セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
実戦訓練はつつがなく終わった。実戦では負け続けの俺であるが、基本的な操縦はほぼマスターしている。教えるのは嫌いではなかったので、一から十までをやさしく教えてあげたのだ。そのせいで時間切れになり怒られたのだが、仕方がないと思う。教員がやるべき仕事をやったんだから褒めて欲しいくらいだ。
教え方という点についてはラウラが一番上手く、箒が一番へたくそだった。
「そうだ。身をゆだねるように……体重を預けるだけでいい。オートバランサーがついているからな。転んでも痛くないさ」
女子生徒の横で付きっ切りであれこれと教えるラウラ。生徒の手を取り、足を取り。うーん、やっぱり原作とは違うようだ。素直なところは原作譲りなのだろうけど、まるで熟練の戦士か何かのようだ。
俺は教える合間に、人を乗せない状態で分離直立しているIS『R.E.X』を見ていた。レールカノンもといレールガン。レーダードーム。30mmバルカン砲。自由電子レーザー。対戦車ミサイル。脚部パイルバンカー。鳥のような逆間節。重厚な装甲。そう、あれは間違いなくメタルギア・レックスである。もしかしてリキッドだろうか。すると厄介なことになるが、見ている限り問題が起こりそうには思えなかった。やばいな元ネタ的に。ラウラがたくさんいるんだろうか。ラウラの原型になったビッグなんとかもいるのか? この世界どうなってんのさ。愛国者とかいるのかな。戦争経済なんて成り立つ気配すらないが。
「そうです。違う。もっと早く!」
苛立ちを隠せない表情で教えているのはシャルである。上手く歩けない生徒にイライラとしていた。なんでこんなことをしなくちゃいけないんだ、という雰囲気がにじみ出ていた。まあ中の人的に教えるのが得意とも思えんし、自分の境遇に苛立ちしかなくて余裕がないんだろうなと思う。
「歩くときは――えーっとぐいっと足に力を入れる感じで~」
説明にならない説明をしているのが鈴音である。フィーリングで乗っているタイプなので、理論的に説明できないのだろう。そういうのも一種のセンスと入れるだろうが、教えるときに困るのだ。マニュアル通りやるのがアホという風潮はなんとかせい。マニュアルないと対応が個人個人の主観と独断に任せられちまう。
「……ということだ。わかったか?」
「えーわかんなーい」
一夏も鈴音同様に自分なりの感性で説明をしていたようだが、女子生徒たちは首をかしげるばかりだった。俺も聞いてたけど理解できなかった。頭の後ろのほうが痒くなるといわれてもわからんよ。
「考えるな、感じろ」
オチ担当もとい仮面女箒は腕を組みしたり顔でそんなことを言っていた。お前はもうちょい考えろ。
そんな感じで実習はあっさりと終了した。一夏が女子生徒を抱きかかえたり箒を抱えたりするイベントはあったよ。なんで俺にやってくれないんだろ。悔しいが仕方がないね。
-----------
「……よし!」
俺は髪の毛を後頭部で結ってエプロンを着用していた。作ったサンドイッチを包丁でザクザクと切り分けてバスケットに詰める。カツサンド、キウリサンド、タマゴ、スモークサーモンとチーズのサンド、その他各種。こんがりとムラのある焼き目をつけたバケットが香ばしく、見ているだけで腹が減る。
せっかく転校してきたのだから飯を食おうぜということになった。専用機持ちメンバー揃いで、である。場所は屋上。指定された時間は昼休み。一夏が大食いかどうかはさておき、胃袋を掴むというのは大切なことだ。特にライバルが多い相手なので、ここはいい印象を与えておきたかった。メシマズ嫁ことセシリアは原作でのこと。男料理を得意とする俺の手にかかれば、サンドイッチくらいは容易い。遠足とかで重宝するんだよなぁ、こういう簡単なのは。下手にキャラ弁当を作るよりも簡単でウケがいい。見た目もいいし。喉が渇くのが欠点だが。
ところ変わってIS学園屋上。高校の屋上はたいてい閉鎖されているものだが、ここIS学園では開放されていた。欧州風の花壇。丸テーブルが配置されていて、パラソルが各テーブルにそそり立って春の日差しを遮っていた。故郷イギリスのお屋敷を思い出す。
お茶会……違う陰謀渦巻くお茶会ではなくて、食事会のメンバーを紹介しよう。
俺こと美少女。
イケメンこと一夏。
おとめ座の篠ノ之箒。
遊びでやってんじゃないシャル。
鈴音。説明がついてないって? ま、多少はね?
いいセンスのラウラ。
「僕なんかが一緒に食事をしていてもいいんですか」
俯き加減にシャルが言う。両手は腿の上。猫背で言うものだから声がくぐもっていた。
俺は自前で持ってきた水筒から紅茶を汲みつつ言った。ウム、時間が立つと匂いが飛ぶな。
「もちろんですわ。同じクラスで学ぶんですもの、食事をして仲を深めるということは大切なことですわ」
俺は胸に手を当てながらいいつつも、箒が背負っているリュックサックが気になって仕方がなかった。なんだあのでっかいもの♂
すると腕を組んで椅子に腰掛け缶コーヒーを飲んでいた箒が、俺の視線に気が付いたらしく面を上げた。
「その通りだ。轡を並べるのだから当然のこと………私はそれほど器量の小さい女ではない! さて一夏。そして諸君。胃袋の空きは十分か?」
箒がにやりと笑うとリュックサックを机の上に置いて風呂敷に包まれた重箱を取り出した。積み重なった箱を開けては机に置いていく。
分厚いステーキ。付け合せのポテトサラダ。マカロニサラダ。上段は洋風にまとめられている。中段は数の子、栗きんとん、エビの煮物、昆布巻き、にんじんの煮物、酢の物、黒豆………たまげたね。おせち料理かなにか? いやあるいはメニューそのものに意味をもたせている? 数の子。言わずもがな。そうだとするとなかなか策士だと思う。下段は炊き込みご飯だった。
こういう積極性は見習いたい。準備に何時間かけたんだろう?
「今日は一人じゃなくてよかった」
と一夏が言う。だからさあ一人で全部食わなくてもいいんだよいつものことだけど。こういう天然なところもまた可愛い。思わずニヤニヤしかけたのでそっぽを向いておいた。
「こほん。わたくしはサンドイッチを持ってきましたの。皆様ほど手が込んでいるわけではありませんがどうぞご賞味くださいまし」
おっと忘れるところだった。俺はさっとバスケットを置くと中を開けた。手の込み方で言うと一番軽いかもしれんね。なおシャルはそもそも作ってくるという発想がなかったらしく、弁当を買ってきていた。ラウラ? もらえる気まんまんで椅子に座って足ばたばたしながらわくわくしてるよ。小動物みたいで可愛いなちくしょう。
「ハイこれ。酢豚。アンタ好きだったでしょ」
「すまない」
鈴音が一夏に酢豚を詰め込んだ小さいタッパを渡した。一夏はタッパを受け取り中身を確認している。むわっと香る食欲を誘うすっぱい匂い。酢豚か。悪くはないが……と、別のタッパ――大きい方をいやらしい笑みを浮かべながら俺に押し付けてくる。おいばかやめろ。
「!」
俺はその場の誰の目にも留まらぬ速度で酢豚を鞄にねじ込んだ。危なかった。見てないよな? ちらりとあたりを窺うと、箒はドヤ顔で腕を組み重箱をお披露目中。一夏は重箱に気を取られている。ラウラというとどれを食べようかと視線を巡らせていた。シャルはおずおずといった調子で自分の弁当を開けていた。よし、大丈夫だな!
「うますぎる!」
いただきますもしていないのにラウラがサンドイッチを取って食っていた。あっ、こら一夏が最初だぞ。
俺は十字を切り心の中でお祈りを唱えた。神様なんて信じちゃいないがね。セシリアは本編だと描写が特になかったけど、プロテスタントじゃないかなぁと思う。
ラウラがサンドイッチをもぎゅもぎゅと口に詰め込みごくりと飲んだ。詰まらせたら大変なので、紅茶を水筒から出して渡す。
「よろしければどうぞ。熱いのでお気をつけくださいませ」
「む。感謝する。あぁ……レーションには戻れないな……」
茶を飲みつつ遠い目をするラウラ。
そりゃそうだ。軍に所属していた頃食ったけど、まずくはないが……おいしくもなかった。腹は膨れるし栄養は取れるけど日常で食うには向かないよなぁ。
「いただきます。もらってもいいですか」
気まずそうにシャルが俺に声をかけてくる。どうぞ。俺は手を差し出した。
っと肝心な人に食わせてなかったぜ。俺は一夏の方を見て、
「一夏さん。わたくしのもいかがですか?」
「ああ、いただこう」
これから全部食わねばならんのだと悲壮な表情を浮かべる一夏。サンドイッチを頬張って、注視していないとわからない程度に目元を緩める。
よし! ガッツポーズをやりかけたので慌てて服を直す動作に切り替えておいた。
その後、箒の料理が作りすぎてしまっていたことがわかった。俺と一夏でなんとか食べたよ。作りすぎた料理を食わされるってお父さんじゃないんだぞ。
ちなみに酢豚は持って帰ってお夕飯にいただきました。おいしかったです。