セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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ツイッターで書いてたネタが元ネタ。
けもフレがたつき監督監修で第二期が制作されたら完結すると思う


1章 私は如何にして一夏を愛するようになったか
1話 オリ主ですが、箒さんが仮面を被ってました


 俺は射撃が苦手らしいということは、イギリスの奥地にて狐狩りをしていて痛感したことだ。

 だが一方で、機械による補正さえあれば、当てることは容易なのだとも言える。

 高度800km。成層圏の果てに、白と青を纏った機械仕掛けの甲冑がいた。背面部に大型のブースター装置を付け、非固定浮遊部位(アンロックユニット)に6つの武器をぶら下げていた。

 

 『ピクシー1から本部。コールサイン“V.V”をハイパーセンサーで捕捉。加速用ブースターを切り離す。3、2、1、切り離し、今』

 

 それの背面部でブースターユニットが切り離された。

 第三世代型IS“ブルー・ティアーズ”のスラスタユニットに火が灯ると、遥か数百kmの低軌道上に位置するイギリスが保有する人工衛星“V.V”へと接近していく。

 それを駆る人物は金色の髪の毛を邪魔にならぬようにと後頭部に纏め上げていた。

 

 「V.V……ヴィヴィアン。湖の乙女、ね。名前はとても優美なのでしょうけれど」

 

 ISは軍事兵器でありアラスカ条約によって核兵器さながら制約がかかっている。しかし、相手が条約にも法律にもかからないテロリスト相手であれば、何も制約がない。

 乙女ことセシリア・オルコットは衛星へと到達すると淡々と作業にかかった。

 後に対IS用高エネルギー収束砲術兵器『エクスカリバー』と呼称されることになるそれの雛形に自らの機体をセット。ドライブ開始。長大な銃身を各種センサー群と同調させスコープを覗き込む。

 

 『出力安定………政府承認による安全装置の解除を受諾。アイハブコントロール。地上部隊からの応援要請を待つ』

 『本部了解、待機されたし』

 

 セシリアはふんふんと歌をつむぎ始めた。

 

 『Mary had a little lamb,Little lamb,little lamb...』

 

 地球が丸く見える高度で一人誰にも聞こえない歌を奏でること十数分。これから自分が誰かを殺めることになるかを知ってか知らずか、能天気に歌い続けていた。

 

 『命令を受諾。レーザー誘導装置を確認。レーザー発光地点から北側に向けてを掃射する。精々目を覆うことね』

 

 発射。膨大な熱量を帯びたエネルギー砲撃が迸る。

 

 『標的(タンゴ)、ダウン』

 

 セシリアはそう囁いた。

 

 

 ふと気がつくとおぎゃあという泣き声をあげていた。馬鹿なとは思ったが、医者に取り上げられて両親の顔を見てもまだ夢を見ているのだと思っていた。

 健康的な女の子ですよといわれてもまだ夢を見ているのだと思っていた。体の粘膜を洗われて、タオルにくるまれて寝かせられた。疲労を隠せないおどおどとした態度の男と、スーツを着こなした凛々しい顔立ちの女が、あたたかい笑みを浮かべてこちらをのぞきこんでいても、まだ夢を見ているのだと思った。

 おかしい。この夢は覚めない。俺が認識し始めたのは恥ずかしいことに数年経過してからだった。何でも明晰夢の中には数年間単位で現実と見間違うようなものもあるそうだから、きっとそうに違いないと信じたかったのだ。

 だってそうだろう。イギリスの貴族に先祖を持つ名門の家の一人娘として生を受けているなど、信じられなかったのだ。おまけに名前がセシリア・オルコットと来た。この名前はあのライトノベル『インフィニット・ストラトス』のヒロインの一人である子の名前である。鏡で見る度に、その女の子を二回り小さくした美少女が見つめ返してくるのだから、もはや信じるしかなかった。

 たまげたなぁ……じゃなくて。アニメをちょろっと見て原作をちょろっと目を通したトーシローが生まれ変わっていいような世界なんかじゃないと思いつつも、覚悟を決めるしかないと決心したのだ。ボタンがかけ違えられたとしか思えないこの現実を俺は受け入れることにした。

 ただ、女の子ちっくな格好は極力避けて男装にしてみたり、習い事のピアノやらはやめて元の人生で大好きだった水泳やら登山やらを楽しむことにした。小さい身体では苦行でしかなかったが、それでも楽しかった。

 原作だと両親に対し彼女は複雑な思いを抱いていた。女尊男卑の思想が吹き荒れつつあった社会でいくつも会社を興し、資産を増やしていた実業家の母親と、名家に婿入りした父親。母親には尊敬を。母親の態度を窺いながら立ち回る情けない父親へは、憤りを。

 ある日眠れなくて父親の書斎にこっそりと足を運んだことがあった。屋敷は警備員やらメイドやらが多く、到底出歩けるような状況ではなかったが、そこはそこ、子供特有の冒険心とちょっとした無茶をして―――白状すると排気ダクトを通って深夜徘徊していた――で忍び込んだのだ。扉の中を見てみると、椅子に深く腰掛けタバコを吹かしまくる父親の姿があった。書類を前にパソコンとにらめっこをしている。

 婿入りして、能力的にも劣っていることへの劣等感と焦燥感が彼を責めたてているのだろう。

 わかる、わかるのだ。元の世界では嫁と仲を修復できずに別れた経験を持つ俺である。娘のことを愛しているし、妻のことも愛しているけれど、自分にはどうしようもない世間からの視線や、能力不足から来る苦しみで精神が壊れてしまいそうになっていることも。

 

 「ぱぱ。泣いてるの?」

 

 俺は、半開きのドアをノックした。口調が気持ち悪いとかはナシだ。十■歳だから許されるのであって成人直前の女の子になったら言えないぞ。

 父親――ここは父と呼ぶべきか。父が振り返る。涙を隠そうとして慌てて目をこすっていた。

 

 「セシリア。こんな時間にうろついていてはだめだ。ママに怒られるぞ。さ、おいで」

 

 父はタバコをさっともみ消すと、つい今しがた泣いていたことなど悟らせない身振りと口調で俺に歩み寄ってきて、抱っこをしようとしていた。

 俺はやんわりと手を退けると、父親の肩を引いて目線を下げさせた。そして抱きついた。

 

 「ぱぱ。泣いてもいいんだよ?」

 「……!」

 

 父は、声を出さずに俺のことを抱きしめて泣いていた。悔しいのだろう。情けないのだろう。原作のセシリアは多感な女の子だったから、大人の事情や大人だからこその苦しみについてわからないこともあったのだ。多感な時期を通り過ぎて黄昏れを感じ始める年齢に差し掛かった俺だからこそ、父親の苦悩というものがよくわかった。

 

 逆に、俺は母親が苦手だった。若くして英才教育を受けて貴族の血統を引くものとして、ビジネスパーソンとして日々鎬を削る彼女を見ていると、まるで自分のもとの世界の母親を彷彿とさせたのだ。悪い人ではなかったが、父親の情けない態度を見て幻滅しているようだった。

 もっと胸を張って接してくれればいいのに。誇り高きオルコット家の一員になったのだから。そんな独り言を聞いたりもした。母はきっと昔は誇り高くやれ貴族だ血統だ男性女性だのを気にしない堂々たる父に惚れたのだろう。父が精神的に追い詰められてしまい、その弱さに気づき幻滅したのだろう。

 できれば仲良くしてほしいと思ったが、これは二人の問題だ。俺がどうにかできるわけがなかった。

 原作を知っている身として、そしてここまで俺を育ててくれた身として、両親を死なせたくなかった。

 原作では、二人は列車事故で亡くなってしまう。そしてオルコットは有象無象の財産を狙う連中を跳ね除けるために死にもの狂いで努力を重ね、ISへの適正があることが判明するという流れである。このまま原作ガン無視で一人娘としてオルコット家を背負って立つのもよかったが―――選択肢として、残しておきたかった。

 そしてあるとき、父と母が話をするべく旅行に出かけることが判明した。二人だけで旅行するんだ、と喜びの表情を浮かべる父とは裏腹に、俺の心中は穏やかではなかった。

 列車はこのままいけば脱線して、二人は死ぬ。未来を知っているなどと説明しても、信じてはくれまい。何かいい手段はないか。俺はひたすらに考えて、ひとつの策を投じた。列車に爆弾を仕掛けたなどという嘘の脅迫文を送りつけることで列車の運行を止めたのだ。それが幸いしてか列車の整備上の不備が発見され脱線事故は回避された。両親はその列車が後に脱線横転し死傷者を出したことなど知らず、別の旅行を計画して旅立っていった。その後どうなったかと言えば、まあ、仲が悪くなったということはなかった、とだけ言っておこう。

 

 さて、結局俺は原作に絡むことにした。

 理由はただひとつ。

 

 「…………か、かっこいい」

 

 オルコット家特性の隠しカメ……隠し撮ゲフンゲフン資料映像で主人公君の顔を見たせいだろう。かっこいいのだ。文章やらアニメやらではやはりイケメンとして描写されているのだが、実際の人物としてみてみると、これがなんとまあ凛々しい顔立ちをしておられる。一目惚れしたというべきか。元が男なだけに、こうもあっさり惚れるとは思ってもいなかった。あるいは体が主人公君を求めているのか。そんなことはどうでもいい。俺は奴を落としてやる。そのために絡んでいくのだ。

 かくして未来を知っている俺は趣味だからと両親を説き伏せてISの適性テストを受けて見事A+の成績を叩き出した。軍や他の企業との繋がりを作れるかもしれない、などとそれっぽいことを並べることで母親を口説き落とした。父親は何も言わずに頷いてくれた。

 軍に所属して軍らしいことももちろんやったさ。演習はもちろん。新兵器実験と称してテロリスト相手に引き金を引いたことも。相手が赤外線映像に映る影にしか見えなかっただけに罪悪感はなかったけどな。

 

 ただ諸君には謝罪をしなくてはならない。小さい頃から運動やら狩りやらを楽しんできたせいか、身長と体格がだいぶよくなってしまっている。原作だと156cmだが、すまんな、163cmなんだ。主人公君が170前半だったか? ついでに言うと髪形も実用性と気品を兼ね備えるクルクルヘア……のセットと維持のめんどくささに普通のロングヘアだ。表情もおっとり系のはずが、つい癖で思い詰めたシリアス顔になりがちだ。垂れ目だけは原作そのままなので、大きく乖離はしていないはずだ。鍛えすぎたのは失敗だったかもしれん。服装? そりゃあ普通の制服に決まってる。

 

 俺は奴を落とすのだ。ぎらぎらとした欲望込めて、俺は一路日本へと旅立ったのだった。

 

 

 

 このとき俺は自分だけがこの世界が原作から逸脱した存在であるという思い込みをしていた。

 高校の入学式後のショート・ホームルーム。まさかなと思っていた事態が発生しようなどとは思っても見なかったのだ。

 自己紹介で何を話そうか。狩猟が趣味です、だと日本人ウケがよろしくない。登山です。テニスです。水泳です。いっそ元の世界の祖父の影響で盆栽が好きなんです、も意外性があるかもしれない。などと考えつつ視線をちらりと横にやり、口を半開きにしてしまった。

 

 「………仮面……仮面を被っていますわ……」

 

 入学式の際にちらりと見て目を疑った光景は夢ではなかったらしい。篠ノ之 箒が仮面を被っている。しかも傍らに物騒な武器が入っているであろう袋を抱えている。どこのブシドーなのかと突っ込みを入れたいが、ここはぐっと我慢しておく。

 とうの箒は周囲の好奇の視線などどうでもいいと言わんばかりに、自己紹介のため腰を上げた主人公君に熱視線を送っていた。

 




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