セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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マラソンで心折れてくるとそのうち変な死に方を研究し始める現象


2章 そしてみんな集まってきた
21話 ええい、メダルはいい、狼血の剣草を落とせ


 ホイコーローはうまかった。俺は廊下を歩きながら、口を押さえた。

 

 「うっぷ………」

 

 いかんいかんげっぷが出そうになった。お嬢様貴族は断じてゲップなど出さないのだ。

 退院後俺は鈴音の部屋に行って中華をご馳走になることになった。空腹の余りキャベツ単体でかじれる程度にはキていたのだ。ただ待つのもあれなので、野菜をひたすら切りまくる係を担当した。これでも男の料理には慣れているし、お祭りの焼きそばを作るのを手伝ったこともある。野菜切りの速度には自信があった。

 

 『早い早い! ウチの食堂で働けるわよ。雑なのが気になるけどね』

 『こういうのは速度重視で行くべきなんですわっ』

 『お腹空いてるからじゃないの?』

 『……』

 『図星なんだ。セッシー分かりやすいから助かる』

 『誰がセッシーですか!』

 『どう? ウチこない? 人手足んないからいつでも大歓迎よ。まかないだったら毎日食べ放題でオススメなんだけど』

 『遠慮しておきますわ』

 

 なんてこともあったり。聞いた話によるとどうやら彼女、両親が離婚していないらしい。食堂はそのままあるらしく、卒業して進路が決まらなかったら食堂もいいかもねと笑いながら言ってくれた。さすがに国家代表候補に選ばれる能力と才能の持ち主なので進路が決まらないなどということはないだろうが。こういう小さいところでさえ原作からは違うあたり、原作が当てにならなくなりつつあるという思いが強くなってくる。ゴーレムじゃなくてパルヴァライザーだったし。助けてジナ姉!

 さて俺は、学園の屋上に向かっていた。ギャルゲとかエロゲとかその辺にありがちなことに屋上は開放されていた。放課後人気のいない場所に向かうのもまた乙なものと思う。

 そして俺は、懐に忍ばせたノンニコチンの蒸気だけを吸うタイプの電子タバコをこっそり吸おうと、扉を開けた。元々はニコチン入ってるのをこっそりヤってたんだが、良心がズキズキ痛んだというのもあるが、若くして肺がんもいやだったのでやめたのだ。元の体の習慣が抜けきれていないらしい。

 扉を開けると、何者かが屋上から太陽を見上げていた。

 俺はこめかみを指で叩きながら考えた。

 

 「あれは……えーっと誰でしたっけ……あ、そうそうのほほんさん! ……じゃないですわ。本名、本名……ぬの、ほとけ……ほんね? のほとけ、ほんね……?」

 

 一部から妙に人気があるというのほとけほんねえーいめんどくさいのほほんさんがそこにいた。初見で名前読めた人いるのかな? 下の名前はともかく。

 

 布仏本音。

 だぶだぶの制服やらパジャマやらを着ているのがデフォルトのあざと……のほほんとしたキャラ。生徒会所属。だぶだぶ制服の上からでもわかる巨乳。

 ちらり一瞥。フッ。

 

 「……勝ちましたわ」

 

 なにがかって? 聞くなよ。

 俺はどうしたものかと悩んでいると、のほほんさんが振り返った。

 

 「オッ……せっしーではないかー」

 

 妙に間延びした口調だった。せっしー呼ばわりされるもそろそろ慣れてきた。俺は横に立ってみた。

 

 「セッシー………わたくしセシリア・オルコットに何か用件がありますの?」

 「わたしはのほとけほんね。太陽をあいする女なのだー」

 

 ワッハッハッと愉快そうに笑うそれを見て、俺の脳裏にとあるキャラクターが浮かんできた。誓約マラソンはナシでメダルをためたのはいい思い出だ。

 

 「今日もいい太陽だったのだー」

 「のほとけさんは何をされていましたの?」

 「日向ぼっこだよ~。せっしーもする~? ぎゅー!」

 「あっ……も、もう、抱きつくなら先に言いなさい」

 「だきつく!」

 「はぁ……構いませんが……」

 

 のほほんさんが抱きついてきた。制服からは天日干しした布団というか、太陽の匂いというか、そんな清潔な香りがした。しかし小さいな。俺よりも下手すれば10cmくらいは小さいのではないか。子供のような小柄な癖に巨乳。そのギャップはまさに男を殺しにかかる武器である。デカい女に分類されそうな体格の俺からすると少々うらやましい。

 のほほんさん……のほほんと呼ぶべきか? は、俺からどくと、にこーっと笑って袖余りの腕を振った。

 

 「さらばだともよ! きこーに太陽の加護のあらんことを!」

 

 あっというまにのほほんさんは去っていった。

 俺は軽く手を振り返すと、誰もいないことを確かめながら懐をまさぐって電子タバコを取り出し咥えた。

 

 「ファンタジー出身もいるということ……もう何でもありですわね。逆に敵側にもそんなのが紛れ込んでいるかもしれないと……前途は多難。まあ、いつものことですが」

 

 煙もとい蒸気を吸い込んで吐き出す。扉入ってすぐのところからは見えない位置に移動して、聴覚と視覚で警戒を続けながら。バレたらイメージ崩壊もいいところだな。そのスリルもまた楽しい。

 

 「ふぅー……」

 

 そういえばシャルルもといシャルロットとラウラがそのうち入ってくる頃だ。やっぱり中身が違うんだろうなあ。中身は同じでも性格が違うということも十分考えられる。というか設定が違う可能性もありうる。一夏への恋敵になるようなキャラじゃなきゃいいんだが。箒という強敵におかわりとかキツ過ぎるわ。

 俺はしばらく時間を潰していたが、飽きたので屋上から去ることにした。

 

 

 

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 「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

 「クレスト製のも捨てがたいよねー」

 「ミューレイは性能とデザイン両立っていうかー」

 

 クラスの女子達……俺も女子だが、カタログを見つつ談笑している。ISスーツはその性能はもちろんのことながらファッションとしての性質も併せ持っている。軍人が式典で着用するようなのはどこのアクシズだよと言わんばかりの装飾っぷりである。ツノはついてないけど。ちなみに俺はごく普通のデザインのものを着用している。ただし性能第一で反応性が高く、お値段も高い奴だ。それでも天才たちにはどうしてもかなわない悲しさ。才能で敵わないなら、せめて道具だけは一流にしておかないとな。

 実弾兵器と堅実な設計に定評のある企業が聞こえてきた気がするけど俺は気にしないぜ。

 

 「ねーセシリアさんどんなスーツが好きなの?」

 「えっ、わたくしですか? そうですわね、色は青系で……」

 

 なーんて会話ができるあたりは俺も伊達に女子はやってない。むしろ十数年女子やっててなりきれないはずがない。女子力ないという指摘は聞かないよ。

 がらりと先生二人組みが入ってきた。先陣もとい先頭を切るのは我らが英雄織斑千冬。立てば妙齢の女性、座れば技術者、歩く姿は……うん、軍人という雰囲気ではないよな。本編アムロもオフの時は割りとだらしないし。いざ戦闘になると頼れるんだが。表情は緩かった。

 もう一人は我らがテスト先生、山田である。立てば核弾頭、座れば戦車、歩く姿はアーマードコア。表情は、徹夜明けに人を殺してきたといった感じである。そんなところか。

 千冬が教壇について書類に目を通すと、面を上げた。

 

 「おはよう。今日からは本格的に実戦訓練を開始する。訓練の必要なんてないと思ってるならそれは大きな間違いだぞ。説明書をカンニングしながら操縦するわけにもいかないしな。ISスーツだが、個人や企業からの支給がない生徒は学校指定のものを着用するように。山田先生ホームルームをお願いします」

 

 でもあんた説明書読みながら操縦してたじゃんとか思ったけど、俺は何も言わず話を聞いていた。

 

 「追加事項を補足しておく」

 

 その声たるや情報屋が仕事をしなかったと言わんばかりだった。たぶんだけどスミカさんって不測の事態が大嫌いなんだと思う。わかるけどね。自分の制御下にないことが起こることへの不安ってのは。主人公がイレギュラーだったからいいものを、普通のリンクスなら十回は死んでるし。

 

 「二名の転校生がいる。入って来い」

 

 「えっ」

 「うそー」

 「二人もだって!」

 「なんでこの時期なんだろね?」

 

 口々に騒ぐモブ子たち。見せてもらおうか。二名の転校生とやらを。

 俺が固唾を呑んで状況を見守っていると、がらりと扉が開いて二名が入ってきた。




第二巻突入。一夏視点ではなくセシリア視点なので冒頭は吹っ飛びました

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