セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS 作:キサラギ職員
―――秒速7.9km。衛星軌道投入に必要な最低速度。
「ラウラ、準備はいい?」
「できている。後はお前さんの“センス”に頼る」
「でも僕にそんな力があるなんて……」
ラウラとシャルロットは即席でくみ上げたレールガン発射装置の最終調整に入っていた。といってもレールガンは独立して起動することができる装置なのだから、ISから取り出してEOSに握らせる程度である。問題は照準だった。本来は核砲弾を用いる仕様である都合上、“正確性”はコンセプトに入っていない。衛星とのリンクも失われた現在、ほとんど手動で衛星を撃ちぬかなくてはならなかった。
ラウラは最後の計算を終えると、EOSでレールガンを担いでいるシャルロットを見遣った。
シャルロットには特別な才能がある。そう踏んでのことだ。
「引き金を引けばそれで発射される。ただし気をつけろ、学園の生きている電力は、
「数十分て……」
現在、戦況が辛うじて拮抗しているのは元生徒会長こと更識と織斑千冬が懸命に戦っているからで、この状態が数十分も伸びるなどと考えるのは、楽観主義者過ぎると言わざるを得ないだろう。
つまり、一発しか猶予がない。外せば、IS学園は皮肉にもISを使えぬまま全滅させられることであろう。
シャルロットははじめて操縦するはずのEOSをしかし慣れた手つきで扱っていた。レールガンから送られるデータをモニタリングしつつ、後付されたスコープを睨む。
「見えるか?」
「全然……」
「わかってると思うが衛星にレーザービームよろしく直撃はできない。大気、重力、様々な要因が弾頭に掛かってくる」
何も見えない。見えないというのに、“ここだ”ということがわかる。
引き金に指を這わせる。呼吸をしつつ、位置を調整していく。
外せば学園は見るも無残に虐殺の現場になるだろう。仮に大二発目が撃てるとしても、奇跡が起こらない限りは不可能だ。
シャルロットは神に祈りを―――捧げない。
「神よ――もし本当におられるのでしたら………決着は"人間"の手でつけます。どうか手をお貸しにならないで――」
発射。
レールガンに人間を一瞬で消し炭にするだけの電流が雪崩れ込み、弾頭をローレンツ力によって加速。第一宇宙速度を上回る速度で射出した―――。
「当たれぇぇぇぇぇ!!」
弾頭は大気をプラズマ化させつつ直進し、赤い尾を引きながら雲を突き破った。
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戦況は不利であった。敵はIS二機。こちら側のISの数だけであれば優に数十倍はあったが、起動しないのでは張子の虎も同然だった。
「
装甲はボロボロ。ビーム、銃弾、あるいは打撃で、斬撃で、手負いの
「動きにキレが無くなってきたんじゃないのぉ~~~!?」
歓喜の声を上げてIS『アルケー』を駆るスコールが牙を剥き出し涎まで垂らしながらバスターソードを振るう。ファングは全て使い尽くしてしまっているとはいえ、EOS程度一撃で両断する近接武器の脅威度は少しも衰えていない。
「これが生徒会長魂だぁーッ!!」
コンテナ全展開。バズーカが、ライフルが、ガトリングが、到底一機が成しえる弾幕とは思えぬ分厚い弾のシャワーを形成する。
「はははははっ! 戦うと元気になるなぁ生徒会長さんよぉ! 死を意識するから、生きていることが実感できる!」
回避、回避、また回避。ゆらりゆらりと慣性を感じさせぬ不規則なステップで空中を舞う赤い機体。狙いを外した弾は学園の壁にめり込み爆発を起こした。
「
「死角が広がりすぎだ!」
千冬の搭乗するEOSが合間からバズーカを二発撃ち、バスターソードを破壊しようとした。着弾したが、破壊できない。近接武器として運用されるだけあって、損傷は想定内か。すぐさま切り返すと、空中を蹴るように機動して間合いを詰める。
「貰った」
『リザ』を駆るオータムがアサルトライフルを三連射。
千冬はこの攻撃に気がついていたが、回避できない。EOSが反応しなかったのだ。片腕が消し飛び、地面を転がってコンテナに突っ込み停止した。
「万事休す……か」
千冬は驚くべきことに無傷であった。ふらふらと這い出てくると、己に銃を向けるオータムを睨みつける。
「これで、35人目―――!」
殺した人数をカウントしていたスコールが、引き金を落とした。
『システム起動』
千冬の姿が白い閃光に包まれた刹那、放たれた弾丸を空中で撃ち落す。
「おおおおおおっ!」
それは果たして戦闘機動と言えるのだろうか。白い線が空中を四方八方、あらゆる方向に跳ねては、なでしこ色のビームを放っていく。
「衛星が破壊されたか…………ちっ。スコール撤退だ」
刀奈が死に物狂いで接近してくるのをバスターソード・ライフルモードで迎撃していたオータムは、通信を聞いて射撃する手を止めた。空中でくるりと回転すると、ヴァイパー・コーンを突き破って高度を上げて離脱していく。
その後から、なでしこ色のビームの直撃を貰いシールドを大きく減らしたスコールが続く。
「しんがりはどうする?」
「あの人形がやってくれってよ! 行くぜ!」
「逃がすと思うか! フィンファンネル!」
この行動を見逃すほど千冬は甘くなかった。『Hi-ν』の翼のようなラックからフィンファンネルを起動すると、二機に襲い掛からせる。
「ちいっ!」
千冬の体を超遠距離から放たれた狙撃が今まさに食い破る―――ことがわかっていたように両足を広げ、空中で宙返りをする、その股の間をビームが掠める。と同時に背負っていたバズーカを発射した。
バズーカをひらりとバレルロールしてかわしつつ、赤い機体が迫る。サイレント・ゼフィルス―――高機動型であった。搭乗者であるマドカは口元を歪めると、ほうと息を吐いた。
「私とて、赤い彗星と………」
「まがい物の分際で赤い彗星を名乗るなど! 今私は、赤い彗星と言ったか!?」
二機が空中で絡み合う。ビームとビームの応酬。とても、誰かが割ってはいることなどできるはずがない。お互いがお互いに上を取ろうと機動していた。白き流星と、赤い彗星が螺旋を描きながら高度を上げていく。時折、その線は不規則に折れ曲がり、スラスタの痕跡が噴出する。
ISが機能を取り戻したことで、地上で待機していたIS乗り達が一斉に動き始めた。一部は逃走を図った二機の追撃を、一部は壮絶な空中戦を演じている千冬の援護をしようとした。
「セシリアもうちょっとだからね! 弾は抜けてるっぽいから! 絶対に死なせない! 絶対に!」
そして地上では、腹部を撃ちぬかれたセシリアをストレッチャーで運ぶ生徒たちがいた。一人は箒。一人は鈴音だった。
セシリアは顔面が蒼白になっており、意識が混濁しているのか大声で叫ばれているのに対して反応を見せなかった。身じろぎをする、どこかに視線をやる、程度しか動かなかった。
セシリアを運ぶ鈴音の表情は悲壮そのものだった。涙を堪え、顔をくしゃくしゃにしていた。
「道を退けろ! 怪我人がいるのだ!」
箒が先頭を行く。障害物を蹴飛ばして除けて、人に体当たりをしながら退かしている。
行くべき場所はそう、この学園数少ない医療の現場、医務室である。医務室は通常の学園とは異なり、緊急手術が可能な設備が整っている。
『新たな敵影を確認―――不明大型兵器が高速で接近中です!』
校内放送が戦況を伝える。
未だ、安心することなどできないのだと。