セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
―――パンッ。
シャルロットが頬を張られた。信じられないと言った様子で父親のことを呆然と見つめていたが、ややあってその表情を憤怒と悲哀に満ち溢れたものに変えた。
「殴ったね……お母さんにだってぶたれたことないのに!」
シャルロットが父親を憎しみの表情で睨み付けた。
もう見ていられない。シャルロットは父親に愛して欲しかっただけなのだろう。母親を失って唯一の肉親となった父親の気を引こうとあれこれやっていたとも話してくれた。それを無視し続けた挙句適性があるとわかるや否やしかも男装させてIS学園に放り込んでおいて、今度はお前のためと来たもんだ。自分の言っていることを理解しているのだろうか、あの紳士は。
シャルロットの瞳に剣呑な光が宿った。これ以上はまずい。俺としたことが、何を躊躇しているんだ。もっと早く割り込むべきだった。
俺はシャルロットの背後から抱きつくと、その拳を下ろさせようとした。一夏は今にも拳を叩きつけようとしている紳士の正面に立った。
――なんだっけ。思い出せない。名前……フランクリン・ビダン? 違うわ。なんとかデュノア。わからんから奴としておく。
「そこまでですわ! シャルロットさん。手を下ろしなさい!」
「離せよ! こいつには一発食らわせないと気が済まない!」
一方奴は一夏を前にビビって腰が引けていた。ケッ、小物め。
「なんなんだね君たちは! これは親子の問題だ。どこかに行きたまえ!」
「……親子って言うものに憧れがあった」
一夏が静かに言う。
シャルロットの暴れっぷりと来たらすさまじい。俺を振りほどこうと腕と足を振り回しまくる。俺にダメージがいかないようにしているあたり、完全にぷっつんしているわけではないようだが。
「両親の記憶がない俺にとってかなわない夢だと思っていた。セシリアの親の話を聞いて羨ましいと思った。けど、例外があるらしい。あんたは違う。実の娘に手を上げていばりくさっている。恥ずかしくないのか?」
静かな問いかけだったが、確かに怒りを感じた。果たしてシャルへの同情なのか、自分の感想なのかはわからなかったが。一夏は確か両親がいないばかりか、いたという記憶さえないらしい。これは原作も同様だった気がする。シャルロットはいつの間にか抵抗をやめて俺の腕に抱かれるがままになっていた。
奴はふんと鼻を鳴らすと、一夏のことを睨み付けながら踵を返した。
「どちらにしてもこの学園にいるということは我々デュノア社の製品をテストすることになる。拒否はできんぞ。学園から出てみろ。すぐ本社に逆戻りさせてやる」
と脅し文句を並べて歩き去っていく。思わず中指を立てたくなったが、淑女はそんなことはしないのだ。
一夏が振り返った。表情は暗く、どんよりとしている。親というものもいろいろあるのだと知って衝撃を受けている、と俺は読み取った。無表情に限りなく近いのでわかりにくいけど。
シャルロットがぐったりと肩を落として泣いていた。俺は頭を撫でていた。
「セシリア……」
「はいなんでしょう」
「あのね、僕を雇ってくれないかな!?」
はい? 俺はそのとき間抜けな表情をしていたと思う。なにやらシャルロットがくるりと振り返ると胸元寄りかかるようにして顔を接近させてくる。涙でぐしゃぐしゃ。頬は張られたせいで痣と酷い状態だった。
「学園から抜けたあとあんな国に帰りたくないんだ。イギリスに渡って一人で生活する。セシリアのとこって貴族なんでしょ? 僕一人くらい雇えないかな!? 使用人でもメイドでもセシリアの身の回りの世話でもハウスキーパーでも庭師でもなんでもするから! これでも腕っ節には自信あるし家事もやれるよ! ISの整備も一人でできるからさ!」
「え、えと……えぇぇぇぇ……!」
もわんもわんもわん……俺の妄想の雲が頭上にのぼってきた。
なぜか男物の執事服を纏ったシャルロットが俺のそばに付き従っている。
『お嬢様。お時間でございます』
と、俺を車に乗せるためドアを開いて中に案内。ドアを閉めると運転席に移動する。
『出発します。よろしいですね?』
『ええ、よくってよ』
……悪くないな………いやいやいや何言ってんの。親と和解ってのが一番だろ。家出させたままじゃまずい。
まだ成人してはいないとはいっても、いくら社長だからといって本人を無理矢理連れ戻すことは難しいはずだ。仮に無理だとしても例えばフランスにオルコット家が持つ別荘にかくまうとか、そういうことはできる。できるのだが……ちょっと予想外過ぎて俺は反応できなかった。
俺は救いを求めて一夏の方を見ると、一夏はうんと頷いた。
「いいんじゃないか」
「えぇぇぇ……あの………えーっと」
助け舟は出航しなかったらしい。ダンケルクに閉じ込められた俺は、救いを求めて唸った。
リアルな話をするとこれが原作セシリアだったら余裕でやれたのだが、現在オルコット家は両親のものである。俺のポケットマネーでやれないこともないが、いくらなんでも両親の許可なしではやれない。一度相談してみよう。そうしよう。
俺はシャルロットの肩を掴んで引き剥がすと、正面から見据えた。
「申し訳ありませんがわたくしの一存でできることではありませんので………他の手段もまだあるかもしれませんし、一緒に考えてみましょう」
「……うん。わかった。頼りにさせてもらうね」
俺はシャルロットにハンカチを押し付けると、ふうとため息を吐いて空を仰いだ。
どえらいことになった。お父様。お母様。セシリアは遠い極東の土地でがんばっております。
---------
夏休みが近づいている。といってもまだまだ先だけど。その前に臨海学校と、あと原作だとシルバリオ・ゴスペルが暴走したりするんだっけ。このメンバーの場合一方的にゴスペルさんがボコボコにされる絵しか思いつかない。
俺は自室の窓際で本を読みながら考えに耽っていた。時間帯は夜。泣きつかれたのかシャルロットはとっくに寝てしまった。
両親からは夏休みになったら帰ってきなさいと言われている。両親のことは愛しているから、帰らない理由もない。一夏と遊ぶのもいいが、とりあえず帰ることは決定事項として頭に置いてある。
こっから先は確か三巻? 四巻? の内容に入る頃だったか。あれ今が三巻? 忘れてしまった。確か夏休みと日常回で終わったような気がする。重大なイベントってなんかあったっけ? 思い出せないので、夜空を見つめてみた。
パルヴァライザー。
束。
零式月光剣。
原作からはだいぶ異なる面々。
はてさてこれから先どうなることやら。
「水着……どうすっかなぁ」
俺はルームメイトが寝ていることを確認しつつ、本に栞を挟んで腕を組んで天井を見つめた。現在の服装といえば女性物のふわふわとした薄ピンクのネグリジェである。これがまた着ていて気持ちいいのだ。動きやすさは皆無だけど。
水着……現在持っているのは実用性のみを追い求めた競泳水着と、学校指定のスク水と、あと実家から持ってきた普通のもの。ドの付くエロ水着をだな……布面積の少ない……いかん思考がおっさんになっている。可愛い! 可愛い水着を買わないと。できれば一夏を誘ってあれこれしながら買うのがいいのだが。
『一夏さんこんなのはどうでしょう』
『可愛いと思うぞ』
という具合にだな。
「ふふふふ……」
おっと変な笑いが出てしまった。うふふ、おほほ、笑いをしないとな。
「ふあぁぁ……あふ。眠いですわね……寝ましょう」
俺は大あくびを手で隠しながら席を立つと、ベッドに入って目を瞑った。何が起こるかはわからないけど、なんとかなるだろう、なんて楽観的な思考を抱いたまま。
その夜、自分の欲求不満を感じさせる夢を見たけど、この余白はそれを書くには狭すぎる。
これにて第二巻終了です。次で第三巻ですね。次回は幕間的なものかここまでのまとめ設定か普通に開始かの予定です。
Q.ん? 今なんでもするっていったよね?
A.おっそうだな
Q.夢?
A.いんまいどりーむ!
次回(たぶん)予告
「ディープスロートとでも名乗っておこう」