セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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75話 セシリア=オルコット

「遅かったな………」

 

 月面周回軌道に到達した織斑一夏を出迎えたのは、月面インターネサイン施設に併設された施設が爆発し、炎上している様子であった。

 

「やっと引きずり出すことが出来た………織斑千冬のオリジナル。企業連合のトップを牛耳る二人。不意打ちさえ出来れば、倒すことなど造作も無い!」

 

 そしてその横に、漆黒の騎士が浮遊していた。全高20m。両腕に砲を構え、尻尾のようなパーツを垂らし、ただ織斑一夏の到着を待ちわびていたのだ。

 織斑一夏はロケットをパージすると、月の重力に従い、地面へと下降した。

 

「お前は………何者だ」

 

 一夏には、眼前で悠然と佇む人が誰なのかわからない。わからないから訊ねる。単純なことだ。

 黒騎士を纏うバロンは、演技掛かった一礼をしてみせると、宣言した。

 

「何者でもない。私は私だ。さあ決着を付けよう、織斑一夏。インターネサインはここにある。そして、パルヴァライザーは私と一体化している。この私、バロンを倒し、インターネサインを破壊しない限り、人類に未来は無い!」

「………一体化?」

 

 パルヴァライザーは、時に人間と一体化することを望むこともある。人という可能性を認め、食らい尽くすのだ。人であれば躊躇するであろうことでも、パルヴァライザーは躊躇しない。必要ならばやるのだ。

 一夏が疑問符を頭に浮かべたのを見て、バロンは楽しそうに笑った。

 

「ふっふっふ……………わからなくていい、わからなくていいのだ。全ては理想のため……復活のため………そして、私自身のため。消えろ、イレギュラー!」

「おおおおおお!」

 

 織斑一夏、『ダークレイヴン』が両腕部ブレードを起動。月面にクレーターを作りながら跳躍すると、猛禽類のように鋭く、抉るように敵へと向かう。

 バロン、『黒騎士』、両腕キャノンを連射。優雅に回転しながら後退していく。

 

「落ちろ!」

「落ちぬ!」

 

 両腕ブレード『壱式月光剣』が唸りを上げ、ビーム光波を立て続けに放った。

 

「そんなことではぁぁぁぁ!」

 

 一撃必殺の威力を誇るはずの光波はしかし、漆黒の装甲に阻まれて内部までは到達しない。黒い破片が鴉の羽のように舞った。

 

「この装甲は………ぐぁあああっ!?」

 

 次の瞬間、黒騎士の尻尾が意思を持ち、月面を削りながらダークレイヴンを掠めた。シールドを一撃の下に貫通し、装甲を吹き飛ばす。

 

「おっと、失礼」

 

 尻尾―――テイルブレードが、続けて一夏の首に絡まった。

 

「ははははははは!!」

 

 黒騎士がブースタを吹かすと、一夏の体を月面をバウンドさせるようにして投擲した。隙など与えぬと言わんばかりに握ったキャノンを撃ちまくりながら接近していくと、胸元に中段蹴りをぶち込んで更に吹き飛ばす。

 

「どうした織斑一夏。“その”月光剣を使わないのか? 使えば、きっと―――」

「“使わせたいのか”」

「…………」

 

 月面に濛々と立ち上がる砂煙の向こう側で、ブースタの鈍い輝きが灯った。織斑一夏は健在であった。シールドを大幅に減らしながらも、二本足で立ち上がり、ゆっくりと浮遊する。

 パルヴァライザーと一体化しているバロンにとって、パルヴァライザーを無力化してしまう零式月光剣はまさに鬼門のはず。使わないのかと挑発するなど、まるで“使わせたい”かのようである―――と、指摘したのだ。

 効果は覿面(てきめん)だった。バロンは押し黙ると、無言で唇をかみ締めている。

 

「意図はわからないが………その仮面、引き剥がしてやる」

「お前にやれるかなぁ?」

「落ちろ!」

「落ちないと言った!」

 

 ダークレイヴン、瞬時加速(イグニッションブースト)

 黒騎士、瞬時加速(イグニッションブースト)

 二機が交錯し、ビーム光波と実弾が射線を交え、爆発を引き起こす。

 尋常ではない推力を誇るはずのダークレイヴンはしかし、黒騎士に追いつくことができない。推進力、火力、装甲、全てにおいて負けている。唯一勝機があるとすれば、零式月光剣を使うことであるが――――。

 

「ぐううううっ……!」

 

 箒を助けようとして起動した際に、エラーを吐いて機体が止まってしまった記憶が蘇る。今使っても、果たして本当に起動してくれるのか。バロンが使わせたいのには、何か理由があるのではないか。悩んでいる暇を、敵は与えてくれない。姿勢を制御しようとスラスタを使っていると、テイルブレードが襲い掛かってきた。咄嗟に腕で弾いた瞬間に、キャノンの弾丸が腹部にモロに突き刺さり、シールドを減衰させていく。

 

「だったら!」

 

 射撃戦では不利。接近戦に持ち込まねばならないのはわかっている。

 一夏は瞬時加速に瞬時加速を数度重ねる神業を披露した。慣性制御が追いつかず、ギチギチと体中の骨と内臓が揺さぶられ、すっぱい液が口から吹き出す。

 腕を振るう――と見せかけての、飛び蹴りを繰り出した。

 バロンが動いた。脚部を上に跳ね上げると、一夏の首を引っつかんで地面に投げつける。

 

「ッ………まだまだ!」

 

 カポエラよろしく足を振り回しながら起き上がった一夏に、バロンが大振りな蹴りを放った。全高2m程のダークレイヴンと、全高20mはある黒騎士。質量の差は圧倒的であった。一夏は砲弾のように月面に叩き込まれた。

 

「ぐおっ……さすが織斑一夏……さすがムーンライトソード!」

 

 濛々と上がる砂煙を突き破り、光波が黒騎士に襲い掛かった。先ほどの被弾した箇所に、立て続けに二発。衝撃で、黒騎士がひるんだ。

 

「しぃぃぃっ!!」

 

 ダークレイヴンが砂煙の中から現れた。漆黒の装甲のあちこちを被弾で落としながらも、両腕のブレードを振るう。一発、二発、そして、膝蹴り(ブーストチャージ)を叩き込む。

 

「零式月光剣、起動!」

 

 背面に背負っていた武器が、俄かに活気付く。

 

『不明なユニットが接続されました』

『――――Activate Apoptosis program.』

『システム読み込み中……暫くお待ちください』

 

 間髪入れずに零式月光剣を起動。背面部から剣を抜くと、その力が充填されるよりも早く、ただの剣のように振るう。一発、二発、装甲を切り刻んでいく。右から、下から、超音速であらゆる角度から襲い掛かり、動きの鈍っている黒騎士を滅多刺しにしていく。

 

「うぉおおおおおお!!」

「まだだ、まだ終わらんよ!!」

 

 黒騎士が動いた。零式月光剣を振るうダークレイヴンを拳で掴み取ると、月面に叩き付ける。そのまま脚部を持ち上げると、肩部スラスタを前回にして踏みつけようとした。

 

「落ちろ!!」

 

 するりと脚部から抜け出した漆黒の機体が、黒騎士の装甲を撫で斬りにした。ぱっくりと開いたその装甲に、零式月光剣を突き刺す。

 

『…………妨害……起動………』

 

「落ちろ!! 落ちろ!!」

 

 またも動作不良を起こす零式月光剣に、エネルギーを注ぎ込む。剣がエメラルドグリーンの光を放ち、黒騎士の装甲へと浸透していく。

 次の瞬間、黒騎士が弾けとんだ。装甲という装甲が剥がれ、粉々になり、衝撃でダークレイヴンもまた吹き飛ばされ、月面を滑っていき、クレーターの淵を背にようやく停止した。

 

「…………」

 

 黒騎士の装甲が、そうであったかのように、パージされる。肩が剥がれ、頭部が跳ね飛び、テイルブレードが根元から抜けて宇宙を漂い始めた。装甲という装甲が花のように散っていき、ありとあらゆる構成部品が月面に落ちていく。

 そして、“青”が姿を現した。そしてその青は、血管のように張り巡らされたエネルギー回路を表層に纏っていた。かつての形を残しながら、人ならざる船のような脚部を備えていた。

 

「………! セシリア=オルコット………!」

「お久しぶりですわ、織斑一夏。ごきげんいかがかしら」

 

 黒い装甲を排除し終わったブルー・ティアーズが、優雅に振り返った。

 髪の毛をばっさりと肩まで切り落としたセシリア=オルコットその人が、氷のように冷たい表情で織斑一夏を見下していた。


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