セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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風呂入ってるだけ

母性(父性


26話 恋は戦争

 「Lavender's blue, dilly, dilly, lavender's green...」

 

 ふう。俺は寝付けなくて父親に抱きついていたときに歌ってくれた子守唄を思い出しながら歌っていた。この年にして子守唄を歌うことになるとはな。前世? ならともかく。もっとも前世じゃねんねころりよ、なんだけどね。イギリス人が日本の子守唄は流石に違和感がでかすぎるからやめといた。

 シャルロットは俺のベッドで布団に包まって眠っていた。

 

 「すぅ……すぅ……」

 

 あの後、俺はシャルロットを連れて山田先生の元に報告に行った。実は男じゃなくて女ですと言ったところ強烈な視線をくれるかと思いきや、あっさり『そうか。手続きの書類があるから書け』とだけ言われた。バレバレだったらしい。無駄な仕事を増やしやがってとか、早くしろ、とか、そこは間違って書いてくれるなよ、とか延々言われ続けたが、要するに世話を焼いてくれたということで、面倒見がいいなぁという感想を受けた。

 そして精神的にへとへとになっているシャルロットを自室に連れ込んで面倒を見たのだ。まずは酷い顔だったので風呂にぶち込んで服を女物に着替えさせて食事を振る舞い早めに寝させようとした。何せ明日からは女物の制服を着て登校なのだから。眠れないと訴えてきたので俺は仕方がなく子守唄を歌って寝付かせた。

 

 「………おかあさん」

 

 布団にしがみついて寝言を言うその姿を見て、俺はようやく歌をやめた。本編のシャルにしても、カミーユにしても愛情に飢えてるんだよなぁ。シャルはむしろよくやってると思う。色々こじらせて非行に走ったり家出したりドラッグにハマったりしててもおかしくないし。子供ってのは手をかけてあげないとだめなんだ。

 さてと、寝ている人がいる以上、ロックかけつつ筋トレもできんし、勉強は気分じゃない。ここは風呂にでも行きますか! 不安にさせるといけないので机に風呂に行くことをメモ用紙に書き残しておく。

 

 大浴場。お風呂セット一式を持った俺は脱衣所にやってきていた。正直肩に引っ掛けて全裸で突入してもいいんだが、お嬢様的にそれはNGなのでタオルを体に巻く。髪の毛を頭の上で巻いてタオルを巻きつけて完了! まあ後で解くんだけどね。そういうあたり短髪って便利だなと思う。

 湯船大、ジェット・バブル機能付きが一つ、サウナ、全方位シャワーに打たせ滝が一つ。無駄に湯気が多いな。ブルーレイになると解禁されるのかな?

 時間が夜だけに、人気はほぼなかった。何名かが出て行くところですれ違う。

 よしまずはシャワーだ。体をさらっと流してボディーソープで体をこする。タオルだと肌が痛むのでいつも素手でやっている。次は髪の毛。丹念に指で解いて汚れをとって、毛先までコンディショナーを……と、これがまた時間がかかるのだ。これでよしと。俺は湯船に向かった。

 

 「おう坊主」

 

 そこには頭の上にタオルを乗せて鼻歌を歌っているラウラがいた。両腕をへりに伸ばして両足をだらんと前に垂らして首を左右に振っていた。このリズム……名前が思い出せない。そうだ恋の抑止力! 恋の抑止力じゃないか!? あの歌手もこの世界にいるんだろうかね。調べてみるか。

 

 「わたくしは坊主ではありませんが……」

 「すまんすまん。ついな。そろそろのぼせそうだからあがるとするか。もしやつに話があるなら探してみるといい」

 「やつとは?」

 「箒だ。篠ノ之箒。何でもお前さんに話があるとかなんとか独り言を言っていたが」

 

 前も隠さずラウラがざぶりと湯船から上がった。ちなみに眼帯はつけていなかった。金色の目があったが、隠すそぶりすらなかった。もしかしてこの世界じゃ単なる先天的なものなのかもしれんな。デザイナーベビーだろうけど。

 そして、俺はその小ぶりなお尻を見送った。隠さないでタオルを肩に引っ掛けているあたり非常に男性的だなと思う。つるーん、という効果音が聞こえてきそうな前だったけど。

 箒か。箒の前で一夏に交際してください宣言してしまったからなぁ。なんだか気まずい。

 俺が視線を巡らせると、カポーンという桶をひっくり返す音がした。その方角を見るとタオルを体に巻きつけた仮面女がいた。俺の視線を知ってか知らずか打たせ湯に行き、胡坐をかいて目を閉じて浴び始める。滝行かな?

 

 「セシリア・オルコット……こちらに来るといい。共に滝を浴びようではないか!」

 

 目を閉じているはずなのに声をかけてきた。それ滝じゃないんですけどぉ。断る理由もないので、隣の滝もとい打たせ湯にあたる。胡坐じゃなくて普通に腰掛けて。

 

 「質問があるのですが……その仮面は……」

 「皆まで言うな。羨ましいのだろう」

 

 いや、風呂場でつけていて蒸せないのかなぁと……とってくれないかな。素顔を見てみたい。俺が仮面をつけるとキャラ的にはマリア姉さん助けてとか言って死にそうな腕前なんで絶対につけないぞ。

 二人でしばらくバチバチと打たせ湯を浴びているとグラハムもとい箒さんが言った。

 

 「一夏のことが好きなのか。理解しているぞ、セシリア・オルコット」

 「もちろんですわ」

 

 俺は正面を見据えたまま言った。お湯が目に入ってきて痛い。目は閉じなおした。

 

 「ふっ………恋敵というやつか……ならば是非もなし。不肖、篠ノ之箒! トーナメントでことごとくをねじ伏せてくれよう!」

 「どんな手を使ってでも叩き伏せて差し上げますわ。イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばないのです」

 

 俺が滝から移動して湯船に入ろうとすると、箒もついてきた。振り返ってみると、箒が首を傾げてきた。よく引き締まった胴体。スイカのようにまん丸な胸元。すらりと伸びた白い足。上気した肌は透き通るようで、女の俺からしても見惚れるほどに美しい。

 ざぶりと二人で湯に浸かる。あー生き返る。などとは口には出さない。

 俺はちらりと横目で箒を見遣った。タオルは湯に浸かる関係上取り払われているが、仮面はつけたままだった。もしかしてとれないのかもしれん。

 

 「篠ノ之さん」

 「箒でかまわない」

 「箒さん。第一世代型心鉄に妙に拘りがあるようですが、打鉄に乗り換えないのですか? 性能で言えば……」

 「上か? 心鉄は私の友たちの無念を背負った機体……もし乗り換えることがあるとすれば、余程のことがあったらに他ならない」

 

 箒はそう語るとぐっと拳を固めてみせた。

 やっぱり誘拐されている間に友達ができたけど死亡した、とかだろうかね。ソレスタルビーイングとかいないけど。どこまで一途で、どこまでも単純。憎しみではなく純粋な愛情と友情を信じて戦う熱い女。俺が男なら一撃で撃墜されてるよ。これで落ちない一夏は生半可な気持ちでは落ちないと確信できた。

 そして俺はひたすら湯に浸かり続けた。

 

 「あがらないのですか?」

 「セシリアこそあがらないのか?」

 

 疑問符の応酬。俺の視線と箒の視線が火花を散らす。

 

 「今日は体が冷えてしまいまして」

 「奇遇だな! 私も体が冷たくてたまらん!」

 「おほほほほほ……」

 「はっはっはっ……」

 

 白々しい笑い声が湯船に響く。

 肩を並べて我慢比べが始まってしまった。意地の張り合いなんてことはわかってるよ。でもね、意地があるんだよ女の子には。

 俺の顔はきっと真っ赤だろう。肌が白いということはそれだけ血管の色が見えやすいということなのだ。対する箒はさほど赤いようには見えないが、息が荒くなっていた。湯の温度はせいぜい40℃だろうが、浸かり続けることで体温がどんどんと上がってくる。仮面取ればいいと思うよ。涼しくなるしね。

 俺はタオルを脱ぎ捨てると、髪の毛をばらした。湯に髪の毛が浸かるが知ったことじゃない。

 箒も頭の上のタオルを取って髪の毛を肩に垂らした。濡羽色の髪の毛が一房首筋にかかって彼女の未成熟と成熟の中間にある美しさを引き立てている。

 

 「あいむしんかーとぅーとぅー! おっふろおっふろ~~うひゃあほーきちゃんとせっしー大丈夫~!?」

 

 のほほんさんが風呂場に現れたことでぐったりしている俺と箒は無事救出された。医務室送りにされそうだったので大丈夫さをアピールして部屋に帰ったさ。シャルロット放置するわけにもいかないしな。


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