ハヤテのごとく!〜ヒナギクがナギでナギがヒナギクで〜 作:桂ヒナギク
都内某所に、鷺ノ宮家の屋敷はある。
ハヤテらはそこへ、ナギの体を持って伊澄に会いに来ていた。
「それで、お亡くなりになったと?」
「そうなんですよ。何とかして生き返らせられないですか?」
「と言われましても、私には無理です。抑も、人を生き返らせるなんて、神に対する冒涜です」
「そんなぁ」
とショックを受けて肩を竦めるヒナギク。
「取り敢えず、今日の所はお帰り下さい。ナギの体はこちらで預かっておきますので」
「はあ……」
ハヤテは素っ気無い返事をすると、ヒナギクを見た。
「ヒナギクさん、帰りましょう」
そう言って、ハヤテは屋敷に向かって歩き出した。その後ろをヒナギクが無言で付いて歩く。
「ただいま戻りました」
屋敷に着くとハヤテはそう言った。
「お帰りなさい、ハヤテくん。ナギはどうなさいました?」
とそこに現れたのはメイドのマリア。
「え……お、お嬢様なら、伊澄さんの所に泊まるとの事で置いて来ました」
「まあ、そうですか。では、今日のお食事は二人だけですね」
「おい、マリア。私のは無しか?」
とそこに現れたのは眼鏡を掛けたお年寄り。
「ああ、クラウスさん。すっかり忘れてましたわ」
マリアがそう言うとクラウスと呼ばれる年寄りは落ち込んでしまった。
「そうか、私はもう必要無いのか。後の事は綾崎に任せて逝ってしまおうか。あー、でも逝く前にもう一度、あの娘に逢いたいなぁ」
「…………」
マリアが無言で、そして可哀想な者を見る目でクラウスを見詰めた。
「クラウスさん、相当落ち込んでるわね。ハヤテくん、女装して慰めてあげるのよ」とヒナギク。
「嫌ですよそんなの。死んでもしません」
ハヤテの言葉に、マリアが振り向いて疑問の表情を浮かべた。
「ハヤテくん、一体誰と話してるんですか?」
「え、誰って……」
(そうか。マリアさんにはヒナギクさんの姿が視えないのか)
ハヤテはそれを理解するとこう言った。
「ただの独り言です」
「独り言ですか」と笑うマリア。
「い、嫌な予感がしてきたので失礼します」
ハヤテはそう言って自室に行こうとしたが、マリアに捕まってしまった。
「ハヤテくん、何処行くんですか?」
「ど、何処も行きませんよ?」
「そうですか。では、こっちに来て下さい」
と案内されたのはマリアの部屋だった。
「じゃあハヤテくん、先ずはこれに着替えましょう」
そう言ってマリアはクロゼットから女物の服や装飾品を取り出した。
「またですか?」
「またですよ?」
「…………」
ハヤテは無言を回答に、徐にマリアが取り出した服に着替えた。そして、バニーガールハーマイオニーが誕生した。
「何か変じゃないですか、これ?」
と鏡を見ながら言うバニーちゃん。
「全然可笑しくありませんよ。寧ろ可愛いですわ」
「そ、そうですか?」
「ええ、可愛いですよ」
「そうですか。ではクラウスさんに逢って来ます」
バニーガールハーマイオニーはそう言うと玄関に向かった。
クラウスは未だ、そこでしょんぼりしている。
ハヤテはそんなクラウスに声を掛けた。
「クラウスさん」
「ん、何だ?」
クラウスは振り向き、バニーガールハーマイオニーを見た。
「ややっ、君はいつぞやの! そうかそうか、私に逢いに来てくれたのか。しかし今日は何故バニーガールなんだ?」
「それは……」
「それは?」
「気分です」
言ってニッコリ笑うハヤテ。
クラウスは頬を赤らめ、心臓をバクバクさせた。
「所で気分はどうですか? マリアさんから落ち込んでると聞いてたものですから」
「いや、全然落ち込んでおらんぞ。私は至って元気だ。よーし、仕事をするぞー!」
クラウスはそう言って執事長室へ元気良く駆けて行った。
ハヤテは直ぐさまマリアの部屋へ移動して元の服に着替えた。
「では、僕は部屋に戻りますんで」
ハヤテはそう言って自室に移動してベッドに横になった。
はぁ──と溜め息を吐くハヤテ。
同時に、扉がコンコンと叩かれ、マリアが入って来た。
「ハヤテくん、お話しがあります」
と真剣な表情で言うマリア。
ハヤテは起き上がり、マリアを見詰めた。
「今、伊澄さんの所に電話をしてナギの様子を伺ったのですが……」
と、言い難そうな顔をするマリア。
ハヤテは唾をゴクリと飲み込んで次の言葉を待った。
「……その、ナギがお亡くなりなられたって。一体どう言う事なんですか?」
「へ?」
「へ? じゃありません。ハヤテくんとナギはアレキサンマルコ教会の地下迷宮に行かれたんですよね? 何が遭ったんですか、そこで?」
(この問いには正直に答えるべきか?)
と此処でハヤテの頭の中に悪魔と天使が現れた。
「正直に話した方が良いわ」と悪魔。
「いいえ。嘘を吐くべきよ」と天使。
意見が合わず、決めかねたハヤテはヒナギクを見た。
「何かしら?」
(正直に話した方が良いんでしょうか?)
「そうねぇ。うん、そうした方が良いわ」
多数決により、ハヤテは話す事にした。
「実は──」
とハヤテは地下迷宮で遭った事を全て話した。
「──と言う訳なんです」
マリアは額に青筋を立て、ハヤテに襲い掛かった。
ハヤテは咄嗟に避けた。
「突然何するんですか!?」
「許さない」
「はい?」
「よくもナギを!」
言ってマリアは再度ハヤテを攻撃する。
ハヤテは咄嗟に避け「やめて下さい!」と言うが、しかし、マリアは聞く耳持たず攻撃を続ける。
(な、何だか判らないけど、マリアさんが怒ってる!?)
「怒ってるわねぇ」
と楽しそうに見物しているヒナギク。
「ヒナギクさん、見てないで止めて下さい!」
「うーん、どうしようかなぁ?」
言ってソッポを向くヒナギク。
「うわっ!」
隙を突かれ背負い投げを食らうハヤテ。
(クソッ、どうしたら良いんだ!?)
と考えるハヤテに、次の攻撃が迫る。
「うわっ!」
ハヤテは避ける間も無く、お腹に鉄拳を食らった。
「このままジャンクにしてあげるわ!」
言ってマリアは、ハヤテの上に跨がり、首を掴んだ。
「ぐっ……!」
首を絞められるハヤテ。
(はっ! 駄目、ハヤテくんが死んじゃう!)
それを見たヒナギクはそう思い、咄嗟にマリアを突き飛ば……そうとしてそのまま通り抜け、転けて床を滑った。
ズザー!──と何かを擦る様な音が木霊する。
マリアは驚き、音の発生源を見た。しかし、そこには何も無かった。
(まさか……幽霊?)
と、顔を真っ青にするマリア。
ふう──と、安堵の溜め息を吐いてマリアを見るヒナギク。
(何とか殺されずに済んだみたいね。それにしても、何で触れなかったのかしら?)
ヒナギクは疑問の表情をした。
ヒナギクは息を大きく吸って「ふーっ」とマリアの耳に息を吹き掛けてみた。
ひゃあっ!──と、身震いするマリア。
「あれ? マリアさん、どうしたんですか?」
「わ、判りませんわ! こ、この部屋、何か居ます!」
マリアはそう言うと、慌てて部屋を飛び出して行った。
(何か居るって、此処には僕とヒナギクさんしか……って、あ、そうか。マリアさんにはヒナギクさんの姿視えないんだった)
ハヤテは起き上がってヒナギクを見た。
ふーっ──と、ヒナギクの息が彼の耳に吹き掛けられる。
「うわっ!?」
ハヤテは驚いて身震いをした。
「あ、ゴメン、ハヤテくん」
「いえ、別に……」
「そう。それより大丈夫? 首」
「ええ、何とか」
「良かった。ハヤテくんが死んじゃったら私……」
「大丈夫ですよ。僕はそう簡単に死にません」
「違うわよ。そう言う事言ってんじゃないの」
「え、じゃあどう言う……?」
「貴方が死んだら、私が貴方を殺せないじゃない」
「ちょっ、ヒナギクさん?」
「何かしら?」
「怒ってます?」
「別に怒ってないわよ?」
そう言って微笑みを浮かべるヒナギク。ハヤテはそれに怯えてしまった。
(怒ってる! この人絶対怒ってる! この微笑みがその証拠だ! と、兎に角、ヒナギクさんの怒りを収めなくては!)
「あの、ヒナギクさん?」
「何かしら?」
「今から僕と、デートしませんか?」