて進行方向を照らした。
「「うわあ!」」
いきなり目の前に何かに怯えた様な顔をした石像が現れ、二人は驚いて飛び退いた。
「石像?」とハヤテ。
二人は石像を改めた。
「ねえ。この石像、お姉ちゃんに似てない?」
ナギはそうハヤテに言った。
ハヤテは「んー……」と唸り答える。
「確かに、言われて見ればそんな気がしなくも無いですけど、石像ですよ? 誰かが似たのを作って置いたと考えるべきではないでしょうか」
「そうよね。まさかお姉ちゃんがこんな所来る筈無いもんね。まあお酒や財宝とかが在るなら絶対来るだろうけど」
そう言ってナギが苦笑すると、石像が冷や汗を掻いた。
「汗……」
「掻いたわよね?」
二人互いに顔を合わせるとそう言った。
「悲鳴でも上げて去りますか?」
「な、何言ってんのよ。最下層にバテキアの根っこ取りに行くんでしょ?」
「そ、そうなんですけど、何て言うか、この先に進んではいけない気がするんです」
とその時、遠くの方で「うぎゃー!」と悲鳴が聞こえた。
二人は驚くと、悲鳴の発生場所へ駆け付けた。そこには、下半身が石になった白皇の体育教師、
「薫先生!?」とハヤテ。
「お、綾崎か。こんな所で何してるんだ?」
「それはこっちのセリフです! て言うかその足何なんですか!?」
「ああ、これは先刻、何者かに襲われて、それで気付いた時にはこうなってたんだ。あ、もう首まで……」
薫はそこまで言うと、完全に石になってしまった。
「ヒナギクさん、引き返しましょう。此処は何かヤバイです」
「そうね」
ナギがそう言うと、ハヤテが「失礼します」と言って彼女をお姫様抱っこし……ようとしたが、しかし、突然の謎の声に驚いて手を止める。
「そうはさせないわ」
と、そこに現れたのは、頭に何百匹もの蛇を生やした女だった。
「「誰……?」」と二人同時に疑問の表情を浮かべる。
「私の名はメデューサ。ゴルゴン三姉妹の一人よ」
ハヤテはそう自己紹介する女に頬を赤らめた。
(何て美人なんだ)
「ちょっとハヤテくん? 何顔赤くしてんのよ」
とナギが細い目でハヤテを見詰める。
「あら、そっちの小っちゃいのには別の魂が入ってるわね。まあどうでも良いけど」
「あの、貴方も視えるんですか?」
「視えるわよ。私、妖怪だから」
「へえ。で、その妖怪さんが僕たちに何の用ですか?」
「足止めよ。あんた達、最下層にあるバテキアの根っこを求めて来たんでしょ? 悪いけど、此処から先には行かせないわ」
メデューサはそう言うと目を光らせた。
「うわっ!」
咄嗟に腕で目を覆うハヤテ。その判断は正しかった。
「ちょっ、何よこれ!?」
そう言って自分の足を見るナギ。膝から下が石化している。
「なっ!? そんな、ヒナギクさんまで石に!?」
と、ハヤテが驚いてる間にナギは完全に石像と化してしまった。
「ヒナギクさん!」と叫ぶハヤテ。
メデューサは「うふふ」と微笑むと言った。
「次は貴方が石になる番よ」
「何ですって?」
「だから、貴方が石になるの! お解り!?」
「嫌です。僕は、僕にはヒナギクさんのデレを治すと言う使命がある! それを果たすまで僕は絶対に石になんかならない!」
「あら、格好良い事言うじゃない。私がそのおチビちゃんだったら間違い無く惚れてたわね」
「ヒナギクさんはチビじゃありません。今はこんなですけど、本当は僕と同じくらいの背で格好良いんですよ?」
ハヤテはそう言ってスケッチブックを取り出し、ヒナギクの絵を描き込んでメデューサに見せた。
「何よそれ!? 私より可愛いじゃない! って、そんな事より勝負よ! 敗けたら石になって貰うからね!」
「僕は強いですよ? そう簡単に石にはなりません」
「面白いわ。掛かって来なさい」
言いながらメデューサは来い来いと手招きをした。
するとハヤテがメデューサの懐に駆けた。一瞬で。
メデューサは手を伸ばしてハヤテを掴もうとする。しかし、ハヤテはそれを擦り抜けてメデューサの鳩尾に拳を埋ずめた。
「がはっ!」
紫色の血を吐くメデューサ。ハヤテはそれを飛び退いてかわした。
メデューサは鳩尾を押さえ前のめりになった。
「よくも……よくもやってくれたわね!」
と、ハヤテを睨むメデューサ。
その形相にハヤテは一瞬たじろいだ。
「隙ありよ!」とメデューサが気弾をハヤテに放った。
「うっ!」
避ける間もなく、ハヤテは気弾を喰らい、金縛り状態に陥った。
「どうお? 動けないでしょ」
「何なんですか、今の?」
「私の妖気を全身から集めて作った相手を金縛りにする気弾よ。それを浴びた者は誰であろうと動けなくなるのよ」
メデューサはそう言いながらハヤテに近付いて顔に触れた。
「貴方みたいな格好良い人、石にするのは勿体無いわ。そうだ。貴方、私の彼氏になりなさいよ。そしたらその金縛り解いてあげるわ。ね?」
「解りました。では、取引きしましょう。僕が貴方と付き合う代わりに、貴方はヒナギクさんを元に戻す。どうです?」
そうねえ──と顎に手を当てて考えるメデューサ。
「解ったわ。けどその前に」とハヤテの唇を奪うメデューサ。
「んっ!?」
すると、ハヤテの右側の瞳が黒く染まった。
(な、何だ? 右半身の感覚が消えて……)
「ぷはぁっ!」
ハヤテから唇を離すメデューサ。
「契約完了。これで貴方は私の物」
(そうか。僕は操られたのか。半分だけ)
「所で貴方、名前は?」
「ハヤテ、綾崎 颯です。ハヤテは立に風と書きます」
「あら、良い名前ね」
「有り難う御座います」
ハヤテは喜んだ。
パチン!──メデューサが指をスナップさせハヤテに掛かっている金縛りを解いた。
(よし、今だ!)
ハヤテは左手でメデューサを殴ろうとしたが、右手がそれを掴んで止めてしまった。
「あらあら、未だ意識が残ってるの? でも無駄よ。貴方はもう私の操り人形なんだから」
「どうやらそうみたいですね。悔しいけど。でもどうして意思が残ってるんでしょうか?」
その問いに、石像ナギが答える。
「それは、貴方が特別だからよ」
パキッ!──と皹が入り、ナギの体を覆っている薄い石が剥がれ落ちた。
「何で解けるのよ!?」と驚くメデューサ。
ナギはそんなメデューサを尻目に正宗を召喚して振り被った。
「反撃開始よ!」
と振り下ろすナギ。だが、ハヤテが右手で正宗を掴んで止めた。
「ちょっ、何してんのよ!?」
「メデューサさんに手を出すと言うなら僕が相手になりますよ」
「ふーん。ハヤテくんは私なんかよりこのブサイクな蛇女が良いんだ?」
「違うんですヒナギクさん! 今のはその、口が勝手に!」
「おい」
「じゃあこの手は何?」
「否、これは……」
「うぉい!」とメデューサが大声を出した。
二人はメデューサを見ると「五月蝿い!」と言った。
「で、この手は何かしら?」
「え、だからこれは……その、手が勝手に」「嘘よ!」
ナギは間髪を容れずそう言った。
「きっと私がこんなだから……」
「否、だから違うんですって、ヒナギクさん!」
「はぁ……もう良いわ。それよりその手放して頂戴」
「無理です。言う事を利かないんです」
「はあ?」
「操られてるんです、僕」
とメデューサを見るハヤテ。
「じゃあ、あのブサイクな女を倒せば貴方は解放されるのね?」
「……多分」
「多分って、随分といい加減な答えね。まあ良いわ。あの女は私が倒す。ハヤテくんは下がって……」
そこまで言って、ナギはハヤテの回し蹴りを食らった。
「キャッ!」
ナギは吹っ飛び、床を転がる。
「ちょっと、何してんのよ!?」
「すみません、何か足が勝手に動いてしまって」
「謝って済む問題じゃないでしょ!?」
「すみませんすみません! メデューサ倒した後で好きなだけ殴って良いですから許して下さい!」
「約束よ!?」
「はい」
そう返事してハヤテは後悔する。
(しまった! 僕拙い事言った!)
「ちょっとあんた達! 私の事は無視な訳!?」
苛付いたメデューサが訊ねる。
ナギは駆け、ハヤテが掴む正宗を奪取し、メデューサの前に立った。
「別に無視してた訳じゃないわ」
「嘘吐き! 絶対無視してたわ!」
「いや、してないわ。だってした覚えは……覚えは……」
そこでナギの脳裏に声を掛けても無視され続けたメデューサの姿が過った。
「ありすぎるわね」
ズザー!──メデューサはずっこけて床を滑った。
「ま、まあ良いわ。過ぎた事は忘れましょ」
それよりも──と、メデューサは続ける。
「どうして石化が解ける訳?」
「あら、気付かなかったかしら? 石になる直前、体の回りに張ったんだけど」
「何をよ?」
その問いにナギは薄い漆黒のオーラを放つ。
「何よ、それ? 初めて見るわ」
「これは<絶界>と言って、あらゆる攻撃から身を守るバリアの様な物よ」
「貴方、ひょっとして結○師?」
「んな訳無いでしょ!? 私はただの白皇学院生徒会長兼剣道部部長よ!」
「どうでも良いわ、そんな事」
「貴方から振ったじゃない!」
「ああっ、もう五月蝿い! ボケッとしてないでささっと戦(い)くわよ!」
「望む所!」
両者は互いに真剣な表情をして構えた。
「どうぞ、そっちから来なさい?」とナギ。
「そう。では遠慮無く」
言ってメデューサはナギに襲い掛かった。
ナギはひらりと身をかわし、正宗でメデューサの背中を叩き付ける。
「うっ!」
呻き声を上げ、背中を反らして押さえるメデューサ。
ナギはそれを見て疑問に思った事をぶつけてみる。
「ねえ。貴方って、弱いの?」
その問いが矢となってメデューサの心に刺さった。
「そ、そんな事無いわよ? 私は恐ろしく強いんだから?」
「あの、疑問形になってるけど?」
「五月蝿い!」
メデューサはナギに向き、頭の蛇を伸ばして攻撃する。
ナギは正宗を振るい、迫る蛇を払った。
「なかなかやるわね。これならどうかしら?」
メデューサはそう言って巨大な蛇、ヨルムンガンドを召喚した。
「よ、ヨーくん!?」とナギ。
「よく解ったわね。その通り、ヨルムンガンドのヨーくんよ」
ヨーくん──とメデューサはヨーくんを見る。
「あのチビをやっつけちゃいなさい!」
メデューサがそう言うと、ヨーくんはナギに迫った。
「効くかしら?」
と、ナギは正宗を振るって斬撃波を飛ばした。しかし、当たりはするものの、ヨーくんは傷一つ負わない。
ヨーくんは口を大きく開け、ナギを飲み込……もうとした。そこでハヤテが「危ない!」と飛び出してナギをお姫様抱っこしてヨーくんから離れた。
「ハヤテくん、体は大丈夫なの?」
「ええ、これを飲みましたんで」
言ってハヤテは小さな瓶を取り出した。側面には<解・操縦剤>と書かれている。
「何処にあったの?」
「偶々落ちてたんです」
「で、拾って飲んだ、と?」
「はい」
「危ないわよ、落ちてる物飲んじゃ」
「大丈夫ですよ。僕の体は」
頑丈ですし──そう言おうとした時、ハヤテの全身に痺れが現れた。
顔を引き攣らせるハヤテ。
「ちょっ、何!?」
「やっぱり落ちてるのはいけませんでしたね。毒が入ってたみたいです」
「バッカじゃないの!?」
「バカで悪かったですねぇ!」
「ちょっとあんた達、随分余裕放いてんじゃない」
と、メデューサが言った。
振り向くと、ヨーくんが側に居てその上にメデューサが立っていた。
「いつまでそう余裕な顔で居られるかしらね」
「雑魚には言われたくないわね」
その言葉にハヤテは「ですね」と頷く。
「ちょっ、誰が雑魚よ!?」
「貴方よ」
「そうです」
「何よ!? 二人してムカつく事言ってくれちゃって! もう頭に来た! ヨーくん、二人まとめて飲み込むのよ!」
ヨーくんは了解と言わんばかりに二人を飲み込もうとした。
「うわっ!」
メデューサがヨーくんの頭から滑り落ちて尻餅を着く。
「貴方ね!」
と、ヨーくんを睨むメデューサ。
ヨーくんは怒られた事にショックを受けてしょんぼりしてしまった。
「さて、どうしてくれようかしら?」
と、拳をポキポキ鳴らしながら訊ねるナギ。
メデューサは振り向くと後退りを開始した。
ハヤテとナギはゆっくりと歩を進め彼女に近付く。
「ちょっ、止めて!? 来ないで!?」
と、その時、メデューサの背中が背後に居るヨーくんの体にぶつかった。
「ハヤテくん」
「はい、ヒナギクさん」
二人は跳ね上がると、ナギはそこでハヤテに抱き付いた。
「ちょっ、何してるんですか!? これじゃ僕たちの必殺技使えないじゃないですか!」
「こ、怖いのよ!」
「ああ……」
ハヤテは下を見て納得した。見た目がナギのヒナギクは高所恐怖症なのだ。
「こうなったら仕方ありません。失礼しますよ!」
ハヤテはそう言ってナギの体をヨーくんに向かって投げる。
「必殺! 僕の必殺技、お嬢様ミサイル!」
「キャーーーーッ!」
ナギは悲鳴を上げながらヨーくんに頭から激突。体を貫通して床に突っ込んだ。
直後、ヨーくんの体が爆発し、爆風が発生してメデューサは吹っ飛ばされ、壁にぶつかった。
ハヤテは着地するとメデューサに近付いた。
ボンッ!──と煙が噴いてメデューサが霞 愛歌に姿を変えた。
「あら、私は一体……て言うか此処は何処かしら?」
「あ、愛歌さん!?」とハヤテ。
え?──と愛歌がハヤテを見る。
「あら、現副会長」
「愛歌さん、病気で入院してたんじゃ?」
「ええ、してましたわ。でも、此処の最下層にバテキアの根っこと言うどんな病気にでも効く薬があるとかで、抜け出して来ちゃった」
「そうでしたか。では同じですね。実を言うと、僕もバテキアの根っこを取りに来たんですよ。と言う訳でお先に失礼します」
ハヤテはそう言うと、床に埋まっているナギを引っ張り出した。
「ヒナギクさん、起きて下さい。出発しますよ?」
しかしナギは動かない。ハヤテはナギの体を揺さ振った。
「ヒナギクさん、しっかりして下さい」
その時、ハヤテの背後にピンクの長髪に髪留めをした少女が現れた。ヒナギクである。
「ちょっとハヤテくん?」
「何ですか、ヒナギクさん? 今忙しいんですよ」
起きて下さい──とナギの体を揺さ振り続ける。
ピキッ!──ヒナギクは額に青筋を立てると、ハヤテの背中を踏み付けた。
「貴方、この私に喧嘩を売ってる訳?」
「止めて下さい、ヒナギクさん。今ヒナギクさん起こして……って、ええ!?」
そこで漸く気付くハヤテ。
「ちょっ、何でヒナギクさんが僕の前に居るんですか!? ヒナギクさんは今倒れてる筈でしょ!?」
と、ハヤテがナギの体を指差す。
「それは抜け殻よ」
「へ?」
ハヤテは目を点にした。
「あの時、ハヤテくんは私を投げたわよね。その時、床にぶつかった衝撃でナギの体から抜けちゃったのよ」
「それってつまり、死んだって事?」
「…………」
ヒナギクは無言を回答にハヤテをぶん殴った。
「いたっ! 何するんですかいきなり!?」
「よくも殺してくれたわね! この変態野郎が!」
「ええっ、僕変態じゃないですー!」
「いいえ、変態よ!」
「何で!?」
「貴方、メイド服や白皇の女子制服とか着て女装してたじゃない。思いっ切り変態よ」
「否、あれはお嬢様やマリアさんに無理矢理着せられただけで別にそんな趣味は!?」
「嘘仰い。幽霊になった私には全てお見通しよ」
(参ったなこりゃ。下手に誤魔化したら僕が女装趣味な事がヒナギクさんバレてしまう)
「うわ、キモ。やっぱ趣味なんだ」
(なっ、何で僕の思った事が!?)
「それは私が幽霊だから。幽霊は皆、人の心が読めるのよ」
「それ嫌な能力だ!!」
それより──とハヤテは続ける。
「この体、どうします?」
「そりゃ貴方、持って帰らなきゃ拙いでしょ」
「ですよね。ではバテキアの根っこを採ったら」
「根っこなんて要らないわ」
「え、どうしてですか?」
「あの変な感じが消えたのよ。幽霊になってから」
「変なってひょっとして」
ハヤテはデレデレになって自分に抱き付くヒナギクを思い浮かべた。
「バカ! 恥ずかしいからそんなの想像しないで!」
「すみません」
ハヤテは申し訳無さそうな顔で妄想を掻き消した。
「さ、帰るわよ」
ヒナギクはそう言うと、ナギの体を抱えようとしたが、触れずにすり抜けてしまった。
「ちょっ、どうして触れないのよ!?」
「知りませんよ、そんな事」
ヒナギクは「はぁ」と溜め息を吐いて肩を竦めた。
「ハヤテくん、持って」
ハヤテは言われた通りナギの体をお姫様抱っこした。
「これ、ナギにどう説明する?」
「どうって、ちゃんと説明するしか無いですよ」
「それは拙いわね。あのナギの事だから、知ったらきっと殺されるわ」
「恐ろしい事言わないで下さい。じゃあとうするんですか?」
「と、取り敢えず鷺ノ宮さんに相談しましょ?」
「ですね。解りました、そうします」
ハヤテはそう言うと鷺ノ宮邸に向かった。