セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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4話 俺はスペシャルで模擬戦なんだよ

 何も進展がないまま三時間目に差し掛かっていた。

 ヤバイ。何がヤバイって選択肢が無限大に見えるからだ。喧嘩を仕掛けにいけばいいのか、普通に授業を受けて自然と仲良くなればいいのか、さっぱりわからない。自然にメールアドレスを交換しましょうとでも言えばいいのか。肝心の一夏は女性陣に囲まれてきゃいきゃい持て囃されていた。顔色ひとつ変えないのは流石としか言えない。無口キャラの中で該当者を考えてはいるが、どの無口キャラかがわからない。あるいは単純にこの世界の一夏は無口キャラなのか。

 ぼーっと一夏の方を見つめながら授業を聞き流していると、テンパもとい千冬先生が教壇で腰に手をやりつつ端末を操作していた。時折生徒たちを見つめては、端末の内容と照らし合わせている。

 

 「さて、授業を始める前に、再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

 ふむん、と山田先生が吐息を漏らした。見た目だけはおっとりしているのに、息を吐くだけで場の緊張感が高まる。

 千冬が顎を撫でながら言った。

 

 「クラス代表者とは……そうだな、隊長、指揮官、分隊長……では不正解になるか。兄貴、でも違うかな。クラス長……まあ、そんなところだ。生徒会への出席や委員会への出席もある。今後の進路についてハクをつけたいなら引き受けるのもいいんじゃないか?」

 

 ここでイの一番に手を上げておけばクラスの心証があがるのは間違いない。確か原作だと織斑が推薦されてそれにキレたセシリアが決闘を持ちかける。結局セシリアはギリギリで勝つわけだが、セシリアが辞退したせいで一夏がクラス代表になるのだ。

 

 「………」

 

 ここで、俺は無言を貫いてみることにした。一夏をじーっと見つめておく。クラスの心証はともかく、一夏からの印象が悪くなるのはよろしくない。何もしないほうがいいのだろうなと思うから。

 

 「はいっ! オルコットさんを推薦します!」

 「……………はい?」

 

 俺はここで思いもよらぬ一撃を食らうことになった。艦隊に攻撃中未確認の機体から遠距離砲撃を受けたようなもんだ。

 

 「フム……私個人としては一夏を推薦するが――単純に適性だけで考えるならば君のほかにおるまい。嫉妬するぞセシリア・オルコット」

 

 どこでせしめてきたのか缶コーヒーを嗜んでいる(授業中っすよね?)箒が言った。仮面の下半分が外れるようになっているらしい。もはや突っ込むまいよ。

 ――そうなのだ。ISの適性だけで考えるとセシリアはトップクラス。学業やらの成績はともかくとして、この体の適性は抜群なのである。

 俺は動揺して間抜けな声をあげていた。思わず立ち上がりあたりを見回す。

 

 「私もそれがいいと思います!」

 「オルコットさんかっこいいしね! クールビューティー的な」

 「そうそう、不思議~な空気纏ってるっていうのかな?」

 「雑誌で読んだんだけどさ登山の特集に映っててめっちゃかっこよかった!」

 

 好き放題言ってくれちゃってさあ! 期待の視線が突き刺さる。

 ……あれ? いつの間に撮られてんだ? いや、俺がアホなのか。オルコット家といえば名門貴族しかも有数の実業家金持ち一族。こりゃ水泳もやばそうだ。今度調べとこう。水着姿流出してんだろうな。

 

 じゃなくて。

 

 「い、いえいえいえ皆様お待ちになってくださいな! 確かに適性ではトップクラスを自負しておりますが山田先生にも負けたくらいですし……! 第一私の実力では」

 「当然だ。尻の青いヒヨッ子共に私が落とされるなどありえん。“あのばかもの”でもない限りはな」

 

 すると山田先生が眼鏡のつるをクイッとしながら応えた。先生、眼光が怖いです。

 ということは……。

 

 「入試で教官を撃破したのは……」

 「撃破? なんのことだ。呆けるなよセシリア・オルコット。一年坊主に私が落とされるなどありえんだろうが。聞いているのかセシリア・オルコット」

 

 ギリギリギリ。山田先生の殺す気の視線が頭部を締め上げる。フルネーム呼びはやめてください。

 もう原作知識はあてにしないほうがいいかもわからんね。セシリアと一夏だけが撃破している(山田先生の自滅らしいが)ということではないらしいし。実際俺も負けているわけで。誰か一人くらいは勝ってるんじゃないかと思ったけど、誰一人突破してないらしい。

 ぱんぱんと千冬先生が手を叩いて場を諌めた。

 

 「簡単に考えようぜ。はっきり言ってしまえば君たち新兵に実力の差なんてないに等しいよ。私からすればね。経験があてにならないなら、要するに代表戦で戦って一番勝率の高い子を選べばいい。適性が高ければ、それだけ機体への順応性反応性も高い傾向にあるならば、君が正解だと思うが」

 

 俺は周囲を再度見回してみた。箒は我慢せず缶コーヒー二杯目を飲んで目を閉じているし、山田先生は千冬のセリフを聞いているのかいないのか端末に目を通しているし、一夏は――手を上げていた。

 千冬がほうと目を大きく広げて一夏を指差した。

 

 「一夏。立候補するのか?」

 「ああ。姉さん。俺にはやらねばならないことがある。織斑一夏、クラス代表に立候補します」

 

 こうなりゃヤケだ。心証が悪くなるだとか、もうどうでいい。戦ってわかることもあるだろう。俺は一夏を指差した。

 

 「決闘ですわ! 一対一で試合をしてクラス代表を決める。文句は誰にも挟ませんわ!」

 「決闘ではない、模擬戦だ」

 

 一夏が律儀にも訂正してくる。

 俺は腕を組み思いついたことを言っておいた。

 

 「私はイギリス代表候補で模擬戦なのですッッ!!」

 

 あーもープランなんて窓から投げ捨てちまえ。

 

 「セシリアさんハンデつけてあげなくていいのー?」

 「男の子だもんね。手加減してあげたほうがいいんじゃない」

 「ねー。男の子が強かったのって大昔のことでしょ?」

 「IS乗れないし。あっ、一夏君は乗れるんだっけ?」

 

 などとモブ子たちが抜かしやがる。完全にテンパっていた俺だが、元男としての沽券に関わる。捨て置くものか。机に片手をばんと付いて背筋を伸ばす。

 曰く男女間で戦争があったら三時間で決着が付くという。男性はISを使えず、女性はISを使うことができるからだ。個人的に、それは間違いだと思っている。有史以来人間が男女で完全に分かれたことはない。人間は国やイデオロギーの旗のもとで戦うものだ。そうなった場合戦いは男女の間ではなく、男女と、男女の、違う所属同士の戦いにしかならないだろう。

 俺はぐっと空いている側の拳を握って大声を張り上げた。

 

 「ハンデは一切不要。一対一。真正面から戦って決着をつけて差し上げますわ!」

 「……感謝する」

 

 一夏が軽く頭を下げた。相変わらず笑顔が一かけらも見当たらない無表情だが、畜生かっこいいなあ。

 このイケメンを犬のように躾けてやるぜ。ヤケクソが極まってきた。テンションもあがる。

 

 「話は済んだかい? よし、勝負は一週間後の月曜日放課後第三アリーナの予定で進めよう。いち……織斑とオルコットは準備を済ましておけよ。授業再開といこう。退屈な話になると思うが、各自よく聞いておくように」


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