セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
こうなった人は多いはず。多い……多くない?
「シャルル……チッ。デュノアです。フランスから来ました」
……うわぁ……ものすごく気難しそうな奴が来ちまったなぁ。舌打ちしたよ。
教壇横に、シャルル=デュノアその人がいた。原作通りの色素の濃い髪の毛を首の後ろで束ねている。細い腰。すらりと伸びた足。やさしい中性的な顔立ちはしかし、場の空気に耐えられないといわんばかりに歪んでいた。
うーむ。俺はシャルルもといシャルロットをじっと観察してみた。胸元の隆起は上手く隠せているが、腰の張りといい、骨格の細さといい、やはり女性に見える。原作では男を偽っていたが、こちらでもやはり男を偽っているらしい。眉間に皺が寄っているせいか、原作よりも男らしい雰囲気になっていた。原作のガバガバ男装はなんなんだろうね。文句を付けるわけじゃないがコルセットで腰の形をなんとかするとか、化粧で男っぽくするとか、もうちょいこう……。
しかし、原作だと貴公子がぴったりな立ち振る舞いだが、こっちのは思春期をこじらせた感がぷんぷんしやがる。腕を組んでいらいらとした様子で周囲を見回している。顔立ちが整っているせいか、そのしぐさも様になっているから腹立たしい限りである。最近自覚したが、この感情はどうやら相手の美しい点に対する一種の嫉妬のようなものであるようだ。美人ばっかの学園だけにその頻度も高い。
続きを話さねば殺すぞ言わんばかりに山田が視線を向ける。いちいちこわいです先生。
「……織斑一夏君のような男性操縦者がいるとのことでフランスから転入してきました。よろしくお願いします」
説明するのも腹が立つと言わんばかりのものぐさだったが、そこはイケメンもといイケテルウーマン。様になるから困る。美男美女ってこれだから……。男性と誤認している女子達――思うにこの現象は出会いがなさ過ぎるせいじゃないかと思う――が一拍時間を置いて爆発を起こした。
「――――きゃああああああっ!」
「かっこいいいいっ!」
「二人目!?」
「超美形!」
「結婚して!」
「写真とっていい!?」
などと。耳が痛くなる声が響き渡る。
―――ガッ! 山田先生が教壇に拳をぶつけていた。教壇がぶっ壊れたんじゃないかな。とっつきか何か?
「
瞬時に静まり返るあたり皆さんわかってらっしゃる。俺? 最初から喋ってすらないよ。脳細胞を可能な限り生存させて老後を迎えたいんだ。
横で千冬が苦笑していた。
「二人目がいる。囀りたければ休み時間私のいない場所で鳴け」
ちなみに例の最前列の女子は陶酔した表情で山田先生を見つめていた。こりゃあハマってますわ。
銀色の髪の毛を無造作に腰まで垂らした小柄な女の子。顔立ちはいっそ整いすぎていて不気味なほどで、右目に嵌めている眼帯がその雰囲気に異常さを一匙加えていた。……ん? 眼帯に何らかの電子機器らしきものがついている。なんだろう。センサー? とにかく、その女子は――ラウラは、ぴっと背筋を伸ばしたままだった。時折周囲に視線を配っては、正面に戻している。
ラウラが格好をわずかに崩して口を開いた。
「で、喋ってもいいのか? 私はてっきりそこの軍曹殿の許可が必要なものかと思っていた」
皮肉な言い回し。千冬をちらりと見ただけといい、内容といい、ラウラらしくなかった。
すると言われた側の山田は目から光線を放った。殺意さえこもったそれを、ラウラは涼しい顔で受け流している。
「ドイツ連邦共和国代表候補生、ラウラ=ボーデヴィッヒだ。よろしく頼む。趣味は映画と運動と犬の飼育。それから」
つい、とラウラが指を向ける。その先には織斑一夏その人がいた。
「いい男の品定め、といったところだ」
「誰が口説けと言った」
「ちょっとしたジョークだ、いけないか」
と山田が渋い顔をする一方、真顔で言うラウラ。おちょくっているというか、本気というか、なんとも判断がつけがたい。一夏は指をさされてきょとんとしていた。
俺は内心ドギドキしながら状況を見守っていた。胸元に手を置いてみる。うむ、心臓は問題なさそうだ。
ガタッ。
「………」
無言で起立する箒。すかさず横の女子生徒が引っ張って座らせる。
お前じゃねぇ、座ってろ。
きっと一夏が口説かれて我慢ならなかったんだろう。
俺はどうかっていうとドキドキはしてるけど、あれが冗談だろうなくらいは理解してるし、目くじら立てたりはせんよ。
「もういい。全員着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘訓練を行う! 解散! ……ああ、織斑。お前はアリーナ更衣室に行け。デュノアと一緒にだ」
付き合いきれんと山田が首を振ると、話に対し相槌をついていた千冬が手を叩いた。
「みんな聞いたな。すまんがいち……織斑とデュノア。別室に急いでくれ。女子高のような造りをしてくれた設計者を恨んでくれていい」
無言で立ち上がる一夏。腕を組んだまま、周囲の視線がうっとおしそうに俯いたままついていくシャルロットもといシャルル。女子達の視線を集めながらも二人は出て行った。大丈夫かなあ。
俺は周囲の女子達があとをついていきたそうに話をしている最中で、着替えを始めた。タオルで隠したりするのが普通だろうが、俺の場合は一味違う。いきなりボタンを外して上着を脱ぐ! なぜか周囲の女の子たちが見てきたけど恥ずかしくはないぜ。なぜならば、もう着ているからだ。やはり女性というのも胸の大きさが気になるらしい。ホラ、男もさ………なにがとは言わないが。やめておこう。この話題は危険だ。荒んだ心に武器は危険なんです!
「あっち行った! 追いかけて!」
「キャー!」
外が騒がしい。大丈夫だろうか。大丈夫だろう。あの一夏なら寄って集ってくる女子をちぎっては投げちぎっては投げ目的地にたどり着いてくれるはずだ。
「えっなに今の動き! パルクール!? アサシン!?」
「待って! うわ階段一っとび!?」
「追って!」
「逃がすな!!」
「足を止めろ!」
「ボムを上手く使え!」
………大丈夫かなぁ。足を止めるんじゃねぇぞ……。
「おい、そこの若いの」
「わたくしに用がありまして? 若いのって、ボーデヴィッヒさんと大差ないと思いますわ」
俺が服を脱いでいたところ、声をかけてくるものがいた。俺は既にISスーツ一丁だった。原作セシリアと同じようなデザインのスーツだ。スク水というか、レオタードというか。
これまた同じく最初からISスーツを着てきていたらしいラウラが隣に来ていた。森林や山地における活動を想定した暗い緑系のデジタル迷彩だった。タクティカルベルト。血液型を記したプレート付きブーツ。耳を貸せと言わんばかりに自分の耳たぶを触る仕草をしてきたので、俺は屈んで耳を貸した。
「私だけが気づいているのか怪しいんだが、あのシャルルとか言う男。女だろ」
「……気がついていましたか」
「骨格がな……別に奴と利害関係にあるわけじゃない。何か事情があるんだろう。とやかく言うつもりはないが、なんというかな、お前さんからも似たような匂いを感じてな」
「えっ」
どきっ。いやだなーわたしはおんなのこですよー。
俺はドキドキしっぱなしの心臓を胸の上から押さえるとこほんと咳をした。また小さい子だ。鈴音よりも小さい。原作より身長の高いセシリア目線だと、子犬か何かにしか見えないくらいだ。
「わたくしセシリア・オルコットは女性ですわ。証明しろと言われても……その……ぬ、脱げばよろしいのでしょうか?」
「見せてくれるのか」
「なっ……ばっ……やるわけないでしょう!」
俺は思わず自分の体を抱きしめながら後退していた。
にやっとラウラが口元を持ち上げて肩を叩いてきたかと思えば、次の女子に声をかけに回っていく。ラウラ固有の無邪気さと軍人らしさを純粋に足して二で割ったような性格をしているなと思う。この世界ではおそらく千冬との関係は完全に赤の他人なんだろうな。
ということで、俺たち女性陣はわいわいたわいもないことを話しながら第二グラウンドへと向かったのであった。