ポケットモンスターSPECIAL 陽の名を持つもの 作:陰庭
ヒナタは名乗ったところで自分がタメ口になっているのに気づき、
「す、すいませんレッドさん。年上なのにタメ口になってて」
謝りつつ、敬語に訂正する。
そのことにレッドは
「ああ、いいよいいよ、そんなに改まんなくて」
さすがはチャンピオンになる男である。寛大な心で許してくれた。
だがヒナタは、憧れともいえるレッドにタメ口など使うはずもなく、
「いえ、敬語で話します!」
という風に、敬語になった。
その後彼はレッドにどうして森にいたのかなどいろいろ問われたが自分が転生したなどとは言えるはずもなく、
「よくわからないんです。記憶もなくて」
と、記憶喪失の振りをしてなんとか話から逃れた。
その時彼が
「記憶喪失ならオーキド博士にいろいろ頼んでみるよ」
と請け負ってくれた。
また、彼は彼を助けたという人物のことを尋ねたものの、
「それがよくわからないんだよ」
そのことについての返事は芳しくなかった。
「森の中でスピアーに襲われている人がいるから助けてやってほしいって言われた後何処かに行っちゃったんだ。ちなみにスピアーってのは思い出したくないかもしれないけど、ヒナタを襲っていたポケモンのことだ」
レッドは彼を助けるためにかなり急いでたらしく大まかな場所聞き終えた後すぐに森に向かったため、特徴等も覚えていなかった。
役に立てなくてすまないなーーそう言われたがヒナタは特段気にしなかった。レッドはああ言っているが寧ろ本当に助けたのはレッドなのだから。
ヒナタはお礼をいったあとこの話を切り上げ、自分のことを請け負うと言ってくれた彼に任せ、スピアーにやられた傷を癒やす為に、ポケモンセンターで休むことにした。
休む前に
「(レッドさんと話したんだぜオレ!やべえ、死にかけたけど良かった!嬉しすぎて今死にそう!)」
原作キャラと関わったことでかなり興奮していた。
そのため、周りの目線がかなり痛かったのだが、興奮している彼が気づく筈もなかった。
次の日、ヒナタはレッドとともにオーキド博士のいるマサラタウンに行くことになった。
その過程で、昨日のゲームと現実の差とレッドの話しからもやはりマサラタウンまでは遠いということがわかった。
しかし、昨日の森での経験からもヒナタはある程度遠いことを予測していたのでそこまで苦労することはなかった。途中、
「昨日、森であんなことがあったけどポケモンは大丈夫か?」
と問われる。その質問は当然のことだ。トレーナーだろうと何だろうと普通あんな経験したらポケモンに対してを抱いていても不思議ではない。
ポケモンが嫌いになったというわけではない。恐怖はしている。しかしまだ自覚はしていない。そのため、むしろ彼にとってあの経験は自分が本当にポケモンの世界に来たということが実感し、その上、ポケモンとはどういうものなのかを理解することができた。
まあ、それでもトレーナーになったら最初のポケモンは必ず炎タイプにしようーーその理由がスピアーを倒せるようにするためであり、そう考えていることから多少スピアーに対してはトラウマになっているのだが。
ヒナタは炎タイプのポケモンを選ぼうと思ったときから浮かんでいた現実とゲームの知識のズレがないかを確認する。
「昨日訊きそびれたんですけど、スピアーってコクーンていうポケモンの進化系で、虫・毒タイプですよね?」
「ああ。よく知ってるな」
その返事を聞いてタイプのズレは多分無いだろうと結論づけるーー仮に間違っていてもその場で確認すればいい。そう考え、思考を止めた。
今はその事よりもオーキド博に早く会いたいという気持ちの方が強く、レッドがいるため顔にはださないものの、内心ではかなり興奮していた。
しばらく歩き、マサラタウンとおもわれる町が見えてきたとき、此方に手を振っているお爺さんが見えた。そう、オーキド博士と呼ばれる人物である。
「(あれはオーキド博士かな?遠くからであまりはっきり見えないけれど多分当たっているだろう)」
しかし、念のためにオーキド博士を知っているレッドに訊いておく。
「ああ。あれがオーキド博士だ」
やはりヒナタの予想は当たっていたようで肯定するレッド。その肯定で確信を持ったヒナタは今にも駆け出したかったが自重する。
「(あれが全ての始まりのオーキド博士!アニメでもゲームでもこの人にポケモンを貰って旅が始まるんだよな)」
代わりに考えることに没頭する。
そうしている間に近付いていて、気付いたときには残り十メートル程になっていた。
考え事をしていたといっても挨拶を考えていなかったため、焦り出す。しかし気付かれないようにあくまでも表情を平静に保つ。
距離が十メートルを切ったぐらいでオーキド博士が近づいてきて
「君がヒナタ君じゃな」
「は、はい。あの、オーキド博士ですか?」
返事を聞いてヒナタの態度が硬くなっていることに気づいたオーキド博士は
「そんな硬くならんでもいいよ」
と言ってくれたのだが
「(やばいやばいやばいやばい!目の前にオーキド博士がいる!最初に話しかけてくれた!あれ?今なんか言ってたけど何言ってるか全く分からない!)」
緊張し過ぎて何も耳に入らないため、焼け石に水だった。
するとレッドが、
「オーキド博士、彼はスピアーに襲われたって言ったじゃないですか」
「ああ。聞いたのう」
「記憶喪失らしいんですけどスピアーのタイプと進化前のコクーンを知ってたんですよ」
「ほう。それは?」
「どうやら記憶は無くなっても知識自体はあるみたいです。普通に喋れてますし。それにポケモンのことも詳しいみたいです。トキワの森で見たポケモンの名前、訊いてみたら全部知ってましたし」
「あの子はポケモンが怖くないのか?」
「平気といってますが心の中で恐怖してると思います。俺だってスピアーに襲われたら怖いし」
その言葉を聞いたオーキド博士は少し考えた後
「ならレッドこうするのは…」
「たしかにいいと思いますけど負担が…」
「それは大丈夫じゃ。元々偶然だったのだから」
一通り話した後
「よし。とりあえずヒナタ君を呼んできなさい」
「だってさ。ヒナタ、こっち来いよ」
ヒナタが緊張し過ぎて混乱している間にレッドとオーキド博士が話をまとめていた。
言われた通りに二人の下に行く。
「まず、ヒナタ君には儂の所にきて貰う。名目上は助手、まあ手伝いをする人として扱う。一応少しは手伝ってもらうんじゃが簡単な事だから大丈夫じゃ」
「ありがとうございます!」
オーキド博士は軽く咳払いして、
「レッド君には図鑑完成をしてもらわんといけないから旅に戻ってもらう」
ポケモン図鑑。
ヒナタはそれの完成をレッドが手伝っているのを思い出す。オーキド博士が言うまで忘れていたが。
「(ポケモン図鑑か…実際どうやって使うんだろうな…ボタンたくさんあったし。適当に押せばいいわけじゃないだろうし)」
どうしても現実とゲームの違いを意識してしまう。頭の中では理解しているのだがそう上手くいかないのが辛いところである。この癖がバトル中に起きたりして負けたりするかもしれない。早めに直さなければーーそう考えていると今度は思考に没頭していた。
しかしすぐに意識を現実に戻し、
「あの、話に割り込んで悪いと思いますけど、ポケモン図鑑ってなんですか?」
ポケモン図鑑のことを訊く。
何故なら、ポケモン図鑑のことは普通の人は知らないために訊かなくてはならない。そこで知っていては疑われたり、受け入れてもらえなくなるかも知れない。いきなり転生して来た為に家など勿論有るはずもなく、お金も持っていない。トレーナーとして暮らそうにもポケモンもいない、お金がない時点でポケモンを捕まえる為のモンスターボールも買うことができない。この世界の人がどれだけ優しいかは分からないが、元々いた世界では、見ず知らずの人に何でも分け与えてくれるような優しい世界ではなかった。もし同じだったとするなら野垂れ死にしてもおかしくない。
どちらにしても、現実との違いを確認するにしても、自分のためにしても、訊かないわけにはいかなかった。
「ポケモン図鑑というのは、捕まえたポケモンの生態を詳しく知ることができる機械じゃ。それによって調べたポケモンは研究が進むんじゃが、なにせ数が多いからのう。儂は研究もあるからレッドと儂の孫であるグリーンに頼んだんじゃ」
現実とゲームの違いはなかった。逆に、こんな簡単に他人に教えてもいいのかと疑問に思ったが、開発者であるオーキド博士が話しているのだから平気なんだろうと勝手に結論づける。
「ヒナタ君。今から研究所に行くからついてきてもらいたい」
「わかりました。レッドさんありがとうございました」
「おう。博士の手伝い頑張れよ」
世話になったレッドにお礼を言って、オーキド博士について行く。
「ちょっと待っていてくれ」
研究所に着いて、オーキド博士はなにやら整理している様だった。
ヒナタは大方、研究資料が散らばっていたため、纏めているのだろうーーそう考えた。
「さて、君には渡したいものがある」
研究所に着いて整理をした後、おもむろに話し始めた博士にヒナタは疑問を抱く。
自分はまだオーキド博士と出会ってから少ししか経っていない。それなのに何かを貰えるなど不思議に思えるからだ。
「で、渡したいとおもったのはこれじゃ」
そう言って案内されたオーキド博士の机の上には三つのモンスターボールが置いてあった。
まさか…そうヒナタが思った瞬間、
「察したと思うが一応言っておく。君にポケモンを一匹あげるつもりじゃ」
いったい何故?その疑問が浮かんだが、考える前にオーキド博士がし始める。
「この事はレッドと話しをして決めた。スピアーに襲われたこと、表面上は平気そうだが、少しはトラウマ、恐怖しているのだろう?しかもなかなかの数に襲われていたと聞いた。」
儂だったら恐怖で外に出れんかもしれんーー苦笑しながらも表情は真剣だった。
「まだ君は若い。こんなところでポケモンを嫌いになってもらっても困る。かつて儂もトレーナーじゃったからな。ポケモンといる楽しさを知っている。もしこのことでその楽しみを失ったら君もつまらないと思う。いくらポケモンか全てではないとはいえポケモンを誤解したままではいてほしくないんじゃ」
ヒナタはこの話を聞いて少し驚いていた。会ってからもまだ少ししか経っていないのにこんなに真剣に考えていてくれたのか…と。正直、汚いかもしれないが、自分だったら見返りが有るわけでもない、良い人かどうかも分からない奴にそんな事はしない。できない。それを目の前の人物はやっている。
ゲームと現実の違いーーそんなくだらない考えばかりしていた自分に恥ずかしくなる。現実では、自分の元々いた世界はこんな事はなかった。しかし目の前にはいる。彼は目の前の人物を汚していたーーそう自分を卑下来るくらいオーキド博士に尊敬の念を抱く。
「怖いことは誰だって怖い。無理に縛る必要はないんじゃ。スピアーに襲われたこと、怖いのじゃろう。スピアーというポケモン自体が怖い。そうだろう」
ヒナタは、あの時起きた恐怖を思い出し、震えていた。
「オレは…ポケモンが、スピアーが怖いです」
「そう、それでいいんじゃ。ポケモンとは怖いものでもある。それは間違っていない。だが、優しいポケモンもいる。それを認識してくれ」
オーキド博士はポケモンとはどういうものなのかを説明する。しっかりと受け入れられるように。
その甲斐があったのか震えが小さくなっていく。
三分ぐらい経った後、
「…すみません」
ようやく落ち着いたのか呼吸を整え謝る。しかしその額には汗が浮かんでいた。
「すまんのう。ああでもしないと恐怖を自覚しないかと思ってな」
「いえ、ありがとうございます。やっぱり自分の心ではわかってたんですね。ポケモンに対しての恐怖を」
ある程度ヒナタの気持ちが落ち着いたのを見計らって
「落ち着いたようだし話に戻るとしよう。今分かったとおり、ヒナタ君にはポケモンに対する恐怖が残っている。だからこのポケモンのうちどれか一匹を渡すという話になったのじゃ」
話しながらボールからポケモンをだす。
「知っているかもしれんが一応説明する。この緑のポケモンがフシギダネじゃ。タイプは草じゃの。」
オーキド博士は違うボールをとりポケモンをだす。
「こいつはゼニガメ。水タイプじゃ」
そして最後のボールからもポケモンをだす。
「こいつはヒトカゲ。炎タイプじゃ。さあ、どれにする?」
ヒナタはポケモンはもう決めていた。
最初はスピアーに対抗するためだった。しかし今は違う。
ゲームでも相棒だったポケモンを。現実でも大切にするため。
「ヒトカゲ。こいつにします」
そう言ってヒトカゲの頭に手を乗せる。
「名前はつけるか?」
オーキド博士の言葉に頷き、
「…そうだな。…リザ。お前の名前はリザだ」
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