セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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次回予告はフロムマジックみたいなもんだし(二回目)

明日投稿できなそうなので投稿しておきます


41話 絢爛なる舞踏(ゴージャス・タンゴ)

 声がした。

 

 

 

 

 

 マァーマ……。

 

 

 

 

 

 幼い子の声がその場の誰にも聞こえた。

 俺にも聞こえていた。どこから聞こえてきたのかはわからない。

 

 ミサイルの群れに飲み込まれた箒が光の塊に変貌していた。

 

 一夏の構えた零式月光剣がパルヴァライザーを直撃し、パルヴァライザーがぐらりと揺らいだかと思えば、航空機が失速したかのような動きで四方を崖に囲まれた先ほど俺達がいた地点へと墜落する。

 

 「何!?」

 

 マドカの搭乗するIS『サイレント・ゼフィルス』が千冬の満身創痍のIS『ν』から迸る光によって弾かれる。

 

 

 マドカが混乱の声を上げて姿勢を取り戻そうと肢体を振り回した慣性を再利用した次の瞬間、黄金色に輝く影が背後を通過したことで姿勢を崩した。

 それは意味不明な光景だった。黄金色の人型の影がマドカの機体を猛禽類が獲物を甚振るかのように駆け巡っては攻撃を見舞っている。通常のハイパーセンサーと、ブリリアント・クリアランスによる解析結果―――ISエネルギーの爆発的・断続的放出によりセンサー情報に別機体が―――。

 

 「質量を持った残像とでもいうの!?」

 

 鈴音が一言で解説してくれた。

 金色のトランザム状態の何かが俺たちのセンサー上では無数の機体が発生しているとしか思えない現象を引き起こしながら、マドカ機に猛攻撃を仕掛けていた。

 

 「私が我が亡き友の機体を捨ててまで戦う理由がわかるか!」

 

 声が響いてきた。マドカ機は影に向かいビームライフルを撃ちながら既に後退に入っていた。

 影が一点に収束すると、展開装甲から膨大な黄金色の粒子を放ちながら浮遊する篠ノ之箒が座するIS『紅椿』の姿をとった。展開装甲は輝き、本体装甲は不気味なまでに紅く輝いている。両腕に握る武器――『雨月(あまづき)』と『空裂(からわれ)』は、黄金色の粒子を纏い、今にも爆発を起こしそうに白熱していた。

 ハイパーセンサー上の情報を見なくても分かる。

 

 紅椿(あかつばき)、最大稼動状態。

 

 大量の黄金色の粒子を纏った残像が再びかけ始める。パルヴァライザーが発したミサイルその数実に数十に一瞬で追いすがると、刃で叩き落す。

 

 「おおおおおっ!!」

 

 ミサイルが空中に静止しているかのようだった。弾頭と後部で数十ものミサイルが切り分けられ、信管さえ作動できず落ちていく。

 ブルー・ティアーズのセンサーで見ても、黄金色の何かが空中を縦横無尽に駆け巡っているようにしか見えなかった。

 まさに圧倒的な性能だった。

 

 「チッ」

 

 それに対抗してビームライフルを撃ちつつ後退機動に入るマドカの腕前の異常さと言ったらあきれ返るほどだ。移動先を読んでいるかのようにビームライフルを撃ち、突進にはひらりと機体を回転させて受け流す。俺には到底できない真似だった。

 空中にビーム刃が伸びたかと思えば、レーザーの驟雨が叩きつける。マドカは全てをかわし、時にはフェイントを交えながら逃げていた。

 

 「不覚を取ったか……!」

 

 千冬さんが後退に入っていた。ビームライフルもシールドも失っていて、後退していくマドカに向かって頭部バルカン砲を撃ちまくっている。

 

 「追撃します!」

 「逃がすわけないでしょ!」

 

 シャルロットと鈴音が逃げていくマドカ機の追尾に入った。

 いけない。深追いすると何が起こるかわからない。俺は二人に手を伸ばしながら、マドカ機を狙うべくスターライトMKⅢを構えた。有効射程内。撃つべきか?

 

 「いけませんわ! まず、パルヴァライザーを……!」

 「いかん! みんなここから離れろ!」

 

 千冬さんが大声を張り上げると、山田先生が墜落した地点に急降下し始めた。ハイパーセンサーフル稼働。沖合いに一隻の船が浮かんでいる。後部に大型ハッチ。高性能レーダー。漁具を積んでいるようだが……違う。あれは漁船なんかではない。漁船に偽装した違う船だ!

 

 「奴が私たちを狙っている! すぐ離れろ!」

 

 漁船と思しき船の後部ハッチが開くと、大型のタンクと銃身を備えた何かを腰だめに担いだアルケーが浮遊していた。地平線上に怪しい光が輝き始めた。

 背筋に鳥肌が立つ。俺はその武器に見覚えがあった。

 ヒュージキャノン。多薬室砲による加速で“核砲弾”を超高速で射出するオーバードウェポンの一つ。

 俺が見ている前で既にそれを担いだアルケーは射撃体勢に入っていた。

 どこを狙っている!? 俺たちだとすれば直撃をもらえば消し炭、避けても衝撃波と熱線で死亡、撃ち落されようものなら死の灰と余波で遺伝子をズタズタにされかねない。相手の位置と距離からして戦略級核ではないにしても、戦術核レベルとしても1km半径にいたら即死、1.5km半径にいてもISでは大破か機能停止に追い込まれる。

 それをよりによってパルヴァライザーがいるところに撃ち込むなどと――俺は気がついた。これはパルヴァライザーを狙いつつ、俺たちを始末する策なのであると。俺たちを始末し、パルヴァライザーを破壊することで情報を本体に伝えて進化させるつもりか!?

 

 『いやいやちょっとお手伝いをね!』

 

 オープンチャネル越しに女の声が聞こえた。アルケー? お手伝い? 声優ネタはよせとあれほど!

 なんていってる場合じゃない。食らったら即死する威力のものをぶっ放そうとしているのだ。俺はまだ避難が完了していない一団を見て、あきらめることにした。今からじゃ間に合わない。ストライクガンナーの推力を最大に使い離脱するしかない。

 

 「早く逃げなくては!」

 「まだみんな逃げ切れてないよ! あれ、なんなの!」

 

 シャルロットが緊迫した表情で俺に問いかけてきたので、俺は言った。

 

 「あの敵は核兵器を使用しようとしています!」

 「核……!?」

 「ちょ、ねぇっ! セシリア! まだみんなが残ってる!」

 

 鈴音が上空に上がってくると、俺の横に並んで半ばパニックを起こしながらも聞いてきた。分かってるよ、けどどうやって運ぶんだ! どう防ぐんだ!

 

 「皆、早く逃げろ! ここはこの篠ノ之箒が引き受けた!」

 「お付き合いするわよ!」

 「私が弾を防ぐ! 会長は奴を!」

 「ええ! 核を使おうとしているけれど、やれるならば!」

 「相手にとって不足無し!」

 

 海水を割ってメタルウルフにしか見えないISが出現すると、一目散に敵目掛けて駆け抜けていく。会長こと更識 楯無だった。本名かたなさんだっけ。何でここにいるのか分からないが、まさかこの動きを察知していたのか?

 箒は相手の射線と俺たちを塞ぐように腕を組み仁王立ちしていた。風に揺れ動くポニーテールが頼もしい。

 

 アルケーに乗った相手――おそらくスコール――は今にも発射しそうになっている。もう、逃げても間に合わない。だったら、せめて……。

 俺が逡巡している間にパルヴァライザーが再起動していた。崖に体が嵌まり込んで身動き取れないらしく暴れながら両腕のビームを撃ちまくっている。

 

 「一夏さん、零式月光剣をもう一度使って早く倒してください!」

 「エネルギーが無い!」

 

 一夏が絶望的なことを言い始めた。零式月光剣をもう一度使うだけのエネルギーが無い、というのだろう。箒の機体からエネルギーをと思ったが、箒は敵の弾を防ぐので精一杯でそれどころではない。すぐにシャルロットが反応した。一夏の元に駆けていく。

 

 「僕の機体だったらエネルギーをバイパスして受け渡せる! 全部使ってでもいいから早くやるんだ!」

 「セシリア! 他のみんなを助けなきゃ!」

 

 鈴音が言うなり機体を着陸させて生徒を抱え込み始めた。

 ああ、どいつもこいつも。逃げなきゃ消し炭だってのに。俺は覚悟を決めた。武器を格納すると、まだ逃げ切れていない数人の生徒の元に強行着陸し、装甲に掴まらせる。

 

 「皆さん掴まっていてくださいな! 私の操縦は乱暴なのですから!」

 「うん!」

 「セシリア何が起きてるの!?」

 「え、え、何! 掴まるの!? わかった!」

 

 俺は学友を抱えたまま離陸し、パルヴァライザーのいる方角を見た。もし砲撃を箒が何とかできなかったら一夏はもちろんシャルロットも終わりだ。

 俺にできることは無い。二人を、みんなを信じて逃げるしかないのだ。俺にはパルヴァライザーを倒すだけの実力はないし、紅椿のような圧倒的な機体(スーツ)を持っていない。やれることをやるしかない。

 俺はめったに祈らない神に祈りながらこみ上げてくる涙を抑えられないでいた。

 どうか俺たちを助けてください、と。




次回予告



「紅椿! 私に応えろォォォォォ!!」
「how do you like me now!!!!(パーティーは仕舞いだ消え失せやがれ!)」

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