私は幽閉されている。
暗く、暗く閉ざされた地下室。じめじめとした少し広い部屋の中にはベッドと数えられないほどのおもちゃ。
そのおもちゃには慈しみや憐憫がある。ただし、そのおもちゃたちには温かみや親愛がなかった。
唯一の
唯一の
唯一の
暴れたこともあった。
悪口も言った。
逃げようとしたこともあった。
素直におとなしくしていたこともあった。
そして謝り悔いたこともあった。
────でも・・・でも!でもッ!でもッ!!
暴れる私を受け止めてくれる人はいなかったッ!
悪口を言う私を叱る人はいなかったッ!
逃げようとした私を引き留める人はいなかったッ!
おとなしくしていた私を誉めてくれる人はいなかったッ!
懺悔する私を優しく導く人はいなかったッ!
なんで!どうして!!
ぐるぐるとただそう先延ばしの論理は思考のらせん階段を上る。
その問いに答えはある。
でも、その答えは見たくない!
私は苦しみとともに進む進歩ではなく、ぬるま湯の停滞を取った。
傷つきたくなかったから。
苦しみたくなかったから。
変わりたくなかったから。
全部止まってしまえ。
停滞しないものはすべて壊してやる。
この手の中でにぎりつぶしてやる!
そう停滞を望んで何年もの後、唐突にもう二度と開くことないと思われた地下室の扉が開いた。
「初めましてお嬢様!」
さらさらしている短く茶色い髪の毛に私より少し大きい背の高さ・・・そしてその声を発した少年は執事の服を着ていた。
「僕はフランチェスコです!お嬢様と同じくフランと呼ばれていました!」
あぁ、うるさい・・・
「うるさいな。私はあなたなんか知らないしどうでもいいの、話しかけないで」
あいつは私の停滞も許さないというのか?何たる傲慢!何たる独りよがり!あぁ、うざったらしい。
「かしこまりました!」
あぁ、うるさい。
一晩寝ていれば次の日には部屋が片付いていた。
「これは・・・」
唖然としている私をよそにフランチェスカと名乗った執事は食事を用意している。
なにか執事が言い出すかと思えば何も言わなかった。昨日の言ったことが効いていたのだろう。
もう一晩放っておけば部屋は塵ひとつとしてない場所へ変わった。
「すっかり変わって・・・」
全てが停滞していた部屋は生活感ある部屋にリセットされ、何もかもが止まった空間は動き出した。
もう一晩放っておけば前の晩と変わらない清潔さが保たれている。
あぁ、うっとおしい。
なぜ、停滞が進み始めたのだ?
答えは簡単だった・・・フランチェスカとなのる執事の存在だ。
もう一晩放っておく。
だが、フランチェスカにはもう次の晩は来なかった。
「ッ!?」
壁にたたきつけられたために背中を中心に全身へと痛みが走る。
頭の中には混乱が渦巻く。
なぜ?僕は何か悪いことをしたのか?どこかおかしなところがあったのか?
そう自問自答を続ける目にフランドールは見覚えがあった。
フランドールは気づいた。
その目に浮かぶすべてが自分自身の瞳と全く同じであることに。
だが、フランドールは止まらない。
自らの停滞を阻む相手に容赦はなく、ゆえにストッパーも存在しなかった。
ただし、フランドールは少しだけ躊躇した。
自らの瞳と同じものを浮かべたフランという存在を殺すことに・・・
しかしフランドールは踏み切った。
言い換えれば、止まることなく、滞ることなく未来へと進む架け橋を自らたたき壊すことに踏み切った。
フランチェスカはフランドールという自分に殺される。
肩の肉をえぐられ、腕を引きちぎられ、足首から下を無くし、横腹を咀嚼される。
一つ一つですら全身を貫く激痛。
それを同時に負う。それはもはや痛みを感じることすらできない。あるのはただ純粋な恐怖と焦り。
【死ぬ?】【痛い?】【苦しい?】ぐるぐると頭をめぐる疑問が自分の過失を考える理性から純粋な恐怖に支配される本能へとなる。
だが、フランドールは止まらない。
フランチェスカという存在を抹消する。
停滞の邪魔だから。
執事の少年は、その一種のエゴによって肉片へと変わった。