セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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67話 ヒーローの条件

「…………くっ……」

 

 セシリア=オルコットは、不快感の中目を覚ました。

 医務室は野戦病院さながらの様相を呈していた。大勢の怪我人がベッドに並べられており、床にも寝かせられているものがいる。トリアージタグがベッドや服に直接括られており、中には(死亡)のトリアージタグが付けられているものもいる。常勤の医者や看護師はもちろん、生徒までもが返り血塗れになって戦っていた。

 平和なはずのIS学園が戦場になっている。

 セシリア=オルコットは本質的に善人であった。人の死に慣れているはずがなく、込み上げる酸味掛かった唾液を飲み込むので精一杯だった。

 麻酔の利きが浅かったのか、じんじんと腹部が痛む。みんなが戦っているのに、自分だけ寝ているわけにはいかない。

 よろめきながらベッドから起き上がると、病院着のまま歩き始める。

 

「あれセシリアがいない………セシリアー? セシリア!」

 

 セシリアの為に水を持ってきた鈴音は、ベッドがもぬけの空であることに気がつくと、辺りを探し始めた。程なくしてセシリアがよろめきながら外に出ようとしているのを見つけると、がっしりと肩を捕まえる。

 

「どこいくつもりなのよ?」

「外に……応戦しなくてはいけませんわ」

「その怪我じゃ無理。わかってるでしょ?」

 

 軽傷ならば鈴音も外に行くことを許しただろうが、腹に大穴を開けられて傷口がふさがってもいない怪我人では、戦闘は任せて寝ていろと言わざるを得ない。

 

「うわっ……!?」

「や、やはり戦力が足りないのでは……」

 

 爆発音。校舎がみしみしと音を立てて軋み、天井からパラパラと欠片が降ってくる。

 

「外では………皆さんが戦っておりますのね。私は、こんな……」

「いい? 怪我人の仕事は怪我を治すことなの。グダグダ言ってないで、寝る! それとも私が一緒に寝てあげようか?」

「お、お断りします!」

 

 鈴音が意味深な笑みを浮かべると、己より身長の高いセシリアにぐっと顔を近寄せた。

 セシリアは赤面すると、鈴音を引き剥がす。

 

「わかりましたわ。けど、わたくしは寝ているだけの女じゃありませんの。何か……何かできるはずですわ」

「はぁ~……ほんっと言い始めたら聞かないんだから。セシリア、意外と頑固な性格してるよねー」

「なっ! 鈴音さんが突っかかってくるからですわ!」

「突っかかってないよ指摘しただけよ」

「ああ言えばこういうこう言えばああ言う!」

 

 鈴音はセシリアの皺の寄った眉間を指で突くと、やれやれと肩をすかした。

 

「無理はさせないけど―――今は、無理をしないとダメだから許す!」

「ああ、そういうところが嫌いなんですの―――」

「そういうところが好きなの」

 

---------------

 

 無数の残像―――高いエネルギーの残滓―――が、その巨大な兵器と格闘戦を演じていた。

 なでしこ色のビームが連射されるや、空中を斬撃が叩き切った。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 パルヴァライザー―――最初に現れた戦車型とは比べ物にならない性能を有するそれ―――に果敢に挑みかかる箒は、そのシールドの強固さに舌を巻いていた。

 紅椿(あかつばき)は世界唯一の第四世代であり、最強の機体の一つと言える。そのはずが、シールドを破ることができない。

 ISは――インターネサイン技術を使っている。人が使いやすいように改良を加えたものと、人が乗ることなど想定していない原型のもの。戦えば人を介在する必要のある分だけ性能が落ちるのは明白だった。

 パルヴァライザーは人のような形状をしていた。茶と黒の装甲の各所に青く透き通ったパーツを備えており、両腕に相当する部位からは鋭利なランスのような装置が伸びていた。全身を守るかのように半透明なシールドが展開していて、箒の猛攻の悉くを退けている。

 

「ちいっ! 破れぬか! 一夏頼む!」

「わかっている!」

 

 パルヴァライザーとは戦うな。束はそう言っていたが、戦わないという選択肢は無い。この世界で数少ない安全な場所――比較的――IS学園に直接攻撃を仕掛けてきているのだ、迎撃しないわけにはいかない。これ以上の被害を食い止める為には撃墜するしかないのだ。

 パルヴァライザーだけでも十二分過ぎる戦力というのに、特攻兵器通称“アンノウン”による無差別攻撃も再開の兆しを見せていた。先の襲撃の時のような激しさはないが、それでも数百か、数千かが目に付くものに無差別に突撃しては爆発しており、IS学園で迎撃に出られるものたちは必死に守りに入っていた。

 箒の言葉に一夏が動いていた。特攻兵器の攻撃をひらりひらり踊るようにかわしながら、背負った武器を手に取った。

 ―――零式月光剣。ISが本来使うべきではないとされるそれは、パルヴァライザーに致命打を与える数少ない武器だった。

 

「だめだ、起動しない!」

「ちいっ! 可能な限り引き付けて戦うぞ!」

 

 学園周辺は特攻兵器に囲まれていた。否、この地球上で、特攻兵器が薄い場所が学園であるというべきか。世界各国からIS乗りが集合しているこの場所は、ある意味で世界一守りの堅い場所だった。

 IS・オリジナルであるパルヴァライザーと、そのコピーによる戦闘。

 学園最大戦力とも言える千冬は、マドカとの死闘を繰り広げていて戻ってこられない。生徒会長である簪は機体のダメージが大きすぎる。他の面々は、特攻兵器を迎撃するのに忙しい。箒と一夏以外には満足に戦うことが出来ない状況だった。

 

「高度を上げるしかない!」

 

 箒が言いつつ、一息に高度を上げ始めた。

 

「私が時間を稼ぐ! 早く、零式月光剣を起動して一刀両断に!」

「言われなくてもわかっている!」

 

 一夏が後から続く。

 人型のパルヴァライザーは、スラスタを吹かすことすらなく二機の後を追いかけ始めた。時折、箒が放つビームと展開装甲による攻撃が降ってくるも、ことごとくシールドで受け止めて怯みもしなかった。

 一夏は剣を握り締めて、起動できないかを試していた。修学旅行の際、どうやって起動したのかを思い出そうとする。学園に襲撃をかけてきた際、どうしたのかを。

 思い出せそうで、思い出すことが出来ない。零式月光剣は光を失ってうんともすんとも言わなかった。

 

「南無三!」

 

 パルヴァライザーが動いた。ISのシールドを一撃で貫通しかねない威力の青白い光弾を両腕から速射する。

 箒が唸り声と共に機動を取った。右へ、奥へ、残像が生まれる程に速く、蝶のように不規則に踊る。

 

―――『不明なユニットが接続されました』

 

 逃げる箒。追うパルヴァライザー。その二機を、距離を離して追いかける一夏。

 『ダークレイヴン』のOSに、警告音が響いた。剣の装甲表面が変形すると、内側の機構をさらけ出す。柄本の赤い宝石が輝き、剣身を眩いばかりの光で覆っていく。

 パルヴァライザーが、振り返った。カメラアイが赤く光る。

 

『………権限………中止………拒否……拒否拒否拒否拒否拒否』

 

「ううっ!?」

 

 剣が光を失った。次の瞬間、青白い電流が剣から手へと逆流し、一夏の体を焼いた。

 一瞬の隙を突き、パルヴァライザーが両腕に大型のブレードを展開した。音速の三倍を優に超える速度を瞬時に発揮、一瞬にして肉薄し、一夏を断ち切らんとして――。

 

「やらせんよ! 展開装甲(ファング)!」

 

 展開装甲が間に合った。パルヴァライザーのシールドに突撃すると、力場の内側にめり込む。

 

「オオオオオオッ!!」

 

 一閃。剣がきらりと太陽光を反射して煌いた。

 食い込んだ展開装甲を起点に、両腕に握った雨月(あまづき)空裂(からわれ)でシールドを捻るようにして大穴を開けた。

 

「これで………あああっー!?」

 

 パルヴァライザーがそれを待ち構えていたかのように、光弾を放った。直撃を貰った箒の髪の毛が解ける。空中に、燻りを宿したリボンが舞った。

 箒の仮面に皹が入っていた。ぱらりと葉っぱが落ちるように剥がれて消えていく。

 

「この顔を見せたくはなかったが――――……!」

「箒! 戻れ!」

 

 行動不能に陥った一夏が叫ぶ。まるで零式月光剣が機体の動きを制御しているかのように、反応してくれなくなってしまっていた。その場に浮いているので精一杯。箒を追いかけることなど、夢のまた夢になっていた。

 箒と、パルヴァライザーが高度を上げながらビームとレーザーを浴びせあう。シールドを失ったパルヴァライザーは、徐々に装甲への着弾が増え、しかし動きが鈍ることはなかった。

 一方で箒は大やけどを負っていた。ISスーツは溶けて肌にこびり付いてしまっていて、血の色に染まった皮膚から出血していた。

 箒は線状に輝く模様の浮き出た顔を恥ずかしがるかのように手で隠しながらも、高度を上げることも下げることもできなくなっている一夏のほうを一瞥した。

 

「ここで戻れば一夏がやられてしまう! だからこれは! 紅椿(あかつばき)よぉ! 天に昇れ!」

 

 箒の声に応えるように、紅椿が姿を変える。展開装甲が光り輝くと――翼のように、箒に寄り添う。

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

 箒が突撃した。パルヴァライザーにしがみつくと、全エネルギーを放出する。2mもない箒が、20mに迫る巨体を押し始めた。最初は上に。徐々に、加速しながら流れ星になる。

 エネルギーの放出と大気圏再突入の加速のために、展開装甲が花びらのように、羽のように散っていく。

 

『――――――!』

 

 展開装甲に混じり、パルヴァライザーの装甲も分解していく。腕が落ち、頭部がもぎれる。

 箒が口から血反吐を撒き散らしながら声を張り上げた。

 

「これは死ではない。皆が生きる為の――!!」

 

「箒!!!!」

 

 一夏が流星に手を伸ばしたが遠すぎて届かなかった。

 

 最後に白い翼が大きく羽ばたいて、そして―――。

 

 

 

 

『篠ノ之箒 機 シグナル・ロスト』

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