セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
次回予告はフロムマジックみたいなもんだから
「うまい」
「そうですか。まだ沢山ありますので召し上がってくださいな」
シャリシャリシャリ。俺は一夏のベッドの横でりんごを剥きまくっていた。
生徒会長こと更識楯無の乱入により吹っ飛ばされた一夏は機能停止したISを纏ったまま別の校舎を突き破ってとある教室の中に倒れていたそうだ。どんだけ強く叩いたんだよと思う。後一歩のところで殺されかけたとはいえ、万が一にでも一夏が死んでいたら俺は一生をかけて楯無を恨んでいたと思う。
シャリシャリシャリ。俺が剥き、ベッドで上体を起こしている一夏が食う。思ったんだけど入院のお見舞いの品でりんごって食うのがめんどくさいだけじゃないか? 手が汚れるし、ごみが出るし。母国イギリスだとそのまま食うのが主流だったけど。まあ怪我人にそのまま食わすのも酷かもしれんがね。
一夏のまさかの行為と、学園中全てのISが機能停止に追い込まれたことで大会は中止された。どでかいコンクリート柱でホームランされた一夏は怪我こそなかったが、大事を取って医務室送りにされていた。今日で退院なので、そろそろ準備をしなくては。といっても着替えをまとめて書類にあれこれと書いて……印鑑も必要だっけ。
俺がリンゴを剥く手を止めてウェットティッシュで手を拭いていると、一夏がじっと見つめてきていた。透き通った瞳。いいぞもっと見つめてくれ。
「安心する」
「はい?」
「お前がいると安心する」
「そ、そうですか……。箒さんや千冬さんではどうですか?」
これは……脈ありと見てよろしゅうございますか!?
落ち着こう。朴念仁星人の言葉だぞ。笑うな……まだ笑うな……こらえるんだ。俺はさりげなく探りを入れてみた。
一夏は天井を見上げていたが、ややあって俺に視線を戻した。
「姉さんは……なんだろうな………俺の背中を押してくれる……人だ。箒は……守らなくてはならない人、だ。お前は……よくわからない。しいて言うなら……何をしている?」
「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちくださいませ!」
ニヤニヤがとまらなくなってきたので俺は背中を向けて両頬を押さえていた。このままじゃアカン。中身はともかく外側はイギリス貴族のお嬢様やぞ。話題を変えたほうがいい。えーっとそうだ、アレだ、アレ。零式月光剣について聞こう。俺はそのままの姿勢でこほんと咳をした。
「コホン! ちょっとですね、その……とにかく! 一夏さん、試合中のことなのですけども、意識がある状態で……わたくしに攻撃を仕掛けていましたの?」
「いや………あるにはあるが夢を見ているように現実味にかけていた。最初のときは、あの妙な兵器を。今回は妙にISを壊したくなった」
「更識さんへ攻撃を仕掛けたようですが、あれもですの?」
「いや、なんと言うか本能的に危険を悟って体が勝手に動いた」
ふう。やっと冷静完璧お嬢様な表情が戻ってきたので一夏の方を振り返る。人差し指を顎につけてみる。
「つまり、自分の意思があるにはあるけれども、半分乗っ取られたようなかたちと?」
「そうなる。セシリアとのほとけ? だったか。が俺と対峙した段階で意識が乗っ取られかけていたというべきか」
なるほどね。最初はパルヴァライザー。次はIS。事象に共通しているのはその機能を失わせるということくらいか。二つの兵器に共通点でもあるんだろうか。さっぱりわからないが……。
「たのもーん!」
扉が景気よく開けられた。ツインテールの小柄な少女。鈴音だった。何かを入れた購買のビニール袋を持っていた。扉をくぐるなりこちらに歩いてきた。
「おっ、一夏死んでなかったの? お葬式がしめやかに行われるかと思ってた。ほい! これお見舞い。早く元気になりなさいよ」
などと畜生力over9000のセリフを言いつつ一夏の足がある布団の上に袋を投げ渡す。中身が見えている。ドリンクゼリー。ちゅーちゅーするやつね。あれが入っている。実用性を重視する鈴音らしいと言えばらしい。
「心配してないようですわね、鈴音さん」
「あったりまえじゃない。こいつがトラックに轢かれたって聞いても心配にならないわよ。逆にトラックを轢くような奴じゃない。粉々にするに決まってるって」
鈴音は腰に手を置いてヤレヤレと言わんばかりに首を振っていた。
なにその信頼度。未来から送り込まれてくる殺人ロボットじゃないんだぞ。
「俺だって轢かれたら死ぬぞ」
「例えを言ってるの。そうだセッシー。再戦しない? BTミサイルっての攻略したいのよね。今度は負けないから」
鈴音が俺を見据えて言った。こういう割り切りのよさは鈴音の美点だと思う。あの時誘いに乗ってくれなかったら俺は落ちていたよな。ということは、次からはその手は一切通じない。再戦かあ。技術局に機体とられちゃってるからなぁ。
俺は首を振ると、人差し指を振った。
「もう。セッシーではありません、セシリアですわ鈴音さん。実は機体を本国の技術者に預けてしまっているので、戦おうに戦えませんの」
「ふーん……OK。じゃ、戻ってきたらやりましょ。そういえば同じ部屋のシャルロットって子どう? 神経質そうな子」
シャルロットね。神経質というよりナイーブ過ぎるというか感受性が高すぎるというか。普通に接する分には普通としか言いようがない。
俺はここで雑談もどうかなと思い一夏の方をちらりと見てみると、一夏は鈴音のことを見つめていた。
「ああ、あの下着について指摘してきたら殴りかかってきたやつか」
「……プッ! あんた本気で言ってんの? 下着しかもお年頃の女の子のをどうしたって?」
鈴音が口を押さえプルプル震えながら先を促す。そのいきさつは聞いてなかったなそういや。
「はみ出ていたのでつまみ出してみた。で、女かと聞いた」
「ぷっ……ふふふっ……あんたバカァ? あの子事情があったんだとは思うけど下着つまみ出して突きつけたら怒るに決まってるじゃない! 最高!」
一夏の肩をバンバン叩きながら笑う鈴音。されるがままにされている一夏。俺は叩かれて痛くないのかなと狼狽していた。
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一夏退院後のことである。俺は鈴音と一緒に模擬戦を行うために機体を受け取りに整備科に向かっていた。
「そういえば一夏さんの機体はどうしたんですの?」
同じく整備科に用事があるという一夏と一緒にである。同伴というやつではないだろうか! テンションがあがってきた。
俺は一夏の首元を指した。ドッグタグ型の待機状態を取っているIS『ダークレイヴン』は、そこになかった。生徒の多くは機体を携行することが許可されている。一夏もその一人だった。
「姉さんが用事があるから貸せと持っていった。もっとも損傷が激しくて起動もままならないから、持っていても仕方がない」
「あぁ……まさかマスブレードで殴りつけるなんて思いもしませんものね。大破もやむなしですわ」
「? あの武器はマスブレードというのか」
「あ、えと……質量、かたまり、を英語でマス。それを剣に見立てて振るうので刃……ブレード。あわせてマスブレードという名前なのかしらと思っただけですわ」
ふー……危ない危ない。俺は額を手でぬぐう仕草をしてみた。汗はかいてなかった。
どうみてもマスブレードな武器をブンブンする生徒会長の図がショッキングすぎてアーマードコア知識が漏れてしまった。
「ブレード……? 棍棒に近いと思うが」
一夏が首を捻った。
それは俺も思った。ブレード要素があんまないよね、マスブレード。どっちかというと世紀末に跋扈する釘バットに近いものを感じる。
などと二人で雑談しつつ整備科専用の部屋へと歩いていると、大声が響いてきた。何事かと声のした方角に歩みを進めると、校舎の裏の木の下で女子生徒と男性が罵り合っているようだった。
「行ってみましょうか」
「ああ」
俺は一夏を連れて校舎裏へと降りた。
そこには制服に身を包んだシャルロットと、シャルロットの面影を感じさせる恰幅のよいスーツ姿の紳士が対峙している場面があった。
「僕はただあなたに父親をやってほしかっただけなんだよ! どうしてそれがわからない!」
「父親ならばやっている。お前は親に拳を向けるのか!」
シャルロットが今にも殴りかからんと両手拳を構えているのに対し、紳士もとい恐らくはシャルロットの父親は憎しみの表情を浮かべつつも腰が引き気味になっていた。
「自力でこの学園に来たわけでもない癖によくも吼える。お前のために次世代型のプロトタイプを持ってきてやったんだぞ!」
「お前のため……? いいや違うね! 自分自身の為だろ! こんなものなんてなくてよかったんだ! お母さんに興味があっても僕にはまるでなかったみたいだね! ずっと待ってたのに……!」
シャルロットが涙を流しながら奥歯をかみ締めていた。
どうしよう。入るべきなのかな。入らないべきかな。家族の問題は家族で解決するのが鉄則とはいえ、あそこまでこじれるともはや修復不能に見える。あれじゃまるで憎しみ合う赤の他人でしかない。
学園にいる限りはシャルロットは外部から守られるとはいえ、学園外の人間が入ってこられないわけもない。肉親ならば入ることは十分可能なのだ。
俺は一夏の裾を引っ張ると耳打ちした。
「一夏さん。ここは立ち去ったほうがいいかもしれませんわ。……一夏さん?」
一夏はその光景を物陰から伺いながら眉間に皺を寄せていた。
「なにをだ!」
「誕生日プレゼントだろッ! 生まれてきてくれてありがとう。おめでとう。プレゼントがなくてもよかった。僕を、私を………ずっと待ってた! なのに、なのに……!」
「うるさい!」
シャルロットが自分の胸元を押さえつけながら叫んだ。シャルロットの父親が手を振り上げた。
俺と一夏が動いたのは同時だった。
こっちのシャルは原作と違って愛情を隠していたとかそういうのじゃなくて完全に冷め切っている親子関係でございます。