セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
俺は目を覚ました。どうやら気を失っていたらしい。
「………」
医務室のようだった。アルコール消毒液のにおいが染み付いた白と緑色で構成された清潔な部屋にあるベッドに俺は寝転がっていた。白い布団がかけられている。起きるべきだろうか。それとも布団に甘えておくべきだろうか。
すー、すー、という吐息が聞こえた。顔を傾けてみると、すぐ横に腕を組んだ一夏が椅子に腰掛けていて、今にもベッドに倒れ掛かるような姿勢で居眠りをしていた。
「負けたんですね……わたくし…………」
俺は目を閉じて呟いた。
……負けイベントだったんだよ、きっと。しょうがないね。
「ここは………医務室? 保健室?」
俺は記憶が一部飛んでいることに気が付いた。余程衝撃的だったのか。記憶はすぐに戻ってきた。
壱式月光剣――ようはブレードのことだが――を手に入れた一夏の攻撃は凄まじかった。月光の名を持つブレードが放つビーム光波は、ゲームの仕様上だと命中するとほぼ即死する威力を持っている。それを異常な腕前の男が装備して、しかも両腕にあるときたもんだ。おまけに普段の無表情を通り越して殺意をにじませて迫ってくるもんだから――。
『ひ、ひっ………あっやっ近づかないで! こっちにこないで!』
情けない声をあげて、新装備を試すまでも無く逃げようとしたんだ、俺は。
逃げられたかって? 無理難題なこったな。ビットを喪失。スラスタもいくつか無い。そもそもスペックデータからして、相手の方が優速だ。それ以前にアリーナに逃げ場所なんてあるわけがない。背中を見せたところでシールドを根こそぎ剥ぎ取られて蹴りを食らって絶対防御が作動したような気がする。色々と取り返しが付かないような気がしないでもない。キャラ的にお嬢様というか、高飛車系だったのに一夏を目の前に逃げようとしたなんて笑えないぜ。
俺がチキンかっていうと、確かにチキンであることは認める。だがガチもんの殺し屋もとい傭兵の放つ独特な殺意と殺しの目は、基本的に一般人の俺にはキツ過ぎた。あとゲームの影響もある。即死級の攻撃を連打してくるボスとの戦いで緊張しない奴とかいないわけだ。
「一夏さん? 寝てる……」
撃墜後の記憶が飛んでいるからよくわからないが、絶対防御が作動した拍子に意識が飛んでしまい、運び込まれた後で一夏が看病してくれていたのだろう。自分の体に触っても外傷や打撲は無い。寝ていればすぐに起きる程度の怪我だったらしい。絶対防御ごとブチ抜いて怪我をしてるだろうな、と想像していたのに。
俺は腕を組み寝ている一夏の顔を覗き込んでみた。この一夏は笑顔をめったに見せない奴だが、顔だけは原作とおりのイケメンである。俺の前世がこんなイケメンだったらもっと楽だったのになあ。
俺は周囲を見回した。医者はいないようだ。正確にはベッドとベッドを仕切る個室にはいない。部屋のどこかで医者らしき人がパソコンのキーを叩いている音がしている。
「チャンス到来ですわ……いただきまーいだだだだだだ!!!??」
俺は一夏の顎をひょいと持ち上げると、キスをしてやろうと――とたんに一夏が目を覚まし俺の腕をねじ上げ首根っこ掴んでベッドに押し倒し、その上にのしかかっていた。首にはいつの間にやらボールペンの先端が押し付けられている。
乱暴なやつだな。いいぞもっとやれ。
「………何者だ?」
「わたくしです! セシリアですわ!」
「…………何をしようとした?」
尋問を受けている。答えないと首にペンが刺さりそうなので素直に答えておく。流血プレイは趣味じゃない。
のしかかってきたことで男性特有の体臭がかすかに鼻をくすぐった。はぁー……もっと吸ってもいいですか。
「へっ? べ、べつに眠っているようなので起こそうかと思いまして、触っただけですわ。何かを取ろうとか、危害を加えようとか、そんな無粋なことはいたしません。神に誓って」
嘘である。強いて言うなら唇を盗もうとしてましたとさ。目がぶれないように気をつけながら、深く頷きながら弁明してみる。
「……すまない」
一夏は申し訳なさそうに眉間に皺を寄せてどこうとした。
もうどいちゃうのか……そうか……。
「一夏ァァァァァァッ!!! どこに行っているのかと思いきやセシリアの看病だとぉぉぅぁ!!」
シャッとカーテンがめくられたかと思えば、おとめ座の戦士妖怪仮面ブシドーが現れた。
テンションたけーなオイ。
「あ」
「あ」
「あ」
俺があと言ったのは、押し倒されているせいだ。
一夏があと言ったのは、俺を押し倒しているせいだ。
箒があと言ったのは、将来の夫(仮)が女生徒を押し倒している場面を目撃したせいだ。
一夏が気まずそうに俺からどこうとした。どかなくていいよ。もうチョイくっついていかない?
ラブコメだと『ごゆっくりー』とか言って引き下がるのだろうが、そこは尋常ではないしつこさの仮面女である。何を思ったのか後ろで手でカーテンを元通りにすると、きゅっと背中からぶら下げていた刀袋の口を緩めて――真剣を取り出した。抜刀。銀色に輝く日本刀がしゅらりと鞘払われた。
「よかろう、セシリア=オルコット! 堪忍袋の緒が切れた! 許さんぞ!」
「愚かな真似はよしなさい! よせ! 竹刀かと思ったら真剣かよ!」
「免許があると言った!」
「どんな免許だよ!」
「ここに判子押して内容記入済み婚姻届があると言った!」
「知るかよ!」
「毎日毎日縛られて放置される私の気持ちを知るのだな!」
「えぇ……」
俺は口調も忘れてドン引きしつつ両手を挙げて降参を示した。
一夏はどうやら宣言通り箒を縛って寝ているらしい。うらやまし……くはない。多分。
「貴様ら病室でキャイキャイと姦しいぞ! 盛りの付いた犬のように鳴くな! やるなら外でやれ……何?」
再びカーテンがめくられたかと思えば、山田先生が登場した。俺は日本刀を抜いて凄む箒に寝転がりながら両手を挙げていて、一夏はどうしていいのかわからず俺から退く体勢のまま固まっている。
山田先生は俺らをぐるりと見て、箒の首根っこをむんずと掴んだ。
「校舎で武器だと? いい度胸だ。ついてこい。死なせはせんよ。体に聞くこともある」
「うおおおおお! 一夏ぁぁぁぁ!!」
「黙れ」
「おおおおおおおっ! ストレッチくらいさせろおおおお!!」
「黙れと言ったが」
哀れ箒は刀を没収され引きずられていく。
「セシリア・オルコット。お前にも山ほど説教がある。楽しみに待っていろよ」
「ええ、もちろんですわ……」
山田先生の殺しの視線を受けて俺は震えながら言った。何をやらされるのだろう。気になるが……。
「………改めて、すまない」
「……別にもう少しそのままでもいいですのに」
俺は口の中でもごもごと言葉を濁しながら言ってみた。いっそ布団に潜り込んでくれてもいいのにと。
「馬鹿言え。そんなことをしてみろ、山田先生が俺を殺しに来る」
一夏はばっちり聞いていたらしい。相変わらずの無表情でそう答えると、俺の上からどいて立ち上がった。
「失神したときはどうしたもんかと思ったが……その様子じゃ大丈夫みたいだな。俺は行くぞ。機体の修理やらは先生方がなんとかしてくれたが、もし気になるなら整備科に顔を出してもいい」
「あ、あのっ!」
俺は布団の上で拳を固めると一夏の顔を見上げた。
「わたくし、実はISの操縦と勉強が遅れておりまして、もし一夏さんがよろしければ教えていただきたいのですが!」
「お前……」
一夏が頭に疑問符を浮かべていたが、ややって口を開いた。
「傲慢な奴かと思っていたが……すまない勘違いだったようだ」
「傲慢て」
傷つくよそれは。まあお嬢様で高飛車なしゃべり方がセシリアだから印象がそうなるのも仕方が無いのか。
「教えるのは構わないが………」
「本当ですか!」
俺は一夏の手を取りにこにこ笑った。ニヤケ顔じゃないぞ、花の咲くようなってやつだ。
「ありがとうございます!」
「俺は用事があるから行くぞ」
「はい!」
一歩前進といったところだろうか。俺は退室していく一夏を見送ったのだった。後でメールアドレスに勉強会の日程を送らねば。
クラス代表決定戦終了の巻
なおメールアドレスは交換していたけど恥ずかしくて簡単なやり取りくらいしかしていなかった模様
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