セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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オリキャラ注意


番外編 Case/織斑千冬/“Orphans”

 世界最強という称号を拒絶したりはしないさ。私がいくら拒否しようとも、世界中から“私自身”に向けて放たれたミサイルや戦闘機その他を跳ね除けたのは事実だからだ。私がやったのは無手勝流に巡航ミサイルの群れを片っ端落として、弾道ミサイルをブーストフェイズで叩き切って、戦闘機や軍艦の世話をしたくらいだ。いつの間にか数がその数十倍にまで膨れ上がっていたのには驚いた。あのミサイルや無人戦闘機、軍部は偽者の命令によって動いていた。狙いは日本であると言われているが、事実ではない。戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基を、たった一人でやったというのは捏造された事実でしかない。

 事実は、私が“一夏を連れて逃げ出したことが気に食わなかった誰か”が私を消そうとしたことにある。その後白々しくISが軍事利用されたが、あれは事実を捏造しようとするためだったとしか思えない。世界中はこの事件を束のせいにしたが、違う。

 一夏も私も、その生まれは普通ではない。真相はわからないが、名も知らない地図にも存在しない過去のデータを参照にしてもあったことを匂わせる記述さえない施設で私たちは生まれた。似たような子供たちが大勢いたような気がするが、記憶があいまいになっている。催眠術か、薬品で意図的に記憶が操作されているらしい。しかし、あれは…………研究員達のセリフはよく覚えている。

 

 『これがあの……クローンがこいつとはなあ』

 

 その言葉が正しいならば、私には親がいないということになる。

 

 『このクローンの出来損ないが』

 

 研究員が一夏に対してこう言っていたのも覚えている。

 あるいは私たちは……誰かのクローンなのか……人造人間なのか……もしかすると私と一夏は真の意味で同一の存在なのかもしれない。きょうだいにしては顔が似すぎている。もしかすると、と推測してしまうのは、私の勘が鋭いからなどではない。

 だから一夏が親について聞いてきたときこう答えるしかなかった。

 お前の家族は私だけだ、と。

 

 

 

 

 私の機体、IS『ν』は篠ノ之束が作った最初の軍事用ISといわれている。というのもあいつが姿をくらまして連絡をろくに寄越してこないから、わからないのだ。私がこいつに出会い、動かしたのは施設から抜け出すためだった。

 その後、私を消そうとした連中は私を殺そうとはしてこなかった。ただし、一夏は別だったようだ。モンド・グロッソ第二回大会で決勝戦間際、一夏は誘拐された。日本において暗部を始末するための暗部とも言われる楯無がいたにもかかわらず防ぐことはできなかった。一夏はおよそ一年戻ってこなかった。あいつは……中東で殺しをさせられていた。殺しの才能があったのだろう。私と同じように。私がいながら助けることはできなかった。申し訳ないと思っている。殺しは大人の仕事だというのに。

 

 話を戻したい。私の機体は、最初はよかったが二回大会頃になると、私についてこられなくなっていた。私の操縦というより反応速度がコンピュータよりも早いらしい。ようはセンサーが捉える→判断するという手順より早く先読みしているので、機体側が私に合わせているらしい。整備と調整には専門の整備士が必要だった。

 

 「はじめまして。入間嶺(イルマ・レイ)と申します。学園では主にνの整備を行う……つまり織斑先生、あなたの専属整備士として配属されました」

 「イルマ………レイ?」

 

 私は首をかしげてしまった。

 自分でもよくはわからないが、その整備士の名前を聞いた途端に妙に懐かしいものを覚えた。私は自分でもよくわからない感覚に駆られることがある。νにガンダムという機体区分を作ろうとして首を捻られたこともその一つだ。ガンダム。どこでそんな言葉を覚えたのやら。確か、セシリアがガンダムがどうのとか言っていたような気がする。昔の文学作品で出た単語だろうか。あるいはイギリス軍の新兵器がかかわっている?

 入間は私が動くたびにどこか不調を訴える機体の整備を完璧にやってくれた。なよなよとした可愛らしい容姿をしているだけに、ギャップを感じていた。汚れたツナギに帽子をかぶって仕事をする様子は見ていてハラハラさせられる。

 

 「拡張性はありますが、追従性が足らんのですよ。νは素直に動けるように何かしらのインターフェースが付けられているようですが肝心の機体構造がついていけていない」

 「この機体は私が例の事件を起こしたときのものだ」

 「道理で。恐らく篠ノ之博士は他の誰でもない、子供時代のあなたが使うことを念頭に開発していたのでしょうね。成長することを考慮していないようですね」

 「入間。νが二次移行(セカンドシフト)を起こさない理由はあるのか?」

 「抑制されているというか、ISのコアが持つ自己進化能力が阻害されています。何かしらの理由はあるのでしょうけれど……」

 

 入間考案の改良によって、関節部やスラスタの反応速度を向上させるためのコーティングがされた。マグネット・コーティングというらしい。

 単なる仕事仲間という認識だった。いつの間にか相談役も言ってもないのに買ってくれるようになった。

 いつの間にか頼れる仕事仲間から価値観を共有する仲になっていたとしても不思議ではなかった。

 

 「機体の反応が鈍い。調整してくれ」

 「わかりました。具体的には両足ですかねえ。勘ですけど」

 「よくわかったな。さすが。膝で相手を殴ったらこのザマだ」

 

 機体について彼は十分理解していた。言わずとも故障箇所を理解しているようだった。

 ある日言ってみた。

 

 「私は入間をレイと呼ぶから、私を千冬と呼んでくれないか」

 「しかし」

 「……だめか?」

 「……わかりました。敬語も無しで?」

 「ウン。かゆいからナシでいこう」

 「わかったよ千冬。コレでいいかい」

 「似合わないなあ」

 「千冬がやれといったんじゃないか!」

 

 

 「弟が入学することになった」

 「おめでとう」

 「家族が見ている前で教師もなかなかつらいな」

 「千冬なら肩の力を抜ければすり抜けられるさ」

 「ウン。ありがとう」

 

 教え方がわからなくなって相談したこともあった。

 

 「生徒の一人が指導してほしいと言ってきた。大人げもなくのしてしまったが、どうだと思う?」

 「どうせ背中に目を付けろとか無茶振りをしたんだろ」

 「なぜわかった」

 「何年来の付き合いだと思っているのやら。まず基本を叩き込むところからだから、基本の動きをやらせてみて拙いところを指摘して直させて反復。これしかない」

 

 素の彼はどうやら普段とは正反対な性格らしかった。わかってはいたけれどね。

 だがその割りに家事はできるらしい。一夏がいないと家事がおざなりな私にとってある意味丁度凹凸を埋めるような関係だったのかもしれない。というのは言い訳で自室に上げたら呆れられたのだ。頑張って掃除はしたんだぞ。

 

 「交際しないか?」

 「いいとも」

 

 彼から交際を持ちかけられても二つ返事だった。色恋で顔を真っ赤にして動揺するほど子供じゃないんだ。持ちかけてくる入間の顔は真っ赤だったのが面白かった。

 機体の整備を終えて一息ついていると、おもむろにこう持ちかけられた。

 

 「千冬は家事ができなすぎる。俺がやるから一緒に住もう」

 「……ぷっ! 私だって棒切れか何かじゃない。プロポーズか? チャーミングな言い方をする」

 

 幼い顔立ちはコンプレックスの彼はすぐ腕を組んで背筋を伸ばし始めた。身長が私より足りていないだけあって、やっと同等クラスといったところか。

 

 「押しかけて掃除機の電源押さえてやる」

 「その独特なインテリジェンスは好きだぞ。合鍵は必要か?」

 「作ってくれ」

 「はいよ」

 

 トントン拍子で交際が進んだ。νを世界で一番知っているのは束ならば、一番手をかけてきたのは入間だった。そして、一夏を除けば、私のことを理解しているのも、彼だった。いつの間にか彼はなくてはならない存在になっていた。

 ある日模擬戦の後に格納庫に機体を運び込むと入間がいた。気持ちが高ぶっていたのか思わず唇を奪ってしまっていた。

 

 「今何をやったんだ!」

 「何って、模擬戦で勝ってきた」

 

 今思い起こせばちんぷんかんぷんなやり取りだったと思う。自分でもなぜキスしたのかよくわからない。高ぶっていたせいだと思う。

 

 焦ったのは指輪を渡された時だった。

 

 「結婚してくれ。俺の子を生んでほしい」

 

 そのとき、私は返事を返すことができなかった。

 恐らくは試験管か、代理母によって出産されたであろう誰かのクローンか遺伝子をいじって作られたであろう私が人並みの幸せを手に入れてもいいものなのか。幸せになることは諦めていた。せめて弟である一夏が人並みの幸せを手に入れられるように頑張ってきたのは、それが理由だった。悩んだ末に、同僚の山田に酒の席で相談をした。

 

 「人に生まれたのであれば、人並みに幸せを求めてもよいと思います」

 

 生徒達を厳しい瞳で見つめて叱責する姿とはかけ離れた優しい声でアドバイスしてくれたことで、腹が決まった。

 私はプロポーズを受けて入籍をした。結婚式は世話になった数人――集められるだけの篠ノ之家のものと、一夏と、レイとだけで執り行った。情報は他に漏らしていないのでパパラッチにつかまることもなく無事終わった。

 苗字は変えないでおいた。IS万能論のせいで女性強しの世論を受けて女尊男卑の風潮ができあがってしまっていたせいか、結婚しても苗字を変えなくてもいい、という制度を利用した。いきなり生徒たちに織斑千冬ではなくて入間千冬になったとは言い出しにくいという子供みたいな理由だったが、レイはOKサインをくれた。

 結婚して、初めて体を重ねた夜のことは忘れられない。いい年した女が痛い痛い悶える様はさぞ滑稽だったと思う。戦いで負傷したことは何度もあるが、あの内臓に来る痛みは筆舌しがたい。

 重ねているうちに徐々にだが体が快楽を覚えられるようになってきた頃だった。生理が止まった。言うべきか言わないべきか私は迷った。相談相手も見つからなかった。単なる体調不良で不順になっているだけかもしれない。私は確定するまで黙っておくことにした。

 結果は、妊娠している、だった。驚いた。私が子を宿すことができるなどと驚愕した。レイに伝えると抱きついておなかを撫でてきた。あの日ほど恥ずかしいものはなかった。

 

 「いい子を産んでほしい。前線に出るのは控えてくれないか」

 「……承知している。けれど、今無茶をしなければ弟のためにならない。だからνの改良を急がないとまずい。教職は一度降りるつもりでいる。悪い予感がするんだ」

 「……ハァ。千冬はいつも勝手で、機体を振り回すわ洗濯物は傷めるわでロクなことにならないな。わかった。好きなようにやってくれ。俺も協力するけどな」

 

 私の意見を、レイは渋々ながら認めてくれた。

 亡国機業。パルヴァライザー。マドカを名乗る私と瓜二つの顔の少女。失踪した束。嫌な予感がしていた。だから私は教職を降りると、νの改良と、束の痕跡を追うことにした。世界を揺るがす大事件が迫っている予感がしたからだ。

 おなかの中の赤ん坊のためにも、無茶はしないつもりでいる。けれど、無茶をしないともっと悲惨なことが待ち受けている。そんな気がして。




本編の謎を考察しつつ二次創作設定を絡ませつつこんな話になったとかならなかったとか
入間さんの元ネタは某二次創作の整備士・技術者の方になります。名前の元ネタは言わずもがな。

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