セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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ラウラが乗ってるのはトライアンフだと思う


35話 待たせたな

 シャルロット・デュノアは大型複合型商業施設『レゾナンス』に買い物に来ていた。相手はトーナメントで戦ったラウラであった。無理矢理ロックのかかっている機体を形態移行させたことでラウラの興味を惹いたらしく、あのあと積極的に話をしていたのだった。別に憎しみで戦っていたわけではなくて、トーナメントだから戦ったのだから避ける理由もなかったのだ。

 

 『水着か……学校指定のものは一部で熱狂的なファンがいるとオタコ……知り合いが言っていたが。機能性も申し分ない。使い慣れている。すくーる指定みずぎ? でいいと思う』

 

 などと言い始めるラウラにシャルロットは決心した。必ず、かの夏虫疑氷(かちゅうぎひょう)の少女に女の子っぽい格好をさせねばと決意した。シャルロットには熱狂的ファンの意味するところはわからぬ。

 ラウラを誘ったもう一つの理由はルームメイトのセシリアが一夏にお熱らしいということだ。水差しするような無粋なまねもどうかと思い、予定を変更したのだった。

 そして当日。待ち合わせ場所の学園正面門で待っていると、遠くからドッドッドッという音が響いてきた。シャルロットが見ている前で大型バイクがきゅっと車輪を鳴らしつつ止まった

 

 「―――待たせたな」

 

 それはクラシカルなバイクに腰かけたラウラだった。頑丈な軍隊ズボンにフライトジャケットにヘルメットそしてゴーグルにブーツにグローブという装備で、妖精のように美しい彼女の容姿を一層浮かせていた。極めつけはタバコらしきなにかを咥えていたことだろうか。

 

 「大型バイクってたしか18歳じゃないと」

 「気にするな。免許なら取っているとも」

 

 ラウラがシャルロットの肩を掴むと詮索するなと言わんばかりに首を振った。手を離すと、口からきゅぽんと可愛らしい音を立てて棒付き飴を抜いた。

 なるほど突っ込んだら負けなのだなとシャルロットは思いバイクの後ろに跨った。

 

 

 

 

 

 ラウラという少女は一般常識はわかっているようなのだが、判断基準がどうにもずれているようだった。

 

 『肌の面積が狭すぎる。こちらのほうが湿地に潜伏する際に有利に……』

 

 判断基準が戦闘らしく、可愛らしい水着を提示しても片っ端跳ね除ける始末。しまいにはやっぱ水着いらないなとか言い始めるので、臨海学校で何を着ていくつもりだったのかと聞くとやっぱりスク水だったので、付き合わせてよかったなとシャルロットは胸を撫で下ろしていた。

 シャッとカーテンをめくると恥ずかし……がらずに腕を組み仁王立ちしている真っ白い肌がいた。

 

 「似合うか? しかし、こういう面積の狭い水着はグラマラスな美女が似合う。私のような小柄では似合わない」

 

 羞恥心の欠片も見せない冷静な物言い。シャルロットは若干肩透かしを食らいつつも、傷一つ見当たらない白に映える黒の水着に目を見張った。

 

 「うん。可愛いと思う」

 「そうか。で、一夏はこういうのが好きなのか?」

 

 突然の問いかけにシャルロットは若干戸惑いつつも、人差し指を顎に置いた。

 

 「僕の見た感じだけど女性の興味が沸いてないというか、なんだろうね………母性あふれる感じの人が好きなんじゃないかなって見立ててる」

 「母性か……」

 

 母性とはなんだろうか。わかりやすい形では胸元ということになるのだろう。ラウラが悲しそうな目つきで自分の胸元をさすっても成長前段階の女児のようにつるりとしていて、丘というよりも平原だった。

 

 「でもどうしたのいきなり」

 「いい男がいるんだから口説かないと損だぞ。シャルロットはどうなんだ」

 

 と堂々と言ってのけるラウラにシャルロットは苦笑した。

 

 「いい男だとは思うけど―――殴り合ったせいかなぁ……気まずさは感じてるけど男の子として興味は無いねっと……着信だ」

 

 端末に着信が入る。着信メロディはコロニーレーザーで宿敵を追い詰めている場面で流れそうな音色だった。

 シャルロットはラウラの肩にタオルをかけて試着室に戻すと、端末に耳をあてた。

 

 『もしもし。もしもし! シャルロットさん聞こえていますの!?』

 「はい、もしもし。何かあった?」

 

 鬼気迫る声でセシリアから着信があった。非常事態だろうか。聴覚に集中するべく端末を両手で握ると、拍子抜けするような依頼が飛び込んできた。

 

 『箒さんと鈴音さんに店内の―――えー……隅っこのほうに追い詰められていますの! 追い払ってくださいまし!』

 「了解。お店を教えて。適当なこと言って追い払うから」

 

 シャルロットは店名を聞いて通話を切るとラウラがいる試着室のカーテンを指で摘んだ。

 

 「ラウラ、水着それにする?」

 「する」

 「ルームメイトの救出任務があるんだけどくる?」

 「いく」

 

 こうして二人は違う水着売り場へと急行したのだった。

 

 

 

 

 「ふぅ………」

 

 セシリアは端末を下ろしてため息を漏らしていた。肉食獣染みた眼光を放ちながら徘徊している箒と、本当にここにいるのかという懐疑で一杯なのか眉間に皺を寄せている鈴音の二名から逃れる方法を探していた。正面から突破するのは見張られているし、変装しようにも水着しかないし、駆け出そうものなら発見されてしまう。シャルロットの援護を頼んでみたが果たしてどこまで通用するか。

 

 「なあセシリア。逃げる必要はあるのか。取って食われるわけでもあるまいに」

 「あるんです! 大有りです大有り! あンの二人に捕まって御覧なさい骨までしゃぶりつくされますわよ!」

 「了解した」

 

 セシリアは言うなり試着室の外をうかがおうとカーテンをめくろうとしている一夏を一回転させて胸元に飛びついた。

 

 「いまはわたくしだけを見てください」

 「……ああ。で、どうやって逃げるんだ」

 

 セシリアという美少女が胸元にしがみついてくるという状況にも関わらず一夏は眉一つ動かさなかった。それがセシリアは不満らしく胸元で頬を膨らませてそっぽを向いていた。

 

 「応援を呼びましたので……じきに! じきになんとかしてくれますわ!」

 「応援ね」

 

 望み薄だなと一夏が続けると、視線をあちこちに張り巡らした。試着室の外はすぐに売り場だ。見通しがよいし、二人の視線をかいくぐって逃げるには障害物が無さ過ぎる。目を欺く装備も持っていない。発見は時間の問題だった。

 

 「いちゃつくのもいいが脱出ルートを確保してやったんだから、早くしてくれ」

 

 と、突然静かな声が試着室に響いてきた。二人がきょろきょろとしていると、突如天井から逆さ吊りになったラウラがするりと降りてきて一夏の両腕脇を抱えて試着室上部のダクトの中に引っ張り込んだ。

 

 「へ? きゃっむぐッ!?」

 

 一夏がダクトの中に消えたことにあっけに取られていたセシリアは、ラウラが手を伸ばし同じように両脇を抱えてダクトの中に引っ張り込んだことでその場から消えた。

 たった一人で体の力のみを使い人一人分を天井まで引っ張り上げるということができるのは、ラウラが見た目からは想像も付かない怪力の持ち主であることを意味しているが、その場の誰も気にしていないだろう。

 試着室のカーテンを学校の怪談よろしく開けてはがっかりとした顔を浮かべる箒と、その後ろで暇そうに後頭部に両腕をやっている鈴音はついに二人を発見することができなかった。

 

 「ねーほーきーまだ見つかんないのー」

 「ぐぬぬぬぬ……私の勘が鈍ったと、そう言うのか! 私は我慢弱く、落ち着きの無い女だ。ここは引く。行くぞ鈴音!」

 

 箒が最後の試着室を開けても誰もいなかった。水着さえ落ちていなかった。なぜならば既に撤収した後だったからだ。

 箒はがくりと膝を折ると、心なし萎れたポニーテールを揺らしながらずんずんと走って店から撤退した。後から鈴音が追いかける。

 

 「おっ。店内で走るんじゃないぞ」

 「篠ノ之箒。警察の世話になりたいか!」

 

 偶然買い物に来ていたらしい千冬――格好はジーパンにシャツにジャンパーを引っ掛けただけというラフさ―――と、山田――灰色のビジネススーツにサングラスというカタギには見えない格好――の二名が走り抜けていく箒と鈴音とすれ違った。

 

 「口惜しさは残るが!! ここは撤退する! 一夏ァァァァァァ!!」

 「ちょっと! 箒! どこまで走るのよ! あっごめんなさい先生! こいつが止まんなくて!」

 

 振り返らず全力疾走の箒と、申し訳なさそうに振り返りながら頭を下げて走っていく鈴音。

 ばたばたと足音うるさく逃げていく二人組みを見て千冬が目を細めた。山田はため息を吐き、サングラスをずらして裸眼で二人を睨んでいた。

 

 「青春ってやつかな……」

 「ところで織斑先生はどのような水着を購入するおつもりですか」

 「そうだな。緩くて地味なやつがいい。オールインワンのワンピース型の……」

 

 

 

 

 「もぅ。でも悪くないかなこういうのも」

 

 シャルロットはラウラから受け取った水着を試着用水着回収箱に入れつつ、新しい水着を買い物カゴに入れてレジに進んでいた。セシリアの使用人になったら大変な毎日なんだろうな、と想像しながら。




次回、臨海学校編スタート

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