セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
43話 ウェルカム・イン・ザ・サマー!
「イギリス……試作対IS用高エネルギー収束砲術兵器『エクスカリバー』の配置……アメリカ……対地対艦両用質量弾兵器……『トール』。環太平洋経済企業連合による試作攻撃型迎撃衛星『アサルトセル』の配置……連中も本気モードというわけだな」
「ああ。だが油断はできない。私の中の勘が………勘に頼るのがいいと言ってるわけじゃない。勘ばかりに頼るつもりはないさ」
山田真耶と織斑千冬が携帯端末を手に真剣な顔を向け合って椅子に腰掛けていた。IS学園地下。核による攻撃を想定しているというその地下50mの空間にて、機密情報について話している。
会議場のような場所にて、二名の女性がいた。
千冬はそのしなやかなタイツに包まれた足を組むと、眉間に皺を寄せていた。
「自国内での核兵器使用……腰の重い日本政府とて動かざるを得ない。大気圏外に箒が放り出したからいいものを……EMPの被害はどうだったか? IS学園は一時閉鎖かな」
「戦術核であったことと、箒の紅椿が防いだのか被害は限定的でした。ところが閉鎖にはならず夏季休暇中の一時的閉鎖と防備強化が行われるとのことです」
「アメリカからの圧力か。かの国はいつも無理を言う。自国内の出来事ではないからといって……」
千冬が山田の言葉に苦虫を噛み潰した顔をした。
亡国機業を名乗るテロリストによる核兵器使用は世間には公表されていない。幸いだったのは核兵器が大気圏外で爆発したこと、死者がでなかったこと、電磁パルスの影響がごくごく小さかったことであろうか。
千冬は頭をガシガシ掻くと端末を横に押しやってコーヒーを一口飲んだ。
「丁度いい機会だったから私は休職しようと思う。勘付いているとは思うが………体調が不安定になっている。例の事件で戦闘中ISの同調率が著しく悪くなった。私の体調もあるが……そもそも、νではあの赤い奴に歯が立たない」
千冬は自分の首にかかった二つのものを指で弄くっていた。片方は待機状態の『ν』、そしてもう一つはエンゲージリングだった。
山田は愛おしそうに腹に手を置く千冬を見て、小さく頷いていた。察してはいたし、いつか公表するだろうと思っていたから驚きはなかったのだった。
「生徒会メンバーと整備科に任せてばかりだったが、今後は私も積極的に改良に着手する。そして束の痕跡を追ってみようと思う」
「篠ノ之博士ですか? 彼女は現在行方が……」
「ああ、あいつが私に残したメッセージにいくつかの座標データがあった。中東、南米のジャングル地帯、そして細々としたところだ。すぐには動けないし、まずは改良が先だから行けるかもわからない。山田先生には迷惑をかけます」
「礼には及びません。仕事ですから」
山田が言うと千冬は端末を操作して電源を落とした。
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「皆、話を聞いてくれ。臨海学校であったことは緘口令が敷かれていると思うから、いまさらどうこう言うつもりはない。家族に言うこともできないし、万が一事実が発覚したら相応の罰が下ることは覚悟してくれ。IS学園に起こったこの危機に対し政府と各国トップは精一杯の防御を固めることを約束してくれた」
臨海学校は当然のことながら中止になり、生徒は皆政府がチャーターした専用車でIS学園へと戻されていた。怪我を負った数人の生徒は病院から戻ってくることができず、1年1組にも空席があった。
千冬が教壇に両手を置いて全員を見回した。
「学園は存続されるが、夏季休暇の間完全に閉鎖されることになった。各種防御を固めるための工事も実施される。一部クラブや校外活動や生徒会以外は、学園に立ち入ることはできなくなった。新学期に向けて、新担任になる山田先生の言うことをよく聞くように。一時的に休職させてもらう。理由は二つあるんだ」
場にざわめきが広がっていく。学校が一時閉鎖されることは皆予想していたが、その後が問題だった。
千冬が照れくさそうに頬を掻いて一夏を見遣った。一夏がこくんと頷く。
「実は結婚してな……苗字は変えていないから気がつかなかったと思う。さらに言うと産休も取得予定だった。まだそこまで大きくはなっていないから目立ちはしないが……」
沈黙する面々。
次の瞬間生徒達が爆発を起こした。
「ええええええええ!!!???」
「うそおおおっ!!」
「千冬様が!?」
「あ~やっぱり~~おめでとーおりむーせんせー」
「おめでとうございます!!」
「ってちょっと待ってよ一夏君知ってたの!?」
「ああ」
「皆様落ち着きなさいな!」
「しつもーん!! 千冬さん旦那さんどんな人なんですかっ!」
「どこで出会ったんですか!!」
「いいなぁ……」
「やはりか」
「………妙な声が聞こえたと思ったらあれは……赤ちゃんの?」
「うるさい黙れ」
ぴしゃりと山田が出席簿で壁を叩くや否や一瞬で場が静まり返る。
「ウン、ありがとう。というわけで新学期になったら私はしばし職場を離れる。やることがある。詮索はできればしないで欲しい。答えられないこともあるんだ。では山田先生後はよろしくお願いします」
言うなり千冬はカツカツとヒールを鳴らして教室を出て行った。後に残された山田が教壇に立つと、襟を正す。
「織斑先生から話があったように私が新学期からは担任になる。副担任はまだ決まっていない。それでは本日から夏季休暇までと、新学期のスケジュールだが……」
「ふう」
セシリア・オルコットはカフェテリアで紅茶を嗜んでいた。紅茶のカップに口をつけつつ、上品にため息を吐いて遠い目をする姿は深窓の令嬢という表現がよく似合っていた。
彼女は手帳を眺めつつ、時折天を仰いでは何かを考え込んでいた。
手帳にはイギリスに帰国するという内容や、その他細かく記載されたなにかのイベントが記入されている。
「隣いいか」
セシリアの前に、コーヒーカップを持った一夏がやってきた。セシリアは肩をぴくんと震わせると、握っていたペンを取り落として両目を見開いた。
「い、い、一夏さんっ!」
「だめなのか」
「もちろんですわ! さ、どうぞ!」
「早速話なんだがセシリアは夏休み中イギリスに帰るんだろ」
「ええ。一緒に来られますか?」
セシリアが冗談半分でそんなことを言いつつ紅茶をぐっと飲みつつ胸元をトントン叩いていると、一夏が席に腰掛けてコーヒーにふーふー息を吹きかけながら頷いた。
「行くぞ」
「ぶううううっ!!」
セシリアが紅茶を吹いた。紅茶はしかし一夏が机の下にかがんだことで放物線を描いて空中に霧となって消えただけだった。一夏がハンカチを取り出すとセシリアの肩を掴み口元を拭く。
「大丈夫か。熱すぎたのか?」
「むぐ、いひかひゃんわたくし子供ではありまふぇん……うぅぅ」
抵抗するセシリアだったが一夏の腕力に負けてついには拭かれるがままになった。
ようやく一夏がハンカチを仕舞うとセシリアを正面から見据えた。
「姉さんがもっと色々なことをして、色々なものを見たほうがいいと言ってきた。せっかくだからついていこうと思う」
「その、わたくしの父と母の家に寄る用事があるのですけれど、紹介してもよろしいということですの?」
「紹介? ああ、やってくれ」
セシリアがそっぽを向き謎のガッツポーズを決めていると、今度は違う人物がやってきた。アイスクリームを舐めながらシャルロットが歩いてくると、セシリアの背後につけた。
「何何夏休みの計画? じゃ、僕もお供しようかな。荷物持ちと警護は必要ありませんかお嬢様」
「ふむ。遠出をするならば軍人の警護が欲しくはないか? 久々にイギリスの朝食が食いたいしな。昼と夜は遠慮しておく」
シャルロットと談笑していたらしいラウラもやってくると、椅子にどっかり腰掛けた。
セシリアがキーキー言いながら腰を上げかける。
「なんなのですかあなたたち!」
「かたいこと言わないでってせっしー」
「誰がせっしーですか! 誰が!」
するりと身を滑り込ませてきた猫が一匹。鈴音だった。セシリアの横に座ると、その手を握り始める。
「仲がよさそうで結構! やはりイギリスか…………いつ出発する? わたしも同行する」
大怪我を負い病院に担ぎ込まれていたはずの箒までも加わる。骨折、内臓損傷、裂傷、火傷、打撲、その他傷を負ったはずの彼女はいつも通りの格好をしていた。傷跡一つ見当たらない。
怪訝そうな顔を浮かべる一夏に、箒は頬に手を当てて羞恥心を示してみせる。
「怪我は大丈夫なのか」
「あんなもの唾つけておけば治る」
セシリアはがくりと机に上半身を投げ出すとぶつぶつ何事かつぶやき始めた。
「こんなはずでは……」
Q.箒さん治るの早すぎない?
A.ヒント:唾つけとけば治る
そしてイギリス編へ