セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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お待たせ。
イギリス編はこれで終わりかな


47話 言葉が走った!

 ふう。俺はメイド服を着込んでいた。お母様にはバレたくない格好ベストテン入り間違いなしである。

 

 メイド服で思い浮かぶのが二点程あって、ひとつが幼馴染のチェルシーと、もうひとつが主人との禁断の愛というものなのだが最近はいの一番に後者が思い浮かぶあたり俺もだいぶキてるなと思う。

 

 『セシリア。こっちにおいで』

 『ああ、ご主人様、わたくしなどに……』

 『二人きりの時は名前で呼べといったはずだぞ』

 『一夏さん……』

 

 そして二人は……ぐへへへへ……! こういうシチュもありだと思います。

 

 「えーずるいよそれは! 私も着る!!」

 

 で、俺はだだを捏ねる鈴音にしがみつかれて困っていた。どこで情報が漏れたのかシャルが俺のところで働くということを知ってしまったらしく、さらに何故かメイド服を着たいとか言い始めたのだ。フェアじゃないとか、可愛いしとか、せっしーがどうのこうのと騒いでいたせいか、ほかの一行もノリノリで着たいといい始めてしまった。

 有能すぎるというか察しがよすぎるのも問題だなと思った。チェルシーは全員分の服を用意していたので、着ないという選択肢が消えてしまった。

 俺は上目遣いでこちらを見てくる鈴音の頭に手を置いてみた。

 

 「はぁー……わかりましたわ。服は用意させます。しかし、どうしてメイド服を着たいんですの?」

 「特に理由はないんだけどね(はぁはぁはぁはぁメイド服可愛い可愛い可愛い押し倒したい)」

 「……」

 「(いいなぁかわいいなぁ男装もさせてみたいけどメイド服もクるものがあるわよね……)」

 「えーっと」

 

 言葉が走った!? 俺は呼吸を荒くしている鈴音から手を離そうとして、がっと手を掴まれて逃げるタイミングを失った。もうやだこの子。知ってたけど女の子が性的な意味で大好きらしく俺はロックオンされているらしい。まあ一夏へ好意が向いてないだけマシと考えているけど、俺はノーマル属性なので。しかし心はまだ男成分を残しているので、鈴音とはノーマル同士の組み合わせになる? これもうわかんねぇな。

 コンコン。

 

 「せっしーって腰の位置高くていいなぁ……スタイルもいいし………」

 「あ、ありがとうございます」

 「触ってもいい?」

 「ひあっ」

 

 鈴音が抱きついてきた。ちょ、ちょっと待ちたまえよ! 俺がパニックに陥っていると、コンコンと扉がノックされ、ラウラが入ってきた。ロングスカートのメイド服を着こなしているのはいいんだが、ナイフと拳銃はつけたままである。

 

 「取り込み中だったか………」

 「いま参りますので! 鈴音さんもよろしくって!?」

 「えー」

 「えーもうーもありません!」

 

 俺は強引にへばりついてくるツインテールを引き剥がすと廊下に出た。一夏が待機している部屋までメイド(本物)に見られないかビクビクしながらである。

 

 「しかしこのメイド服は凄いな。防弾繊維、プレート、肩パッド、革靴に仕込みナイフ。各種装備品を隠すためのポケットに極めつけはこれだ」

 

 ラウラが軽く腕を振ると拳銃がカシュッという音と共に出てきた。妙に袖がダボダボしてんなと思ったら、まさかの仕込み武器である。

 映画で見たやつだ! かっこいいよな、あのギミック。

 

 「その装備は一体?」

 「あのメイドがくれた。返す必要はないらしいぞ。タクシードライバーにでもなった気分だ。あのメイド只者じゃない」

 

 それな、ほんとそれ。ナイフ投げだけで狼の群れを殲滅したりするし、カタギじゃないのは確かだと思う。てか何ラウラにくれてんのさ。ラウラもラウラでこの服持ち帰ろうとか呟いてるし、そのうちメイド服でCQCをかます姿を見られるかもしれない。

 そんなことはどうでもいい。俺は一夏のいる部屋へ続く扉を開いた。

 

 「あっ遅かったじゃないセシリア」

 「フッ。化粧に時間がかかったのか?」

 

 メイド服のシャルと箒が待っていた。かくして役者は舞台に上がる。

 

 

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 うーむ。一夏が椅子に腰掛けている周囲をメイド服を着込んだ一同が取り囲むシュールな場面が展開している。

 ラウラ。窓にかかったカーテン越しに警戒している。見せる気さえないというより狙撃を警戒しているとしか思えない。妙に背中がモコモコしているがまさかライフルでも仕込んであるのではなかろうな。

 箒。腕を組んでいると思いきや前で両手を重ねている。ポニーテールにカチューシャがよく映えている。悔しいが可愛い。

 シャルロット。どこか中性的な雰囲気の彼女も、メイド服を着込んでいるせいか一端の乙女――もとい女中に見える。

 鈴音。ツインテールが違和感あるのではないかと思いきや髪飾りを地味な黒系に変えているお陰で見事にマッチしている。心なしスカートが短めなのはそういうのが好きなのだろうか。

 そして俺。着た直後は慣れるやろと思い込んでいたメイド服であるが、一夏の顔を直視できなかった。スカートの裾は長いし、いつもより露出が下がっている位なのに、何故か顔を見られない。何でみんな平然としていられるんだろう。

 俺は一夏の顔を見ようとしてまったく見られないので胸元の辺りを凝視することで見ている体裁を整えると、さっそく本題に入ることにした。

 

 「こほんこほん! さて一夏さん。誰が一番可愛いか! 教えていただきますわ!」

 

 一夏は俺たちをじーっと眺め回した。妙な気分になってくる。体の内側を見られているような感じである。

 

 「全員」

 「一夏。こういうときにに全員可愛いというのはナシだぞ。女子は誰にでも可愛いのが好ましいのではない、誰かに好ましいと思われたいのだよ!」

 

 箒が腕を組み目を閉じたままド正論を吐く。イエス、そのとおりでございます。

 すると一夏はうなり声を上げて俺たちを凝視し始めた。そんなに悩むのか……これで即答で箒が一番可愛いとか言われたら俺再起不能になってしまうし。

 

 「箒は……凛々しい、という感じがして、鈴音は可愛らしい、ラウラは妖精のような、というか……シャルロットは清楚な、というか……」

 

 俺は? 俺は?

 俺がじーっと一夏を見ていると、一夏は唇をパクパクさせていた。何が起こっているというのだ。

 

 「セシリア……説明しがたいな……」

 「一夏恥ずかしいんでしょ」

 

 鈴音がにやにやといやらしい表情を浮かべて肘でうりうりと横っ腹を突きに行った。さすがは幼馴染である。そこを代わってほしいくらいである。

 ちなみにラウラはニヤッと口元を緩めたくらいで、落ち着いていた。

 

 「恥ずかしくはない」

 「せっしーかわいいからね、わかるよ。ウン」

 「なぜこちらを見ますの」

 「可愛いじゃん」

 

 鈴音がにやにやしながら俺を見てきた。こっち見んな。

 俺は自然と両腕を後ろに隠しながら、うつむき加減に一夏の顔に視線を固定させつつ問いかけてみることにした。本音を言うと顔を隠してしまいたいくらいだったけど。

 

 「一夏さん。ど、どうでしょうか」

 「可愛いと思う」

 「~~~~~!!」

 

 言うなり視線をそらす一夏に俺は興奮の余り鼻血が出るかと思った。

 

 「一夏。そうか、そういうのが好きなのか。不覚! 篠ノ之箒ッ! 猛省している!!」

 

 箒が膝を折ると頭を地面に叩きつけていた。

 シャルロットがうつむいている俺の服の裾を引っ張ってきた。振り返ってみてみると、スカートの裾を持って体をひねりながらぶつぶつなにやら言ってきた。

 

 「ひらひらしてて落ち着かないね。ズボンのがいいかな、執事服とかさ」

 「用意は……」

 

 スッと視界にチェルシーが入ってきた。気配をまるで掴めなかったぞ。

 

 「もちろん用意してございます。全員分もちろん用意してございます。なんなりとお申し付けくださいませ」

 

 あるんだ……。

 すると鈴音が出てきて俺の手を掴み始めた。恋人繋ぎにしようとしてくるので、俺はやんわりと引き剥がす。

 

 「いこうよせっしー! 男装も見たい!」

 「あなたねぇ! この手はなんなのですか!」

 

 背後にまわってきた鈴音がどさくさにまぎれて腰のラインに触ろうとしたので、やんわりと剥がす。

 

 「チーズ!」

 「お断りしますわ!」

 「ケチ!」

 

 携帯端末を取り出すや否や二人の姿の入った写真を撮ろうとし始める鈴音に対し、俺はそのレンズをふさぐことで対応した。油断できないな、こやつ。

 ゾンビと化していた箒がゆらりマリオネットのように立ち上がると、ふふふと怪しい笑みを浮かべてチェルシーの後を追いかけ始めた。チェルシーは俺らが外に出ることを前提にしているようで、扉の前で畏まっていた。

 

 「ふふふふふふ……男装ならば……一夏!」

 「おう」

 

 元ゾンビが振り返ると、腰に手を当てて指を突きつけた。その立ち直りの早さは見習いたいところだ。

 一夏はきょとんとしていた。

 

 「次は執事服だ! 暫し待つがよい」

 「お、おう」

 

 一同がどやどやと室外に出て行く。残された俺は行こうかやめようかうろうろした挙句、一夏の前に立った。

 

 「次の衣装もお楽しみくださいませ!」

 

 言うなり全力で――はしたなくない程度の――速度で部屋を後にした。

 その後わちゃわちゃとしたことがあり、あっという間に帰国の日がやってきてしまった。

 

 

 

 で。メイド服を見せよう会の存在は母親に漏れていたらしく、帰郷する前に持ち帰りたい私物を整理していると呼び出しを食らった。

 私服をまとって、それでも仕事用パソコンをカタカタやりつつ紅茶をたしなむお母様の姿があった。

 

 「件の男の子を篭絡するのにメイド服とは嘆かわしいわね」

 「う、お、お母様……」

 

 母親が振り返る。金色の髪の毛を几帳面に後頭部で纏め上げ、仕事用の眼鏡(本人は老眼鏡とは絶対に認めない)をかけて足を組んでいる様は、ビジネスマンもといウーマンそのものである。

 母親はなぜかちょいちょいと手招きをしてきたので、隣においてあった椅子に腰掛けてみる。

 

 「セシリア。なぜグイグイとしかけていかないのですか?」

 「へ?」

 

 母親がまじめな顔をして妙なことを言い始めたので俺は思わず素っ頓狂な声をあげていた。

 するとお母様は眼鏡をくいっと指で持ち上げた。

 

 「織斑一夏。経歴に一部不祥なところがありますが世界唯一の男性操縦者という旨みもある。織斑千冬の弟で、束博士との繋がりもある。不器用な性格はいただけませんが、顔立ちも整っている。攻め方が甘いですね」

 「あの?」

 

 風向きが怪しい。俺は母親の表情を伺ってみたが、まじめな顔をしていた。まじめな話らしい。いやまじめなのか?

 

 「女子が片隅で待っている時代は終わったのですよ? 自分から動かなくては」

 「しているつもりですわ。しかし」

 「やり方がわからない、とか気後れしているとか、そのようなところでしょうね。第一あなたは……」

 

 ねっとりこってりと母親による男の落とし方講座が始まってしまい終わった頃には俺はげっそりとしていたのだった。


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