セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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幕間 彗星のように、速く

 太平洋某所。

 上空にて。

 一筋の飛行機雲と、小さい人影が飛んでいた。雲ひとつない空。その高度故に、コバルトに光る地球という惑星(ほし)が丸みを帯びていることがわかる。

 

 「強化人間の“M”の性能チェックもして、新兵器の相手をするところも確認する。シンプルなゲームじゃねェな」

 

 コードネーム“オータム”は自身のISである『リザ』に乗り成層圏(ストラトスフィア)を亜音速で航行していた。前方に四発式ターボファンエンジンを抱えた大型輸送機が飛翔しており、後部ハッチが開いていた。

 リザが減速して大型輸送機の横に並ぶように高度と速度を取る。運転手がラフな敬礼を返してきたので、オータムも同様に返した。

 ハイパーセンサーに感あり。超音速で飛行する大型の機影を確認。数3、識別不能、該当データ無し。

 

 『Miss.オータム。試作兵器のテストを開始します。周辺警護と“エム”の性能確認をお願いいたします』

 「離れとけ」

 

 安定翼四枚とフロートを一対繋げ大型ブースタを接続した歪な兵器が横合いから頭上を抜けていった。

 

 「気にいらねぇ………試作機? 実用段階にしか見えねぇじゃねぇか。いつ、どこであんなものを作った?」

 

 組織――亡国機業と呼ばれる組織にも、派閥はある。その全容を一介の戦闘員に過ぎないオータムが知るはずもなかったが、少なくとも『あんなもの』が開発されていたという話は聞いたことがなかった。

 オータムの目の前で輸送機後方ハッチから大の字に肢体を伸ばした赤い機体が空中に飛び出した。空中でくるりと一回転すると、背面部大型スラスタから青い火を吐きながら瞬時に敵機動兵器の追尾を開始した。

 三機の機動兵器――コードネーム“レビアタン”のうち一機は直進し、インメルマンターンを実行。二機はバンクして迂回した。一機を囮に二機が挟み込む戦法を取るつもりか。オータムは高みの見物の文字通りさらに高度を上げて戦場を俯瞰する位置をとった。

 

 『………』

 

 チ、チ、チ、チ………。

 

 オータムのIS『リザ』のセンサーが何らかの音を捉えた。

 

 チチチチチチチ……チッ……チチッ……。

 

 「コア・ネットワーク経由? 鳥、か……?」

 

 

 

 三機の機動兵器。コードネーム『レビアタン』が丁度真正面からサイレント・ゼフィルス改修型を捕捉した。短距離空対空ミサイル発射。数にして数十発はあろうかというそれが空中でロケットモーターに点火し、一斉に迫った。

 

 「………当たらなければ、どうということはない」

 

 サイレント・ゼフィルスが加速をかけた。ビームライフルを発射。ミサイルを次々叩き落しつつ螺旋を描くようにして弾幕を掻い潜る。

 超音速で三機が交錯した。一機が中ほどから火を噴き高度を落とし始めていた。一瞬の交差で三発のビームを浴びせかけられていた。

 赤い彗星が虚空を駆け巡る。一瞬にして手負いの一機の上方を通過しつつ、ビームライフルの単射でバーニアのみを正確に狙撃していた。動きを鈍らせた隙に肉薄。上部に勢いそのままに着地し、止めの零距離接射を実行し完全破壊。下方へと蹴っ飛ばす反動を利用して、人間をひき肉に変える威力のチェインガンとレーザーキャノンの迎撃に懐に潜り込む。瞬時に一閃。敵を蹴り付け独楽のように回転しながら離脱した。

 まさに鎧袖一触。致命傷を受けた一機は炎上しながら蒼海へと落ちていく。もう一機は損傷のため速度が上がらず、近すぎて援護射撃ができなかった一機は速度を上げつつ離脱していた。

 離脱し攻撃態勢を整えたレビアタン一機、正面から敵機へと突っ込んでいく。

 サイレント・ゼフィルス、大口径高速弾の馬鹿正直な一発をひらりと背面を見せるようにして回避。チェインガンの射撃をさらに加速をかけながら翻弄するかのようにして避け、ビームライフルに接続されているグレネードランチャーを牽制に発砲した。

 

 「………」

 

 レビアタンが回避した、その先に既に黄色のビームが置かれていた。半ばから機体が断ち切られ黒煙を纏って火炎弾と化す。

 残りは手負い一機のみ。体勢を整えようとしているその一機へ、振り向かず背面撃ちでビームライフルを叩き込み撃墜した。

 

 『任務完了。これより帰投する』

 

 赤いサイレント・ゼフィルスは緩やかに速度を落としつつ、四発式の大型輸送機の後部ハッチから内部へと入っていった。遅れてオータムがやってきた。係が全員の回収を確認するとハッチを閉鎖した。

 

 「おつかれちゃーん!」

 

 “エム”ことマドカがISを解除し、座席に腰掛けようとしたところでミネラルウォーター入りボトルが投げつけられた。マドカはあっさりボトルを受け取ると、それを投げてきた女を見遣った。

 妙齢の女。金色のウェーブのかかった髪の毛を腰まで垂らした人物。よく実った女性的な体をこの高度と低温というのにツナギに包んでいた。男が見ればいきり立つような蠱惑的な整った容姿をしているが、唯一目だけはどこまでも暗い闇を秘めているように淀んでいた。

 狂犬。戦争屋。傭兵崩れ。多くの異名と、多くの偽名を持つ女がそこにいた。女はにやりと牙をむき出すような笑みを浮かべた。

 

 「新人ちゃんっていうからいくつか作戦出してみたけどなかなか有能じゃねぇかよ? ま、せいぜいきばってくれや。織斑ちゃん」

 「スコール・ミューゼル………その役割を望むならば、織斑でもマドカでもやってみせる。以上だ」

 

 肉食獣染みた視線がスコール・ミューゼルと呼ばれた女から放たれる。相手の心の奥底を見透かすような、小ばかにしたようなつかみどころのないそれは、マドカには届かない。マドカの心は空っぽだった。作り出された時から自分というものが存在しなかった。殺せと言われれば殺すだろうし、死ねと言われれば死ぬ。人でありながら人ではない、織斑マドカという名前を与えられた器でしかなかった。

 後から戻ってきたオータムはその様子をじっと見つめていたが、興味を失ったかのように外を見た。すぐ隣にスコールが腰掛ける。

 

 「聞いたかよ? アメリカさんが開発してるシルバリオ・ゴスペルつーISを奪う計画が持ち上がってやがる。次は俺も出るが織斑ちゃんが先に出ていけとの上からのお達しだ。よかったなぁ? 上はお前をお気に入りのようだぜ」

 

 皮肉な物言い。オータムは足を組むと、織斑マドカに視線をやった。

 

 「殺しになるか」

 「もちのロンよ。食い放題だ」

 

 盛り上がる二人をよそに、マドカは水を一口飲み腕を組んで目を閉じた。

 次の戦場が待っている。


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