セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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幕間 楯無

 ―――きゅっ、と黒いリムジンが音を立てて停車する。赤毛のまだ少年とも言えるドライバーが運転席を立つと、扉側に回ってVIPの少女を降ろすべく動こうとしていた。もっとも肝心の少女は勝手に扉を開けてスタスタと歩いて行ってしまっていたが。

 赤毛の人物はやれやれと首を振ると後ろで纏め上げていた長髪を手で弄っていた。

 

 「エージェントってのも大変なこったな。生まれの不幸を呪いたくなるぜ」

 

 少女―――更識楯無は、巨大な屋敷の中庭に立ち尽くしていた。門から入ってひたすら歩かされる程度には広い屋敷であるから、はじめから門を通り越して屋敷正面まで乗ってきていた。扉には黒服にサングラスさらに拳銃を所持した体格のよい男二人組みが張っていた。

 

 「お待ちしておりました。簪様がお待ちです」

 「そう、ありがとう」

 「武器を預からせていただきます」

 「やれるものならね」

 「お戯れを」

 

 男によって扉が開かれる。勝手の知っている屋敷である。別の男に案内されるでもなく道はわかっていたが、追い越すのも憚られたのでついていく。最後にたどり着いたのは屋敷の奥にある和風の間であった。襖を開けて中に入ると、仕立てのよい和服に身を包んだ簪が正座して待っていた。

 楯無はふうんと口の端を持ち上げると机を挟んで綺麗な正座をした。

 

 「話というのはなんのことかしら? 私は暇じゃないのだけれど」

 「……ディープスロート」

 

 簪の無機質な瞳が瞬いた。IS用の簡易ディスプレイを操作しているらしく、空中に浮いている何かをつつくようなしぐさをした。

 

 「ミスターX。米国で開発中だった特殊強化外骨格。紅椿。聞き覚えは?」

 「ないわね」

 「では、先日の事件で出撃したことに関して、なぜ行動をしたのか教えていただけますか」

 「生徒の危機を救うのは生徒会長の務めよ。高貴なるものは人民に奉仕するものでしょう」

 「……そうですか。あくまでヒーローを気取ると」

 「いいえ、ヒーローそのものよ。話をしたくて呼んだのだったら、本題に入るべきだと思うわ、簪ちゃん」

 

 簪の冷たいまなざしを受けても、楯無はまるで動じずそれどころか机の上に置いてある茶菓子を摘み始める始末だった。

 

 「行動を改めるつもりはないと? そういうのですか」

 「改めるも何もお姉さん悪いことしてないもの」

 

 ヒーロー。そして姉。その二つの単語は、いつだって簪の心にあり、いつだって行動に制約をつけ続けていた。いつも誇り高く、いつも気高く、いつも人の為にあろうとする熱血。簪にとって、姉の存在はまさにコンプレックスそのものであると言えた。

 しかし、それも限度を超えてしまった。例え頭首であろうが、リーダーであろうが、例え一人の少女であろうが、もはやこの楯無―――もとい刀奈(かたな)は、暗部への対抗と裏工作を行い国に仕えてきた更識家にとって、都合の悪いものになってしまっていた。

 

 「………あなたにはここで果てて頂きます。理由はお分かりですね?」

 「………」

 

 簪が静かに言うと、楯無はおもむろに湯飲みを取り、中身を一気に飲み干して、握力だけで湯飲みを粉砕した。

 

 「闇を闇によって始末し、平穏を守る更識が………役割を捨てて闇に落ちることを是とするならば、私は例え誰であろうと従わない! 簪ちゃん、聞いて。本当に自分がしようとしていることが正しいと思っているというの?」

 「このまま世界が変われば、更識家は旧体制と共に絶滅させられてしまう。私の役割は更識を存続させることと判断した。そのためであればいかなる犠牲を払ってでも構わない」

 

 簪の瞳が映すのは、最近更識が関係してきた事件と、それと相反する行動を取っている刀奈についてのデータであった。

 一連の事件に常に更識家は絡んできた。その世界を一変させるであろう出来事に備え、更識は、更識であることを止めた。その結果起きた事件が一夏誘拐事件である。暗部を未然に防ぐはずの更識がいたにも関わらず、亡国機業は自由に動くことができた。理由はひとつしかない。更識は、亡国機業の行動を黙認したのだ。

 

 「それが………それが妹の言うことか!」

 「更識簪改め、楯無。命じます。この者を消しなさい」

 

 “刀奈”が立ち上がると、袖口に隠していたISを瞬間的に起動させる。

 “楯無”が立ち上がると、指に嵌めていた指輪を撫でる。

 襖を開き男たちが入ってきた。

 

 次の瞬間、満身創痍の鋼鉄の狼(メタルウルフ)と、翼を有する烈火色のISが対峙していた。

 

 「力を持ちすぎたものは更識に、これからの世界に、不要です。排除します」

 「やらせるか!」

 

 簪が両翼を稼動させ、両腕についているパルスキャノンを撃つべく身構えて、

 

 「!?」

 

 刀奈が投げつけた装置がISの胸元にカチリと貼りついたことによって身動きを封じられた。

 ―――剥離剤。リムーバーと呼ばれるその装置は、強制的にISその接続を解除することのできる装置であり、亡国機業によって開発されたものであった。凄まじい電流が迸ると、簪の搭乗するISが動作を停止していた。同時に簪本人にまさに強制的に神経を剥がされるような激痛が走る。

 瞬時に発生した電流に周囲の男たちが仰け反ったが、その程度だった。すぐに拳銃を向けて撃とうとする。IS相手に拳銃では分が悪いだろうが、躊躇いはなかった。

 

 「よくも……よくも!」

 

 簪が機能を失い搭乗者を射出する寸前のISを強引に動かして、パルスキャノンを機関砲かくや速射した。ファングによる手傷を負っていたメタルウルフはそれだけで致命傷となり、膝を突く。弾けとんだエネルギーの余波で和室の畳がめくれ上がり、火の手が上がる。

 刀奈の動きは早かった。ISが機能停止するよりも早く自らISのロックを解除すると、床に受身を取りつつ着地してすばやく姿勢を立て直していた。

 攻撃で屋敷の電気系統が落ちたか、照明が落ちて空間に闇が満ちた。

 

 「少し暗いわね。明るくしましょうか」

 

 からんという音がした。黒服の男の一人は足元に転がってきた野球ボール程度の大きさのそれを見て思考が停止していた。これは、グレネードだ!

 刹那、グレネードが外殻を自ら突き破り複数の光の弾を放ったかと思えば、部屋中を白く染め上げた。まともに食らった男達はもちろん、ISが解除され倒れこんでいた簪、男から拳銃を奪おうと身構えていた刀奈までもが大音響と大閃光に意識が飛ばされていた。

 

 ふかふかとした高品質なソファの上で目を覚ます。しかしそこは、自室でもなければ学園でもなく、リムジンの後部座席の上だった。震動している座席の上でウーンという吐息を漏らし、腕を使い姿勢を起こしていく。

 

 「…………っ」

 

 刀奈の意識が戻ったのは数分後のことだった。まともにフラッシュバンを受けたせいか、気分が悪い。

 

 「運転が手荒なのは勘弁してくださいよ。法定速度ぶっちぎってるのも見ない振りでお願いしますわ」

 

 倦怠感溢れる物言いがした。赤毛の長髪の運転手が黒のリムジンのハンドルをたくみに捌いているのが見えた。赤信号を無視して直進。風のような速度で駆け抜けていく。車が時折激しく動揺して、体ががくんがくんと揺さぶられる。

 

 「生徒会長さんも厄介な案件に巻き込まれているみたいね。同情するわ」

 「榊原菜月(さかきばら なつき)先生……?」

 「危険な男が好きなのも考えものよね。こんな稼業してるから普通の男の人じゃドキっとしないというか。はー……十年前に戻りたい」

 

 部活棟の管理を担当している教師、榊原菜月(さかきばら なつき)その人が隣の席に腰掛けていた。口元を隠す戦闘服に、ブルパップ式のアサルトライフルを構え、窓から後ろを窺っている。

 

 「まさか先生がエージェントだったなんて思いもしなかったわ。フフフ……更識も落ちたものね。調査もろくにできてないくせに対暗部なんて笑わせる」

 「このことは秘密にしておいてね。また婚期が遅くなって実家の両親がハッスルしちゃうからね」

 

 榊原は言うなりウィンクをしてみせると、腰の拳銃を抜き、スライドを握って刀奈に手渡した。

 

 「反撃をしろとは言わないけれど丸腰も不安でしょう。すぐ安全圏まで護送するから、持つだけ持っていてね」

 

 刀奈は拳銃を握りなおすと安全装置を解除してウィンクを返して見せた。

 

 「とんでもない。全員穴あきチーズにしてあげるわよ!」

 「はー惚れちゃいそう」

 「お姉さま方雑談もいいんですが周辺警戒をですねぇ」

 「あら、そんなこと言ってるともてないわよ」

 

 三人を乗せた車は猛烈な速度で走り抜けていった。




モデルはUBIのアレ
ぐっばい原作

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