セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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つらいはずなのに書けてしまう現象
体が慣れちゃった&癖になってるってはっきりわかんだね(瀕死


39話 紅椿

 

 合宿二日目のことである。

 篠ノ之箒は早朝に目を覚ましていた。

 

 

 「貴様何者だ?」

 『ディープスロート……いや、ミスターXとでも名乗っておこうか』

 

 篠ノ之箒は憤っていた。真剣は没収されて手元に無いとは言え、木刀くらいは持ち歩いていた。体の火照りが収まらず海岸に出て素振りをしていると、奇妙な声を聞いたのだ。岩陰から聞こえてきたそれを追いかけてみると、強化外骨格とでも言うべきそれに身を包んだ人物に出くわした。

 篠ノ之箒の人生の半分は安らぎと修羅場でできているといっても過言ではなかった。怪しい人物がいれば即座に制圧しにかかってもおかしくは無い性格であったが、その人物が待機状態のISを手渡してきたことで木刀が振り下ろされずに済んでいた。

 

 『紅椿(あかつばき)――――それが機体の名前だ』

 「そのような怪異染みた渡し方、私が納得すると思うか! この篠ノ之箒が!」

 

 人物の表情はまるで窺えない。頭頂部からつま先まで装甲で覆われていて、男なのか女なのかさえ分からない。声もボイスチェンジャーで変えられていて、年齢さえ分からない。果たして人間かさえも分からない。

 人物がおもむろにそれを差し出してきた、金と銀の鈴のついた赤い紐のようなもの。一見するとアクセサリーか何かに見えるが、箒の慧眼はそれがISの待機状態であると瞬時に見抜いた。

 箒がそれを受け取ろうとしないでいると、人物はあろうことかそれを胸元に投げつけた。箒が慌てて受け取ると人物の姿がぼやけ始めていた。軍用機にも用いられるステルス迷彩だった。

 

 『いずれ必要になる。お前の姉はそのように判断していたということだ』

 「姉さんが? 貴様姉のなんなのだ?」

 『いずれわかる』

 

 箒は木刀を砂浜に突き刺し、待機状態のISを見つめていた。なぜ、本人ではなく使いを寄越したのか。そもそも無事なのか。この機体は一体なんなのか。

 

 「お前……いない」

 

 箒が面を上げたとき既にミスターXと名乗った人物の姿はなかった。

 箒はISを握り締めて天を仰ぎほうと息を漏らした。

 

 まさか、使うときが間近に迫っているなどとは露知らず。

 合宿二日目。IS各種装備試験運用データ取りの日。丁度午前が過ぎようかというよく晴れた頃に、それは起こった。

 鳴り響く空襲警報。沖に展開していた空母から一斉に戦闘機が発進していく。

 これを予見していたのかと箒は思いながらも、手の中にあるそれを強く握り締めることしかできなかった。

 

 

 

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 防空レーダーに感あり。所属不明機体が東より襲来の情報がIS学園の生徒を守るということで展開していた自衛隊ヘリ空母を主力とする一団に伝えられた。ISはまさしく絶対的な戦力であるためその都度出動させられることはない。まずは要撃機が上がる。

 空母艦上甲板にて二人のIS乗りが空を見上げていた。カタパルトから射出されたF-35が一機空中に飛び出し、次にもう一機のF-35が空に上がる。

 出番が無いに越したことが無いが、要撃機からの報告に二人は顔を見合わせた。日本のレーダーサイトはもちろん各艦個別レーダー衛星にいたるまでをハイパーセンサーに接続しているため、もはや視覚に頼ることも無く相手の様子を窺うことができる。カメラに接続した二人は唖然とした。それは他国の航空機でもなければ、ISでもなく、既存の兵器からはかけ離れた姿をしていたからだ。大型の船体のようなものの上に胴体と思しき物体が乗っており、まるで人のような頭部と二本腕を供えていた。有機的な曲線を多用した蜘蛛のような脚部が六本伸びて蠢く様は、人ならざるものを思わせる。

 二機の日の丸印のF-35が警告を行っても反応は無い。翼を振っても反応が無い。左右を塞いでも反応が無い。

 威嚇射撃をしたところでやっと反応があった。

 肩に担いだ砲を左右に伸ばし撃墜するという行為によって。

 

 『オラクル1、2撃墜された!』

 『所属不明機、該当データ無し。学園を襲撃した機体と形状がよく似ている。撃墜しろ』

 『IFFに応答しないISが二機接近中! ステルスモード!』

 『空母に接近させるな。指示の目標に対し対空ミサイル発射』

 

 二機のISが空母から離陸。対艦ミサイルのような軌道を描き低空を舐めるようにして発進した。

 

 空母及び駆逐艦群、目標に対して一斉に所属不明機二機と、特殊兵器に対し長距離対空ミサイルを発射。

 その横合いを殴りつけるようにして二機のステルスモードのISが対空ミサイルを追い越す速度で迫っていた。二機とも赤で染め上げられた不吉な機体であり、二機はプロペラントタンクとブースタを合成した特殊な装備を装着していた。艦隊が対応を固めるよりも遥かに早い速度で一気に肉薄とすると、通り魔的に無数の弾頭を放った。

 

 「いけよファング!」

 「……」

 

 ファングと呼ばれたその子弾がビームを乱射しつつ空母に襲い掛かる。瞬く間にブリッジをずたずたにされ炎上する。

 駆逐艦群の合間を縫うように赤い彗星が駆け抜ける。右へ左へPICを利用した慣性を無視したかのような鋭角機動を取りながら黄色のビームで砲塔及び対空火器エレベーターを的確に撃ち貫いていく。CIWSがタングステン弾を無数に吐き出すも、ひらりひらりと身をかわす二機には掠りもしない。

 放たれた対空ミサイルだったが、特殊兵器の装甲表面で爆発するだけでまるで効力がみられなかった。

 

 「よくも!」

 「本部、こちらウィザード1! 敵襲! 所属不明機2、特殊兵器1! 現在までの被害としては……!」

 

 二機のISが立ち向かうもものの一交差でシールドエネルギーの大半をビーム砲撃とファングにより吹き飛ばされ、一機は瞬時に肉薄してきていた赤色のISの大型近接型ブレードの一太刀で海面へと叩き込まれ機能停止に。もう一機は海面を掠めるように高度を上げて襲い掛かる猛禽が如き赤い機体の残す青いスラスタのみを視界に焼付け瞬時にビーム砲撃を食らい撃墜していた。

 特殊兵器――さしずめパルヴァライザー蜘蛛型戦車は二機のISが戦闘を繰り広げていることなどどうでもいいかのように進行を再開していた。

 

 「いいねぇ! あれがお偉方が言う新資源ってなら、これからあんなのが跋扈する世の中にになるってのかよ。結構な事じゃねえか!」

 「……」

 

 二機のパイロット――スコールとマドカは、背面部大型ブースタを切り離すと、パルヴァライザーの後からついていった。途中、スコールの機体――IS『アルケー』がバンクし、距離を離していく。

 

 「あばよお嬢ちゃん! ま、わたしゃあ頃合見て盛り上げてやるから好きにしろや!」

 「……それが私に課せられた役割ならば、私はそうする」

 

 IS『サイレント・ゼフィルス高機動型』の搭乗者マドカは静かに囁くと、猛烈な速度で突き進むパルヴァライザーの追尾を始めた。その先にはIS学園一年生が臨海学校を行っている場所がある。

 ハイパーセンサーに反応。所属不明機。該当データ一件。アメリカ・イスラエル共同開発中IS。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)。既に敵が射撃をしていることがハイパーセンサーの警告表示で分かる。銀の鐘(シルバー・ベル)による指向性砲撃。合計36門にも及ぶ砲撃全てを一方方向に集中して放つ必殺の一撃。性能で言えばサイレント・ゼフィルス高機動型は火力装甲でも負けているが、外部からコントロールされているであろうそれに、負ける気がしなかった。

 

 「見せて貰おうか。新型の性能とやらを」

 

 ウォォォォォォォン……!

 

 ウィングスラスターから放たれる光弾が余りに発射間隔が短すぎるためか吼えているように響いていた。まさにそれは弾幕だったが、サイレント・ゼフィルスは蝶のように翼をはためかせ、強引に高度を上げながら肉薄していく。右手のビームライフルを速射しながら敵に動くことを強いつつ、自らはシールドで弾を受けながらも接近戦を挑む。

 右へ、右側のスラスターによる瞬時加速(イグニッションブースト)。空中で螺旋を描きながら回避したかと思えば、左側のスラスターで瞬時加速(イグニッションブースト)をかけ、あろうことか敵の放つ光弾の炸裂エネルギーを再吸収してさらに接近する。

 

 「La.........」

 「甘いな」

 

 福音が悲鳴にも似たマシンボイスを上げた次の瞬間、マドカは耐久限界を迎えたシールドを横に投げ捨て、袖から射出されたビームサーベルを握り一閃を放ちウィングスラスターのいくつかを叩き切っていた。

 必死で逃げようとする福音へサイレント・ゼフィルスの蹴りが見舞われ海中へと叩き落される。止めと言わんばかりにマドカがビームライフルを一発放ち、続けざまにグレネードランチャーを撃ちこみ海中に巨大な柱を咲かせた。

 

 「………!!!」

 

 声にもならない機械的な絶叫を上げて、海水の柱から白銀の羽が雨あられと空へと屹立した。それは対空陣地が戦闘機を捉えんとする光景にも似ていたが、相手は戦闘機などという生ぬるい存在ではなく、光弾の爆発さえ加速に利用してしまう悪魔だった。弾幕を正面から突破してくるその敵に対応する間も無くスラスターを切断され、海面を飛び石のように飛び跳ねる。

 海水を押しのけて、腰にライフルをマウントしたサイレント・ゼフィルスが迫る。瞬間的に音速を突破。ヴァイパーを引きながら左右にイナズマ染みた機動を行い撹乱、福音が高度を取ろうとスラスターを吹かすのにあっという間に追いすがると、ぐるりと体を進行方向横に倒し独楽のように回転しながらビームサーベルでズタズタに引き裂いた。

 

 「          」

 

 機能停止に追い込まれた福音ががくりと海面へと落ちていく。装甲を失いスーツ一丁になった操縦者がいたが、マドカはそれには目もくれず、視線をパルヴァライザーが消えた方角に向けていた。

 

 「このタイミングでの襲撃……謀ったか、篠ノ之束」

 

 サイレント・ゼフィルスのスラスタが偏向し、青い火を噴き出した。

 

 


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