セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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女だけど色々あって歪んでるシャルロットちゃん


25話 シャルロット

 学年別トーナメントかぁ……俺は学園の掲示板の張り紙を読んでいた。原作だと確かラウラがシャルに追い詰められてVTシステムが作動する流れなんだけど。あの精神的に安定しているラウラが暴走するとは思えないし、トーナメントは最後まで行くんだろうな。すると噂になっている優勝したら一夏になんでもやってもらえるだとか、彼女にしてもらえるだとか、そういう話が―――。

 

 『わたくしも優勝したらお付き合いをしていただきまふ!』

 

 いぇあ、言ってた言ってた。なんでこのトーナメント、例えいくら犠牲を払おうとも勝つ。

 そのためにはヒロイン諸君……お前も、お前も! だからこそ俺の為に死ねっ!

 

 「というのは大げさですが……」

 

 『今日お時間はありますか』

 『ある』

 『勉強を教えてもらいたいのですが』

 『かまわない』

 

 という簡素なメールのやり取りをして、俺は一夏の部屋に急いだ。二人目の男が来ているということで箒ではなく、シャルが同じ部屋にいるはずだ。シャルもいれば、シャルも一緒でもいいかもしれない。シャルの成績はどうだか知らないが教えてもらっても悪いことにはならないだろう。

 

 「このっ!」

 「!!」

 

 一夏の部屋が騒がしい。中でどったんばったん大騒ぎ。ものを投げる音やら、壁を蹴るような音やらが響いてくる。近くの部屋からは不安そうに顔を出す生徒たちがいた。

 

 「何事ですか! むぎゅ!?」

 

 俺が扉を開けると、枕が飛んできた。避けられたかって? 無理に決まってんだろ。枕を払いのけてみると、一夏とシャルが殴り合っている場面があった。

 

 「この馬鹿ヤロー! 誰が女だって!?」

 「事実を言ったまでだ」

 

 シャルが腰を落とした拳を放つ。その表情たるや相当キテいるようだった。眉間の皺と吊りあがった目が危険な光を放っていた。ああ、鬼門に触れてしまったのか一夏よ。

 一方拳を涼しい顔をして避ける一夏。拳をかわす、受け流す、と軽い身のこなしのせいで一向に当たる気配がない。

 

 「おやめなさい!」

 「うるさい!」

 

 このままじゃ怪我をしてしまう。一夏というより、シャルが。俺は背後から肩を叩き強引に振り返らそうとした。

 シャルが振り返りざまに拳を叩きつけようとしてきた。だと思った。拳を腕で払って懐に身を寄せて襟首掴んで背面方向に誘導。腕を首筋に押し付けるようにして地面に投げつけた。ズダン、と殴打音と共にシャルの体が地面の上で動かなくなる。冷静さを欠いた相手の攻撃ほど捌きやすいものはない。

 

 「女子の顔に殴りかかるとは、褒められた行為ではありませんわね」

 「………」

 

 シャルが立ち上がる。地面に割りと本気で投げたんだが、ちゃんと受身を取っていた。投げられて冷静になったらしくぶつぶつ呟きながら立ち上がる。俺は一夏の反撃を食らって鼻血を流している彼女にハンカチを押し付けると、入り口に歩いていった。

 

 「ナニナニ喧嘩?」

 「ここ一夏君の部屋だよね?」

 「そんなに激しいプレイが……」

 

 俺が扉から顔を出すと一同がじっと見つめてきた。俺はこほんと咳払いをすると、乱れた髪の毛を指で整えた。

 

 「実は格闘技の稽古をしていたものでして……ご心配をおかけしました! ごきげんよう!」

 

 と、まあ、言い訳はこんなところでいい。扉を閉めて鍵をかけておく。聞き耳を立てられているだろうが中の音は分厚い扉のお陰で聞こえはしまい。

 シャルは後ろで結んでいる髪の毛が解けてボサボサだった。表情が鬼気迫るものだけあって、悪鬼かなにかのようだ。これじゃ外には行かせらんないな。服のボタンも弾けて白シャツがむき出しになってるし。

 俺は無傷な一名と、鼻血を流している一名を見て、腕を組んだ。

 

 「それで? 状況を説明していただきましょうか」

 

 

 

 

 

 「つまりお父上からの指示で男装をしていたと……」

 「自分は自分の妻をほったらかしにして愛人作って僕なんかこさえてる癖に、一夏みたいな世界唯一の男性操縦者が出てきたら突然男をやれなんて無茶を言う! 女をやれと言ったり男をやれと言ったり! 大人ってのはいつも勝手ばかり!」

 

 話を聞いてみたところ、ようは愛人の娘として生まれたシャルロットは居場所がなく、そのため必死にいろんなことをやってきたらしい。一切、認めてはもらえなかったそうだが。ところがISの適性があるとわかるや否や男装して世界二番目の男性IS操縦者になれ、と言われたという。一夏と一緒の部屋で暮らすために行ったところ女かと一言言われたまっていたものが爆発したらしい。

 俺は鼻をハンカチで押さえて俯いているシャルロットの横に座ると、肩を撫でた。

 

 「シャルロット……と言いましたわね。どうするつもりですの? このまま学園で生活してもいいし、帰ることもできますわ。お父上からは男装して忍び込め、だけ言われているとは思えません。ほかにも何かを言われたのでは?」

 

 まあ、全部知ってるんだけどね。知らないことを知ってることを知られると非常に面倒なことになるので聞いておかねばならん。

 

 「僕には帰るところなんてない…………ダークレイヴンのデータを盗めと言われた。やってやるもんか! 全部台無しにしてやる……オルコット……だって言ったよね。ここにいる限り外部からの手出しはできない、ほんとだね」

 

 シャルロットの目が危険に光る。逆に肩を抱かれて顔を近寄せてきた。

 俺は声が震えそうになるのをこらえながら頷いた。こいつは爆弾なのだ。扱いは慎重に。

 

 「え、ええ、特記事項第二一で規定されている通り本人が同意する限り、外部からあなたの意思に反してどうこうするということは難しいですわね。国からの介入ならともかく一介の社長に過ぎない方では、どうにもなりませんわ」

 

 だったよね? 二十二……か? 間違っててもいいや。バレないバレない。

 

 「二度と戻ってやるもんか! どっちにしろ女ってバレたんならデュノア社のイニシアチブは失われる。倒産でもなんでもすればいい!」

 

 シャルロットが叫んでがくりと肩を落とした。うーん。若いっていいなあ。肩を引き寄せて頭を撫でてみる。素直に撫でられてくれた。娘を抱いている気分だ。可愛いやつめ。

 

 「それで、俺はどうすればいい」

 

 人数分のコーヒーを淹れてきた一夏が戻ってきた。机の上にカップを置いて自分用のブラックを一口飲む。

 私の分は? というネタを披露しかけたが、ぐっとこらえておく。人数分あるしね。砂糖とミルクを入れて一口飲む。ウム、たまにはコーヒーもいいもんだな。味は粉コーヒーを溶かしただけなので分相応だが。俺はカップを置くと、切なそうに瞬きをしているシャルを撫でる作業に戻った。

 

 「デュノアさんがどんな風な選択を取るか……台無しにしてしまいたいのでしたよね。山田先生に相談してごらんなさい。それで女子生徒として再入学すれば、あっという間にデュノア社に響いてくると思いますわ」

 

 今の俺はとても悪い顔をしていると思う。

 

 「一夏さん。今日の勉強会はなかったことにして……口裏を合わせてください。騒動を聞きつけられていますから、うまい言い訳を考えておいてください。できないなららしい文を送るので、暗記しておいてくださる?」

 「善処する」

 「それからデュノアさん」

 

 俺はおいたをした子供を叱るような気持ちだった。俺に大人しく頭を撫でられながらぐすぐすと涙を浮かべているシャルロットを正面を向かせる。

 

 「いけないことをしたのであればごめんなさいをしなくてはなりませんわ。事情がどうあれ、あなたは暴力を振るおうとしたのだから」

 「……」

 

 ええいつべこべつべこべと! 何故ごめんなさいと言えんのだ! というセリフの出番はないぞ。

 俺の腕の中で爪を噛もうとしていたシャルロットは、おずおずと姿勢を正した。噛まないように俺が手を掴んでいたからな、噛ませないよ。お行儀が悪い。

 

 「………ごめんなさい」

 

 金髪の美少女が涙目で震えながらそう言う姿は魔性の魅力を放っている。いいなあ、そういうの。わけてくれ。

 

 「気にしてはいない。で、俺はどんな言い訳を言えばいいんだ」

 

 自分で考える気ゼロの一夏が俺の顔を見つめてきた。心臓がバクバクとする。落ち着け。俺はシャルロットを再び撫でながら頷いて見せた。

 

 「あとで送りますわ。デュノアさん」

 「シャルロットでいい……」

 「そう、シャルロットさん。落ち着く時間が必要でしょう? 今日はわたくしの部屋で寝なさい」

 

 シャルがうん、と俯き加減にそう言った。


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