セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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遊び?回
次回でイギリス編は終わりかしら


46話 メイド服

 

 鏡の前でくるりと回ってみる。シックなヴィクトリア風のメイド服をまとった美少女が引きつった笑みを浮かべていた。金色の髪の毛に青い垂れがちな双眸。俺だった。スカートの裾を摘んで足を折る古風な一礼をしながら頭をさげてみる。

 

 「…………うわああああぁぁぁぁ!!」

 

 俺は自室のベッドに倒れこむとシーツに顔をうずめて両足をばたつかせていた。普段と違う格好というだけでこの羞恥心はなんなのだ!?

 

 ここは自室。何故か俺はメイド服をまとっていた。本業はお嬢様・学生なので、つまりこれはコスプレに近いのだが、しかしメイド服自体はお屋敷にあった本物なのである意味コスプレとは言いがたいところもあるような気がしないでもない。

 どうしてこんな服を着ることになったかと言えば、街に繰り出して服を買おうぜという話になったことがきっかけである。日本のサブカルチャー文化はある程度イギリスにも浸透しているとはいっても、普段仕事でメイド服を着ている人達からすると理解不能であると言ってもいい。

 

 『お嬢様。お嬢様の体格にぴったり合う採寸のメイド服を用意してございます。念のため他の方々の体格に合う服も用意してございます』

 

 さすがはチェルシーである。俺たちの荷物もちとエスコートでついてきた彼女は、俺が言うより早くそんなことを提案してきた。俺は付き合いが長いからわかる、は理解できる。他のメンバーはどうして服のサイズがわかるのかと聞いてみた。

 

 『企業秘密でございます』

 

 にこにこと笑いながらそう言うチェルシーに何か薄ら寒いものを感じた俺はそれ以上の追及を止めた。

 で、こうなるまでの経緯だが、オルコット邸でのんびりバカンスを楽しむのも乙なもんだが、そもそもバカンスという習慣が無い出身の一行なのでのんびりするより遊ぼうぜとなった。あるとするとシャルだけど、引きこもるより動いていたいだろうしね。

 

 「一夏さん。街に洋服を買いに行きませんこと?」

 「服?」

 「普段どのようなお洋服を着ているのか聞いておこうかと思いまして」

 

 ふふふ。俺はさりげなく(?)探りを入れていた。何せ織斑邸にはまだ入ったことが無いし、一夏が普段どんな生活を送っているのかもわかっていなかったからだ。

 すると一夏は紅茶を一口飲むと俺を見据えてきた。

 

 「基本は姉さんが買ってくるものを着ている。暑いときは一枚だ」

 「全裸だな!!!」

 

 箒が急にテンションを上げて来たので、鈴音がお前じゃねぇ座ってろと言わんばかりに裾を引っ張って落ち着かせた。

 

 「一枚と言っているが。パンツだけだな。他に着る必要性を感じないので。姉さんは」

 「はいアンタはそこまで! 千冬さんの名誉のためにも黙っておきなさい!」

 

 既に紅茶を飲み干していた鈴音が横から一夏の腹を小突いて黙らせた。ボクサーパンツ一丁とかパジャマでウロウロしてるんじゃないだろうな。ええい、きょうだい揃いも揃ってラフな格好しおってからに。

 

 「わかるわかる。誰も見てないしいいかーってなるよねぇ」

 

 シャルがうんうんと頷いている。

 熱い視線を感じたので紅茶から目を離してみると鈴音が俺を見てきていた。不思議だ……謎の寒気に襲われる。

 

 「せっしーいつもどんな格好なの? ドレス?」

 「高貴なる血を引き継ぐ貴族であるわたくしが――などと前時代的なことを言うわけじゃありませんけれど、ドレスは普段服としては取り回しが悪すぎますわ。ごく普通の服……ズボンも履きますし。ミリタリー系ジャケットも羽織ったりしますわ」

 「じゃ、寝るときは?」

 「え? ネグリジェに……」

 「下着」

 「……あの鈴音さん?」

 

 はぁはぁしながら鈴音が身を乗り出してくる。

 あのさぁ……。

 

 「下着。色」

 「あ、あの」

 「色。どんなの履いてるの? 色」

 

 ………ぞぞぞぞぞっ。情熱的な視線が俺の体を這い回るのを確かに確認した。こやつ、昼間からキておられる。

 わかった。この話はやめよう。ハイ! やめやめ!! 俺は妙にくっ付こうとしてくる鈴音からあからさまに目を逸らした。

 

 「黒好きだよねセシリア」

 「へぇ黒! あぁぁぁぁぁさいっこう!」

 

 シャルロットがこのタイミングで援護射撃をする。同室だからね、下着姿もばっちり見てるからね……この裏切り者め。歓喜の表情を浮かべて万歳している鈴音。

 黒はいいぞ。楽だし。セクシーだし。身が引き締まるし。肌白いから特に映えるのだ。

 

 「私は白だぞ一夏。小さい飾りリボンがついている」

 「何を言ってるんだお前は……」

 「純粋無垢の白だぞ。染め上げてもいいんだぞ」

 「落ち着け」

 「結婚しよう!」

 「座れ」

 

 箒は箒で収拾が付かなくなってきたので、俺は唯一冷静であろうラウラに目線を向けた。ラウラならなんとかしてくれる!

 ラウラはクッキーを小動物チックにもさもさとやっていた。顔を上げると、ニヤリといやらしく笑った。

 

 「夜は全裸で過ごす主義だ。ちなみに今、履いてないぞ」

 「きゃああああああチェルシィィィィ!」

 

 くそおおお! 俺が頭を抱えてメイドを呼ぶ。だめだこいつら!

 

 「実は履いてるぞ。ボクサーパンツだ」

 

 ラウラが席を立つと一夏の背後まで歩いていき、耳元で囁く。

 

 「確認してくれないか。履き忘れたかもしれん。ベルトを緩めてくれ……」

 「ラウラ……」

 

 見詰め合う二人。視線と視線が絡み合う。

 俺は我慢ならず両手を机について絶叫した。

 

 「い、い、い、一夏さあああん!」

 

 「皆様外出の準備が整っております。どうぞ玄関までお越しくださいませ」

 

 そのとき、扉の横で畏まった姿勢のチェルシーが一礼したまま声をかけてきた。

 さすがは我が幼馴染にして完璧なるメイド。外出の準備というのも、実際ちらっと話に出しただけで外出するという取り決めを皆にしたわけではない。無理矢理話に割ってはいることで混乱状態を打破してくれようとしたのだろう。

 俺は紅茶の残りを楽しむと、手を叩いた。

 

 「こほん! というわけで皆様買い物に出かけますわよ!」

 

 

 

 

 車で走ることしばらくして店に到着した。あのままいたら本格的に俺が混乱状態に陥っていたかもしれないし、チェルシーの介入はまさに天の助けだった。

 案の定というか、一夏は着るものは量販店オンリーで機能性と価格さえあれば見てくれはどうでもよいというタイプだった。お母さんから出された服を何の疑問も抱かず着続けるタイプだったらしい。俺があれこれ着せ替え人形にして遊ぶと困惑の表情をしながらも、受け入れてくれた。黒のトレンチコートにハットというどこのマフィアだよという格好をさせてみたりしたけど、顔立ちが整っているだけあって似合っていた。まあ黒スーツにネクタイ締めた殺し屋みたいな格好のラウラが横にいたので目立たなかったけど。

 

 「そういえばせっしーってメイド服とか着たりするの?」

 

 唐突に鈴音がそんなことを言ってきた。買い物も終わって食事を済まし屋敷に戻ろうかという頃だった。俺は車に乗り込もうとする姿勢のままだった。

 

 「使用人の服をわざわざ着るというのも……興味はありますわ。一応」

 

 俺は同じく車に乗り込もうとしていた一夏をちらりと見遣った。この朴念仁、メイド服を着たらどんな反応を見せるんだろう。

 

 「見てみたくはあるな……」

 

 などと一夏が言った。俺はこうなればやってやるぜと一夏に対して頷いて見せた。

 

 「それではお屋敷に戻ったら着用してみせますので……」

 「あーずるい。私も着る」

 

 横合いから鈴音が出てきた。俺のことを上目遣いで見てくる。

 

 「メイド服と機関銃……か」

 

 マニアックなことを言いつつラウラがやってきた。ミラーを使って車に爆弾が仕掛けられていないかを確認しながらである。警備内容が本格的過ぎる。飴玉をくれたときのことを思い起こしてみると、あれはセキュリティをチェックしていたのかもしれない。

 

 「ふ、奉仕にそそられるのか一夏は……将来の勉強のためであれば是非もなし」

 

 箒さんは腕を組み天を仰いでそんなことを言っていた。なお仮面はつけたままの模様。注意深く観察してみると仮面がいつものやつとは違う。形状がおとなしいというか、仮面舞踏会か何かで使うような白仮面だった。仮面をはずせないのではなくて実ははずせて、ファッションも兼ねてるのかね?

 

 「僕はメイドより執事のほうが好みかな」

 

 シャルロットもそんなことを言い始める。

 そして話は冒頭に戻るのだった。


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