セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
織斑一夏。世界唯一の男性IS操縦者にして、インフィニット・ストラトスの主人公。独特な感性をした飄々とした部分を持つ朴念仁。IS世界大会優勝者織斑千冬の弟。
というのが基本的なデータであろうが、この世界の彼はどこか違った。十中八九中の人というか、設定が違うのだろうけれど、特に興味を引かれたのが第二回モンドグロッソ開催直後に一夏が誘拐されて、おそらくは原作よりも長い期間行方を暗ましていることだろう。誘拐したのは
一夏に会ったときに直球で聞いてみたことがある。
『………戦争だ』
たった一言だけ返してくれた。
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放課後のことである。
「しぇぇぇぇぁああああっ!!」
打鉄を纏った箒が刀型近接ブレードを突きを主体とした構えである霞の構えから一気に距離をつめて突撃した。
「ぐっ!?」
対する一夏は西洋剣でも扱うかのように体の横で構え腰を落としていた。刃を立てて短く体の横で構えるというのは、敵の刃を払い鎧の弱点を突くための合理的な待ちの戦術である。
猛烈な突進から放たれる刺突攻撃はしかし空中で上方へと受け流され、逆に一夏のブレードの刃がくるりと返り、鎧があれば首元であろう箇所へと滑り込んだ。
「ちっ!」
が、刃が箒が咄嗟に攻撃の半径へと身を滑り込ませて引き寄せた柄で払ったことで無意味になった。双方同時に引き、突きと斬りつけの応酬が空中に花を咲かせる。刃と刃が重なること数十合。一夏が隙を狙い空中へと逃げた刹那、つい今しがたいた空間を刃が一閃していた。
「さらにできるようになったな一夏!」
「この武器は扱い辛い」
「剣道の型ではないな。西洋剣術か。刀が泣いているぞ」
「………」
距離にして数十m。ISの運動性であればコンマ数秒とかからない距離。ハイパーセンサーの恩恵も、お互い同型機種で武器が刀一本なのであれば無意味だった。
―――と、二人が鎬を削っているのを、俺はスタジアムの観覧席で見つめていた。
「こうなりますわよね……あのモップさんだったら、一夏に素直に応じるでしょうし」
現在の俺の格好は制服ではなく、ごく普通の私服だった。ジーパンに水色のニットベスト。靴は動きやすいスニーカー。髪の毛は後頭部でポニーテールにして水色のリボンで結い上げてある。男物と言い張れる程度の女服。スカートもいいんだが夏は暑いし、冬は寒いし、ズボンのほうが好きなんだよなぁ。
しかし、このままでは一夏が取られてしまう。積極性に関しては箒の方に軍配があがっていた。
原作からはだいぶ流れが違うとはいっても、クラス代表戦という区切りに関してはそのまま進行している。勝つもよし、負けるもよし、と驕っていたと告白しよう。一夏の動きを見て俺は悟る。楽な相手ではないぞと。勝敗を選ぶことはできないだろう。
俺も稽古をつけてもらってはいるのだが……。
『背中にも目をつけろ!』
『わひいいいいい!?』
背後を取ったのに反撃を食らったり。背面振り返り撃ちをやられる側になってわかる理不尽さ。
『遅いぞ! フィンファンネル!』
『うわ……!? うわわわわ!!』
気色の悪い動きでこちらを追い詰めてくる放熱板のようなそれに追い詰められたり。
放熱板がなんだってんだ!
って言おうとして顔面ブチ抜かれました。あれに初見で反応していたガスさんちょーつおい。
『のろまめ。スペックデータ上ではお前の機体の方が推力が上なのだぞ』
『サーイエスサー!』
『サーだと? マムだ小娘め』
『イエスマム!』
『よろしい。お前のビットとかいったな。そんなもので私を落とせると思ったのか?』
言葉責めにされたり。フルメタルジャケットの微笑みデブみたいな笑みが出そうになったわ。
『この程度の攻撃かわしてみせろ!』
『ミサイル……ミサイルがあああっ!!』
『布石に過ぎん。本命はこれだ』
『うわああああっ!』
クイックブーストもどきを披露しつつ接近してくる桜色のエンブレムに至近距離からレールガンを食らったり。
何あれイグニッションブースト? ドヒャア音聞こえるんですけど。ボタン半押しうまいなオイ。
……うん。無理。
まずアム……千冬さんにしろ霞じゃない山田先生にしろ、強者であることには違いないんだけど、教え方がへたくそというか、『こう弾くのだ』と演奏してみせたけど誰一人ついてこられなかった演奏家というか、教え方が独特過ぎて何の参考にもならないのだ。千冬さんは射撃を主体とした高速の一撃離脱戦法で参考にならず、山田先生は中距離遠距離でシールドをガスガス抜いていくスタイルなのでセシリアにはうってつけかもしれないけど、中の人こと俺のへっぴり腰射撃ではまったくついていけなかったりと、要するに腕前が違いすぎて参考にならないのだ。
授業はつつがなく進行していた。俺を除いて。
難しいなんてレベルじゃない。この周囲の生徒の『セシリアさんだったらわかってるよね』感がとてもつらい。そういう勘違いものはいらないです。付いていけていないわけじゃないんだが、たとえるならば暴れ馬の尻尾に辛うじて掴まって引っ張られている状況とでも言おうか。俺が眉間に皺を寄せて必死で教科書に噛り付いていると、教科書を読み上げていた千冬先生が顔を上げた。助かった。
「ところでいち……織斑。セシリアとの組み手では何の機体を使うつもりだ」
「打鉄を」
「朗報というべきかな。政府と学園がお前専用の機体を用意するそうだ。用意……“元通りにする”と言ったほうがあってるかもしれないけどな」
「………」
奥歯にものが挟まったようなものいいだった。
俺は二人の顔を交互に見比べていた。もしかして、一夏の専用機は白式ではないのかもしれない。
「ねえ専用機ってことは政府からの支援があるってことかな?」
「うらやましいなぁ……」
「企業にお願いしたらもらえたりしないかなぁ」
「えーやだーなんか改造とかされそう」
「実験台? 借金とかするとされちゃうらしいよ」
「どんなISなんだろう」
場にざわめきが広がっていく。
「専用機が欲しいならば死ぬ気で努力することだな。代表を勝ち取るか。軍で実力を認められてもいい。ファッション感覚で欲しいというならばダンボールか何かで衣装を作って遊んでいろ」
ぴしゃりと山田先生が場を一喝した。その声の冷たいこと冷たいこと。オペ子としての彼女は正直聞いていて耳が嬉しいんだが、教師として目の前で腕を組み俯き加減にドスの聞いた声を発せられると、もうおなかがいっぱいですという気持ちになる。と思いきや山田先生が立っているすぐそばの女子は手を口元で合わせて、恍惚とした表情で見つめていた。
ダンボールのガンダムは関係ないだろ!
「かっこいい……お姉さま……」
百合の花が見える。
俺は目から星を垂れ流す女子生徒を尻目に、教科書のページをめくるふりに入った。一夏はどんな反応をしているだろうか。
山田先生は我慢せず腕を組み端末をいじる作業に戻ってしまった。教師ってなんだっけ?
「専用機と言えばセシリアはどうなんだ。準備は順調かい」
「はえ? わ、私ですかぁっ!」
一夏に集中していたせいで不意打ち気味に話を振られ動転して立ち上がってしまったじゃないか。
ここは優雅に行こうぜ。俺は髪の毛をぱさっと横に手で払いつつ腰に手をやった。原作っぽい仕草だろ? モデルの動きを見て勉強したよ。
「語るまでもありませんわ。準備は万端。整備も万全です。いつでも一夏さ……織斑さんと戦うことができますわ! イギリスが誇るブルー・ティアーズの性能をご覧に入れましょう!」
なお使いこなせないもよう。
千冬が気さくに微笑んだ。
「よかった。精神の張り詰めを感じたんだ。気張りすぎるなよ。相談ならいつでも乗る」
「もちろんですわ。信頼しておりますから」
……なんてええ人なんや……隣に立ってる鬼とは比べ物にならないぜ。
「………」
心の声が漏れたのか、山田先生ががっつり見てきた。人殺しの目で。やめてくださいおなかがゆるくなってしまいます。
俺は席に腰掛けると、授業の続きに集中するべくペンを持ち直した。
代表決定戦の日は近い。