セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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書けちゃったので投稿します


38話 マッサージに期待してみてもいいじゃない

 

 うう、眠い。とっとと眠りについてしまいたい位に眠かった俺であるが、せっかく一夏が部屋に来いというので行くことにした。あれこれ悩んで例の下着と香水を身につけておいた。まあ、一応ね。期待してるかしてないかでいうとしてるし。むしろめっちゃしてるので手を出してほしい。

 部屋に行く前にシャルロットにどう思うか聞いてみたところ、

 

 『勘がいいとかよく言われるけどエスパーじゃないから』

 

 と言われた。そりゃそうだ。

 どーせマッサージやるだけやろと期待度は薄いが、触ってもらえるならそれはそれでいいものなのだ。風呂で寝かけたがそれだけの価値はあると思っている。

 

 「あ~せっしーおはは~」

 「こんばんはの時間帯ですわよ本音さん」

 「いつだって世界はおはは~だよ~」

 

 俺は、廊下で本音と出くわした。犬なのか猫なのかよくわからないきぐるみなのかパジャマなのか不明な物体Xを着込んでいた。

 その他数名のモブ子もいた。あの山田先生を崇拝している子と、あとは名前が思い出せない子だ。

 のほほんさんはどこで仕入れてきたのかキノコを乾燥させて薄味をつけたスナックを食っていた。これはエリザベスの秘薬ですね……間違いない。

 

 「セシリアはどこにいくの? もう寝ないと怒られるよ。あ、それもいいかも……」

 

 ぽっと頬を赤らめて両手を重ねて天を仰ぐ山田先生の……めんどくさいから百合子と、またやってんのという顔をするもう一人。本音はもさもさとスナックを食いながら俺の腰のラインを凝視してきた。

 あ、バレたなこれは。何で腰だけでわかるんだろう。紐を引っ張ると脱げるタイプのせいなのかね。下着のラインが浮いている? まさか。いくらなんでもそんなに浴衣は薄くないぞ。赤外線ビューでもついておられる?

 俺は愚を冒す前に撤収することにした。

 

 「あ~~せっしーがえっちな下着着てるぅ~」

 「えっ! 脱がせぇ~! 脱がせぇ!」

 「将来の参考のために生贄になってもらうわ!」

 

 えっちな下着ではない。勝負下着と呼べ、庶民よ。

 万事休すか。しかし、窮鼠猫を噛むという。追い詰められた俺はジャッカルよりも凶暴であることを教えてやろうではないか。

 俺は手をわきわきさせてにじり寄ってくる三連星の背後を指差した。

 

 「あ! 山田先生が来ましたわよ!」

 「えっ!?」

 「山田様!!」

 「え~どこ~?」

 

 っしゃあオラァ! 俺は足音を立てぬように軽やかな足捌きで撤収した。ネタとしては『あ、UFO』に近い猫だましであるが対象がUFOではなく歩く人間殺戮装置山田であるなら話は別である。

 甘いぞ! この俺がやられると思うたか!

 俺は廊下を小走りで抜けていくと、道端にダンボール箱が置かれていることに気がついた。まさかな。ないない。スルーしようスルー。

 ということで俺はやっとのことで一夏と千冬の部屋までやってきた。教員部屋というマジックインクで文字の記された紙が貼られたそこは、言うならばそれは、侵してはならない領域(サイレントライン)であった。踏み込んだからといって衛星軌道砲が降ってきたりはしないけど。

 俺が意を決して扉をノックした。胸がどきどきする。上から押さえてみてもわかるほどだ。一夏はこの胸の高鳴りを知っているのだろうか。張り裂けそうなくらいなのに。

 

 「鍵はかかっていない」

 「……お、お邪魔しますわ……」

 

 座椅子に腰掛けてテレビをつまらなそうに見ている一夏がいた。浴衣を着こなしていて、とてもかっこいい。

 部屋には一夏一人だけだった。はて、千冬さんはどこに消えたんだろう。

 

 「遅かったな。姉さんなら飲んだ気がしないからと新しいものを買いに行った」

 「お酒ですの?」

 「いやノンアルコールだ。俺も飲んでみたが……酸っぱさと渋さが同時に口に広がって……砂糖が入っていると成分表示にあるが、甘くもなんとも無い。酷い味しかしない。よく飲めるな大人は」

 「苦さは大人になるとわかりますわ。舌が慣れておいしく感じるというよりも鈍くなるというか」

 「お前飲んだことがあるのか」

 

 なんともいえない表情を浮かべる一夏。まあノンアルコールって本物と比べると味が劣ることは否めないし、第一ビール自体大人でも嫌いな人は嫌いなものだ。しかし千冬さんといい中の人といい酒は嫌いじゃないはずなのにノンアルコールとは。教師だから我慢してるのかな。

 っと。この歳にして飲みましたもちとまずいな。イギリスですら俺の体の年齢だとギリギリ飲めないし。

 

 「泡を舐めさせてもらったことがありまして」

 「あぁ……で、するのかしないのか」

 

 俺は早速テキパキと布団を整えて準備し始める一夏のもとに行くと正座をした。髪の毛を整えて下唇を噛んで相手を見据えてみる。

 

 和室のひとつ布団の上。男女が真剣な顔をして向き合っている。

 

 こ、これは……! 婚姻した男女が旅館に泊まり初めてを迎えるシチュエーション……!?

 不器用な夫と、初々しい妻。夫が手を伸ばして妻をゆっくり後ろに倒して……!!

 

 「マッサージをな」

 

 一夏が両手をすり合わせて仰った。

 ……くそう、くそう! ムードくらい盛り上げてくれよ! 妄想の世界でくらい笑顔を見せてくれ!

 俺はごろんとうつ伏せになった。……ちと待てよ? 薄い浴衣だと下着が浮いてしまうのでは……? いや、いいんだ。そそられるかもしれん。俺は一夏が横に座り手を伸ばしてくるのを待った。腰に指が食い込む。

 

 「………あまり痛くありませんわね」

 「よく鍛えられメンテナンスの行き届いた筋肉だ。凝り固まっていない」

 

 筋肉の質を確かめるような指の動きだった。もっと違うところでもええんやで。

 

 「運動しておりますので」

 「何をだ」

 「水泳、登山、武術……走りこみもしておりますし……あとは………ンっ、そこはくすぐったいですわ」

 「すまない」

 

 背骨付近に指が食い込んでいるんだが正直痛くない。適度に使って休ませてとしてるからなあ。肩こり腰痛とは無縁な健康セシリアボディに指圧は必要ないのかもしれんね。

 一夏が筋肉を解す動きから揉む動きに切り替えてきた。おお、いい気持ちだ。腰から上。肩甲骨。次は下。足の筋肉。ただでさえ眠かったせいかふわーっと思考が溶けていく。あ、ちょ、ちょっと待って、俺は疲れてないからせっかくなので一夏のことを揉んであんなことやこんな……こと……計画………。

 

 「すぅ……」

 

 俺はそんなこともありぐっすり眠りに入った。

 

 「……女を連れ込むとは進歩したな」

 「そんなんじゃない」

 

 ……なんだろう。誰かと誰かが話してる気がする。

 

 「また酒か」

 「酒は止めた、悪影響が出る。ノンアルコールと炭酸飲料だ。どちらでもいい」

 「ノンアルコールはもう一生分飲んだ。まだ話さないのか」

 「年頃の娘にそんなことを公開すると大雑把に騒ぎ立てるだろ。だから。苗字が変わる昔じゃなくてよかったところだな」

 「俺は黙っていたほうがいいのか」

 「ン、頼む」

 

 眠い。何の話をしてるのかよくわからないけど、そっとしておいてくれ。

 頬を触られた。くすぐったくて顔を振って枕にうずめる。男性的な野性味溢れる香りが鼻腔を擦った。誰のにおいだろう。一時的に浮遊した俺の意識は瞬く間に真っ白になっていく。

 揺らされている。眠いんだ、寝かせてほしい。

 揺れている。地面が揺れている? 地震かな。大丈夫だろう。

 揺れる。俺の体が揺れている? よくはわからないが、横にある温かい壁にしがみついているお陰で安心できた。絶対に落とさないだろうことが確信できたからだ。

 浮遊感は冷たさを宿す布団に俺が降りたことで消えてしまった。もう少ししがみついていたかったのだけれど。

 

 「おふとん……おふとんきもちいい……」

 

 俺は誰かがそっと布団をかけてくれたのに甘えて完全に意識を手放した。

 

 

 

 

 そして翌日。

 

 「セシリア覚えてないの? 一夏がセシリアお姫様抱っこで連れてきて布団に入れてたんだけど。びっくりしちゃった。コンコンハイドチラサマーで開けたら一夏がいたんだよね」

 「………」

 「一夏ったら廊下を堂々歩いてくるもんだからみんな見てたよ」

 「………」

 「狸寝入りとかじゃない?」

 「………」

 「あー……ご愁傷様、セシリア」

 

 おいしいイベントをごっそり記憶の彼方へ追いやってスヤスヤ眠っていたことが判明し、俺は死にたくなっていた。

 こんなことならコーヒーでも飲んでくればよかった。


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