セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
一時間目終了後。
俺は一夏の正体を探るべく聞き耳を立てていた。
「仮面……ぜってぇガンダムのキャラだろうな……仮面だろ……どのガンダムだ? 初代だとすると千冬との確執がだな……おっと」
いけないいけない。ついセシリアっぽい口調が剥がれてしまった。隣の席の女の子が一瞬こちらを向きかけたので咳払いでごまかしておく。
「こほん。ごめんなさいね、喉の調子がよくないものでして……」
「最近花粉がひどいもんねー。イギリスでも花粉症ってあるのかな?」
「いえ、日本ほど花粉を放出する木が密集しているわけではありませんから」
ふう。危なかった。お嬢様キャラを保つのもなかなか難しい。
素を出すとこっそりすっている電子タバコにアメリカンタイプのバイクで爆走するようなお嬢様になってしまうので自重は必要だ。
セシリア・オルコット。盆栽とタバコとバイクと水泳と武術と登山が趣味のエセお嬢様です。
「織斑一夏」
「………」
「廊下に出てもらいたい」
なぜ誰も突っ込まないのか仮面を被った篠ノ之箒が黙々と教科書に目を通して予習復習に励んでいる織斑一夏に声をかけた。
すっと一夏が起立して廊下へと出て行った。後を箒が追いかける。仮面から垣間見える顔は明らかに紅潮していた。
「今までどこに行っていた」
一夏から切り出した。端的過ぎて、聞き耳を立てている生徒の多くは意味がわかっていないだろう。
「所用あってのこと。逢いたかった……逢いたかったぞ、一夏!」
箒が莞爾として笑う。
セリフだけ見ればいい感じなんだがなぁ。
「覚えている。その仮面はなんだ」
鉄の男、織斑一夏は無表情で問いかけた。
「ふ、なんのことかな」
「………篠ノ之箒」
「この場で合間見えたことに運命を感じずにはいられない!!」
座席で俺は聞き耳を立てていた。というのは嘘で何か用事があるフリをして携帯端末をいじりつつ廊下の窓際によって聞いていたのだ。
「もう一度聞く。その仮面は」
「ふ。身持ちは堅い方なのでな」
間違いない。こいつはおとめ座のあいつだ。
俺は一夏と箒が仲良く?喧嘩をしているのを尻目に教室に舞い戻ってきた。
「落とせる気がしないんですけど」
心が折れそうだ。
キーンコーンカーンコーン。
予鈴が鳴った。
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「う、うーん」
俺は誰にも聞こえない程度に絞った声量でうなっていた。
分厚い本本本本。展開した端末にも小難しいを通り越して大難しい単語の羅列ばかり。
入試の成績は並。戦闘ではやられた俺である。適性だけはずば抜けて高いこともあって、何とか霞スミ……じゃなくて山田先生の猛攻撃に一定時間しのぐことができたとはいっても、授業についていけるかは別問題だった。幸いもとの世界で学んできた知識に上乗せする形の技術や用語が大半なので、まるでついていけないわけではないのだが。
「……代表候補であっても主席ではないセシリアね……お笑いですわね」
つくづく原作通りの展開というのが羨ましい。セシリア本来通りの頭脳が発揮できればいいのだが、あいにくこちとら軽トラックのエンジンを積んだスポーツカーのようなものなのだ。
「であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の承認が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は刑法によって罰せられる。リミッターを備えない軍用規格のISは大量破壊兵器としての性格を有し、生物化学兵器や核兵器の運搬運用を可能とするため、常時各国からの位置トレースを受ける。戦争においてでさえ最終手段として扱われることが認知されている。唯一の例外があるとすればなんだ。出席番号20番」
「は、はひぃっ!?」
「答えろ」
「国際法においてテロリストは兵士ではないため、使用が問題ないとされています!」
「その通りだ」
「うううう……」
授業が早い。早すぎる。みんなうんうん頷いているが、本当に理解しているのか?
「ハイパーセンサーの動作は基本的にオートで行われるが自ら選択することも可能となっている……その場合……」
「おおおお……」
「反重力翼の制御において特に―――」
「………」
「オ、オルコットさん大丈夫? 体調悪い?」
「いえ、体調は万全ですわ……強いて言うなら脳細胞が……いえ何でもありませんわ」
俺は隣の女生徒に心配されるくらいには脱力して机に上半身を投げ出していた。髪の毛は邪魔にならぬよう横にどけてある。乱れ髪はお嬢様的に許されんのだよ。
頭がおかしくなるかと思った。難しいなんてレベルじゃない。わかりませんとは言えない言い出せない空気である。一方一夏と言えばわからなくて困り顔を浮かべているということもなく、理解しているような顔をしていた。これでは立場が逆じゃないか。くそ、あのイケメンめ。結婚しよ。
「そうですわ……!」
俺は一夏とお近づきになるプランを唐突にひらめいた。
一夏の中の人も違うならおそらく俺よりも勉学ができるはず。教えてもらうというのはどうか。
「落ち着きなさいセシリア・オルコット。まだ初日なのよ。機会はいくらでもある」
そうだ。初日にして膝を突いてどうするのだ。
まだあきらめるには早いぞ。
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二時間目の後の休み時間。準備時間とも言う。原作だとここでセシリア嬢は一夏に喧嘩を吹っかけに行くんだが――。
「あ、えと、その」
トイレで一人鏡の前で話しかけるための練習をしてみた。
言っておくが元の世界では所帯持ちだった。プロポーズだってしたことあるんだ。ところがあんまりにも女でいることに慣れすぎたらしい。顔を正面から見据えて話すと考えただけで顔が火照り始めるのがわかる。
髪の毛をめくって額を見てみる。白人特有の血管の浮きやすい肌が真っ赤に染まっているのがわかった。
喧嘩を吹っかけるどころか会話ができるかも怪しい。
喧嘩を吹っかける→セシリアが負ける→セシリア一夏に惚れる。
の黄金の流れが挟まるはずなんだが、まず惚れるの最終段階からスタートしているので、喧嘩を吹っかけに行くという展開が思いつかない。貴族がどうのとか、男性が弱いからとかいう理由でいちゃもんをつける気さえ起こらない。穏やかじゃないからね。
強いて言うならば――。
「正体を知らなくては……」
あの一夏は調査結果だと原作通り誘拐されていたらしい。空白時間が少々長いのが気になるところだが。何をしていたのかは、誰にもしゃべっていないらしい。聞き込み調査でも明らかになることはなかった。
正体を知ることは大切だ。シリエジオに乗った山田先生よろしく。戦うことでわかることもあるかもしれない。
顔を洗った俺はハンカチで顔を拭うと教室に急いだ。お陰で時間を食ってしまった。慌てて戻ってきた俺は、机に座ってひたすら教科書を読んでいる一夏の元に急いだ。
服装よし。髪よし。顔は赤いが、コレくらい問題なし。健康の証。
「ちょ、つぅぅ……」
噛んだ。ものすっごく噛んだ。涙が滲む。神よ、いたら返事をしろ。貴様を殺す。
「………大丈夫か?」
若干哀れみを込めて一夏が問いかけてくる。
「問題ありません。わたくしはセシリア・オルコット。イギリス代表候補生ですわ!」
舌を噛んだくらいがなんだというのだ。恥ずかしくなんてないぞ。断じて。胸を張って宣言してみた。
「………代表候補生?」
知識があるのかと思いきや知らないらしい。一夏は首をかしげている。
「国家代表IS操縦者の中でも候補生に選ばれるエリートのことですわ」
「そうか」
「確認したいことがあります。入試で山田教官を倒したのかしら?」
「倒してはいない。標的のミサイルの弾切れを待ち接近戦に持ち込んだが……標的の攻撃をかわしきれなかった」
「………」
「それがどうかしたのか?」
やはりというか、原作の一夏と大分違う。原作だと確か山田先生が自滅してはずだけど、こっちだとあの山田先生自滅どころかこっちを殺しかねないんだよなぁ……思考がそれた。
きーんこんかーんこーん。イギリスのビックベンが元ネタらしいベルが鳴り始めた。時間を食いすぎた。
「あなたのIS名は?」
「………専用機は支給されていない。打鉄で戦った」
「お待ちなさい。打鉄で渡り合ったんですの?」
「いや、負けたが」
打鉄。いまどき珍しい純国産。第二世代型IS。扱いやすさに定評のある機体であり、各国にも配備されている。訓練機にも使われる機体ではあるが、専用機相手に戦うには辛い性能のはずだ。五分に渡り合えるということは、やはり戦闘技術が高いと見るべきか。
クソッ、これじゃヒントにもならん! 俺は悔しい思いを抱えたまま席に戻ることになった。
抱きしめたいなぁ、ガンダム! な箒さんでしたとさ